蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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これも構想時からあった話、気合入れて書きました。


第103番 道の先の宝物

「うぇ・・・や、大和国!」

「(うわ、マジか・・・)」

 倫平と焔が思わず硬直する。今、自分たちの方にまっすぐ歩いて来ているのは

まぎれもなくあの元横綱、大和国だ。

 確かにこの大きな大学相撲の会場で、親方や現役力士などが生徒をスカウトするのは

珍しい光景ではない。だがまさかここ20年の角界関係者の中でも一番の有名人が

自分達しかいないこの空間にやって来るとは・・・まさか!?

 

「下山倫平ッス!」

「葉山焔です!」

 カチコチに硬直して大和国に一礼する二人。そんな彼らを見て大和国はこう返す。

「うむ、お疲れ様。流星大もなかなか強くなったね。」

「「はいっ!」」

「頑張りたまえ。それで、ちょっとそちらの三ツ橋君に話があるのだが、いいかな?」

「あ、はい、どうぞ。」

 

 一歩引く二人の横を通過する大和国を横目で眺めつつ、『ですよねー』とため息をつく二人。

と、その大和国の後をトコトコついて行く女性が一人。あれ、どこかで見たような・・・

 

「三ツ橋君、ちょっといいかな?」

 自分に、相撲を取る理由がない事に呆然としていた蛍が、その一言で我に返る。

振り向いて視界に入ったのは、知っている顔、ついこの間TVで見た二人。

 

 堀柚子香と、『あの』大和国親方。

 

「あ・・・どうも。」

「うむ。」

 軽く会釈する両者を見て、柚子香は呆れ顔でこう語る。

「伝説の横綱と会ったっていうのに、なにその塩反応?」

「あ、いや、驚いてるよ。ただ感情の反応が追いつかないだけで・・・」

あわてて手をひらひらさせてあたふたする蛍を、大和国は構わないよ、とたしなめる。

 

「先日のTVではゆず・・・後輩がお世話になりました。」

「いや、こちらこそ有意義な時間を過ごさせてもらったよ。今日も彼女に我儘を言って

君に引き合わせてもらったんだ。」

 

 その言葉で、大和国がわざわざ蛍に話をしに来たと確信を得る。しかしどうして?

5年前、ダチ高が全国制覇した際、引き上げる通路で蛍は大和国に会っている。しかしその時は

大将の火ノ丸と話をしただけで、蛍との接点は全く無かったはずだ。

 それに、自分に一番近い大相撲の部屋は柴木山部屋だ。あそこの親方と交流のある大和国が

自分をスカウトするとはとても思えない。なら一体・・・

 

 大和国はひとつ大きく深呼吸をして、蛍の目を見てこう言い放つ、

予想外の、それでもどこかで『まさか』と思っていたその言葉を。

 

「三ツ橋君、ウチの部屋に入門する気はないかね。」

 

 呆然とした表情の蛍の後ろで、倫平と焔が拳をガツンと合わせてガッツポーズする、凄ぇ!

「・・・僕、ですか?どうして。」

その反応に、おいおい即OKだろこんなの、という顔をする2人、いや柚子香も含めて3人。

 

「理由は・・・そうだな。色々あるが、一番は・・・大相撲で活躍する君を見てみたいんだよ。」

え、という顔をする蛍に、大和国はふっ、と笑って話を続ける。

「小さい者が、大男の集う土俵で大活躍する、こんな痛快な光景を柴木山さんにだけ

独占させるのは悔しくてね。」

 

 先日の大相撲、幕内最軽量の鬼丸が並み居る大型力士を圧倒し優勝したのは記憶に新しい。

彼は蛍に第二の火ノ丸に、大和国部屋の鬼丸になれと言っているのか。

「無論本音を言えば下心もあるよ。鬼丸関対策に小兵力士がいたら助かるし、ウチに来て欲しかった

他の小兵力士の代わりになってくれれば、という思いもある。」

 聞かれたら気を悪くするような事情を包み隠さず話す大和国。こんな所も彼が皆から尊敬され

愛される大横綱である理由だ。

 

