石上優はやり直す   作:石神

85 / 210
感想、誤字脱字報告ありがとうございます! (`・∀・´)


大仏こばちは帰りたくない

……お互いに告白し、晴れて恋人同士となった僕と大仏。暫し抱き合った後、声が震えない様に気をつけながら大仏に尋ねる。何故、芸能界で活動をし始めたのかを……大仏はポツポツと少しずつ説明をしてくれた。

 

両親が離婚してから会っていなかった父親が家に訪ねて来た事。

 

秀知院の学費を払い続ける事が困難な事。

 

学費を工面する為に、芸能界で活動する様勧められた事。

 

そして……父親は自分の芸能活動の為に、娘である大仏を利用しようとしている事……

 

「私……転校したくない……」

 

「……大丈夫、言ったろ? 守ってみせるし、辛い思いもさせないって。」

 

「石上……」

 

「……大仏、ちょっと確認したい事があるんだ。」

 

………

 

僕は大仏から聞いた情報を頭の中で整理する。

 

「……なるほどな。最後に1つだけ……大仏の父親が不利益を被る事になるかもしれないけど……それは、その……大丈夫か?」

 

「不利益……?」

 

「あぁ、大仏の父親が芸能事務所と交わした契約内容によっては……何かしらの不利益が発生するかもしれないから。」

 

「……お父さんが自分でした契約なら、自業自得だと思うから別にいいよ。」

 

「そっか、なら良かった……今日は疲れたろ? 送って行くよ。」

 

「……」

 

「……大仏?」

 

「帰りたくない……石上の家に行っちゃダメ?」

 

「んえっ!?」

 

大仏の衝撃発言に思わず、変な声が出た。

 

「……あっ! ち、違うよ!? そういう意味じゃなくてっ……帰ってもしお父さんが居たら嫌だし……今は石上と離れたくないなって。」

 

今は石上と離れたくないなって……

 

石上と離れたくないなって……

 

離れたくないなって……

 

「〜〜っ!!? お、おぅ……じゃあ、僕ん家行くか。」

(そんな事言われて断われる訳ないよ。)

 

「……うん。」

 

「あ、安心してくれ! ちゃんと親も居る筈だからっ……」

 

「うん、別に居なくても気にしないよ。……信じてるから。」

 

「……ありがとう。」

 

僕は大仏と並んで歩く。隣を歩く大仏の姿を視界の隅に収めながら、大仏の手を握る……弱々しく握り返してくれた手の体温を感じながら決心する……絶対になんとかして見せると。

 


 

〈石上家〉

 

大仏を連れて家のドアを開ける……両親にはどうやって説明しようかと思案していると、母さんがリビングから出て来た。

 

「あら、優ちゃんおかえ……」

 

「こ、こんばんは……」

 

母さんは……ペコリと頭を下げる大仏を見ると固まってしまった。

 

「ちょっと家の事情で、今日は帰りたくないんだってさ。泊めてあげたいんだけど、良いかな?」

 

「あ、あらそうなの?……お、お父さんに聞いてみるわねっ!」タタタッ

 

ドタドタとリビングに戻って行く母さんを見送る……チラリと大仏に視線を移すと目が合った。

 

「やっぱり迷惑かな……」

 

「そんな事無いから。母さんも……ちょっとビックリしただけだと思うし。」

 

「そうかな……」

 

「そうだよ……さ、こっちだ。」

 

大仏にそう促し、リビングへと向かう。リビングには両親が揃っており、入って来た僕と大仏に視線を向けた。

 

「お、お邪魔します! 大仏こばちと言います。い、石上君とは、その……」

 

言い淀む大仏の言葉を引き継いで答える。

 

「僕の大切な……彼女だよ。」

 

僕の発した一言で、狼狽える両親を宥めて事情を話す……僕に彼女が出来るのは、そんなに狼狽える事なのか……

 

………

 

「……なるほど、事情はわかった。大仏さん、せめて親御さんには連絡しておきなさい……泊まる分には問題ないから。」

 

「は、はい、お世話になります!」

 

「そう畏まらなくても大丈夫……母さん。」

 

「あ、そうね……こばちちゃん、泊まるならお風呂入るでしょ? 今準備するから。」

 

「えっ、あ……ありがとうございます。」

 

「優ちゃん、貴方の服貸してあげなさい。」

 

