夏休みの前半は完全オリジナルの予定です。
土日が空けて月曜日。今日は図書部のビラ配りの日のはずだ。こんな面白いことは見逃せない。ということで。
「筧、いや京子ちゃん。随分似合ってるな」
メイド服姿の筧を見にきた。白崎さんが何やら画策していることは聞いていたが、予想以上の出来である。
「くっ……笑いたければ笑え」
「いや、俺にも覚えがあるからな、そういうの」
「あっ、清涼院くん!」
振り返れば巫女服姿の白崎さん。
「こんにちは白崎さん。その服、似合ってるよ」
「ははは、喜んでいいのかな?」
恥ずかしがり屋の彼女にとっては、やりづらいだろうけど、頑張っているようだ。
「お、清涼院。待っていたぞ」
白崎さんと話していると、やってきたのは桜庭さん。というか。
「待っていたって?」
「あぁ。突然で悪いのだが」
さっと手をあげる桜庭さん。すると、さっと現われる一人の女子生徒。って、こいつらっ!?
「お久しぶりです、清涼院さん」
俺のトラウマ。服飾部部長錦遙香(にしきはるか)。去年のアレの実行犯である。彼女を見た瞬間逃げようとしたが、他の部員に捕まった。くっ!
「さぁさぁ、清涼院さんの衣装は日々こつこつと作っています。今日のコンセプトにあったものをご用意していますので、こちらへどうぞ」
「ちょ、引っ張らないで!?」
ずるずると図書部の部室に引きずられ、あれよあれよという間に、服を着せられた。あぁ……トラウマが再発する。
「あぁ……やはり清涼院さんは最高のモデルです。よくお似合いですよ、和風メイド服」
「似合いたくないわっ!」
しかし、錦は聞く耳持たず。というか、聞いておきながら、右から左に聞き流している。
「まぁ、このまま出ないのであれば、今すぐビラ配りを中止していただきますので。清涼院さんに衣装を着ていただくことを条件に、図書部に衣装をお貸ししておりますので」
俺は図書部ではないので関係ないと言いたいが、そうも言っていられない。流石に、今から中止にさせるのは忍びない。
「ぐっ……出ればいいんだろ、出れば」
「はい。その通りです」
もうこの人に勝てる気がしない。
Another side 白崎
清涼院くんが服飾部の人たちに引きずられていなくなってしまっている間、私たちはビラ配りを再開していた。
「あの……どうぞ……」
普段人前に出るのが苦手なのに、こうしてか、過激な衣装を着るなんて、いつもに増して恥ずかしい。
「白崎、大丈夫か?」
そんな私に見かねてか、玉藻ちゃんが心配した顔で来てくれた。
玉藻ちゃんも普段は着ないような服を着ているのに、すごく堂々としている。
「うん、ちょっと恥ずかしいけど大丈夫。玉藻ちゃんこそ、大丈夫?」
「あぁ……恥ずかしいが、まぁ、仕事だからな」
訂正。玉藻ちゃんも恥ずかしいみたい。
「あ、でも、清涼院くんは大丈夫かな?」
「ははは……黙っていて悪いことはしたが、服飾部が清涼院を貸してくれるなら無償で貸し出してくれると提案してきてくれたからな。まぁ、楽しみにしていようじゃないか」
「うん。御園さんも協力してくれたんだし、頑張らなくちゃね」
まぁ、確かい楽しみではあるけど。なんせ、あの写真を見たのだから。どれだけすごいことになるのだろうか。
「……じゃあ、これで満足か?」
と、後ろから聞き覚えのないような、あるような。でも、とても綺麗な声が聞こえた。後ろをふり向くと、そこには、とても綺麗なメイドさんが不機嫌そうな顔で私たちのことを睨んでいた。
「えと……佳奈ちゃんのお友達かな?」
「いや、先輩じゃないか?」
こんなに綺麗な人は見たことがない。でも、どこか見覚えがあるような……。何だろ、不思議な感覚だ。
「ほら、輝夜姫様。そんな表情をしていては、お客様が逃げてしまいますよ」
「誰が輝夜姫だ、だれが」
急に声が低くなって、この美人の人が清涼院くんだと分かった。……………………え?
「えぇぇぇぇぇぇっ!?」
えぇぇ!? えぇ!? 清涼院くん!? こんなに綺麗なのに!?
