真帆ちゃんが出て行った後、俺は御園さんに蜂蜜湯のおかわりを渡していた。どうやら、これなら飲めるようで、もう少し飲みたいと言ってくれた。本当なら何か食べさせたいのだが、米くらいしか満足にない。
先程のように飲ませてあげると、多少は落ち着いたのか、少しだが笑みを浮べてくれた。
「ありがとうございます……、今度は蜂蜜レモンなんですね」
「台所にレモン汁があったからね。さっきは急いで作ったから見つけられなかったけど、流石は声楽家だ。さ、とりあえずは横になって。ぬれタオル持ってくるから」
そういって水を汲みにいこうとしたのだが、御園さんに腕を捕まれてしまった。御園さんも無意識だったらしく、すぐに手を離してしまった。
やはり1人は心細かったのだろう。とりあえず、タオルは額の汗を拭うのに使うことにして、真帆ちゃんが来るまではここにいることにした。代わりにというわけではないが、俺の手を額に乗せる。
「あ……」
「とりあえずはこれで我慢してね。それを冷ますために氷触ってたから、少しは冷たいはずだから」
冷凍庫の中に氷はあったので、それを使って蜂蜜湯の温度を下げていたのだ。取り敢えずの代用にはなったようで、御園さんは気持ちよさそうに息をはいていた。
「冷たい……気持ちいいです」
「なら良かった。取り敢えず真帆ちゃ、会長が帰ってくるまではここにいるから、目を閉じてて」
そういうと、御園さんは目を閉じてすぐに寝息をたてる。温かい物をのんで、少しは落ち着いたのだろう。
その後少ししてチャイムが鳴る。はて、真帆ちゃんには鍵を預けたのだが。少しすると、扉が開いた音がする。が、足音はたくさん聞こえてくる。新たな増援か?
「輝螺、取り敢えず薬とお店にあった物は買ってきたわ。それと、白崎さんたちがいたから、入ってもらったのだけど」
真帆ちゃんの後ろには白崎さんに桜庭さん、それに鈴木さんの図書部の女の子たちがいた。とりあえず、御園さんは真帆ちゃんに任せて、俺は白崎さんの相手をすることにする。
「それにしても、どうしたの? 確かに調査は頼まれてたかもしれないけど」
流石にがさ入れはしないとは思っていたけど、案外にアグレッシブだったようだ。
「そ、その、お昼休みに音楽棟にいったら、御園さんが相対したって聞いて、それで、1人じゃ心細いと思って」
白崎さんにとっても、少々後ろめたいところがあったのか、一生懸命説明をしてくれる。とはいっても、こちらとしては怒るつもりはない。
「落ち着いて。別に怒るつもりはないから。白崎さんたちがいるってことは、筧たちもいるの?」
「あぁ。外で待ってもらっている」
「なら、食材でも買ってきてもらうか」
人手が増えたことはありがたい。玄関にいくと筧と高峰にリストとお金を渡す。
「じゃあ頼んだ」
「了解」
「薬とかはいいんだな?」
「あぁ。さっき会長に頼んだしね。あぁ、あと氷とかもあったら頼む」
筧たちを送り出し、部屋に戻る。すると、真帆ちゃんに変わって白崎さんが御園さんの看病をしていた。
「白崎さん。御園さん、どんな様子?」
「うん。薬とかはまだだからちょっと寝苦しそうかな」
「今からおかゆ作るから、取り敢えず筧たちが帰ってくるまで寝かせてあげようか」
「材料はあるのか?」
「さっき見たときお米はあったからね。さっき会長にいくらか買ってきてもらったし、おかゆくらいなら作れる」
そういって取り敢えずキッチンに移動する。とは行っても病人相手のご飯だから、栄養重視だ。作るといっても塩味のお粥。一度準備をしたらしばらく時間は空く。
「それにしても、白崎さん。随分思い切ったことをしたね」
「うぅ……。で、でも、清涼院君と望月さんがいなかったときのことを考えると……」
「全く……、今回は緊急を要することだからいいけど、少し間違えたら迷惑行為になるんだから気をつけなさい?」
真帆ちゃんに言われて縮こまる白崎さん。真帆ちゃんもそれ以上攻める気はないらしく、そこで引き下がる。
「でも、どうしてお二人は御園さんが風邪をひいてるってわかったんですか?」
今度は鈴木さんが質問してくる。確かに俺たちがここにいる方が不思議だろう。
「ある人に電話で頼まれてね。会長は、男一人で来るのはまずいから手伝ってもらった。それに、御園さんとは知らない関係ではないから、そこまで警戒されないと思ったしね」
話しつつ淹れたお茶を皆に渡す。
「お、すまないな」
「ありがとう。ひとまず休憩しましょうか」
「白崎さんも一端こっちに来たら?」
「うん。じゃあ、いただこうかな、って、あれ?」
白崎さんがこっちに来ようと立ち上がろうとしたが、立ち上がれなかった。
「ん? どうしたんだ白崎」
「えっとね、よく眠れるようにって手を握ってたんだけど、離してくれなくて……」
白崎さんの手元を見てみると、御園さんにしっかりと手を握られていた。
「あらら、それじゃあ白崎さんはそこで待機。お茶は持っていってあげるから」
ここまで頼られているのだ。離してしまうのは心苦しい。真帆ちゃんも桜庭さんも同意のようで、クスクスして白崎さんを助けるつもりはなさそうだ。
「うー、意地悪」
そういいつつ離れる気がない白崎さん。やっぱり優しい子だ。