会長がログインしました。
会長がひろいんの本領発揮をしたようです。
「じゃあ、芹沢さんは俺が送るから、琴音ちゃんはお願いね」
「分かったわ。あぁ、たまにはメールでも良いから連絡しなさい。これでも、心配してるのよ」
「はは、了解。琴音ちゃんも、これから頑張ってね」
「はい! あ、私にもメールくださいよ! じゃないと、ラジオとかであることないこと行っちゃうんですからね!」
微妙に恐ろしいことを言い残し、琴音ちゃんたちは車に乗って行ってしまった、
残された俺と芹沢さんは、タクシーを拾い、寮に向かう。
「今日はお疲れ様。ごめんね、いきなり食事に誘っちゃって」
「いえ、本当に楽しかったです。素敵なお話も聞けましたしね」
どうやら喜んでもらえたようだ。
「そういえば、今回は水結ちゃんがエンディング歌うんだよね? どう、感触は?」
「バッチシです。聞いて惚れちゃってもいいんですよ?」
「ほほぅ? なら、でき次第では何かご褒美をあげよう」
芹沢さんも冗談でいっているが分かるので、こちらも冗談で返す。
「じゃあ、美味しいお茶を入れてください。生徒会に入らないと飲めないって、半ば都市伝説級の扱いなんですよ?」
まさか、そんなことになっているとは思わなかった。誰だよ発生源。
その後も学園でのことなどをたわいも無く話していると、あっという間に芹沢さんの寮に到着した。
「じゃあ、俺はここで。明日は図書部の件、よろしくね」
「はい。お任せ下さい。お休みなさい」
芹沢さんが寮に入るのを見届けて、俺も寮に戻る。と、寮の前につくとそこには見知った顔が。
「会長、いまお帰りですか?」
「輝夜? あぁ、そういえば今日は仕事っていっていたわね」
随分と遅い時間なのだが、今日も仕事だったのだろう。それでいて凜とした佇まいは失われていないのだから、流石というほかない。
「あなたも今帰りなのね。お疲れ様」
「真帆ちゃんこそ。どう? 時間は遅いけどお茶くらいならごちそうするけど」
寮が同じだし、部屋も二つ隣である。お茶をのむくらいの時間はある。
「あら、素敵なお誘いね。是非ともごちそうさせてもらうわ」
プライベートだからか、物腰も自然体だ。そんな会長と一緒に部屋に戻る。
「お邪魔します。あら、相変わらず綺麗ね」
「どういたしまして。ベッドにでも座ってて。美味しいお茶仕入れたから」
会長、いや真帆ちゃんに入れるお茶は特別だ。思えば、美味しいお茶を入れたいと思ったのは、彼女がいたからだろう。恥ずかしいから、絶対に言わないけど。
お湯を沸かす間、クッキーを用意して持っていく。リビングに戻ると、ベッドに腰掛けながら、本をめくる真帆ちゃん。
「あ、ごめんなさい。何となく気になって」
「いや、別にいいよ。今度、ヘイゼルリンクで文化交流会があるから、何かないかなって」
真帆ちゃんが持っている本は、染め物に関する本だ。友禅や西陣は有名で喜ばれるが、他のものでも良いものはないか探していたのだ。他にも、昔からの遊びや武道等々。有数の親日国で親日王家であるヘイゼルリンク公国の人たちを満足させるのは結構大変だ。
「あの国の人たちは、日本人よりも日本を知っているんじゃないかと思うほどだものね。やっぱり、夏休みは忙しいのね?」
「うん。夏祭りが終わったら一週間は向こうに行かないといけないしね。それに、図書部も気になるしね」
図書部の話を出すと、少しピクリとする真帆ちゃん。
「やっぱり気にくわない?」
「気にくわないとかじゃないわ。……いえ、そうなのかもね」
ため息をつきながら頷く真帆ちゃん。白崎さんの理想について思うことがある真帆ちゃんにとって、やはり割り切れない部分もあるのだろう。
「でも、真帆ちゃんだって、図書部の活動の意義については認めているんでしょ?」
