つぐみちゃんは大変動かしやすいキャラ。
おい、筧。しゃべれよ。
「ちゃーす」
今日の昼休みが用事もなく、昨日のラブレターの顛末を見届けるために図書部にお邪魔することにした。会長には先日連絡済みなので、追いかけられる心配もない。
「あ、清涼院君。こんにちは!」
「昨日は色々手を回してくれてありがとう。助かった」
入ると同時に白崎さんと桜庭さんに歓迎を受ける。見ると図書部の面子の他に鈴木さんもいる。
「今日の放送を聞きにね。お昼ご一緒しても良いかな?」
「もちろんだよ! どうぞどうぞ」
白崎さんに引っ張られて席につく。今日ははじめから図書部で昼食を食べるつもりだったからお弁当だ。
「お、清涼院も手作り? もしかして彼女の手作り?」
俺の弁当をみて高峰がそんなことを聞いている。ちらりと横を見ると女性陣が興味津々のご様子。
「残念ながら俺は独り身。これは俺の自作だよ」
「先輩、料理も出来るんですね。……私の嫁になってくれませんか?」
なぜ嫁。
「清涼院君、早く見せて?」
「そんなにたいしたもんじゃないよ?」
ハーブティーのブレンドの傍らで作っているので、簡単なものが多い。春の山菜や煮物が中心だ。地味にならないように、錦糸卵なども散りばめているので、なかなかに春らしい。
「わぁ……とっても美味しそう」
「彩りも鮮やかだし、春らしいな」
「桜は散っちゃってるけど、まぁ、お弁当くらいは春らしくと思ってね」
「それに比べてお前等ときたら。少しは見習え」
「それは桜庭にそのまま返そう」
桜庭さん→おにぎり一個・サラダ・ほうれん草の白和え・カップ味噌汁
鈴木さん→サンドウィッチ(メンチカツ)・ホットドッグ・野菜ジュース
高峰→おろしチキンカツ弁当・缶コーヒー二本
筧→おにぎり(梅と昆布)・ミネラルウォーター
桜庭さん以外は不健康である。とくに後半二人。
「まぁ、男の昼飯なんてこんなもんでしょ。清涼院が異常なだけ」
「それは否定しないけど。あ、後でお茶も入れてあげる。図書部ブレンド作ってきたから」
「ま、まさか、都市伝説にある清涼院先輩のハーブティーですか! 本当にあったなんて……」
鈴木さんが、芹沢さんみたいなことを言っていた。あの話本当だったのか。
「清涼院君。図書部ブレンドって?」
「図書部をコンセプトにしたハーブティーだよ。レシピも置いてくから、気に入ったらまた飲んでみるといいよ」
ちなみに図書部らしく、ホッとできるものをコンセプトにしている。筧にも気に入ってもらえるだろう。
その後、昨日のゴミ拾い選手権の表彰式など行っていると、スピーカーから軽やかな音楽が流れてくる。
「お、始まるな」
『はーい、皆さんこんにちは。四月二十一日、ランチタイム・アベニューの時間です。これからの約三十分、私、パーソナリティーの芹沢水結と一緒にお散歩しましょう』
「昨日話したときとは、随分声が違うね」
「プロの声優だからね。このラジオでは明るめなイメージで声を出してるらしいよ」
「お昼のお散歩って言ってましたしね。なんだか元気になるような声ですよね」
芹沢さんの声にはそんな魅力がある。一年生ながら、お昼の三十分を任されているのも納得である。
『今日は本当に良い天気ですね。スタジオから外が見えるんですけど、なんだか今にでもお出かけしたくなってきました。え? ちゃんと仕事しろって? あはは、作家さんにおこられちゃいました。新入生の皆さん、私はこのままお仕事ですけど、皆さんはお外に出てお散歩してみてはいかがですか? もしかしたら、素敵な出会いがあるかもしれませんよ?』
「あはは、ないない」
「白崎……、お前は一人暮らしのOLか」
「あはは……、ごめんね?」
まぁ、一人暮らしを一年も過ごせば独り言も多くなる。とくに、テレビへのツッコミとかは無意識のうちにしてしまう。
