秀知院学園高等部は、中等部から僅か徒歩5分の距離にある。期末テストも終わり、夏休みを目前に控えた高等部は活気に満ち溢れていた。
「ふぅ……」
(たった3ヶ月しか離れてなかったのに、随分久しぶりな気がする……)
夏の日差しをその身に受け石上は……
「……」
(とりあえず……木陰で休もう。)
日和った!この男、書類を受け取り勢いよく教室を飛び出して来たにも関わらず、此処に来て心臓バクバクであった! 何故ならば、逆行して記憶がある自分は白銀御行等親交のあった人間を知っているが、向こうは自分の事など存在自体知らないのである。前回の高等部生活において石上と親交のあった人物の殆どが上級生! つまりは現1年と2年である。もし、見掛けた際に自分が妙な事を口走り、気味悪がられたりしたら……と考えただけで心臓がビートを刻んでいた!
「ゴクッ…ゴク……」
石上は自販機でミネラルウォーターを購入すると、中庭にそびえ立つ木にもたれ掛かり口へと流し込む。
「ふー……」
(少しは落ち着いたかな。コレ飲み終わったら……)
「ッ……くっ……この!」カチャカチャッ
石上は背後からの声に視線を向ける。先程まではテンパっていて気付いていなかったが、どうやら自分がもたれ掛かっている木の裏側に人がいたようだ。
「……?」
(この音……ゲームかな?)
自身の趣味であるゲームを背後の人間がしている事に興味を持ち石上は覗き込む。カチャカチャとゲームをしている人物の正体は、帽子を被った女子生徒だった。その女子は胡座をかいて背を此方に向けており、ゲーム好きな石上は無意識にゲーム画面を覗き込む。
「あ……すげぇ、ギガティラスソロ狩りしてる。僕も苦労したなぁ……」
そんな言葉が口から洩れた事に、石上がしまったと口を抑えるのと……女子が振り向いたのは同時だった。
「お前、今なんて言った?」
そう言いながら眼光鋭く睨み付ける目の前の女子に石上は焦る。
「あ、いえ、その……すいません。木陰で休んでたらゲームの音がしてつい……」
「別に怒ってる訳じゃねぇよ……それより、さっきなんて言った?」
「え? えぇと、ギガティラスソロ狩りしてるなんて凄いなぁと……」
「違う、その後だ。」
「……僕も苦労したなぁ?」
「お前……」
女生徒は立ち上がり石上の服を掴むと……
「コイツ倒せるのか!?」
暫し思考が止まるも、ゲームに関しては一家言を持つ石上である。すぐに……
「は、はい……倒せます。」
と答えた。
「……だったらコイツ倒してみろ、出来たら覗き見した事は許してやる。」
「え、さっき怒ってないって……」
「あ?」
「やります! やらせて頂きます!!」
弱い……この石上優という男、出会った当初は四宮かぐやの圧力と殺気の籠もった眼に暫し戦々恐々とし、自身の命の危機を感じとっていた過去を持つ。その後は接触を繰り返すうちに段々と平気になり、最後には四宮かぐやを姉のように慕うようになる。しかしながら、ソレは四宮かぐやに対して耐性が出来ただけであり、他者に対しても同じように耐性があるわけではなかった。
「……ッ」
(メッチャ睨んで来る……)
一言で言うならば、目の前の眼光鋭い女子に普通にびびっていた!
「じゃあ、ほらさっさと倒せ。」
ゲーム機を受け取り石上はゲームオーバーと表示された画面からコンティニューを選択し、ゲームを始める。ムービーシーンが挿入され、湖から出現したモンスターにスタン系のアイテムを投げつける。
「おい、ソイツに電撃系は……」
アイテムが当たったモンスターは動きを止め、その隙に石上は攻撃を叩き込んで行った。
「は? なんで……」
「あぁコイツ、エンカウントした最初の3秒間だけスタン系のアイテムが効くんすよ。その後は動けなくなった隙に攻撃しまくれば……ほら、倒せました。」
「おぉー! やるじゃねぇか! その制服中等部だよな? お前名前は?」
「3年の石上優です。えぇと……先輩は?」
「なんだ、一個下か……私の名前は龍珠桃。石上、次コイツ倒そうぜ!」
そう言うと龍珠先輩はゲーム画面を此方に向けてニヤリと笑った。
……龍珠桃?うーん、どこかで聞いたような……見たような……?
まさかの龍珠桃登場( ゚д゚)
誤字脱字指摘ありがとうございます( ̄^ ̄)ゞ