「まあね。白崎さんの言うとおり、私たち生徒会ではカバー仕切れない部分があるのは事実よ。そして、それで何かをあきらめなければいけないという人がいるのも事実。そういう意味では、彼女のいうように、「学園をもっとよく」してくれようとしてくれる団体が一班生徒から出てきたのは喜ばしいことよ」
「でも、割り切れない?」
「……えぇ。悔しい、とでも言えるかしら。私ではできないことだったわ。あそこまで無邪気に楽しい学校を作る、だなんて私にはできないことだった。うらやましかったのかもしれないわ」
真帆ちゃんはそういって、一息つく。真帆ちゃんは優秀な人間だから、大抵のことはできる。それでいて、自分だけで背負い込むわけでもなく、適材適所に割り振る能力もあり、生徒会のような組織を動かす能力も非常に高い。そういう意味で、真帆ちゃんの生徒会は、多くの生徒に賞賛され、その実績は確かなものになっている。
だからこそか、白崎さんがやっている活動が信じられないという感情がわくのだろう。白崎さんの場合は、彼女の感情が先にある。感情的に動く図書部の活動は、真帆ちゃんにとって、危なっかしくて仕方ないのだろう。筧の件のとき、言い争いになったのも、無計画に、一緒に活動したいから、という頼りない動機でかっ攫われたからだ。しかも、それが良い方向に進むのもまた、悔しいのだろう。
「ま、それだけ白崎さんもリーダーの素質を持っているってことだよ。真帆ちゃんとは少し違うけどね」
それを理解している真帆ちゃんは、何も言わないまま頬を膨らました。
「と、お湯沸いたか。じゃあ、ちょっと待ってて」
とりあえず、真帆ちゃんを呼び込んだ目的を果たすことにしよう。
「あぁ、とっても良い香り。これだけで疲れが取れそうだわ」
ポットにいれて持って行くと、真帆ちゃんは目を細めながら香りを楽しんでいた。
「そう言ってもらえると嬉しいね。そのクッキーにも合うから一緒に食べて」
「えぇ。……あぁ、やっぱりあなたの入れるお茶は絶品だわ。今日の疲れが抜けていくようだわ」
「それなら招待した甲斐があったかな」
それからは、お互い何も話さずお茶を飲む。いやな沈黙というわけでは無く、心地よい静寂という感じか。
「ねぇ輝夜、一つ聞いても良いかしら?」
「ん? なに?」
お茶も無くなり始めた頃に、真帆ちゃんが不意に口をひらく。真帆ちゃんの顔をみると、なにやら真剣な様子。
「どうしてあなたは生徒会に入ってくれないの?」
彼女が聞いてきたのは、俺が生徒会に入らない理由。生徒会で活動こそしていれど、俺は役員名簿には載っていないはず。俺が正式に了承していない以上、真帆ちゃんが勝手に記載するはずが無い。
「俺が入らない理由ねぇ。こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれないけど、生徒会に入ることに魅力を感じないから、かな?」
生徒会長である真帆ちゃんに対してこんなこと言うのは失礼だろう。でも、以外にも真帆ちゃんは怒っていなかった。
「あなたが意味も無くそんな理由を言うとは思えないわ。詳しく教えてくれるのよね?」
「勿論。その前に入れ直すから、少し待ってて」
長くなるかもしれないので、新しくお茶を入れ直す。先程とはまた違うハーブティーを入れる。
「お待たせ。お好みで蜂蜜入れてね」
「ありがとう。それで」
「うん。さっきは興味が無いって言ったけど、正確には他のことに興味があるってほうが正しいかな。それをしたいから生徒会に入らないんだよ」
「他のこと? 何かしら?」
「俺は、誰かを支えるのが好きなの。勿論引っ張っていくのもいやじゃ無いけど、そういう意味では図書部の理念は好きだよ」
「後々清涼院を継ぐのに?」
俺がこの話をしなかった理由はそこ。社長である母さんは気にしていないが、周りはそうではない。そんな俺が皆を引っ張る気がない、というのは色々まずいのである。その隠れ蓑として、「人材発掘」と称して色々な手伝いをしているというのも嘘では無い。
