石上優はやり直す   作:石神

83 / 210
奉心祭②

奉心祭最終日、早朝に集まった生徒達は騒然としていた。何故なら……

 

「かれん、何かあったの?」

 

「エリカ、事件です。飾りが……あれだけあったハートの風船が1つ残らず無くなってるの!」

 

………

 

「……なんか騒いでるトコあるね、なんだろ?」

 

「さぁ……よし、直ったぞ。」

 

「悪いね、石上。ロッカー直してもらっちゃって。」

 

「気にすんな、昨日あんだけ開け閉めしてたら扉が緩むのも仕方ないし。」

 

「石上は、今日は午後からフリーなんだよね?」

 

「あぁ、そうだよ。」

 

「ふーん、まぁ頑張んなよ。」

 

ポンッと小野寺は肩を叩くと、持ち場へと戻って行った。

 

「……頑張んなよ、か。」

(言われなくとも、頑張るさ。)

 

………

 

「でも、一体誰が……」

 

「やってくれましたわね、TG部!」

 

かれんは決め付けた。

 


 

〈藤原千花は計れない〉

 

大仏との待ち合わせまでは、まだ時間がある……適当にぶらついて時間を潰すかと、校内を1人で散策していると……藤原先輩が此方に走って来るのが見えた。

 

「藤原先輩? 一体どうしたんですか?」

 

「そうですね、怪盗という名の探し物をしている最中……ですかね。」ドヤァッ

 

「……本当にどうしたんですか?」

 

「もうっ、わからない人ですね! 実は……」

 

………

 

「なるほど、風船が盗まれたと……只の愉快犯じゃないんですか?」

(そういえば、前回もあったなぁ……色々あってそれどころじゃなかったけど。)

 

「はぁー、石上くんは察しの悪い子ですね……」

 

憐れみの視線を向けて来る藤原先輩に訊ねる。

 

「じゃあ藤原先輩は、どういう理由があると?」

 

「そんなの決まってます! いつの時代も……怪盗は探偵に見つけて欲しいモノなんです! 謂わばこの挑戦状は、怪盗から探偵へのラブレターと言っても過言じゃないんです! 必ず見つけてみせますよ!!」

 

藤原先輩は……興奮気味にそう捲し立てると、走って去って行った。

 

(まぁ、楽しんでるなら別にいいか。)

 

暫し校舎内を散策するも、人混みの熱気に負けた僕は校舎裏へと移動した。

 

「ふー、凄い熱気だった……」

 

壁に凭れ息を吐くと、近くで人の声がした。

 

「これ、受け取ってくれないか!」

 

……どうやら告白の現場に居合わせてしまったようだ。興味本位で壁に隠れて覗き見ると……

 

「……じゃじゃん! 突然ですが、ここでクイズです!」

 

告白されたのに、いきなりクイズを出す藤原先輩が居た。

 

(えー、なんでクイズ……本当に意味わかんない人だな。)

 

「羽は羽でも重さのない羽ってな〜んだ?」

 

「ええっ!? えーと、エジプト神話に出て来る裁判の羽根とか……あっ、ピンハネ?」

 

藤原先輩のクイズに動揺しながらも、男子生徒は答えた。

 

「ぶー! 不正解です。正解は楽しい事を精一杯やる心……人に縛られない自由な羽の心です。」

 

(……あの人何言ってんの?)

 

「それでは! 私は怪盗を捕まえなきゃいけないので……ごめんね!」

 

藤原先輩は男子の返事も聞かずに走って行った。

 

「……」

(ちょっと気の毒だな、いくら藤原先輩が相手とはいえ……)

 

「心の羽に重さはない……か。」フッ

 

(あ、大丈夫そうだ。)

 

ヤベェ奴に告る奴もまた、ヤベェ奴なのである。

 


 

〈四条眞妃はほっとかない〉

 

ハートの風船が突然、夜空に舞い始めた。サプライズ演出だろうか……私はハートが舞い上がる光景を暫し眺める。眞妃は……今頃は彼と一緒に居るのかな……

 

「……」

 

「渚、何してんのよ。」

 

「眞妃……」

 

「こんな所に1人でボーっとして……暇なんだったら付き合いなさい。折角のキャンプファイヤーなんだから。」

 

「……彼氏と居なくていいの?」

 

「翼君ならあっちで友達と騒いでるわよ……それに知ってるでしょ? 私、大事なモノは傍に置いておくタイプなの。」

 

「……眞妃は欲張りだよね。」

 

「当然、私は四条家の人間よ? そこら辺の凡人とは違うのよ。」

 

「ふふ、本当にカッコいいなぁ……」

(私は恵まれてるよね、こんなカッコいい女の子が親友なんだから……)

 


 

〈大仏こばちは現れない〉

 

待ち合わせ時間、桜の木の傍に設置されたベンチに腰掛けて待つ。徐々に暗くなって行く周囲を眺めながら、大仏が来るのを待ち続けているが……未だに待ち人は現れない。

 

「……ん?」

 

僅かだが歓声らしき声が耳を掠める。次いで、校舎を隔てた向こう側から赤々とした光が見えた。そうか、四宮先輩のキャンプファイヤーの点火式か。なら奉心祭が終わるまでは残り1時間……

 

「寒っ……」

 

ポケットに手を入れ寒さに耐える……未だ待ち人である、大仏こばちは現れない。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。