「それでは、松本君の優勝、および1年生部員の活躍を祝して、かんぱーい!」
顧問の諸岡がコップを掲げ、相撲部員全員がそれに続く。
-かんぱーいっ!-
焼き肉店『スタミナ次郎』の一角。ダチ高相撲部はこの日、諸岡の計らいで特別に
夕食会が開かれていた。
蛍と柚子香が全国の視察に行ってる間、残りの部員たちは高校相撲、関東新人戦に
参加していた。
昨年は国宝『草薙』の鮮烈なデビューが話題となった大会、今年は特にずば抜けた選手不在の中
大太刀の1年生は大いに健闘してみせた。
中でもやや組み合わせに恵まれた感のあった松本は、決勝で栄大付属の大型新人、滝沢を破り
見事優勝をゲットしたのだった。
他、大峰と陽川も決勝トーナメント進出を果たす。幸田はさすがに3回戦までだったが
それでも公式戦初出場で2勝をもぎ取り、大いに自信を付けたようだ。
そんな1年の健闘を祝して、こうして祝勝会が開かれたわけだ。
「僕も応援したかったなぁ、何にせよおめでとう、松本君。」
蛍の祝福に、記念撮影のために出した賞状をしまいながら、坊主頭の松本が答える。
「大峰と陽川の援護が効きましたからね、滝沢選手はマジ強かったッスよ。」
「準決勝で俺が勝ってりゃ、俺と松本で決勝だったんだがなぁ」
天然パーマにメガネの大峰が返す。童顔の松本と威圧感のあるおっさん顔の大峰、
大太刀の誇る巨漢二人が並んで笑う姿は壮観だ。
陽川は決勝トーナメント2回戦、大峰は準決勝で滝沢と対戦した。いずれも熱戦だったが
何せ相手は昨年の全中横綱、力及ばず敗退することになる。が、二人の得た情報と
大峰が粘りに粘り、滝沢の体力を消耗させた結果は、決勝の松本を大いに援護した。
「去年の火ノ丸さえ届かなかった優勝だからな、これでインターハイを戦う目途がついたってもんだ。」
上機嫌で桐仁が話す。もちろん滝沢はじめ、関東一円の要注意新人選手をチェックできたことも大きい。
「こっちも収穫ありましたよ、やっぱ全国はレベル高かったよー、こう、がつーん!どすーんって。」
「柚子香、熱く語るのはいいけど、もっと具体的に・・・」
堀姉妹が噛み合わない会話をする中、部長のレイナがぱんぱんと手を叩き、注目を集める。
「はいはい、時間制限ありのバイキングなんだから、みんなどんどん食べる食べる!
あ、取ったものは残さないように、別料金になるからね!」
「「はーい」」
と、その時。ダチ高の面々の前に、やたら巨大な手押しワゴンが現れる。
「いらっしゃいませ、ダチ高相撲部の皆さん!」
ワゴンを推しているのは、小太りの中年男性。エプロンには「店長」の名札。
「みなさんよく食べますから、ある程度は用意しておきました、よければこちからかどうぞ。」
恵比寿顔でワゴンを差す。その上には大皿に盛られた肉、肉、肉!脇には炊飯器が2台に
カレー鍋やモツ鍋、別の大皿には大量のスイーツ、ピッチャーにはウーロン茶が並々と揺れ
他にもパスタや唐揚げ、寿司、麺類などが山盛り積まれている。
「え・・・ちょっと待って下さい、バイキングなのに固定注文って?」
千鶴子の質問に、店長は申し訳なさそうな笑顔で返す。
「いや・・・皆さん物凄い勢いで取られますから・・・調理済みストックが無くなるんですよ。」
「え?」
「前回も前々回も、バイキングコーナーから食材がすっかり消える時間帯があったものですから
他のお客さんからクレームがありまして・・・」
あ、という顔の後、全員が桐仁に冷たい目を向ける。そう、過去2回の来店で桐仁は
「食いトレ」と評して大量の肉をかき集めてきたのだが・・・棚を空にしたのは流石にまずかったようだ。
「・・・すいません」
頭を下げる桐仁に営業スマイルで返す店長。
「いえいえ、今回は電話予約があったものですから、あらかじめ多めに用意させていただいたんですよ
皆さんならこのくらい余裕でしょう。」
「お気遣い感謝します。さぁみんな、有難く頂こう!」
気まずい空気を振り払うべく明るく言う桐仁。その裏には食材の量に対する余裕もあった。
(まぁこの量なら余裕だろう、松本と大峰がいれば追加がいるくらいだな。)
巨漢の松本と大峰は見た目通りに大食漢だ。部内のちゃんこでも、この二人の食事量は
際立っていた。
そんな余裕を持って店長にこう返す桐仁。
「これ、食べ残したらペナルティーで別料金払いますよ。」
「いえいえ、こちらが用意した物なのですから、ご無理はなさらずに。」
「あ、いえ、食べるのも稽古ですから。残すと罰則があるほうが気合入るんですよ。」
「・・・そうですか、ではそのように。」
そう言って去っていく店長。しかしその顔から営業スマイルは消え、野獣の眼光が
見えない方向で光っていた。
(勝った!勝ったぞダチ高相撲部、気付いているか?ワゴンの上に『野菜』が無い事に!
