石上優はやり直す   作:石神

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星天の霹靂

9月某日、今日の生徒会室は少しばかり浮足立っていた。正確には1人の男だけが、だが……

 

「十五夜! 月見するぞー! フッフー!!」

 

「うわっ……テンション高いですね、突然何を言い出すんですか?」

 

「それ、藤原先輩が言います?」

 

「今夜は中秋の名月! こんな日に夜空を見上げないなぞ人生の損失だぞ!」

 

「えー、急過ぎません?」カポッ

 

「……」

(とか言いつつ、うさ耳は被るのか……)

 

石上は呆れ顔で藤原を見た。

 

「いや、今日の星空指数めっちゃ良いんだって! 十五夜でこの数値出ちゃったら行くしかないから!」

 

「……僕は乗りますよ。今の生徒会が解散するまで残り2週間も無いんですから、思い出作りです。」

 

「まぁ、石上君がそこまで言うなら……」

 

「仕方ないですねー……会長! 月見団子は!?」

 

「もちろん用意しているぞ!」

 

「わーい!」

 

「さっさと仕事を終わらせて、準備に取り掛かるぞ!」

 

………

 

〈屋上〉

 

「わー、意外と星見えますねー!」

 

「だな……街灯りも少ないし、ロケーションも悪くない。」

 

「……学校の屋上程度でも、結構圧倒されますね。」

 

「石上は、こういうのは初めてか?」

 

「そうですね……去年の奉心祭で天文部のプラネタリウムを観たくらいですか。」

 

「あぁ、それなら俺も観たぞ。」

 

「そうだったんですか。」

 

「あぁ、何処かですれ違っていたかもな。」

 

「……そうかもしれませんね。」

(まぁ、すれ違ってたら気付いた筈だから、それはないか……)

 

会長とそんな話をしている内に、四宮先輩と藤原先輩は物陰に鍋と団子を運んでいた。

 

「会長、月見団子はもう少し待って下さいね。」

 

「あぁ、すまんな四宮。」

 

「いえいえ……」

(さて、どうやって石上君を此処から離脱させようかしら……)

 

「僕も……ちょっと肌寒いんで、火の側に行って暖まって来ますね。」

 

会長も四宮先輩と2人っきりの方が良いだろうと、僕はその場を離れて藤原先輩の所へと向かう。

 

「ん? あぁわかった。」

 

「わかりました。」

(あら、拍子抜けですが……まぁいいでしょう。)

 

物陰に移動すると、藤原先輩が鍋に団子を投入する所だった。

 

「……藤原先輩、味付けは何ですか?」

 

「肌寒いのでお汁で頂きましょう!」

 

「……藤原先輩、それって月見団子じゃなくて、お雑煮ですよね?」

 

「美味しければ、そんな事は些細な事ですよ!」

 

「まぁ、いいですけど……」

 

………

 

「もうやめてって言ってるでしょ!? 恥ずかしいのぉ!!」

 

「し、四宮!?」

 

「……? お餅出来ましたけど……」

 

「あーもう駄目!! 私耐え切れなーい!!」

 

「かぐやさん!?」

 

屋上から走り去るかぐやを一同は只々見送った……

 

「……」

(……あーなるほど。そういう事だったのか……抱き寄せるとか、会長も結構ヤルなぁ。)

 

石上、前回の疑問点1つ解消。

 

………

 

屋上での月見も無事に終わり、時刻は午後10時過ぎ……僕はショートカットを狙い公園に入った。公園には街灯もあるが、それが不必要なくらい月明かりに照らされて隅々まで見渡す事が出来る……不意にすべり台の頂上に視線を向けると、馴染みのある横顔が夜空を見上げていた。

 


 

〈龍珠家〉

 

「……ちょっと出て来る。」

 

「お嬢、もう大分遅い時間ですぜ? 一体何処へ……」

 

背中から聞こえて来る声を無視して、玄関のドアをピシャリと閉めて外へと出た。

 

「……やれやれ、一体何処へ行くんだか。」

 

「独り身のお前にはわかんねぇだろうがな……年頃の娘さんってのは、1人になる為だけに外に飛び出す事もあんのさ。」

 

「そうか……ってお前も独りモンだろうが!!」

 

「ガハハ! 小せぇ事は気にすんな!」

 