「あ、うん。わかった……」

 

1人自室へと向かい、タンスから上下の部屋着を取り出し直ぐにリビングへ戻った。

 

「あれ、大仏は?」

 

「直ぐにお風呂に入ってもらったわよ。着替えを置いて来るから、優ちゃんは此処にいなさい。」

 

着替えを持って脱衣所に向かう母さんを見ていると……

 

「優、コレを……」

 

スッと千円札を父さんに差し出された。

 

「……何コレ?」

 

差し出された千円札の意図が読み取れない為、聞き返す。

 

「……近くのコンビニまで走って買って来なさい。その、ゴム的な奴を……」

 

「どんな気の回し方してんだ! いらねぇよ!!」

 

「あ、あぁ、そうだよな……スマン、ちょっとテンパった。」

 

「全く……大仏は今それどころじゃないっての。さっき説明しただろ?」

 

「あぁ……優、その事に関してお前はどうするつもりなんだ?」

 

「……それについて、父さんにちょっとした頼みがある。」

 

………

 

30分程父さんと話していると、僕の部屋着に身を包んだ大仏が戻って来た。

 

「あの、お風呂ありがとうございました。」

 

「ふふ、気にしなくて良いわよ。優ちゃん……ご飯出来たら呼んであげるから、それまで部屋で待ってなさい。」

 

こばちちゃんもね、と付け加えた母さんの言葉に従い、大仏を連れて自室へと向かう。

 

「……優しいね、石上のお父さんとお母さん。」

 

「そうかな?」

 

「うん、いきなり来た私にも優しくしてくれたし、ウチとは違うからいいなぁって……」

 

「大仏……」

 

「あ、ゴメンね……充電器借りて良い? 電池切れちゃって……」

 

しんみりとした空気を振り払う様に、大仏はスマホを取り出した。

 

「あぁ、好きに使ってくれ。親に連絡したら、伊井野達にも連絡してやってくれよ。相当心配してたから……」

 

「そっか、心配させちゃったな……」

 

母親へメッセージを送る大仏をボーっと眺める。なんか……大仏が僕の部屋に居るって変な感じだな。

 

「あっ、ミコちゃんから電話来た。」

 

通話と表示された欄をタップして大仏は電話に出る……スマホを耳に当てない所を見ると、如何やらテレビ電話の様だ……電話の邪魔にならない様に黙っておく。

 

〈こばちゃん、大丈夫!? ずっと、既読つかなくて心配したんだよ!?〉

 

「ミコちゃん……うん、大丈夫。電池切れちゃってて、ゴメンね……」

 

〈大仏さん、おつかれー。〉

 

「あれ、小野寺さん? 」

 

〈おさちゃーん、私も居るよー!〉

 

「大友さん? 皆一緒に居るの?」

 

〈そーそー、伊井野ん家で奉心祭の打ち上げ的な? ついでに泊まる感じなんだけど、大仏さんも来れるなら来ない?〉

 

僕はカメラに映らない様に気を付けながら、画面を覗き込む。画面には入れ替わり立ち代わりで、伊井野、小野寺、大友の姿が映っている。そうか……家に帰りたくないなら、別に伊井野の家でも良かったのか……うっかりしてたな。

 

「……ごめん、今日はちょっと行けないんだ。」

 

〈そっかー、残念……〉

 

〈……こばちゃん、今どこにいるの? 見た事ない部屋だけど……〉

 

「……ッ」

 

マズイ……伊井野が大仏の後ろに映る風景に疑問を持ってしまった。

 

「え、えぇと……それは……」

 

伊井野の言葉に大仏は言い淀む。

 

〈よく見たら……こばちゃんそんな部屋着持ってたっけ? 凄いダボダボに見えるけど……〉

 

〈彼氏の部屋だったりしてー。〉

 

「えっ、えぇと、その……うー……」

 

大友の発言に、大仏は顔を紅くする。可愛い……けど、それ所じゃない、ヤバイ、バレる。

 

〈……石上ー、居るんでしょ?〉

 

「えぇっ、お、小野寺さん!?」

 

最初は慌てていた大仏だが、小野寺の言葉に観念したのかスマホの画面を此方に向けた。

 

「……よう。」

 

その瞬間、伊井野と大友の驚きの声がスピーカーを通して室内に響き渡った。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。