石上優はやり直す   作:石神

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石と小鉢のエピローグ

アレから直ぐに、こばちの父親は出て行った。汚い言葉を撒き散らし、最後には二度と顔を見せるなと言って……実の父親からそんな事を言われたこばちが心配になり視線を向けるも……

 

「……大丈夫、案外平気みたい。愛想が尽きたって感じ?」

 

と、本人はケロッとしていた。それに、母親である芽有さんも……

 

「はぁ……あんな男に未練を持ってたなんて恥ずかしいわね。」

 

結果的にこばちの問題も解決したけど、まさかアレから直ぐに離婚届を出していたとは……女は度胸という言葉を聞いた事があるけど、覚悟を決めた女性は強い……いや、子を守ろうとする母が強いのか? ぐるぐるとそんな事を考えていると……

 

「こばち、お母さんはちょっと出掛けるわね。」

 

「え……こんな遅くに?」

 

「事務所の飲み会に顔出しに行くわ。これからまたお世話になる訳だし。」

 

「……うん、わかった。」

 

「……優君、こばちだけじゃ心配だから泊まって行ってくれるかしら?」

 

という、とんでも発言が飛び出した。

 

「えぇっ!?」

 

「お、お母さん!?」

 

「こばちも朝帰りしたんだから、別にいいでしょ?」

 

「あ、朝帰りって……別に何もなかったよ!?」

 

「別に何かしろなんて、お母さん言ってないんだけど……」

 

「そ、それはそうだけどっ……」

 

「じゃあ、そういう事でよろしくね、優君。」

 

芽有さんはそれだけ言うと、出て行った。

 

「なんか、最初のイメージと大分違う気が……」

 

「……私が知ってる、働いてた時のお母さんはあんな感じだよ。色々吹っ切れたんだと思う……お父さんの事もスキャンダルの事も。」

 

「そっか。」

(だとしたら……良い事、なんだろうな。)

 

「そ、それで……泊まって行くんだよね?」

 

「こ、こばちが良かったら……」

 

「うん、お願い……お風呂入る?」

 

「あ、じゃあコンビニで下着買って来るよ。」

 

「私も一緒に行って良い?」

 

「いいけど、寒いぞ? 此処で待ってた方が……」

 

「今日はなるだけ一緒に居たいの……ダメ?」

 

「……いいよ、じゃあ行こうか。」

 

「うん、ついでにクリスマスケーキも買って帰ろ?」

 

「そうだな、こばちは何が良い?」

 

「うーん、チョコも良いけどどうしようかな。」

 

クリスマスイブの寒空の下、恋人と手を繋いで夜道を歩く……気温は低く、風は冷たいけれど……繋いだ手は、じんわりとした温かさを保っていた。

 


 

日付けも変わった次の日、残った二学期登校日も今日と明日の終業式を残すのみとなった。こばちの家を早朝に出て、自宅で軽くシャワーを浴びて制服に着替える。眠気を飛ばす為、普段は飲まないブラックコーヒーをパンと一緒に流し込む。……結果的に朝帰りする事になった僕を母さんは何も言わずに迎えてくれた。……父さんはその後ろで、人差し指と親指で作った輪っかに指を通すという下品極まりない動作をしている所を母さんに見つかり叩かれた。そんな自宅での1幕も終わり、これからはまたいつもの日常がやってくるという予感を感じながら家を出た。

 

………

 

〈生徒会室〉

 

二学期も明日で終わる為、今日中に提出する書類の整理をする。先輩達や伊井野も冬休みに向けた書類作成や整理に勤しんでいる。ソファに腰掛けてパソコン作業をする僕の隣には、恋人の大仏こばちが陣取っている。暫し書類作成に勤しんでいると、隣に座る少女が自身の腕を摩るのが目の端に映った。この生徒会室にはエアコンが無い為、梅雨はジメジメ、夏は暑く、冬は寒いという環境だ。 僕はソファから立ち上がると、事前に準備していた毛布をこばちの背中から掛けた。

 

「あ……優、ありがとう。」

 

「あぁ……此処は冷えるから風邪引くなよ、こばち。」

 

「うん。」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「」

 

先程までのペンを走らせる音や資料を捲る音がしなくなった事に違和感を感じ、周りを見渡す。

 

「あれ、皆どうしたんですか? 藤原先輩は特に凄い顔してますけど……」

 

「今、石上くんとこばちちゃん……名前で呼び合いませんでした?」

 

「そりゃ、そうですよ。付き合ってるんですから。」

 

「……聞いてない!! 聞いてませんよ、そんな事!?」

 

「そりゃあ、藤原先輩には今初めて言いましたからね……」

 

「なんですぐに教えてくれないの!? 普段お世話になってる先輩に対して、あまりにも不義理じゃないですか!?」

 

「お世話……?」キョトン

 

「本気のキョトン顔やめて下さい!……ん? 私にはって言いました?」

 

「はい。」

 

藤原先輩はギギギと首を回して会長達に話し掛けた。

 

「か、会長?」

 

「あぁ、知ってたぞ。」

 

「か、かぐやさん?」

 

「勿論、知ってたわよ。」

 

「み、ミコちゃん……?」

 

「口止めされてたので……」

 

「なんで私には教えてくれなかったの!?」

 

「今教えたじゃないですか……」

 

ギャイギャイと叫ぶ藤原先輩に呆れ顔で答える。

 

「なんで1番最後なの!? 普通にショックなんですけど!?」

 

「優は悪くないんです。私の事情で色々あって……すいません。」

 

「あぁっ……別にこばちちゃんを責めてる訳じゃないんですよ!?」

 

申し訳なさそうに謝罪するこばちに、藤原先輩は虚を突かれた様で慌てている。

 

「まぁ、藤原先輩みたいなtricksterに教えるのは、全部終わってからって決めてたんで……」

 

「誰がtrickster!? こばちちゃん、本当に石上くんで良いの!? 私だったら絶対選ばないよ!?」

 

「……はい、優じゃないとダメなんです。だって……大好きですから。」

 

そう言って微笑んだこばちの表情は、今まで見た中で1番輝いて見えた。

 

ー完ー

 




ここまで約3か月、お付き合いしてくださってありがとうございました。(_ _)
最後は駆け足気味になったかもしれませんが……元々はかぐ告二期のアニメ11話を見て、テンションのまま書き殴った今作でした。一応、時系列やキャラの口調などには気をつけて書いたつもりですが、不備があったらすいません。
大仏が石上に恋心を抱いていた描写や、かぐやの石上と大仏は似ている発言からヒロインを大仏こばちにしました。
あと、何話かアフターストーリーを書く予定ですので、お暇ならお付き合い下さい。( ̄^ ̄)ゞ

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