『そういえば、昨日お散歩してたら、ありましたよ、素敵な出会い。事務所は大丈夫かって? 残念ながら素敵な男性はいませんでしたよ。実はカフェテリアの近くで素敵な可愛らしいシールを拾ったんです。購買で人気のリンゴのシールです。私も愛しの君にアタックするときに使おっかな-? え? 学生課にちゃんと届けろって? でもでも、一枚だけですよ? ……分かりました。では、心当たりのある方は、放送部まで是非取りに来て下さい。もしかしたら、その人にとって、とても大切なものかもしれませんから』
どうやら芹沢さんは、上手くまとめてくれたようだ。これなら名乗り出やすいのではないだろうか。
「さて、どうなるかな?」
「来てくれるといいな……」
これからは来てくれるのを祈るばかりである。
そして放課後。授業を終えて図書部の部室に向かっていると、気の弱そうな女の子が図書室の中でキョロキョロしていた。
「ちょっと失礼。君、もしかして図書部の部室を探してるのかな?」
「きゃっ。あ、ごめんなさい……」
いきなり話しかけたため、女の子は肩を跳ねさせて驚いてしまった。しかし、どうやらその通りであったらしく、弱々しく首を縦にふる。
「じゃあ、君が林檎のシールの持ち主なんだね?」
「え、えっと、その」
まさかこんなところで言われるとは思っていなかったのか、女の子はワタワタと慌てだす。
「あーごめんごめん。こんな所でいうことじゃないか。一応俺もその場に居合わせた当事者だったものだから。詳しい話は図書部でしよう。案内するよ」
「あ、は、はい。ありがとうございます……」
女の子を図書部に案内して部室の前までいくと、なにやら中が騒がしい。どうやら連絡はいっているようだ。
「失礼するよ。白崎さん。例の女の子連れてきたよ」
「あ、清涼院くん。じゃあ、あなたが」
「はい……」
「じゃあ、これが手紙です。確認して下さい」
女の子は手紙を確認すると、そうですと頷く。女の子は白崎さんたちにお礼を言うと、部室を出て行った。
「……あの子、なんだか落ち込んでたけど」
「そうだな。でも、私たちにはここまでしか出来ないぞ?」
「うん。でも……」
やはり、白崎さんは納得していなかった。しかし、これ以上踏み込むべきか悩んでいるらしく、もじもじしていた。
「じゃあ、俺は失礼するよ。流石に会長に怒られちゃうからね」
「あ、うん。ありがとう、清涼院くん。私たちに協力してくれて」
白崎さんは立ち上がって頭を下げた。白崎さんは当たり前のことと思っているようだが、それが白崎さんの良いところなのだろう。
「こちらこそ楽しかったよ。またね図書部のみんな」
部室を出ると、俺はある人物を探してあたりを見渡す。奥の目立たないテーブルに行くと、探していた子、先程の女の子が座っていた。ただ、ラブレターを持ちながらうつむいていたが。
「大丈夫?」
「あ、清涼院さん……」
女の子は目元を拭うと、頭を下げてくれた。女の子に許可を取ると隣に座る。
「やっぱり、余計なことをしちゃったかな?」
「……お気づきだったんですか?」
少々不躾だとは思ったが、ストレートに聞くと、女の子はクスリと笑いながらそう言ってきた。
「もしかして、くらいのだったけどね。こちらこそごめん。失礼なことをしてしまった」
俺たちのしてしまったことは、結果的にあまりいいことではなかったかもしれない。この子にとっては辛いことを思い出させてしまったのだから。
「いえ。私も少し後悔していたので……。それに、私にとって大切なものでしたから」
どうやら、芹沢さんの言葉が胸に来たらしい。
「そっか。……よければ、お茶でもごちそうするよ。ついでに愚痴も聞いてあげる」
「……でも」
「相手が男だから言いにくいかもしれないけど、話せばすっきりするよ。図書部になら白崎さんたちもいるだろうし」
はじめは悩んでいたものの、やはり誰かに話したかったのか、女の子は小さく頷いたのだった。
Another side 白崎
女の子と清涼院くんが出て行って十分が経つと、男の子がやってきた。いやな予感がしたけど、まさにその予感は的中。その男の子は、女の子が出て行ったことを聞や否や、飛び出していってしまった。
