石上優はやり直す   作:石神

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極道少女と妄想乙女

僕達が活動していた第67期秀知院生徒会も解散し、秀知院は次の生徒会長を決めるまでの準備期間に入っていた。当然、昼休みや放課後に生徒会業務に費やしていた時間分の余裕が生まれた僕は、束の間の時間を……

 

「優……ソイツ狩ったら、次はイベントミッションだからな。」

 

「うす、その前に武器新調したいっす。」

 

ゲームに費やしていた。会長と伊井野の顔繋ぎを済まし、生徒会長選挙で使用する資料は既に編集済みだし、僕達はビラ配りはせずに掲示板にポスターを貼るくらいなので、今忙しいのは演説文を考える会長と四宮先輩くらいだ。僕と藤原先輩は現在暇を持て余している状況の為、各々の好きな様に過ごしている。因みに藤原先輩は、TG部の3人でサイコロ持って校内をウロチョロしている所を何度か目撃している。ボスモンスターを倒して暫し、自キャラの装備調整に勤しんでいると……

 

「そういえば……優はまた生徒会に入るつもりなのか?」

 

「はい、会長が誘ってくれるなら……ですけど。」

 

ゲーム機から視線を外して問い掛けて来た桃先輩に答える。

 

「ふーん? 二期連続でやりたいもんでもねぇだろうに……お前も白銀も酔狂というか……変わってやがんな。」

 

「まぁ、そうかもしれませんね……」

 

「楽な仕事じゃねぇし、面倒な仕事が多いだろ……私なら絶対やらないし、こうやってゲームしてる方が良い。」

 

「桃先輩はそうでしょうね……」

 

桃先輩と知り合ってわかった事がある……この人は基本的に面倒臭がりだ。去年の11月のある日……高等部は体育祭真っ最中の筈なのに、桃先輩のゲームキャラは昼頃からずっとログイン状態だった。後でその事を聞いてみると……

 

……自分の出る競技が終わったから、サボってゲームしてた。

 

……と言っていた。まぁ、前回の人生でリア充滅びろとか思ってた僕がどうこう言える資格は無いのだが……こういう陰キャ的要素を持っているのも、僕からすれば親しみやすい要因なので特に問題視はしていない。

 

「……なんだよ?」

 

「……いえ、桃先輩はそのままの陰キャで居て下さいね。」

 

「誰が陰キャだコラ。」

 


 

〈中庭〉

 

現在……僕は中庭のベンチに座り、隣の女子生徒からの質問にどう答えようかと考えていた。

 

「……と言う訳で先日、白銀会長の威圧感が無くなった理由を石上編集なら知ってるんじゃないかと思いまして。」

 

只の寝不足解消が理由である。

 

「そ、そうですね……」

(コレ、正直に言っていいのかな……)

 

学年1位という実力と、鋭い眼光で周囲の人間を萎縮させ畏敬の念を抱かせる白銀御行の威圧感の原因が、只の寝不足だと周囲の人間にバレる事を石上は懸念していた。更に今は、選挙期間の真っ只中……白銀陣営である石上からすれば、少しでも票数を減らす様な発言は控えたい所である。

 

(ダメだな、なんとか話を有耶無耶にしないと。)

「先輩はどんな理由があると思ってるんですか?」

 

「そうですわね……」

(生徒会が解散し、激務から解放された事によって睡眠不足が解消された……なんて考察は凡人のソレですわ。)

 

正解である。

 

「そういえば、普段一緒にいるガチ勢先輩は何か言ってなかったんですか?」

 

「……ガチ勢先輩? エリカの事ですの? エリカは……」

 

ゆっくり寝てスッキリしたとか……

 

「か、かぐや様と寝てスッキリしたとか言ってましたわ!」

 

「えー、あの人そういうタイプなんですか。」

 

「今度からは、ポンコツドスケベお味噌と呼んであげて下さいまし!」

 

とんだ風評被害である。

 

