蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第99番 嬉しい出来事、そして・・・

 -夏、国技館-

 

「うおおおおおおーーーっ!」

「行け、行ってくれぇっ!」

「勝ってえぇぇぇっ!」

 蛍が、幸田が、松本が、千鶴子が、柚子香が、観客席から絶叫する。

「マコトーっ!決めてまぇーーっ!」

「チャンスだ!逃すなーーっ!」

「GO!GO!ゴオォォォッ!!」

 赤池が、沼田が、小林が、そして諸岡顧問が、全身を沸騰させながら檄を飛ばす。

今まさに、大太刀高校相撲部の悲願が成されようとしていた!

 

 インターハイ団体決勝戦、昨年と同じ大太刀VS栄大付属の対決は2対2のイーブンで

大将の柳沢と久我の1戦、幾多の攻防の末、ついに柳沢は『対久我、必殺の形』を完成させる。

 己の額を相手のみぞおちにめり込ませ、両ハズ(脇)を突き上げるようにして押し進む。

土俵際まで追い詰めると、柳沢は体を寄せて久我の腹の下から突き上げるようにせり上がる。

 

 個人戦を制し、今年の高校横綱となった栄大付属3年、久我北斗、国宝『七星剣』。

高校での公式戦、1年の時には金沢北の藤田に黒星を喫したのみで、2年時には名門栄大付属の

復活に心血を注ぐ意味で個人選を辞退し、団体戦のみでの出場で見事全国制覇、

今年も圧倒的な強さを誇った彼が、最後の最後でまさかの剣が峰に立たされていた。

 

 大太刀高校3年、柳沢真。

高校から相撲を始めた彼は、その体力の無さから選手の傍らマネージャーとして働いていた。

先輩の堀千鶴子から『相撲を外から見る』ことで強くなる可能性を示唆された彼は、

様々な取組みを見て、分析し実践することで、めきめきとその実力を伸ばしていった。

 かつて見た鳥取白楼の北谷のように相手を研究して対策を編み出すその相撲は、主力の抜けた

ダチ高を昨年以上の強豪校に押し上げてここまで辿り着かせる。

 

 赤池が準決勝で金沢北の大将、生島を破るも右腕を負傷し、この決勝ではここまで

控えだった柳沢が大将に抜擢された。ダチ高の秘密兵器として満を持して登場した彼が

今まさに大金星をあげて見せる-

 

「寄り切ったーーっ!」

「ウッソだろう!あの七星剣が!?」

「何者だよアイツ、なんでここまで補欠・・・」

 

 -寄り切って東、柳沢の勝ち!-

 -大太刀高校、4年ぶり2度目の全国優勝!-

 

 歓喜に渦巻くダチ高関係者。特に千鶴子は直弟子の最後の大活躍にカメラのピントを

合わせることもままならないほどに涙する。頑張った、うん、すごく頑張ったね、おめでとう、と。

 

 片腕を布で吊った赤池、ダチ高のポイントゲッターとなった巧者沼田、そして相撲を

続けることで格段に痩せて見違えるような美人になった小林が、土俵から降りた柳沢に

手荒な歓迎をする。

 共に戦った後輩の2年生、観客席で応援していた1.2年生も皆抱き合ってこの快挙を祝う。

その際では実費で応援に来ていた川人高校の喜多も思わず目を潤ませながら拍手する。

公式戦のデビュー戦同士で戦った彼が、まさかここまで強くなるなんて、凄いな、と。

 

「惜っしいよな、大峰や陽川も見に来れればよかったのに。」

「桐仁もね。生で見逃したの悔しがるだろうねぇ。」

 松本の問いにそう返す蛍。大相撲力士は夏巡業の真っ最中で、角界入りしている彼らは

今日この場には来れなかった。

 まぁ大相撲勢はそれどころでは無いのも確かだ。角界は今、横綱刃皇のまさかの爆発宣言、

「来場所優勝したら引退します」を受けて異様な空気に包まれていたから。

 

 幸田がスマホで動画とメールを陽川と大峰に送る。ほどなく届いた返信には、やはり

見に行けなかった残念さにのたうち回る二人の心境がよく表れていた。

幸田と松本、柚子香の同級生トリオがその様を想像して朗らかに笑う。

 

 蛍も桐仁に同じものを送ったが、帰って来た返信は『そうか』の一言だけだった・・・

と、思いきや、5分後に『上をいかれたな』10分後には『ああ、去年もか』

30分後には『俺も頑張らないとな』1時間後に『おめでとうって伝えてくれ』、

2時間後に来た8度目のメールに、皆のツッコミを代表して蛍が「まとめて送れ!」と返す。

 

