石上優はやり直す   作:石神

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(`・∀・´)


仏の小鉢after①

 

〈生徒会室〉

 

3学期に入って数日……今日は珍しく、僕が生徒会室に1番乗りの様だ。いつもなら会長や四宮先輩が先に居るんだけど……僕は先に仕事を始めようと書類を準備する。

 

「……」

 

暫し、書類に必要事項を記入していると、記入ミスをしてしまった。

 

「あー、しまった……これだから、紙書類は苦手なんだよ。修正液って何処だっけ?」

 

僕は棚や引き出しを探すも目当ての物は見つからない。残るは会長の仕事机の引き出ししかない。

 

「えーと……」

 

ゴソゴソと机を漁っていると、カチッと爪に硬い何かが当たった。

 

「……なんだ?」

 

つい気になってしまい、ソレを取り出すと……何故か、会長の机の引き出しから手錠が出て来た。

 

「えぇ……なんで手錠?」ガチャッ

 

手錠を持ち上げて眺めていると、ドアが開かれる音がしたので振り返る。

 

「こんにち……」

 

「あぁ、伊井野か、お疲れ。」

 

もし……この場面で伊井野ミコ以外の人間がドアを開けたのなら、別段問題はなかった。藤原主催のクリスマスパーティーに参加した、白銀御行、四宮かぐや、藤原千花の3人は、石上が持つ手錠がプレゼント交換で白銀御行に当たった藤原萌葉のプレゼントだと理解しているし、恋人である大仏こばちならば早合点せずに、それどうしたの? と聞いてくる程度だろう……

 

「ひっ……い、石上、それでどうするつもり!?」

 

唯一……何事に対しても早合点し、むっつりスケベな妄想癖のある伊井野ミコだけは、違う答えに行き着いてしまう。

 

「……ッ!?」

(て、手錠を持った石上+部屋には私と石上2人だけ……ち、調○される!?)

 

「何勘違いしてるんだよ、コレは……」

 

後退る伊井野に説明をする為、近付く。

 

「だ、ダメよ石上……アンタにはこばちゃんがっ……」

 

「どんな勘違い!? 伊井野お前、むっつりも大概にっ……」

 

僕は伊井野を落ち着かせようと軽く肩を掴んだ。

 

「いやあああっ!!?」

 

「いやあああじゃねぇよ!! どんだけ真に迫った叫び声上げてんだ! ちょっとマジで黙ってくれ! こんなトコ見られたら誤解されるだろうが!!」

 

「むぐぅっ!?」

 

勘弁してくれ、という気持ちで伊井野の口を塞ぐ……と同時に部屋のドアが開いた。

 

「こんにちはー!」ガチャッ

 

「お疲れー。」

 

「こんにち……」

 

最後に入って来た四宮先輩と目が合い、続いて会長、藤原先輩の視界に僕と伊井野の姿が映った……片手に手錠を持ち、もう片方の手で伊井野の口を塞ぐ僕の姿が……

 

………

 

「だから、違うって言ってるでしょうが! 修正液探してたら、会長の机から出て来たんですよ!」

 

散々藤原先輩から詰られた後、弁明を試みる。会長と四宮先輩は、始めから何か事情があるのだろうと察してくれている。

 

「会長の? あー……」

 

「あら会長、それって……」

 

「藤原妹からのクリスマスプレゼント……だな。」

 

「……は? 手錠がクリスマスプレゼント? もしかして、藤原先輩の家族ってヤバい人しか居ないんですか?」

 

「いや、親御さんは凄くまともだぞ。」

 

「えぇ、親御さんは……ね。」

 

「ちょっとちょっと、2人共〜? それじゃまるで、私達姉妹がヤバい人みたいじゃないですかー?」

 

(いや、別に比喩的な意味で言った訳ではないんだが……)

 

(その通りでしょうに……)

 

「か、会長の私物……?」カタカタッ

 

伊井野はカタカタと、身体を震わせながら会長を睨み叫んだ。

 

「せ、生徒会室で手錠プレイとか、一体何を考えてるんですか!?」くわっ!

 

「人の話聞いてた!?」

 

「お前が何考えてるんだよ!!」

 

「ッ!」

(て、手錠プレイ……)

 

か、会長っ……離して下さい!

