石上優はやり直す   作:石神

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(`・∀・´)


石上優は策を講ずる

 

「……うぅ……う〜ん……」

 

「あーあ、かぐやちゃん寝ちゃいましたねぇ……折角お菓子とか買って来たのにー。」グニグニ

 

ソファに横たわり、魘されながら眠るかぐやの頬を藤原は指で突く。

 

「藤原書記、寝かしてやれよ……文化祭の疲れとかもあるだろうし。」

 

「はーい……あっ、そういえば石上くん、クリスマスイブの日ヒマ? その日ウチ来ない?」

 

(藤原先輩!?)

「っ!?」ギューッ

 

「痛ーいっ!?」

 

「あぁ、クリスマスパーティーするんですね。」

 

「……あ、ゴメンね、ミコちゃん。」ホッ

 

「うぅっ……」グスッ

 

「石上……今ので良くわかったな。」

 

「まぁ、藤原先輩はこういう人ですから……」

 

「という訳で、生徒会の皆でクリスマスパーティーをしましょう! 場所はウチを提供しますので! かぐやさんも来ますよね?」

 

「ウゥ…ン……」

 

「よし、言質取りました!」

 

「いや、魘されてるだけだろ。」

 

「折角誘ってもらって申し訳ないですが、その日は無理ですね。」

 

「えー、なんでですかぁ! 恋人のいない可哀想な後輩を誘ってあげてるのに!」

 

「……さーせん、その日はどうしても外せない用事があるんすよ。」

(言い方……)

 

「はー、残念ですが仕方ないですね……ミコちゃんとこばちちゃんは?」

 

「あ……私も友達と一緒につばめ先輩のクリスマスパーティーに呼ばれてるんです。」

 

「すいません。」

 

「……」

(よし、違和感ない感じに断れたな。)

 

すいません、と藤原先輩に謝るこばちを見てホッとする。僕と同じクリスマスの日に用事があるなんて言えば、恋愛脳の藤原先輩なら確実に探りを入れて来る。だから、伊井野の発言の後に謝罪を挟めば、こばちも同様の理由で行けないと誤認識させる事が出来る。伊井野は態々言い触らす様な人間じゃないし、こばちの問題が片付く前に色々言われるのは勘弁して欲しいから仕方ないよな。

 

藤原、ガチの対策を取られる。

 

「じゃあ、仕方ないですねー。かぐやさんとついでに会長で我慢してあげます。」

 

「藤原、今ついでっつった?」

 

「……そういえば会長、会議はどうします?」

 

ソファで眠る四宮先輩を見ながら訊ねる。

 

「そうだな……まぁ、別に急ぎという訳でもない。今日は休みにするか、皆も文化祭の準備や片付けで疲れも溜まってるだろうしな。」

 

「わーい! じゃあ私、TG部に顔出しに行きますね! それじゃまた明日ー。」

 

藤原は颯爽と生徒会室から出て行った。

 

「じゃあ、僕達も失礼します。四宮先輩は……」

 

「あぁ、四宮は俺が責任を持って見ておく。」

 

「お願いします……それじゃ、お疲れ様でした。」

 

「お疲れ様でした。」

 

「失礼します。」

 

生徒会室に会長と四宮先輩を残して部屋を出る。伊井野は気を利かせてくれたのか、校内に残っていた小野寺と合流して一緒に帰るそうだ。折角出来た2人っきりの時間……活用しない手はないし、動くなら早い方が良い。僕は隣で歩く恋人に話し掛けた。

 

「なぁ、こばち……」

 

「な、何?」ビクッ

(な、名前で呼ばれると昨日の事を思い出しちゃうな……撫でられてる内に、いつの間にか寝ちゃってたみたいだし……)

 

「今日、こばちの家に行っていいか?」

 

「え、えぇっ!?」

(い、いきなり!?)

 

「こばちの母親と話がしたいんだ。」

 

「あ……うん、わかった。ねぇ、優……これだけは約束して。私の為に無理はしないって。」

 

お願いだから、と僕を見上げてそう言って来るこばちの背中をポンポンと叩く。

 

「うん、大丈夫だから……任せてくれ。」

 

「うん……」

 

そして、僕達はこばちの家へと向かった。

 


 

〈大仏家〉

 

「お母さん、この時間帯なら居る筈だから。」

 

「うん……こばち、悪いけど30分だけお母さんと、2人で話をさせてくれないか?」

 

「……私が居たらダメ?」

 

「今はまだ……でも約束する。絶対にこばちも、こばちのお母さんも不幸にさせない。だから……」

 

信じてくれ……と言おうとした所で、こばちに人差し指で止められる。

 

「信じてるよ、優の事。」

 

「……ありがとう。」

 

………

 

こばちの母親との話を済ませると、〈こばち〉と表記された部屋のドアをコンコンと叩く……数秒後、ドアが開かれこばちに迎えられる。

 

「いらっしゃい、入って。」

 

はにかんだ笑顔を浮かべるこばちに、部屋へと招かれる。

 

「……どうだった?」

 

「あぁ、何とかなったよ。こばちのお母さんの許可と了承が出たから、後はなんとかなると思う。」

 

「……聞いていい? 優はどうするつもりなの?」

 

「……こばちを拐うつもりだよ。」

 

「えっ!?」

 


 

……最初は一瞬の出来心だった。でも……その一瞬の浮ついた気持ちは、取り返しのつかない現実となって私と家族に襲い掛かった。娘が生まれるまでは女優として、生まれてからは大人気ママタレントとして……芸能界で活動していた私の人生は、こばちが中学に上がった頃に激変した。偶々、番組収録で一緒になった他事務所のタレントと懇意になり、プライベートでも会う様になった。夫のたいきと娘のこばち……大した不満もなく、仕事も順調だった。ただ、ほんの少しだけ刺激を求めた火遊びのつもり……でも、それが週刊誌に掲載されると、マスコミと世間は全力で私を糾弾した。

 

私は仕事を失い人前に出る事が困難になった為、無期限の活動停止を余儀なくされた。別居している夫には離婚届を突きつけられたけど、私は未だにハンコを押していないし、未練がましく大仏性を名乗り続けている……が押していないだけで、事実上の縁切り状態だ。こばちも私の不倫騒動の直後、芸能界から身を引く事になった。母親として情け無く、申し訳ない気持ちで一杯だった。

 

でもある日……こばちが中学三年に進級して直ぐの頃、いつも暗い顔で帰宅し学校の話題を話さないあの子が……溌剌とした表情でただいまと帰宅の挨拶をして驚いたし、それからは暗い顔をする事も無くなった。だけど最近、数年振りに会いに来た夫の話を聞いて、また暗い顔をする事が増えてしまった。こばち自身は、芸能界に未練はないのだろう……只々学費を稼ぐ、それだけの為に欺瞞、虚栄、欲望に支配された世界に身を投じる……本当に私は情け無く、悪い母親だ……娘が苦しんでいるのに、何も出来ないなんて……

 

「はじめまして。大仏こばちさんとお付き合いさせて頂いてます、石上優です。」

 

そんな自己嫌悪を感じていた時だった。真っ直ぐな瞳に何かを決意した様な空気を纏った男の子が訪ねて来たのは……そうか、こばちを救ってくれたのは貴方なのね。石上優と名乗った男の子は、その見た目からは想像もつかない、とんでもないことを私に提案した。

 

 




最新刊にて、大仏こばちの父親は大仏たいき、母親は芸名MEARIとしてタレント活動していたらしいので、大仏芽有とします。

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