石上優はやり直す   作:石神

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龍珠桃は阻止したい

10月に入り生徒会長選挙まで残り1週間を切ったある日の昼休み、廊下を歩いているとガチ勢先輩に呼び止められた。

 

「か、会計君……ち、ちょっと聞きたい事があるんだけど、今大丈夫?」ハッハッハッ

 

「……とりあえず、その荒い息なんとかしてくれません?」

 

………

 

「ふぅ……実は、未確認情報の真偽を確かめる為に会計君に聞きたい事があってね。」

 

階段横の空いた空間へと連れ出される。先輩は胸に手を当て息を整えると、そう話を切り出した。

 

「未確認情報?」

 

「かぐや様が贔屓にしてる喫茶店があるって聞いて……会計君、知らない?」

 

「……どこからそんな情報が?」

 

「夏休みに、かぐや様が白銀会長と喫茶店で一緒に居る所を目撃したって噂があるの。因みに、かれんには言ってないから安心して。」

 

「へぇ、そうなんですか……真っ先に情報共有しそうなのに。」

 

「情報が不確かな状態で、かれんみたいな妄想癖持ってるヤバイ子に教えられる訳ないでしょ。」

 

「……そうですよね、ガチ勢先輩(ヤバイ人)には教えられませんよね。」

 

「その反応、知ってるんでしょ!? お願い教えて!! 違うの! 別に悪用しようとか思ってないから! 只、偶然を装って同じ喫茶店でお茶したいだけだから!!」ハッハッハッ

 

「えぇ……」

(……っていうか、さっき息切れしてたのは走って僕を探してたとかじゃなくて、単に興奮してたからか……)

 

「じゃあ外から眺めるだけ! ね? 外から心のシャッターを切るだけならしてもいいでしょ!?」

 

「営業妨害になりそうなんでやめといた方が……っていうかなんですか、心のシャッターって。」

 

「そ、それにね!? この情報が変な人に知られる前に、マスメディア部として情報規制する必要があると思うの!」

 

「それに関しては、もう手遅れだと思いますけど……」

 

「……じゃあ、会計君が私について来て見張ってて! それならいいでしょ!?」

 

「えぇー……」

 

「ね? お願いだから付き合って! ね、ね!!」

 


 

昼休み、1年教室廊下横に位置する階段に足を掛けた時だ……

 

「……だから付き合って! ね、ね!!」

 

……聞いた事のある声が、階段の影から聞こえて来た。確かこの声はマスメディア部の……私はソッと声のした方を窺うと、同じクラスの巨瀬が優の制服の袖を掴んで迫っている現場を目撃した。

 

「っ!? ……っと!」

 

飲んでいたパックジュースを落としそうになり、慌てて持ち直す。

 

「お願い! もう私には会計君しかいないの!」

 

上気した様に赤くなった顔で、優に詰め寄る巨瀬に対する苛立ちが生まれる。

 

「仮に行ったとしても、四宮先輩が居るとは限りませんよ?」

 

「それならそれで良いの! 同じ喫茶店、同じ空間でお茶したって事実だけで生きて行けるから!」

 

優の声は少し距離がある所為で聞こえないけど、巨瀬はさっきから発言に必死さが漂っている……この前の紀といい、優の奴が女と一緒にいる所をよく見掛ける。もしかして、優ってモテるのか? 胸の奥に居座る、妙な感情に従って私は一歩踏み出した。

 


 

「それならそれで良いの! 同じ喫茶店、同じ空間でお茶したって事実だけで生きて行けるから!」

 

ガチ勢先輩は、なんとか件の喫茶店を突き止め様と必死になって縋ってくる。その瞳からは普段にはない、強い圧を感じる。

 

「……」

(……狂信者ってこんな感じなのかな?)

 

石上の中での巨瀬エリカの位置付けは、ガチ勢を通り越して狂信者になりつつあった。

 

「出来れば、今度の土曜日とか……」

 

「悪いな、コイツその日は私と予定があるんだよ、他当たってくれ。」

 

「桃先輩……?」

 

「り、龍珠さん!?」ビクッ

 

突然の龍珠の登場に、エリカの脳裏には夏休みのある記憶が去来する。

 

おう、嬢ちゃん達……お嬢の写真撮ってどうするつもりか、説明してもらってええか?

 

(……埋められる!?)

「……ごめんなさーい!」

 

ガチ勢先輩は、それだけ言うと走って行ってしまった。

 

「が……巨瀬先輩と仲悪いんですか?」

 

「別に……そういうんじゃねぇよ。」

(……はぁ、何やってんだ私は? でも何故か苛立ちが収まらねぇ、なんで私は……!)

 

「……それで、何処行きます?」

 

「……え?」

 

「今度の土曜日。何処行きましょうか?」

 

「……偶にはゲーセンも良いかもな。」

 

「いいっすね、行きましょう。」

(良かった。何か沈んだ雰囲気だったけど、少しは元気出たみたいだ……)

 

「この前の夏祭りみたいに、また勝負するか?」

 

「良いっすよ、今度は負けませんから。」

 

「フン、忘れてないだろうな? この前の夏祭りでした射的勝負で、優は一回私の言う事を聞く義務があるんだぞ?」

 

「うっ、覚えてましたか……」

 

「ハッ、残念だったな、忘れてやんねぇよ。さぁて、どんな事をさせてやろうか……」

 

「お、お手柔らかに……」

 

「やだよ、バーカ。」

 

桃先輩はニヒルな笑みを浮かべてそう言った。

 


 

〈2年C組〉

 

「……エリカ、正直に言って下さい。龍珠さんに何かしましたわね?」

 

「し、してないわよ! なんで決め付けるの!?」

 

「だって……」チラッ

 

「……」ジーッ

 

「さっきから滅茶苦茶こっちをガン見して来るんですもの! どうせポンコツお味噌なエリカが何か粗相をしたのだろうと……」

 

「なんですってぇ!? 妄想癖のあるかれんに言われたくないんだけど!?」

 

「妄想ではありません! 僅かな情報から真実を読み解いているだけです!」

 

「ウソつけぇっー!」

 

……何やら言い争いを始めた2人から視線を外す。

 

「……はぁ。」

(別に今あの2人を見ても苛つきはしない……どうなってんだ?)

 

机に突っ伏したまま、先程生じた苛つきの正体に思考を働かせる……

 

「うぅん……?」

 

「……龍珠さん、悩み事? 俺で良かったら相談に乗るよ?」

 

「邪魔だ、失せろ。」

 

思考の邪魔をして来た男に言い放つ……誰だっけ、コイツ? 前も話し掛けて来た様な気がするが、名前は覚えてない。

 

「ッ…そ、そう。邪魔して悪いね。」

(チッ、選挙前にどうにか交流が持てないかと思ったが……相変わらずガードが堅いな。)

 

「フンッ……」

(はぁ、つまんねぇ……早く放課後にならねぇかな。)

 

少女の脳内には、ゲーム機を持った後輩男子が浮かぶだけだった。

 

 


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