〈中庭〉
「みんなー、お待たせー。」
中庭に設置されたベンチに、ミコちゃん、小野寺さんと3人で腰掛けていると、此方に走って来る大友さんが見えた。今日は4人で集まってお昼ご飯を食べる約束をしている。
「ゴメンね、遅れちゃって。4時間目が体育だったの。」
「気にしないでいいよ、大友さんも座ったら?」
「うん……伊井野ちゃん、また凄い大きいお弁当なんだねー。」
「こ、これは、家政婦さんがお父さんのお弁当と間違えたからで……」
「そうなんだー。」
(おっちょこちょいな家政婦さんなんだー。)
「伊井野……」
(その家政婦さん、今週だけで3回は間違えてる事になるんだけど……)
「ミコちゃん……」
(その割には毎回完食してるよね……)
「な、何?」
「んー、なんでもないよ。」
「お昼、食べよっか。」
「え、えぇー……」
………
「そういえば……なんか人が少ないと思ったら、2年生いないんだね?」
「修学旅行だからねー。」
大友さんの呟きに、お弁当を摘みながら答える。
「でも、2月のイベントと言えばアレだよね!」
「バレンタインだね!」
「こばちゃん、今年もまた皆で集まって作るの?」
「伊井野、それは無いって。大仏さんは、自分だけの手作りチョコを渡したいと思うよ?」
「う……まぁ、そうなんだけど……今年はちゃんとした手作りチョコを渡したいなって……」
「自分にチョコ塗って、召し上がれみたいな?」
「しないよ!? 大友さんの中では、それがちゃんとなの!?」
「ど、どういう意味の召し上がれ……」
「ミコちゃん、掘り下げなくていいから! もう、大友さんも変な事言わないでよ……」
「だって、おさちゃんは唯一の彼氏持ちだしー。」
「私は今年は手作りせずに、普通の売ってる奴を義理チョコとして渡すよ。」
大仏さんに悪いしね、とニヤケ顔で言われる。
「別にそんな事で嫉妬とかしないよ?」
「ホント〜? 石上君が他の女の子からチョコ貰ってても平気?」
「ふふ、もちろん。それだけ、優の事を良く思ってる人が居るって事でしょ?」
「うわ、流石彼女……余裕の表情。」
「おさちゃんは、浮気の心配はしてないの?」
「んー、してないね。信じてるもん。」
「確かに、石上は浮気しそうにないよねー。」
「優しくてー。」
「誠実だし。」
「真面目……」
大友さん、小野寺さん、ミコちゃんが順番に優の良い所を挙げていく。
「あー! 私も彼氏欲しー! そんな人どこかに居ないかなぁ……」
「実は石上って、メチャクチャ優良物件なんだよね……一部の女子から人気あるらしいし。」
「えっ、麗ちゃんそうなの!?」
「んー、大仏さんと付き合い出す前までは、割とそういう話聞いてたよ。」
「あー、なんかウチのクラスの女子が、文化祭の会議とか準備で凄く頼りになったって言ってたよ!」
「へー……」
「あれ? 大仏さん、危機感感じてる?」
「ち、違うからっ……」
「石上君を離れさせない為にも、チョコ塗って召し上がれって……」
「其処に話が戻るの!?」
「こ、こばちゃん……」
「しないから! ……ほら、もう昼休み終わるから戻ろ?」
「もう、そんな時間かー。」
「じゃあ、また一緒に食べようね。」
「うん。」
「大友さん、また今度。」
「バイバーイ!」
走り去る大友さんを見送る。
「私達も戻ろっか。」
「うん。」
「……そうだね。」
〈バレンタイン当日〉
男子が浮き足立ち、ソワソワとするバレンタイン当日……当然、僕も男なので多少はソワソワとしてしまうが、こばちから貰えるのなら他はなんでもいいと思っていたが……
「おはよ、石上。はいコレ。」
小野寺……
「い、石上! コレあげる!」
伊井野……
「石上君、友チョコだよ〜。」
大友……
「石上君、これあげるわ。」
四宮先輩……
「うぷっ……石上くん、私もう食べられないからあげる……」
藤原先輩……残飯処理みたいな渡し方して来るのは、人としてどうなんですかね……でも嬉しいは嬉しいし、色々な女子から貰えるのは有り難かった。でもやっぱり、1番嬉しいのは……
「優、コレ……」
こばちからハート型の箱を手渡される……じんわりと胸の奥に熱が灯る。
「ありがとう、凄い嬉しいっ。」
「うん、それと……チョコとは別に、渡したいモノがあるの。」
「ん、何?」
「目……瞑って。」
「わかった。」
目を閉じると……地面を蹴るタンっという音と共に、唇に柔らかい感触を感じた。
「ッ!?」
驚いて目を開けると、目の前の愛しい少女の瞳と目が合う……
「私の初めて、あげるね。優……大好き。」
イタズラが成功した子供の様に、そう言って微笑んだ少女に……僕もだよと答える。もう辛い思いをしなくてもいい様に、どんな苦難が訪れようとも僕が傍で守り続けると、その笑顔に誓いながら。
とりあえず、この話で仏の小鉢編は終了です。
12月からは、√B.開始します。(゚ω゚)