Another side End
Another side 真帆
――4月23日14時ごろ。
「ふぅ、何とか終わりそうね」
いきなり舞い込んだ急を要する案件をどうにか終わらせることが出来た。葵は授業があるから手伝ってもらえなかったけど、輝夜が珍しく手伝ってくれた。
「そっちはどう?」
「こっちもOK。後は相手方に送れば大丈夫。残り手伝うよ」
「じゃあこっちのをお願い」
輝夜は渡した資料を一瞥すると、すぐに仕事に取りかかる。そのスピードは私では到底追いつかないほどだ。
と、こちらもいつまでも眺めている訳にはいかない。輝夜の仕事ぶりに喚起されたのか、私の処理スピードも高くなっていたので、残った仕事もさほど時間が経たぬ内に終了した。
「ふぅ……」
「お疲れ様。はい、紅茶。お昼の前だけど、一服淹れて」
一足早く仕事を終えていた輝夜が、紅茶を淹れてきてくれた。
「ありがとう。あぁでも、輝夜は午後の講義は大丈夫? 私は休みだけど」
学園の中だが、今は部屋には私と輝夜しかいない。元々休みだったはずの所に舞い込んだ仕事が終わったのだ。今くらい気を楽にしてもいいだろう。
「俺もだよ。今日は午後は空けといたから、この後はフリー。お茶飲んだらアプリオででも食べようか」
そういうと輝夜はソファの方に座った。私も輝夜の前に移動する。
「それにしても助かったわ。まさか、こんな時に限って、他のメンバーが捕まらないとは思わなかったもの。輝夜が来てくれなかったら、夜までかかってたわ」
「こういうときこその(仮)だよ。こういうお手伝いなら大歓迎。それに、そう言ってもらえるなら、手伝った甲斐があるってもんだよ」
相変わらず(仮)という姿勢を崩さない。そういう割に、こうして手伝ってくれるのだから、怒るに怒れない。先日はつい追いかけっこをしてしまったが、恐らく変える気はないのだろう。
「私としては葵と一緒に生徒会を盛り上げて欲しいのだけど。まぁ、葵が渋い顔をするかしらね」
「もしくはいい笑みを浮べて書類を渡してきそうだな」
あながち間違いでもなさそうなので、苦笑してしまう。とはいえ、あの子にとって、輝夜は気を許せる相手だ。一緒に働きたいとも思っているだろう。口に出すのはいつになることやら。
「さ、お腹も空いたし、アプリオに行きましょうか。手伝ってくれたお礼に奢るわよ」
「では、ご相伴にあずかりますか。嬉野さんのスペシャルスマイルもセットでOK?」
「NOよ。それに、あの子、私がいたら近寄ってこないわよ」
そんなバカなことを話しつつ、アプリオに向かう。中途半端な時間だからか、お昼には大混雑しているここも、人がまばらにしかいない。昼とは異なる靜かな空気も私は好きだ。
すぐに料理は届き、随分と遅い昼食を取る。久しぶりの休みだ。仕事の話ではなく、輝夜の話を聞くことにした。
それにしても、随分と手広くやっているようで、私たち生徒会では気付かないようなことも、多く知っているようだ。それに、学園外の仕事も順調らしい。昨日のアニメの話もそうだが、流石は清涼院家。芸術芸能方面に対することに関しては他の追随を許さない。珊瑚さんの手腕が素晴らしいこともそうだが、目の前の輝夜もその一端なのだろう。彼の交友関係は、バカに出来ない規模だ。
「ここに入る前から動いているとはいえ、年下とは思えないわね」
「昔は母さんにくっついていただけだけどね。それに交友関係っていっても、近い年齢の人たちだけだから、社会に影響力をもっているとかじゃないし」
「それこそ素晴らしいことよ。というか、今の段階で社会にまで影響力を持っていたら、珊瑚さんも泣くわよ」
今は影響力はなくとも、将来は違う。ここは汐見学園だ。将来国を牽引する人材を育てる場であり、その場所において、強固な繫がりがあることは大きな強みだ。勿論輝夜は承知しているだろう。
「っと、失礼」
食事も終わり、コーヒーを飲んで一休みしていると、輝夜が携帯をとって席を立つ。どうやら電話がきたようだ。少し離れて二、三話したかと思うと、すぐに戻ってきた。表情を見ると、少し困ったような顔をしていた。
「どうかしたの? 何か急用かしら?」
「用事ではないんだけど……、知り合いが熱出しちゃったみたいで、もしかしたら寝込んでるかもしれないらしいんだ。それで、様子を見てもらいたいっていわれて」
「それは大変ね。私のことは気にしないで行ってあげて」
