「はい。前に渡した図書部ブレンド」
「ありがとう。あっ、美味しい」
どうやら気に入ってもらえたようだ。桜庭さんもご満悦のようでなにより。
「それにしても、生徒会ではいつもこれを飲めるのか。羨ましいかぎりだ」
「正確には彼が来てくれたときね。美味しいのは確かなのだけど」
「……ウチに来たときに淹れてあげてるでしょう?」
不定期参加のことを責められると弱い。
「あれ? 清涼院さんって、会長のご近所さんなんですか?」
「うん。二つ隣。生徒会の仕事で遅くなったときとかは夜食作ったりするんだ。そのとき、色々お茶も出してるんだよ」
幼馴染みの間柄。少し間違えられると色々危ないが、そこは新聞部に脅しをかけているので大丈夫だ。
「羨ましいなぁ。こんなにおいしいお茶を飲めるなんて」
片手でお茶を飲みながら、こちらを見てくる白崎さん。そう言ってもらえるのはうれしいが、どうしようもないので諦めてもらうほかない。
「さて、そろそろ筧たちも帰ってくるだろうし、仕上げちゃいますか。そういえば、みんなはこの後どうするつもり?」
キッチンに立ちながら、白崎さんたちの今後の予定を尋ねる。男子連中はともかく、白崎さんたちは、たぶん残って面倒を看たいと思っているだろう。
「私たちはとりあえず目を覚ますまでは、ここにいたいんだけど……」
「了解。会長は?」
「午前中は特に仕事がないから付き合うわ。といっても、あなたがいれば万事解決のような気もするけどね」
クスクスと笑われたがそうもいかない。看病自体は問題ないが、御園さんは女の子である。それだけで1人で看病することは難しい。
「ありがとう、助かるよ」
白崎さんにお礼を言うと、チャイムが鳴った。筧達が帰ってきたらしい。
「ありがとさん。急いでくれたみたいだな」
「こういうのは早いほうがいいだろ?」
筧から荷物を受け取り、メニューを考える。少し多めに買ってきてくれたらしく、何人かの分のご飯なら作れるだろう。
「随分沢山買ってきたんだな」
「普段自炊しないから、よく分からなかったんだ」
筧の言葉に、桜庭さんはため息をついていたが、正直助かった。
「それより御園さんの調子は?」
手が空いていた高峰が、御園さんの様子を聞いてきた。
「まだ薬を飲んでないけど、眠ってるから多少は楽になるかな?」
薬を飲むにも先に食事をしなければならない。いつ起きても大丈夫なように、料理に取りかかることにしよう。
「そういえば、玉藻ちゃんと清涼院君って知り合いなの? 今まで聞いてこなかったけど」
「し、白崎っ!?」
あぁ、桜庭さん、話してなかったのか。
「俺と桜庭さんは小さい頃からちょくちょくパーティーとかで会ってたからね。たまにダンスとかも踊ったりしたよね?」
「ち、小さい頃の話だ!」
「へー、桜庭さん、中々ご親密なようで~」
「ね~♪」
何やら鈴木さんと白崎さんがノリノリだ。まぁ、一応否定しておかないと。
「まぁまぁその位で。それで筧達はどうする? よければ筧達のも作るけど?」
「いや、俺たちは帰るよ」
「可愛い女の子達とのディナーもいいけど、今日の所は帰るわ。何かあったら連絡してくれや」
「そっか。今日は助かったよ二人とも。ありがとな」
筧と高峰は御園さんに気を遣ったのか帰って行った。
「二人は帰っちゃったけど、取り敢えず皆の分はできたよ。簡単なものしか作れなかったけど、どうぞ」
卵焼きや簡単な野菜炒めくらいしか作れなかったけど、みんな女の子だし大丈夫だろう。
「わぁ、ありがとう。とっても美味しそう」
「いただきまーす」
ちなみに白崎さんは桜庭さんに食べさせてもらっていた。
「この卵焼き、ふわふわで美味しー!」
「うちの味付けだけど、お口にはあったかな?」
「はい! 清涼院さん、うちの嫁に来てくれません?」
「お友達で。真帆ちゃん、美味しい?」
「だから、人前ではそれは止めなさい。……美味しいわよ」
それならよかった。
「それにしても、清涼院君、何でもできるんだね」
「できることをやってるだけだよ。小さい頃から母さんに仕込まれたのもあるけどね」
「母さんっていうと、清涼院珊瑚社長ですよね?」
「うん。母さんは料理苦手だったからね。その分月さん、秘書さんに教わったりしてたわけ」
料理の先生は月さんである。あの頃は忙しい母さんに代わって家政婦のようなことをしてくれていた。妹もかなり懐いているので、もう一人の母親のような存在だ。まぁ、そんなに歳は離れてないけど。
「考えてみれば、輝夜の料理は月さんと似た味ね。習っていたのは知らなかったけど」
「自分だけで作れるようになってから、色々自分で改良したからね。まだまだ月さんには叶わないよ」
月さんの料理は非常に美味しい。世界中を回り、現地で料理を習ってきた月さんのレパートリーはすさまじい。ちなみに一番の得意料理は肉じゃが。食べるとほろりと涙が出るほどのお袋の味である。
「月さんって、たまに校門のところにいる人だよね? すっごい美人さんの」
「そ。いまは母さんとか俺とかの仕事のサポートをしてもらってる。夏休みにちょっと仕事があるから、最近はよく来てもらってるけど、見たことある?」
「うん、私は何度か。挨拶もしてくれたから、よく覚えてるよ」
「私も何度か話をしたことがある。確かパーティーにもいらしていたよな?」
「桜庭さんの人たちは何度かお呼びもしてたからね。俺もまだ小さかったから、傍にいてもらったんだよ。まぁ、それは今もだけど」
「おぉぅ、はいそさえてぃな会話だ……」
鈴木さんが何故か戦慄していた。まぁ、あまり普通のことではないからなぁ。
「んう……あれ……?」
「あ、御園さん。目が覚めたんだね」
話していたからか、御園さんが目を覚ました。お腹も空いているだろうから、御園さんの分のご飯を温め直す。
「先輩?」
「よく眠ってたけど、大丈夫?」
「は、はい」
目が覚めたら見知らぬ先輩が増えていたからか、御園さんは困惑している。温め直したお粥と卵焼きを持っていきながら事情を説明する。
「まぁ、俺じゃ夜ついていられないから、これ幸いということで来てもらったんだ。はい、お腹も空いてるでしょ? 食べられるだけ食べてね」
やはりお腹が空いていたのか、出したご飯を全部食べてくれた。その後、薬を飲んでもらい、それを見てとりあえず一安心ということで、俺と真帆ちゃんはお暇することにした。
「じゃあ、俺たちはこれで失礼するよ」
「お邪魔したわね御園さん。お大事に」
「あ、材料のお金……」
「気にしないで。先輩からの選別だと思って。今度アカペラでも聴かせてよ。それがお礼ってことで」
御園さんは白崎さん達に任せることにして、俺たちは先に帰る。
「真帆ちゃんもありがと。本当に助かった」
「いいのよ。ウチの生徒が苦しんでるなら助けてあげなきゃくちゃね」
どうやらウチの生徒会長さんは、大変な世話焼きさんのようだ。
「じゃあそんな働き者さんが風邪をひかないように一杯ご馳走するけど、来てくれる?」
「ふふっ、せっかくですもの。ご馳走になるわ」
じゃあ、とっておきのお茶をご馳走しなければ。