「だからこそ、真帆ちゃんのお手伝いは楽しいよ。優秀な人材のサポートほどやり甲斐があるからね」
「その割に手伝ってくれないみたいだけど?」
それを言われると弱い。
「ふふふ、冗談よ。でも、あなたの言葉が聞けて良かったわ。輝夜ってば、なかなか本音を言ってくれないんだもの」
「謎多き男はいい男なの。真帆ちゃん、夕飯食べてないでしょ? もう遅いから、スープでも用意するよ」
この寮は朝夜とご飯が出てくるが、流石にこんなに遅いときはキャンセルを入れる。流石にこの時間に夕飯をそのまま食べるのはあまり良くないので、あまり支障の無いものを作らなければ。
と、下ごしらえを終え、具材を炒めていると、真帆ちゃんがこっちに来た。
「ん? 真帆ちゃん、手伝ってくれるの?」
「……私が料理をしたことがないことを知ってるでしょ?」
この寮はご飯がでるので、料理をしなくても大丈夫である。アプリオなどでも、栄養重視のメニューが充実しているので、外食でもかまわないのである。
とはいえ、料理をできるようになりたいと常々思っているのは、真帆ちゃんも女の子。
「ごめんごめん。じゃあ、良い機会だし、やってみる? 面倒な作業はほとんど終わってるから、そんなに難しくないよ」
「ちょ、ちょっと!?」
予備のエプロンをちょちょいと着させて、位置を入れ替わる。
「もうたまねぎは入れたから、透明になるまで炒めて」
「え、えぇ……」
料理といっても、へらを動かすだけなので、まぁ、失敗も無いだろう。すこし、腕の動きはぎこちないけど。
「そんなに固くならない。全体に火が通るように。こうやって」
お約束というか、幼馴染み以外にやったら通報ものの、後ろからテニス方式で動かし方を教える。
「……わざとでしょ」
「うん、わざと」
まぁ役得というやつである。真帆ちゃんもあきらめてくれたらしく、素直にタマネギを炒める。
「で、透明になったら、トマトをつぶして入れて、でブイヨンとかをいれる、と」
「ほとんど輝夜がやっているとはいえ、簡単に作れちゃうのね」
「今日のはミネストローネだし、スープ系は材料刻んで、ブイヨンにぶち込めばそれでOKだからね。美味しく作るには、慣れが必要だけど」
何を入れるだとか、味を調節するだとか腕の見せ所だが、美味しいスープを作るのはそんなに難しくない。初心者にも優しい、ついでに胃にも優しい料理である。
「後は野菜が柔らかくなるまで待つだけだから、とりあえずここまで」
普段ならこの時間に他のことをするが、夜食だしせいぜいパンを二、三枚焼くだけである。オーブンは暖めてあるので時間はかからないので、とりあえず休憩だ。
エプロンを解いていると、真帆ちゃんは台所をキョロキョロと眺めていた。
「どうしたの?」
「調理器具もそうだけど、お茶の種類はすごいのね」
そう言われて改めて周りを見てみると、確かにお茶の種類は多い。さっき母さんにもチラリと言われたが、会社のお茶に関する催しなどは俺も参加させてもらうことが多い。それも伴い、多くの茶葉を手に入れることができる。生徒会室に常備しているのは、紅茶十種類ほどなので、壁一面に置かれているこの光景は確かに驚くだろう。
「紅茶に、緑茶、ハーブティー、中国茶もあるのね。それにコーヒーもあるのね」
「生徒会室に置いてるのは紅茶だけだしね。ハーブティーなんかは、随時持って行っている形だし」
ハーブティーのレシピは大量で、俺なんかは毎朝ブレンドして持っていくのが好きなので生徒会室には常備していない。真帆ちゃんや多岐川さんは、いつも夜遅くまで仕事をしているので、大抵リラックスできるハーブティーを持っていくことが多いけど。
「これだけの中から、よく的確なお茶を出せるわね。分からなくなったりはしないの?」
「基本になるレシピはあるからね。あとは、時々の気分かな」
「それでもよ。私からすれば、そのレシピを把握するだけでも大仕事になりそうだわ」