「…………そう驚いてくれるのはいいことなのかどうなのか分からん」
「良いことでしょうね」
「うるせぇ」
未だに信じられないけれど、改めて清涼院くんの姿を見てみる。
和服のようなデザインの何層にも重なったロングスカート。
簪をモチーフにしているであろう、ヘッドドレス。
様々な花がうっすらと刺繍されているエプロンドレス。
まさしく和風メイド、いや、平安風メイドだ。
「す、すごいな。いや、衣装の見事さもすごいが、それを着こなす清涼院が一番すごい」
玉藻ちゃんも清涼院くんの変貌っぷりに呆然としていた。
「さ、清涼院さん。存分にその美貌を生かしてビラをお配り下さいな。きっと一瞬でなくなってしまいます。あ、でも、長い時間見られないのは残念ですね」
「もう静かにしていてくれ……。行ってくる」
そう言って、ビラを持ってそれを配りに行く清涼院くん。服飾部の部長さんも追加分のビラを持ってついていった。
「第一食堂アプリオと料理部とのコラボです。よろしくお願いします」
決して大きな声ではないのに、不思議と周囲に響きわたる。その声に気が付いた人々が清涼院くんに気が付くと、ぴたりと固まった。そして、男女問わず顔を紅くしながらビラを受け取っていた。
気が付けば、大勢の人たちが清涼院くんの周りに殺到し、ビラを受け取ろうとしていた。
そして十分も経たない内に、ビラはすべて無くなってしまった。それでも、人だかりは消えず、アプリオの前は人の壁が出来ていた。
「ちょ、ちょっと! これは何の騒ぎですか!」
すると、人垣の外から、望月さんの声が聞こえた。流石に生徒会長が来たからか、壁が割れ始めた。
「まったく……ビラ配りは許可しましたが、こんな騒ぎを許したわけで、は……」
最初は怒っていた望月さんだったけど、清涼院くんの姿を見た瞬間、ぴたりと黙り込む。
「…………取り敢えず、ビラ配りは終わったのでしょう? でしたら、すぐに解散しなさい! このままでは通行の妨げになるわ」
望月さんの言葉で、その場に留まっていた人たちも離れていった。そして残ったのは私たち関係者のみ。
「白崎さん」
「は、はい!」
「このような活動を行うのならば、周囲の迷惑にならないようにしなさい。まぁ、今回は一概に貴女たちが悪いというわけではなさそうですので、不問にしますが、今後は、このような事態にならないような計画をしなさい。分かった?」
「はい。すみませんでした」
今回のこれは不測の事態とは言っても、私たちのミスだ。心を込めて謝罪をすると、望月さんは許してくれたのか、笑顔を浮べてくれた。が、すぐに険しい顔になる。
「でも、あなたに関しては別よ。葵。この後の仕事は貴女に一任します。輝夜は私と一緒に来なさい」
「え? いや、それは分かったけど、せめて着替え!」
「いいから、来なさい!」
望月さんは清涼院くんの腕を掴むと、ぐいぐいと引っ張って行ってしまった。
「え、えと……」
「まぁ、何はともあれ、成功だな」
多少のトラブルはあったものの、ビラ配りの仕事は大成功に終わったのだった。
…………清涼院くん、大丈夫かな?
Another side out
「で、あなたは何をしているのよ」
真帆ちゃんに連れられて生徒会室に入った途端、盛大にため息をつかれた。
「俺だってこんな格好するつもりはなかったって。錦にはどうも敵う気がしないんだよ」
「まぁ、確かにあの子はすさまじいけれど……」
これには真帆ちゃんも同感のようだ。何せ、昨年のアレは、その前の年に一年生ながら新たに立ち上げた服飾部(コスプレ衣装制作部)の部長として、一年間の実績と共に生徒会に企画を持ち込み、真帆ちゃんを言葉巧みに丸め込んだのだから。あんなにお淑やかそうなのに、中身はとんだ飛び道具である。
「全く、そんなことで大丈夫なの? 彼女、もう貴方の会社の内定決まっているんでしょ?」
そうなのである。錦は清涼院専属のデザイナーとして入社が決まっている。確かに腕だけを見れば、見事としか言いようがない。願わくば、男性用を作って欲しいのだが。
「まぁ、貴方も不可抗力ということでおとがめ無しにするけど、気をつけなさい」
「ありがと。そう言って貰えれば助かるよ」
話も終わり、ソファにもたれかかる。疲れた、主に心が。
「それにしても、また一段と似合ってるわね。メイクも薄化粧でしょ? もう、女の子で通るんじゃない?」
「あれだ、それほど錦の教育がすさまじいんだろうな。悔しいことに全く違和感を感じない。悔しいことに」
「ふふっ、私個人としては、また貴方の綺麗な姿を見られて嬉しいのだけれど。えいっ」
カシャリと写真を撮られた。どうしようもないので睨み付けるが、真帆ちゃんは素知らぬ顔。