「いや、長いですよ。でも、まぁ……」ジッ

(やっぱり、類は友を呼ぶというか……この人自体、同級生でナマモノ描く様な人だからなぁ。)

 

「……何故でしょう、もの凄く残念なモノを見る様な目で見られてる気がしますわ。」

 

「いえ、なんでもないです……この前生徒会で月見したんですけど、その時の月の魔力が時間差で今頃効いて来たとかかもしれませんよ?」

 

半端笑い話にでもなれば良いくらいの軽い気持ちで、先日した月見の話を持ち出す。

 

「あぁ、生徒会で月見をしたらしいですわね。藤原さんから聞きましたわ。」

 

「はい、会長は四宮先輩と隣に並び合って夜空を見上げてて……」

 

「そ、それは本当ですの!?」

 

「え、えぇ……」

 

「ぐ、具体的には!?」

 

「具体的? 僕は離れた所に居たので会話は聞こえませんでしたけど……会長が空を何度か指差していたので、星について四宮先輩に教えていたんじゃないですか?」

 

「星について……」

 

会長、どれが秋の四辺形なんですか?

 

ん? 興味あるのか?

 

はい、とっても。

 

じゃあもっとこっち来い。

 

「ッ!!」

(そして、白銀会長はかぐや様を瞬時に抱き寄せ、顔を近づけたかぐや様の耳元で星について語り出すのですわ!!)

 

かれんの妄想が真実に辿り着いた瞬間である。

 

「……貴重な情報感謝しますわ! 流石は石上編集です、頼りになりますわ!!」ガシッ、ブンブン

 

「えっ? はぁ……」

 

ナマ先輩は僕の手を握ると、ブンブンと嬉しそうに手を上下させながらそう言った。

 


 

その光景を目撃したのは、昼食を食べ終わり中庭を通り掛かった時の事だった……

 

「流石は石上編集です、頼りになりますわ!!」

 

そんな言葉が聞こえて来た。声のした方へ視線を向けると、女子生徒が優の手を握りブンブンと振り回している所だった。同じクラスの紀だ……部活動か何かは知らないけど、もう1人の巨瀬って奴とウロチョロしてる所を良く見る。そんな奴がどうして優と……私は未だに優の手を離さずに振り回し続ける少女の姿に、若干の苛立ちを覚え始めていた。

 

「そうですか、お役に立てて良かったです。」

(あちゃー……話は逸らせたけど、妄想のネタを提供しちゃったかー。)

 

「でも御二人の会話は聞いてはいけませんわよ?」

 

「え?」

 

「ふふふ、何故なら……その時に2人が紡ぎ繋いだ愛の言葉は、白銀会長とかぐや様だけのモノなのですから。」バチコーン

 

紀は口の前で指を立てウインクをすると、嬉しそうな顔をしてベンチから去って行った。

 


 

パチンとウインクをし、ドヤ顔を浮かべながらそう言うナマモノ先輩を見て僕は思った……妄想癖が過ぎると、ここまで日常会話に影響を及ぼす様になるのかと。

 

「それでは、石上編集失礼しますわ。」

 

満足した様な顔でそう言って走り去るナマモノ先輩を見送っていると……

 

「鼻の下伸ばしてんじゃねぇよ。」

 

ドカっと隣に座って来た女子生徒にそう言われる。

 

「いや、桃先輩……そんなんじゃないですよ。」

 

「どーだか……」

 

「あれ? 桃先輩もしかして、怒ってます?」

 

「……別に怒ってねぇよ。」

 

「まさか……」

 

「……ッ!」

 

「今度は何のアイテム取り損なったんですか?」

 

「……」

 

「あ、それともイベントミッション失敗でもしましたか?」

 

「お前はそういう奴だよな……」

 

「え、違いました?」

 

「ばか、バーカ。」

 

「え、えぇー……」

 

本日の勝敗、石上の敗北

敗因、ばか。


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