………

 

……私が今こうして公園のすべり台に登って、月を見ているのに大した理由は無い。月が見たいなら家でも良いし、態々肌寒いのを我慢してまで見るもんでもない。只なんとなく、そういう気分だっただけだ……

 

「桃先輩。」

 

「……優?」

 

「こんな所でどうしたんですか? あ、ココアいります?」

 

後輩から差し出された暖かい缶を受け取る。

 

「あぁ、サンキュ……別に大した意味はねぇよ。なんとなくだ……そういうお前は?」

 

「さっきまで、生徒会の皆と屋上で月見してたんです。」

 

「……白銀が言い出したな?」

 

「よくわかりましたね?」

 

「そんな事言い出す奴なんて、あの天文馬鹿くらいなもんだろ。」

 

「……同じ生徒会だったんですよね、仲良いんですか?」

 

「……さぁな。」

 

「えっ?」

 

「確かに、私に普通に接してくる物好きな馬鹿ではあるし、借りもある……けど、仲が良いかと聞かれたらわからねぇな。」

 

「そうなんですか……っていうか、物好きな馬鹿って……」

 

「あぁ、アイツ以上のが居たなそういえば……特大の物好きな馬鹿が……目の前に。」

 

「えぇ、それって僕の事ですか? ヒドイなぁ……」

 

「ハハ、拗ねんな、拗ねんな。」

 

「別に拗ねてませんけどー?」

 

他愛のない遣り取りをしながら、桃先輩と隣り合い夜空を見上げる。地上の全てを照らす様に、満月は煌々と輝いている。偶にはこういうのも悪くない……

 

……月に関係する小話にこんなモノがある。

近代日本文学の文豪夏目漱石が英語教師をしていた頃、教え子が「I love you」を「我、君を愛す」と直訳したところ、「日本人はそんなことは言いません。月が綺麗ですね、とでも訳しておきなさい」と指摘したという逸話から、月が綺麗ですね=愛の告白という式が出来上がった。世間一般に対する認知度も……インターネットの発達した現代はそれなりに高く、愛や恋に敏感な中高生にもなるとその認知度は8割を超える。しかし……

 

「……月が綺麗ですね。」

 

「あぁ、そう……っ!?」

 

残りの2割は当然の様に知らない! 残念ながら、石上も残りの2割に該当する人間である! この逸話が教科書に載っていたならば、今生はしっかりと勉強をしている石上の目にも止まっただろう。しかし、この逸話はあくまで都市伝説的なモノとして語り継がれているもので、信憑性自体は低い。石上が知らないのもある意味当然ではあるが……

 

「……」

(本当に、今日の月は良く見えるし綺麗だなぁ。)

 

などと、楽観的思考をしている場合ではないのである。

 

「……ッ」

 

「……先輩?」

 

(こ、コイツ……)

「お、お前! 意味わかって言ってんのか!?」

 

「え? 何かあるんですか?」

 

「……紛らわしいんだよ!」

 

「えっ!? す、すいません?」

 

「……ったく、焦って損したわ。」

 

ガシガシと帽子越しに頭を掻く桃先輩に尋ねる。

 

「何か意味があるんならっ……」

 

素早くポケットからスマホを取り出すも……

 

「無ぇから、絶対に調べるなよ?」

 

「あ、はい。」

 

桃先輩からの思わぬ圧に速攻でスマホを仕舞う。

 

「はぁ、ったく……まぁ、確かに綺麗だな。」

 

「ですね。」

 

(……お前が隣にいるから……なんてな。)

「……また、見に来るか?」

 

「良いですね、また来ましょう。」

 

第三者が見れば、告白以外の何者でもないこの遣り取り。しかし当事者にとっては、普段と何ら変わらない会話をしているに過ぎない……少なくとも、石上優にとっては……

 

………

 

〈龍珠家〉

 

「なんか……今日のお嬢、いやに機嫌がいいな。」

 

「あぁ、帰って来てからやたら鼻歌鳴らしてるしな……」

 

「〜〜♪」

 

「……でも多分、理由聞いたら怒るよな?」

 

「ガハハ! 間違いねぇな!」

 

帰宅した龍珠桃を遠巻きに眺めるゴツい男達が居たとか居ないとか……

 


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