「絶対に周りにばらまかないでね」
「えぇ。せいぜい自慢するだけにするわ。うふふ、葵がうらやましがるわね」
むしろけなされるような気がする。
「そんなことないわよ。だって、葵は貴方の輝夜姫姿の大ファンなんだから」
え、初耳。
「あの子も素直じゃないから、貴方から言ったら殴られちゃうと思うわよ」
「それは想像できる」
「ならいいわ。私も今日の仕事終わりだから、一緒に帰りましょう? もちろんそのままで」
「マジで止めて……」
「駄目よ。それがこの件の罰ですから。制服は予備があるのでしょう? なら問題はないわ。まぁ、せめてもの慈悲としてエプロンだけは外していいわよ」
それは慈悲とはいわない。
しかし真帆ちゃんは一歩も退いてくれず、結局このまま帰宅することとなった。しかし、外に出た瞬間、注目の雨霰。となりに真帆ちゃんがいるからか、囲まれることもなく、不思議と写真を撮られることもなく、しかしかなり注目されていた。
「ふふふ、流石ね。注目されていますね、姫様?」
「やめて、心折れそう」
本当に。
「でも、本当に惚れ惚れしちゃうわ。声まで寄せてるんだから、満更でもないんじゃないの?」
「それは、あれだ。母さんと仲の良い声優さんにたたき込まれたんだよ。母さんに脅されてね」
「それで。通りで上手な訳ね。声だけでも惚れ惚れしちゃいそうですもの」
「今度母さんに文句言ってやらないと……」
そんなことを呟いたら、笑われてしまった。
「そんなことをいうものではないわ。そんなに素敵な特技を持っているなら大切にしなさいな」
「嬉しくないわ、そんなこと言われても」
真帆ちゃんの笑顔が憎い。
周囲に注目されながら、ようやく部屋にたどり着く。
「よかったら寄って行きなさい。あぁ、着替えてからでいいわよ」
「お邪魔するよ」
ようやく普通の格好に戻ったところで、真帆ちゃんの部屋に行く。
「はい、お茶。あんな格好じゃ喉も渇いたでしょう?」
「助かる。流石にアレは熱い」
「それでも汗を流さないのは流石よ。コツでもあるの?」
「あるみたいだけど、俺の場合は気合いと根性」
精神論である。直前に水を飲み過ぎないようにはしてるけど。
「っと、メールだ。あぁ、白崎さんだ」
今日の活動のお礼とごめんなさいとのこと。まぁ、主導していたのは錦だろうから、白崎さんは特に悪くないだろう。
「随分と白崎さんには優しいのね」
「ん? 嫉妬してくれてるのかな?」
「違うわよ。ただ、貴方が一つのことに執着するなんて珍しいでしょう? どうしてなの?」
確かに、白崎さんたちとは随分付き合っている。いつもは依頼が終われば、一歩退くことが多い。それを考えれば、図書部へ執着していると思われてしまうのも無理はない。
「そうだな、白崎さんたちには期待をしているのかな」
「期待?」
「そ。白崎さんだけじゃなくて、筧や高峰、桜庭さんに佳奈ちゃん、それに御園さんもかな。この五人が集まったのは偶然じゃないと思う。そんな図書部が何をするのか、傍で見ていきたいんだよ」
図書部のやることは全部面白い。図書部本来の活動とはかけ離れた活動だが、それはそれこれはこれ。だからこそ面白いのである。
「傍で、ね」
「? 真帆ちゃん?」
「あなた、生徒会の傍にはいてくれないのに、図書部の傍にはいるのね」
ふくれっ面の真帆ちゃんも可愛いが、このままでは駄目なのも事実。
「どしたの? 嫉妬してくれた」
「ばか……」
あら、やり過ぎた。
「だって、あなた生徒会室には殆ど来てくれないじゃない。それに、来たとしてもすぐに帰っちゃうし。そのまま図書部に入っちゃえばいいのに」
つーんとそっぽを向く真帆ちゃん。そんなことはないのだが、誤解をさせてしまっていたようだ。
「ほら、真帆ちゃんカモン」
手を広げて真帆ちゃんを呼ぶ。
「ちょっ!? 輝夜!?」
「子どもの時みたいに、スキンシップをしようじゃないか。ほら、誰もいないし」
真帆ちゃんはたっぷり三分ほど考え、多少目をグルグルさせながらこっちに来てくれた。
「ほい」
「きゃっ……全く、私の方が年上なのよ?」
「年上の女性というのに関しては、ウチの女性連中が強力すぎるからね」
母さんに続いて、御当主さんやら会長さんやら最強なのだ。
「まぁ、珊瑚さんも瑠璃さんも玻璃様も那夜様ももの凄い方だものね。それに瑠璃ちゃんも。改めて考えると、もの凄い女系一家ね」
「あの人たちにはかなう気がしないよ。ま、そんなわけだから、この扱いについては諦めて」
「というか、関係ないわよね」
そう言いつつも、離れようとはしないので、慣れとは恐ろしいものである。
また濃い人物が登場しました