肉は脂の多いカルビがメイン!野菜が無いとなれば脂っぽさを飲み物でごまかすしかない、
しかし飲めば飲むほど腹は膨れ、胃袋の許容量をやがては超える!今回こそ原価割れは阻止する!)
さすがに店長にも別料金を取るつもりはないが、あのワゴン全部でギリギリ彼らから
利益が出るように計算して盛り付けてある。
何せ初来店からいきなり原価割れされたダチ高、2回目に来た時は寺原とかいうOBっぽい男に
先取り分はおろか追加で原価の倍近い量を食われたのだから、この対策もむべなるかな。
一方、さっそく飯に取り組むダチ高。しかし・・・何かいつものちゃんこよりペースが遅い。
「どうした大峰、松本も、もっとガンガン行けよ。」
「体調でも悪いのか?俺らより食えてないじゃん。」
陽川と幸田が二人を心配する、蒼い顔をして返す大峰。
「いや・・・実はな、今日の祝勝会、バイキングだとは思わなくって。」
「俺たちが普通の店で食ったらすごい料金になるだろ・・・だから」
「だから?」
全員のその質問に大峰が返す。
「来る前にふたりで、剣山ラーメン食べてきたんだ・・・4杯ほど。」
「なんだとーーーっ!?」
店内で絶叫する桐仁、その頭をレイナがしばく。
「(ちょ・・・剣山ラーメンって、あの超こってり山盛りのラーメン屋だろ!それを4杯?)」
「あ、すいません辻先輩、俺5杯食いました。」
その松本の言葉に血の気が引く桐仁。改めてワゴンを見る、そびえ立つ焼き肉マウンテン。
戦力になりそうな面子を見る・・・
蛍(小さい)、陽川(筋肉質)、幸田(やせっぽち)、レイナ(女子高生)、千鶴子(女子高生2)
柚子香(女子高生3)、諸岡(中年)・・・
-これ、食べ残したらペナルティーで別料金払いますよ-
「どーすんだよこれえぇっ!」
頭を抱えて絶叫する桐仁、レイナが再度桐仁をひっぱたく。
「店内で叫ぶな!っていうかアンタが食べなさいよ、選手としての可能性追及すんでしょーが!」
他の全員がうんうんと頷く。半年前の件も合わせて完全に自滅する桐仁。
こうして、新生ダチ高最大の試練が幕を開けた。
残り時間20分、すでに死屍累々状態の男子部員。陽川と蛍はかなり頑張って食べたが
桐仁と幸田の師弟コンビはもともと食が細いらしく、たいして戦力にならないうちにダウン、
私も選手志望なんだから!と肉に突撃した柚子香だったが、しょせんは女子高生の胃袋、
肉マウンテンの1合目も踏めず撃沈。
レイナと千鶴子は「いやー、私たちは女子だから」「ねー」と傍観者モードで逃げに入っている。
ワゴンには未だ1/4ほどの食料が残っていた、優勝を祝うはずの祝勝会でまさか敗北を
喫するハメになるとは誰が予想しただろうか・・・
吐きそうな顔のまま、む、無念。と呟く桐仁の前に、緑色の救世主が現れた。
「諸岡先生?そ、その大量の野菜は一体・・・」
皿いっぱいのキャベツやサニーレタスを抱えてきた諸岡、ワゴンの際に置き、皆に即する。
「肉を焼いたら、これに巻いて食べるといい、さぁみんな!ラストスパートだよ!」
半信半疑で野菜巻きにして食べてみる面々、しかし意外に食えたりする。
野菜の優しい口当たりが、肉のしつこさをうまく包んで飲み込みを助ける。
「これ、いける!まだ食べられるよ!」
「うん、俺も。もうちょっと頑張ってみるか!」
「先生よくこんなの知ってましたね。」
「昔も昔は大食いだったからね、よく詰め込んだものだよ。」
元レスリングの強化選手だったという噂もある諸岡、彼もまた体作りで苦労した経験があったのだろう。
復活のダチ高はワゴンの山をどんどん平らにしていく。だが制限時間が迫る、間に合うか・・・?
「う~食った食った」
「ていうか食べ過ぎですよ・・・うっぷ」
「みんな今日はよく休んどけよ、消化が追い付かんぞ・・・」
夜道を引き上げる一同。最後に参戦したレイナや千鶴子は、満幅のお腹を押さえて不安げに語る。
「こりゃダイエット考えなきゃいけないわ。」
「広がった胃袋を縮める方法、考えなきゃ・・・」
〇〇●大太刀高校相撲部 - スタミナ次郎●●〇
作者は「火ノ丸相撲」ですたみな太郎の存在知りました。
今やすっかりファンですw