「君の相撲は狩谷君に似ている。加えて今日の最後の一番、よく受け身を取ったものだ。」

「でも、負けちゃいました、勝てないと・・・」

「無理をして勝ちに行って、ケガで全てを失う力士は大勢いる。でも君はケガの怖さを

よく分かっている、堀君に聞いた通りにね。」

 言って柚子香の方をちらりと見る親方。蛍はこの邂逅が柚子香の仕業だな、と察し、

彼女に少し非難じみた目線を向け、当の柚子香はてへっ、と舌を出して誤魔化す。

 

「光栄ですし、いい話・・・だと思います。」

目線を逸らし、下を向いてそう言った後、親方の目を見返してこう続ける。

「でも、今の僕には足りない物があります、一番大事なものが。」

 その言葉に一同が、ん?という顔をする。足りない物とは・・・?

 

「『目標』です。夢と言ってもいいかもしれません。自分は横綱も、幕内優勝も夢に

描いたことはありませんでした。」

 モチベーションといえばさらに具体的だろうか。そう、蛍には目指すものが無かったことを

ほんのついさっき思い知ったばかりだ。自分は何故相撲を取っている?ケガをする危険まで冒して。

 健康のため?体を鍛えるため?それともただの惰性で?いや、もしかすると、かつての-

 

「なんとも不思議なものだな、私は今日、それを君に提示しに来たのだよ。」

 はい?という顔をする蛍。こんな話はありえない!大相撲の伝説が、大学相撲でも埋もれてる

僕にスカウトはおろか目標まで提示しようというのだから。

 

「君は、かつて全国優勝『させてもらった』事に不満があるんだね。」

胸を射抜く親方の言葉にはっ!となる。そう、蛍の心の奥底に刺さった棘。

 -全国制覇したチームでの公式戦全敗-

 忘れようとして忘れられるものでは無い。火ノ丸や小関はもちろん、初心者だった國崎や

五條、そして肺に疾患がある桐仁すらも戦いに勝利し、優勝に貢献して勝利に酔いしれる

権利を得ていた。

 自分だけがその資格が無かった。全ての試合で黒星を喫し、ひたすらチームの足を

引っ張り続けた。それは蛍がこの先、一生引きずっていく黒い後悔。

 

「どうして・・・それを。」

 そう発して、その原因が一つしかないことに気付く。傍らにいる少女、蛍の心の闇を

汲んでくれる存在、恋人、堀柚子香。

 でもこれは許せない、個人的な心の闇を他人にバラすなんて、ましてやこんな大人物に!

瞬間、険しくなった蛍の顔を察して大和国が両手でまぁまぁ、とジェスチャーする。

「私が堀君に聞いたんだよ、いささか誘導尋問のような体でね、彼女を責めないで欲しい。」

ふぅっ、と息を吐いて怒りを収める蛍。やれやれ、という顔を作って心をなだめる。

 

「お詫びと言っては何だが、その不満を晴らす方法を教えよう。」

 その言葉に蛍は背筋に何かが走ったような衝撃を感じた。他人に何がわかる!と言うには

目の前の人物は大きすぎたから。ひょっとして、本当に?そんな方法が、あるのか・・・?

 

「君は団体戦で負け続けて、チームの足を引っ張ってきた存在だった。だったら・・・」

穏やかな笑顔で、静かな目で、その大横綱はこう続けた。

 

 -団体戦で優勝に一番貢献した選手、『彼』に勝ってみせることだ-

 

 潮火ノ丸、四股名『鬼丸国綱』

ダチ高IH全国制覇の原動力であり、団体戦一度も敗北しなかった男。蛍の黒星を白星で

塗り替え続け、ついに日本一まで引っ張って行った男。

彼は勝った、蛍は負けた。予選から全国決勝まで、ずっと。

そんな彼を蛍が倒す、それが蛍にとってどれほどの深い意味があるのか、考えもしなかった。

 先日、鬼丸は10年間誰も成し得なかった、日本人の幕内最高優勝を成し遂げた。

今の蛍にとって、かつてすら比較にならない程の雲の上の存在。そんな彼を倒すことが

どれほど困難な道なのか、それはありありと想像できる。不可能と断じてしまえば

何一つ後悔しない程に、今の彼と蛍の距離は遠すぎた。

 