「おーい!やったな、本当におめでとう!」

 閉会式を終え、解散したダチ高相撲部に合流する蛍たち。悲願達成の興奮冷めやらぬ彼らは

尊敬する先輩たちにいい笑顔で快挙を報告する。

「赤池、腕大丈夫か?」

「ヒビ程度やろ?いけるいける。決勝も出たかったわ。」

幸田の心配を無用だと腕を振り回して見せる赤池、当然次の瞬間には「あいたたた・・・」と

うずくまる羽目になるのだが、本当に相変わらずだ。

 

「辻先輩来てないんッスねー、俺の雄姿見せたかったのに、ざーんねん。」

そうおどけてみせる沼田だがそれもまた無理からぬ事、なんと彼は今年ここまで

公式戦無敗で来ていたのだ。あえて個人戦にはエントリーせず団体戦に集中し、

柳沢のデータと戦略に忠実に従うことで白星を量産し続けた。

「って、お前は真のデータ通りに動いただけやないかい。」

「分かってないなぁテッツー、それが出来るのが実力なんだよ、なぁ真。」

 

 その後、恒例の祝勝会INスタミナ次郎に招待される蛍たち。

早いもので、蛍たちが高3の時に入学してきた彼らももう3年、彼らもまた進路の選択を迫られる

時期に来ていた。

「ワイは親父の後ついで板前の道に入るけん。」

 そう語る赤池に残念だという空気を隠さない一同。ダチ高の燃える闘魂として戦い続けた彼だが

貧しい父子家庭という事情がある彼にとって、進学や大相撲という道を取れないのは仕方が無かった。

 

「俺は就職。で、真はもちろん帝都大学だよな。」

 沼田の言葉に一同がおおおっ!となる。日本人なら誰でも知っている学問大学の頂点。

相撲に心血を注ぎつつも成績は落とさず、むしろさらにキレッキレの頭脳のようだ。

 

「しかし・・・小林さんが今日一番の驚きだよなー・・・」

 ぼそりとこぼす蛍に、幸田や松本、千鶴子がうんうんと頷く。かつて小太りで暗い影の

あった彼女が見違えるほどの美人になってしまってるんだから。

「この一年で何があったのよ、参考にしたいから教えて。」

 柚子香が思わず詰め寄る。考えてみれば先輩のレイナや姉の千鶴子はもとより、ライバルの

檸檬や蜜柑や杏、白楼マネージャーの咲に七瀬に田中と、どうも相撲関係者の女子に

美人やグラマーが多いのは何かの呪いだろうか・・・

 

「俺達の事より、先輩方はどうすんです?三ツ橋さんも松本さんも大相撲行かないんですか?」

「せや、それそれ。大学で付け出し資格獲って大相撲行くんやろ?」

 幸田は大学進学後、またラグビーの方に戻ったこともあり、残る二人に後輩たちが

期待の目を向ける。

 

「大学と言うのは、高校とはまた違った世界だからね、彼らにもいろいろあるさ。」

 諸岡がそう蛍たちをフォローする。蛍はふと、そいうや松本君の名前を大学相撲で

聞かないことを不思議がる。彼の実力ならてっきり大きな大会で活躍して・・・

 

「ああ、僕もう相撲やってないんス。」

 その松本の言葉に一同騒然となる。彼が言うには松本家は大きな事業をいくつも手掛けている

名士の家で、彼もまた大学進学と同時に実家の帝王学を学び、政治や経営の方行に人生の舵を

切っていたらしい。

「いずれは大相撲のタニマチ(個人スポンサー)に名を連ねたいと思ってるッス、辻先輩や

角界に行くなら三ツ橋先輩も応援させて貰うッスよ。」

 

 それぞれに進路があり、その先に人生がある。今日と言う栄光の日を門出にして

若者は先に進んでいく。

 

 

「大相撲、か。」

 解散した後、蛍は一人夜道を歩きながら、その見果てぬ世界に思いを馳せる。

相撲を取る者にとって夢の舞台。しかしそこにいる自分を想像して蘇るのは、彼を苛む過去。

 

 -また全敗するかもしれない-

 -今度こそ大怪我するかもしれない-

 

 あの日の柚子香の言葉によって、相撲で怪我をしない自信は少しついたつもりだ。

相撲を始めた最初の一年で経験した棘も、今は痛みも和らいでいる。

 だが、大相撲に行くなら、再びそう言った脅威に直面するだろう、思い出すだろう。

過去の痛みを忘れて渡って行けるほど甘い世界ではない、それを承知で行くのか。

 

 秋。そんな蛍に、進路を決めるきっかけになる事件が起こる。

それは懐かしい人物からの、一本の電話が始まりだった。

 

『よう、久しぶりだなぁホタル・・・明日空いてるか?』

 

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