「みんな、女の子を探しに行こうよ」
私がそう言うと。玉藻ちゃんが困ったような表情をしてしまった。
「落ち着け白崎。この学園で連絡先も知らない人間を探せるか」
「でも、見つからないかもしれないけど、探すことは出来るよ」
出来ないからといって、初めから何もしない、だなんてことしたくない。
「私はあきらめたくないよ。ううん。こういうときに探す自分になりたくて活動を始めたの」
他の人には理解されないかもしれない。面倒だと、無駄だと、一蹴されるかもしれない。それでも、探したい。
「探してみるか」
「言われるまでもない」
「はいよー」
筧君を皮切りに、玉藻ちゃんと高峰くんも頷いてくれた。
「えーと……」
「鈴木さんはここで待ってて」
流石に鈴木さんにまで私のわがままに付き合わせるわけにはいかない。
そう思ったのだけれど、鈴木さんは首を横にふった。
「ご冗談を。不肖、鈴木佳奈。苗字は普通で胸もアレですが、ここで仮入部します」
「鈴木さん……」
「姉を助けるのは、妹として当然のことです!」
「ありがとう!」
「時間が惜しい、さっさと探そう」
嬉しさのあまり鈴木さんに抱きつきそうになってしまったけど、玉藻ちゃんの言葉を聞いて落ち着くことにした。あぶないあぶない。
「行き先に心当たりはあるのか?」
「部屋を出て行くときに、泣いたらおなかがすいたと言っていた。とりあえず学食や購買を中心に探してみよう。そのとき聞き込みもしつつ、だな」
筧君の問いかけに、玉藻ちゃんが簡単な方針を説明してくれた。やはり、玉藻ちゃんはとても頼りになる。
行き先がきまり、部室を出る私たち。慌てるあまり、小太刀さんに怒られてしまったが、このときの私たちには周りが見えていなかったのだと思う。
三時間後。結局女の子を見つけられず、がっくりしていた男の子ととりあえず連絡先だけ交換して別れた後、部室に向かう私たち。
「……」
「……」
「……」
「……」
「ま、まあ、こういう日もありますって」
私を含め皆肩を落としていると、沈黙に耐えられなかった鈴木さんが口を開いた。
「そうだな。やれるだけのことはやったよ」
「でも、男の子、残念そうだったね」
見つけられなかったのだ。男の子は肩を落としてしまっていた。
「見つからない可能性の方が高いことは、相手も承知してくれていた。それに、感謝もしてくれていたじゃないか」
「うん、そうだね」
確かに、男の子は去り際に頭を下げてお礼を言ってくれた。でも、だからこそ申し訳ない気持ちで一杯だ。
私が落ち込んでいると、高峰くんがいつもより明るい口調で口を開いた。
「いいんじゃねえの、これはこれで。いつもみたいに、ゲーセンとかファミレスでぶらぶらしてるよりも楽しかったし」
「私も、すごく楽しかったですよ」
高峰くんも鈴木さんも、私を励ましてくれている。うん、いつまでも落ち込んでちゃダメだね。
「ありがとう、みんな」
私のわがままに付き合ってくれたこと。そして、私のことを慰めてくれたこと。とても嬉しい。
「さ、今日はもう帰ろう。結構遅くなってしまったしな」
「うん、そうだね。荷物も部室に置きっ放しだし。ギザ様も置いて行っちゃったしね」
そして、部室につくと、消したと思っていた電気がついている。
「ん? 電気消し忘れてたのか。いかんな。また、小太刀に怒られてしまう」
「あれー? 確かに消したと思うんですけど」
玉藻ちゃんと鈴木さんが首をかしげながら扉を開けて入ろうとすると、入り口で立ち止まる。思わずぶつかりそうになり、慌てて止まり、部屋の中を覗くと、私も中にいる人を見て固まってしまった。
中にいるのは二人。
一人は清涼院くん。清涼院くんがいるのはまだ分かる。清涼院くんも、今回協力してくれた人なのだから、もしかして心配して戻ってきてくれたのかもしれない。
ただ、もう一人が、ずっと探し回っていた女の子だった。彼女を見た瞬間、今までの疲れが一気に押し寄せてきたような気がしたのだった。
Another side End