熱が出たときに一人というのは心細いものだ。寮暮らしならではの悩みだが、輝夜が看病に行くのなら安心だ。
「いや、できれば真帆ちゃんにも来て欲しいんだよ」
「私に? 別にかまわないけれど……」
聞けば、その相手は一年生の女の子らしい。なるほど。それは輝夜一人には任せられない。
「じゃあまずはその子のアパートに行きましょうか。その子はあなたが来るのを知ってるの?」
アプリオを出て、その子のいる神無月寮に向かう。
「いや、メールをしても返信がないらしい。代わりに寮長さんに連絡して、鍵は渡してもらえるようにしておいてくれるみたい」
それなら、私が行ったほうが確実だろう。寮長さんとしても、女の子の部屋に男を入れるのは戸惑うだろうし。
寮に到着して寮長室に行くと、しっかりと連絡がされていたおかげで、すんなりと鍵は受け取れた。そのまま7階に向かい、701号室のチャイムを鳴らす。が、応答はない。念のためもう一度鳴らしてみたが反応はなかった。
「寝ているとも考えられるけど……」
「倒れている可能性もあるね。とりあえず一度入ろう。もし寝ていたら寮長さんにその旨を話してお願いすればいいし」
とりあえず預かった鍵で扉を開ける。すると、玄関には無造作に脱ぎ捨てられた靴と放り投げられた鞄。どうやら、相当に体が重かったようだ。
「どうやら来て正解だったみたいね」
「うん。悪いけど、真帆ちゃんが先に入って。御園さんも男の俺より、女の子の真帆ちゃんの方がまだ驚かないだろうし」
「分かったわ」
輝夜に言われたとおりに部屋に入ると、勝手に入られたことに警戒したようにこちらを見つめる女子生徒――御園千莉さんがいた。
「っ!? 会長? それに、清涼院さん?」
入ってきたのが生徒会長である私と、面識がある輝夜だと気付いた彼女は、とりあえず警戒を緩めてくれた。
「無断で入っちゃってごめんね。ただ、御園さんが体調が悪いから様子を見てきてくれって依頼を受けてね」
「そんな……私はそんなこと聞いて……」
御園さんは起き上がってこちらに来ようとしたが、やはり体調が良くないようで、咳き込んでしまう。
「まずは横に、って、まだ着替えてないのね。まずはパジャマに着替えなさい? 輝夜はとりあえず寝室を出て行きなさい」
「了解」
輝夜を部屋から出した後、御園さんを着替えさせる。着替えるのもおっくうだったのか、ブレザーも着たまま布団に入っていたようだ。彼女も苦しかったのか、素直に着替えてくれた。
そのまま彼女を横にさせて、おでこに手を当てる。やはり、熱は高い。
「熱は測った?」
そう聞いたが、やはり熱は測っていないようだ。周りには食べかけの菓子パンが一つに、ペットボトルの水があるだけだ。恐らく、食材も満足にないのだろう。
「輝夜、ちょっと来てちょうだい」
輝夜を呼ぶと、輝夜は湯気の立つマグカップを持ってきた。
「声楽家だから、蜂蜜くらいはあると思ってね。はい、御園さん。辛いかもしれないけど、とりあえず何か口にして」
輝夜は慣れた手つきで御園さんの状態を持ち上げると、そのまま蜂蜜湯を飲ませる。ほどよく温かい飲み物は、食欲がない彼女も受け付けるようで、コクコクと少しずつ飲んでいた。
「……輝夜、あなたが御園さんのことを見ていてちょうだい。何か必要な物はある?」
「とりあえず、風邪薬がないからそれを。。近くに薬局があったはずだから、そこに行ってきて。もし、そこに食材なんかが売ってたら、なにか消化によさそうなものを。とりあえずメールでリストを送るから。まずは薬を買ってきて」
「分かったわ。じゃあ、御園さんのことはよろしくね」
輝夜に言われたとおり、通りに出たところにある薬局で薬を買う。あいにくレトルトや冷凍食品しかなかったので食材は変えなかったが、いくつかの調味料を買い、急いで寮へ戻る。
そして、7階に着くと、御園さんの部屋の前で5人の見覚えのある人たちがいた。
「筧君?」
なぜか図書部のメンバーが勢揃いしていたのだった。
Another side End
「AUGUST Summer Vacation 2014 in AKIHABARA」行ってきました。
取り敢えず玉藻姫の艶姿を愛でています。
小冊子が会長のショートストーリーだったので感激。帰りの飛行機で読みました。
番外編を書くかもしれないので、よろしくお願いします。
会長への愛はとまらない