蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第101番 柚子香は夜に出会う。

 『令和ウォッチャー』のオープニングテロップに続き、スタジオ内がTV画面に映し出される。

「こんばんわ。今夜の令和ウォッチャーは『激動の大相撲』と題しまして、今話題の

大相撲を特集してまいります。」

 アナウンサーがそう挨拶して、本日のゲストを紹介する。

「今日のお客様は皆さんご存知、元横綱の大和国親方です。」

「どうも、大和国です。」

 

 秋場所の鬼丸の優勝以来、世間は大相撲ブームに沸きに沸いていた。TVは連日

角界の話題で特番が組まれ、有名な力士や角界関係者は引っ張りだこになっていた。

 大相撲中継を受け持つ国営放送の特番に比べると、この『令和ウォッチャー』は

民放のややユルい感じの番組なのだが、大和国の出演を取り付けたのはスタッフの

お手柄と言えよう。

 

 もっとも彼だけなら国営放送も他の民放もとっくに放映していた。だが彼を呼ぶ以上

どこか生真面目な番組になりがちなのであるが、この番組はにぎやかし役に、

思い切った共演者を用意していた。

「今日はスタジオに、華やかなお客さんをお呼びしております、こんばんわ。」

「「こんばんわー。」」

 挨拶を返したのは大和国に比べ粗末なイスに座る4人の女性、大学生くらいか。

一応は美人の部類に入るだろうが、ただどこかTV映えしないそのルックスは、

いわゆるタレントやアイドルの類では無いのが見て取れる。

 

「彼女たちは、女子相撲で活躍している選手たちです。」

その紹介に続いて、4人は短く自己紹介していく。

「全日本女子中量級横綱の宮本蜜柑(みやもと みかん)です。」

「同じく中量級の中瀬杏(なかせ あんず)です。」

「軽中量級の池西檸檬(いけにし れもん)でーす。」

「軽量級の堀柚子香(ほり ゆずか)です。」

 

「「4人合わせて『女子相撲フルーツカルテット』でーっす。」」

 

 TVの前で座って見ていた蛍が、そのリアクションにずるぅっ!と体を横倒しに滑らせる、

何をやってんの、何を。

 

 完全に名前でウケを取るべく集められた彼女たちだが、それでも女子相撲が脚光を

浴びる機会に少しでも貢献できれば、と出演をOKした。

残念ながらプロの芸能人とはほど遠い演技力に痛々しさが目立ってしまうのだが。

 

 が、相撲の取組になると彼女たちは大和国そこのけで、あーでもないこーでもないと

解説を入れまくる。リハーサルでは大和国のお言葉に頷いてればいいだけだと言われていたが

それで大人しく従う彼女たちでは無かった。せっかく女子相撲のレベルの高さをアピールする

絶好の機会なのだから。

 時折スタッフが(抑えて、少し黙って)などと小声で支持する音声が入ってしまって

いるのだが、豪傑女子4名はそれをガン無視して現役関取の相撲に注文や解説を述べていく。

 

 肝心の大和国はというと、自分の言いたいことを先取られて言われるので、逆にうんうんと

頷くだけの楽なお仕事になった。それにしても彼女たち、本当に相撲をよく知っている、と

内申唸りながら。

 

 

 番組のエンディングを見ながら、蛍はあーあ、と頭を抱える。大和国と言えば日本国民の

老若男女問わず人気No1の力士だった人物だ。その彼の発言を遮りまくっての行動に

さぞクレームが殺到するだろうなぁ、と。

 

 ちなみにこの番組の後評価は、批判が4に対し絶賛が5の割合だった。お約束の

知識とおべんちゃらしか言えないアイドル出演の特番よりもウケは良かったくらいだ。

 

「「お疲れ様でしたー。」」

 頭を抱えるスタッフ達にしれっと笑顔で挨拶する4人。そんな彼女たちに大和国が声をかける。

「大したもんだね、実に的確な分析だったよ。やはり実際に相撲を取っている人は違う。」

 伝説の横綱にお褒めの言葉を頂き、さすがに嬉々とする彼女たち。

 

「そういえば・・・」

 大和国がアゴに手を当て、首を少しひねって思案た後、口を開く。

「堀君、でしたね。君は確か大太刀高校の出だったね。」

「あ・・・はい!」

 名指しされて思わず硬直する柚子香。そういえば彼の息子の草薙関がかつて高校相撲の

インターハイでダチ高に敗れて優勝を逃していたはずだ。

その関係の話だろうと思い込んでいた彼女が聞いたのは、全く予想外の言葉だった。

 

「三ツ橋蛍君、知ってるよね。彼は大相撲に進まないのかな?」

 

 大和国にとって、彼、三ツ橋蛍がどこかに引っかかる存在だったのはどうしてだろう。

かつて自分が現役の頃『昭和の牛若丸』と呼ばれ、角界を沸かせた異端の相撲を取る

力士にどこか似ていたからだろうか。

 それとも、ウチに入門を期待されていた狩谷俊君、ケガで大相撲への道を絶たれていた

その彼とどこか相撲スタイルが似ていたからだろうか。

 あるいは、ウチの清心道(澤井璃音)が、時折彼の事を気にかけていたからだろうか。

いや、先場所優勝した鬼丸関が彼と似た体格で、変化『八艘飛び』を見せたから

ウチにもそういう相撲が出来る力士がいれば面白いと思ったのか・・・

 

 あるいは現在十両を駆け上がってきていて、やがて息子と相対するであろう

あの力士と、どこか似た目をしているからだろうか-

 

 その質問に柚子香は答えを詰まらせる。さすがに大和国は彼と自分が恋仲なことまでは

知らないだろうが、まさか今ここで伝説の相撲の神様に彼の事を聞かれるなんて。

「え・・・いえ、どうでしょう?」

 そう言って俯いて考え込む。そういえば蛍にそれを聞いたことは無かった、

ただ彼が進学を選んだのは、たぶん・・・元々大相撲を視野に入れていなかったのだろう。

辻先輩も鬼丸の怪我で角界に舵を切るまではそうだった、身の程をわきまえて夢を見なかった、

そう考えるのが妥当だ。

 

 でも、とも思う。今の蛍なら大相撲に進んでも、全く通用しないという事は無いだろう。

さすがに関取(十両以上)までは厳しいかもしれないが、それでも蛍なら国技館を

沸かせる相撲を取れる、あの日以来『ケガをしない相撲』を目指して来た彼なら

角界を渡って行けるのでは、とも思う。

 

 ただ、蛍には何かが足りない。それが何かは分からないけど。

 

「ああ、すまなかったね。立ち入ったことを聞いたようだ。」

 そう言って柚子香の思考を終わらせようとする大和国。

が、柚子香はこの大人物と蛍との繋がりを今自分が握っている事、ここでこのまま別れたら

その縁が完全に切れる事を自覚し、彼を、二人を繋ぎとめようとする。

 

「あの、一つだけ・・・」

 そう呟いた柚子香に大和国はうん?と改めて柚子香に向き直る。

「彼は、相撲にトラウマがあるんです・・・多分、怖いんでしょう。」

 

 期待はしていなかった、決して見つからない、蛍の心の奥底の棘を抜く方法、その答えを。

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