奉心祭まで残る猶予はあと3日、日を追う毎に忙しさを増して行く各クラスの生徒達とその管理とフォローに精を出す生徒会と文化祭実行委員の面々、それぞれが只1つ……奉心祭の成功を目標に励んでいるのである。
〈中庭〉
「ゴメンね2人共……忙しいのに呼び出しちゃって。」
「いや、気にするな田沼。」
「そうっすよ。もう準備も殆ど終わってますし、あとは当日まで不備がないかの確認と突発的なトラブルの対処くらいなので。」
申し訳なさそうな顔をする翼先輩を会長と2人で宥める。
「石上君のクラスはお化け屋敷だっけ?」
「はい。中々の出来になってるんで、マキ先輩と是非来て下さい。」
「楽しみにしとくよ……あぁ、でもマキちゃんは、怖いの苦手だからなぁ……」
「2人まで一緒に体験出来るので、マキ先輩にカッコいい所見せるチャンスですよ。」
「絶対行くよ。」
目の色を変えて返事をする翼先輩から会長に視線を移す。
「確か……会長達のクラスはバルーンアートでしたっけ?」
「あぁ、最近やっとマトモなのが作れるようになってな……」
「会長、最初は風船割りまくってたのに、今は難しいのも作れる様になってるんだよ。」
「おー、流石会長……」
「よせよせ、何事も努力次第でどうにかなるモノだ。」
この場に藤原が居れば、1番頑張ったのは私ですけどね……と言っただろう。
「それで、話の内容なんだけど……2人は奉心伝説を知ってるよね?」
「勿論だ。」
「まぁ、話くらいなら……」
「……奉心祭で意中の人にハートの贈り物をすると、永遠の愛がもたらされると言われてる奉心伝説……僕も奉心祭でマキちゃんにハートの贈り物をしようと思うんです!」
「……」
(……ん?)
「しかし、田沼は既に四条と付き合っているだろう? 今更それをしてどうするんだ?」
「確かに、僕とマキちゃんは既に恋人同士です。でも、マキちゃんが勇気を出して告白してくれたんだから、僕もマキちゃんに自分の言葉で告白したいんです!」
「そうか……頑張れよ、応援してる。」
「はい!」
力強く答える田沼を見ながら白銀は思った……
「……」
(恋人に対して、永遠の愛がもたらされるといわれる奉心伝説に準えた告白って……プロポーズじゃないのか?)
はたから見てプロポーズ以外の何物でもなかった。
「……ッ」
そして、石上も思考を働かせる。
(え? 永遠の愛?……まっさかー! 翼先輩の言い方だと、まるでハートを贈る行為がそのまま愛の告白と同義の意味があるみたいじゃないか。)
「会長、翼先輩……ちょっと教えて欲しいんですけど、付き合ってない男女が居てですね、片方が片方にハートの贈り物をした場合……告白になる、なんてそんな馬鹿な話は……」
「いや、馬鹿な話も何も……奉心伝説はそういう話だろ。」
「そうそう、奉心祭ではハートの贈り物をする=告白って事だよ。」
「……え?」
(ちょっと待てよ……前回のつばめ先輩との奉心祭で僕は……)
つばめ先輩、これ貰ってくれますか?
(景品で取れた……ハート型のクッキーを渡したよな? それに対してつばめ先輩は確か……)
えっと、これは……どういう意味の?
(って聞いて来たよな? 思い出せ……僕はそれになんて答えた?)
石上は必死に記憶を探り自身の発言を思い出す。
これは僕の気持ちです。
「あああああっ!?!!」
(滅茶苦茶やらかしてたあっ!?)
「い、石上?」
「石上君?」
白銀と田沼がいきなり頭を抱え出した後輩に声を掛けるが、当の本人は返事どころではない。
(そりゃ、その後距離取られるに決まってるよ! だって告白されてんだもん! あー、じゃあその後の校舎裏のやり取りの意味も違ってくる…… )
石上優、自身のやらかしを2年越しに自覚する。
「石上!? しっかりしろ!」
「石上君!? 大丈夫!?」
ガシッと会長に肩を掴まれ揺さぶられる。
「あ……あぁ、すいません。ちょっと、自分の迂闊さに動揺してただけです。」
「……ちょっとか?」
かなり動揺していた。
「石上君、本当に大丈夫?」
「大丈夫ですよ、只ちょっと……保健室行って来ます。」
「え、保健室?」
「やはりどこか調子が……」
「いえ、ちょっと枕に顔埋めて足をバタつかせてくるだけです。」
「えぇ……」
「お、おぅ……」
「それじゃコレで……」
中庭から去って行く後輩を見ながら2人は思った……
((何かやらかしたんだな……))
と。
〈保健室〉
「んがああ あっ!? んむうぅ!!?」バタバタッ
……僕は一頻り悶えると思考を切り替える。
「……」
(そうだ……大事なのは過去よりも今なんだから、今更気にしてもしょうがないだろ。寧ろハートの贈り物をすれば大仏に僕の事を意識してもらえる訳だし、告白とハートの贈り物のダブルコンボを決めれば良い返事がもらえる可能性だってある筈……)
石上は変な所で前向きだった。
〈1年B組教室〉
「今日はここまでにしておけー。」
教室を覗きに来た担任に帰宅を促される。作業を中断し、教室を見渡すと意中の少女を発見する。
「大仏、そろそろ帰るか?……伊井野と小野寺が居ないな。」
「うん、帰ろっか。ミコちゃんは町内会の方へ最後の確認に行ってるよ……小野寺さんはその付き添い。」
「そっか、じゃあ先に帰るか。」
「うん。」
文化祭に向けた準備も徐々に整いつつあり、クラスや部活動の出し物の準備も順次完了している。この調子なら、ある程度余裕を持って本番を迎えられるだろう。校門を過ぎた頃……僕は意を決して、隣を歩く少女に話し掛ける。
「大仏……もし、時間が空いてたらで良いんだけど……2日目の奉心祭、一緒に回らないか?」
「えっ?」
石上の言葉を脳が上手く処理してくれない……もしかして私、文化祭デートに誘われたの?
「その、他に予定があるなら……」
「あっ、ない! 予定ないから!」
「お、おぅ、なら良かった。お互いの空き時間を調整して、時間合わせるか。」
「うん、そうだね……なんか懐かしいね。」
「あぁ、去年も最初は一緒に回ったよな。」
「うん……天文部のプラネタリウム見た後、色々見て回ってそれから……」
「中庭で桜を見たんだよな。」
「うん、冬桜……だったよね?」
「そうそう、よく覚えてるな。」
「……忘れないよ。」
(忘れるわけない。)
「……また見に行くか?」
「うん、行く……ふふ、楽しみだね。」
「……だな。」
……そのまま少し話をした後、石上と別れて家路に着く。石上に文化祭デートに誘われた……デート、で良いんだよね? うぅー……顔のにやけが止まらない。嬉しい、石上も私の事……そういう考えを期待してしまう。家に着くと弾む気持ちのまま、ドアを開けて中に入った。
「ただいま。」
私はリビングに居るであろう、お母さんに向けて声を掛ける……返事がない。どうしたんだろう? 買い物にでも行ってるのかな? 私がリビングに入ると、テーブル椅子に腰掛けたお母さんともう1人……その人は振り返りながら言った。
「久しぶりだなぁ……こばち。」
「お、父……さん……」
あぁ、そうだ……良い事があった後にはいつも……悪い事が起こるんだ……
書き溜めが完全になくなったので、暫しお待ち下さい。_:(´ཀ`」 ∠):