 

駄目だ。四宮が俺から離れられない様にする為には、躾が必要だからな。

 

だ、ダメです、会長……あ……

 

「〜〜〜っ!」モジモジ

(か、会長がどうしてもと言うなら一回くらいは……)

 

かぐやの性知識は中級者レベルに上がっていた。

 

「こんにちはー。」ガチャッ

 

「こばちゃん!」ダキッ

 

伊井野は入って来たこばちに抱きついた。

 

「わっ、ミコちゃんどうしたの?」

 

「こばちゃん、大丈夫? 石上に手錠プレイとか強要されてない!?」

 

「えー……」

 

「だから手錠は僕のじゃねぇって言ってんだろ! よしんば手錠プレイに使ってるとしても、本来の持ち主である会長だから!!」

 

「俺もねぇよ!!」

 

白銀、とんでもない巻き込み事故に遭う。

 

「……なるほど、優が白銀会長の手錠を持っている所を偶々目撃したミコちゃんがまた勘違いしたんですね?」

 

「俺の手錠という部分は否定したいが……概ねその通りだ。」

 

「こばちちゃん、よくわかりますねー。」

 

「まぁ、ミコちゃんとは付き合いも長いので……」

 

「それでも、石上くんが浮気するとかは考えないんですか?」

 

とんでもない質問をこばちに投げ掛ける藤原先輩を止めようと話し掛ける。

 

「藤原先輩、変な事言わないで下さいよ。」

 

「だって男は狼なんですよ!?」

 

「……っ!」ウンウン

 

藤原先輩の発言に伊井野も頷いて賛同する。

 

「優の事、信じてますから。」

 

「むむむ、見せつけてくれますねー。でも、生徒会にはかぐやさんやミコちゃん、そして何よりこの私っ……」

 

「すいません……藤原先輩の事は魅力的な人だとは思ってますが、僕の趣味趣向にはガチのマジでそぐわないです。」

 

藤原はフられた。

 

「……石上くん、一回でいいからぶん殴っちゃダメ?」

 

「嫌ですよ……」

 

3学期も生徒会は平常運転である。

 


 

〈大仏たいきは出られない〉

 

時間は少し巻き戻る……クリスマスも終わり、今年が終わるまであと僅かという今日、大仏たいきは芸能事務所に呼び出されていた。

 

「……全てのTV出演が見送り? ど、どういう事ですか!?」

 

「どういう事……か、それは私が聞きたいね。」

 

高級な椅子にドッカリと座る社長の眼光に射抜かれる。

 

「おい佐々木、説明してやれ。」

 

「は、はい……」

 

そう促された佐々木という男は俺のマネージャーだ。黙って佐々木の言葉を待つ。

 

「し、出演予定だった全ての番組プロデューサーから、ウチでは使えないと連絡が来ました。それ以外の……ローカルを含めたTV局にも営業をしてみましたが、結果は変わらず……」

 

「な、なんでそんな……」

 

「普段からウチと懇意にしてくれているTV局のお偉方が言うには……スポンサーからの指示だと。」

 

「す、スポンサー……? な、何故っ……何処の会社がそんな指示をっ……」

 

「……四宮グループです。」

 

………

 

〈四宮邸〉

 

「かぐや様……TV局への指示と根回し、全て完了しました。」

 

「あら、お疲れ様。ふふ、自己顕示欲の強い目立ちたがりな芸能人がテレビに出られない……あらあら、どうやって賠償金を支払うのでしょうね?」

 

「……今回は、随分と動かれましたね。」

 

「そうかしら? 別に、借りを返しただけよ。」

 

「借り……ですか。」

 

「えぇ、四宮家たるもの、借りは返すのが必定ですもの。」

 

「……たかが喫茶店の無料券を貰った借りとしては、随分なお返しですね。」

 

「……私にとっては、十分過ぎる程大きな借りだったのよ。」

(だって……夏休みに会長と会うキッカケを作ってくれたんだもの。)

 

かぐやはヒラヒラと〈珈琲無料券〉と表記された紙を揺らしながら嬉しそうにソレを見つめていた。

 


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