確かにレシピの量は膨大である。基本のものでも多いが、オリジナルのレシピも合わせれば種類は無限に存在する。
「ちょっと見てみる? いくつか簡単にできるレシピなら真帆ちゃんでもできると思うし」
「じゃあ見せてもらおうかしら。ふふ、なんだか楽しみだわ」
レシピ自体はキッチンにある。引き出しから取り出すと、横のテーブルに置く。ファイル三冊。
「す、すごい量ね」
「二冊は俺だけじゃ無くて、会社の人のレシピもあるよ。一冊は俺が考えた、というか、アレンジしたレシピ。真帆ちゃんたちに飲んでもらってるのはここに入ってるやつが多いかな」
「道理でお店にいって飲むハーブティーと違う味なのね」
「そういうこと。ウチの系列のお店だと出してることもあるけどね。えーっと、これがこの間入れたのと、あとおすすめのやつを」
ファイルの中から五枚ほど取りだして、真帆ちゃんに渡す。リラックスできるのと、お肌に良いものが中心だ。
「へぇ……、面白いものね。それに色々な効能もあるのね」
「流石に漢方は専門じゃないから薬用とまではいかないけど、ホッとするのには最適だよ。お店で買うのに参考にしてね。入れ方自体はそんなに難しくないから」
「えぇ、そうさせてもらうわ。これはもらってしまっても良いの?」
「これは原本というか、殴り書きの部分とかもあるから、データにしたやつを送るよ」
見ながら買い物をするのなら、携帯に送った方が使いやすいだろう。
レシピについて話していると、ちょうど良く時間が過ぎる。そろそろいい頃合いあろう。
「さて、そろそろミネストローネもいい頃かな」
鍋の蓋を開けると、ふわりとトマトの良い香りが広がる。小皿にとって、真帆ちゃんに渡す。
「はい味見。この段階での感想を聞かせてね」
「ありがと。……美味しいわ。これだけでも十分なように感じるのだけれど……」
たしかに、十分美味しい出来だ。これで完成にしても問題はない。
「たしかに十分美味しいけど、もう少し味にまとまりを出すには」
そう言って塩と胡椒を少し入れる。それを馴染ませてから、再度真帆ちゃんに味見をしてもらう。それを食べた真帆ちゃんは驚いたように目を開く。
「美味しい……。さっきよりも全体が引き締まったというか……」
どうやら上手く言葉に出来ないようだが、微妙な差なので仕方ない。
「日本料理みたいに、ひとつまみでガラリと変わるわけじゃないけど、最後の調節で味が変わるんだ。これは数をこなして感覚をつかむしか無いから練習あるのみだね」
とりあえず完成したミネストローネ。二人分よそってリビングに持っていってもらう。その間に焼いてあったパンを持っていく。
「じゃあ、真帆ちゃんお手製のミネストローネ、いただきます」
「もぅ……、いただきます」
少しからかいつつ少し遅い夜食を食べる。時間も時間なので大きな声では話さないが、先程の収録の話などをする。真帆ちゃんも多岐川さんのおもしろ話などを暴露してくれた。ふむ、良いネタ入手。
話しながら食べていると、あっという間に時間は過ぎる。食器を洗い終えた頃には日をまたぐ頃合になっていた。
「っと、ごめんね。こんな遅くまで付き合わせちゃって」
「そんなことないわ。とても楽しかったもの。またお邪魔しても良いかしら?」
「もちろん。大歓迎だ。ご飯はともかく、お茶くらいならいつでも。今度は紅茶を入れてあげる。時間によってはケーキとセットで」
あら魅力的なお誘いね、と微笑む真帆ちゃんは、それ以上に魅力的だ。さすがに恥ずかしすぎるので口にはしないが。
「? どうしたの?」
「んや、何でもないよ。それじゃあお休みなさい」
「えぇ。お休みなさい輝夜」
そうして真帆ちゃんが部屋に戻るのを見送り、俺も休むことにするのだった。
芹沢さんを送って家に入ろうと思ったら、いつの間にか会長が出現してました。会長恐るべし。
次回からは本当に本筋に戻ります。戻るはずです。