 でも、だからこそ。

 

 それを成せば、蛍の心の棘は抜けるだろう。かつて足を引っ張り続け、迷惑をかけて来た

火ノ丸を倒し、自分が本当に強くなったことを証明できれば、かつての弱い自分を覆すことが-

 

「どうだ、痛快な話だろう。」

 

 そうだ、かつて全国制覇の後、一番だけ火ノ丸さんと真剣勝負した、あの送別相撲。

あの時火ノ丸さんに投げられて僕は泣いた。どうして?勝てるわけ無いのは分かっていたのに。

 でも、今ならはっきりわかる。あの時はチャンスだったんだ、自分の情けない傷跡を消す

その機を逃し、自分が強くなったことを証明できなかった、だから悔しかったんだ。

 

「僭越ながら任せてほしい、私に身を預けてくれたなら、必ず鬼丸関の前に君を立たせて見せよう。」

 

 どんなに年月を重ねても、どれほど勝利しても、決して抜けないと思っていた心の棘。

それを抜く方法は極めて困難、でも、方法がある。か弱い光の差す一筋の光明が。

 だったら、その細い糸にすがらない選択肢は無い。なぁ、そうだろ?三ツ橋蛍。

彼は目を閉じて、かつて見た心の中の自分と対話する。フルートを持った、過去の自分を

自虐するもうひとりの蛍を。

 細く、小さく、ひ弱なその彼は、全身を震わせて歓喜していた。そんなの乗るしか

ないじゃないか!

 

「大和国・・・親方。」

 

 それ以上は言葉が出ない。歓喜と、感動と、そして責任の重さに息が詰まる。

だが意志は伝わるほど伝わったようだ。蛍自身気付いてはいないが、その顔はくしゃくしゃに歪み

頬には熱い物があふれ流れていたから。

 

「私自身も5年前には君は見ていなかったよ。あの駿海さんや長門親方も君には声を

かけなかっただろう、だからこそ君の下克上には価値があるんだ。」

 腰を上げ、背中を見せた大和国は最後にこう語る。

「付け出し資格を持ってきたまえ、それが君に対する私からの宿題だ。」

 

 

「こりゃ冬の全日本、絶対勝たないとな!」

「たっぷりとしごいてやっから覚悟しろよ。」

 嬉々として蛍にまとわりつく倫平と焔。蛍は腕で涙をぬぐうと、うん、頼む!と

2人に頭を下げる。

 

「私に何か言う事は?」

 微笑んでそう蛍に告げる柚子香。彼女のしたことは確かにお節介だが、それが最高の結論を

呼び込んで見せたのだ、怒る事などできようか。

 少し考え込んだ後、蛍はふふん、と笑ってこう仕返しをする。

「いいの?相撲部屋に入ったら基本、十両まで恋愛禁止だよ、結婚も出来ないし。」

 結婚と言うパワーワード、事実上のプロポーズにぼふっ!と顔を赤らめる柚子香。

 

「え、ちょ、ちょっと・・・バカ!」

 ひゅーひゅーとはやし立てる倫平たちの周囲を追いかけっこする二人、

柚子香は追いかけながら、顔がニヤけるのを抑えられないでいた。

 

 

(私ね、お姉ちゃんは好きだし尊敬してる。でも、ひとつだけ納得いかないことがあるの。

なんで火ノ丸さんをレイナさんに譲っちゃったんだろう、って。私は絶対譲らないよ。)

 

(だから・・・待つよ蛍、たとえ何年でも!)

 




桐人「三ツ橋お前、俺の事『火ノ丸に依存し過ぎだ』とかぬかしてなかったか・・・」(甘粕っぽく
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