今回の話には原作改変が含まれています。
-三陣戦。東、大峰君。西、美馬君。-
1勝1敗で迎えた三陣戦。これに勝ったほうが優勝と全国出場にリーチがかかる重要な1戦。
だが、土俵に上がる対戦相手を見て、ダチ高相撲部の面々は訝し気な表情を隠せない。
「美馬武志(みま たけし)3年。185cm93kg、今年はここまで公式戦に出てはいません。」
千鶴子がノートを見ながら皆に説明する。石神の三人目は今日ここまでずっと補欠だった美馬が出てきた。
「石高の秘密兵器ってワケか・・・むしろ好都合かもな。」
桐仁がアゴに手を当て、そう呟く。こちらの三陣、大峰は攻めの相撲が身上のタイプだ。
相手によって相撲を変えるタイプではないだけに、予測不能な相手にぶつけるには適任だろう。
「お、親方。いよいよですよ、大峰君。」
「うむ。」
観客席。寺原の言葉にうなずく柴木山親方。大峰はここ数か月に何度も柴木山部屋に出稽古に来ていた。
桐仁が彼を自分の所に寄こした理由はすぐわかった。大峰の相撲はかつての親方、現役時代『薫山』の
『爆竹』と称された苛烈な攻め、そのスタイルにそっくりだったのだ。
昨年に続きお気に入りの弟子を得た親方は、彼をとことん可愛がった(相撲用語で厳しく鍛えた)。
その彼の一戦にかつての自分を重ね、かつ自分には無かった巨体の大峰に期待を寄せる。
-手をついて-
仕切る両者。体格としては先鋒戦の逆、相撲取り然とした体格の大峰に、筋肉質な美馬。
一瞬の静寂の後、両者の立ち合い-
-バッチィィン!-
美馬の強烈な突っ張りが大峰を襲う。その太く長い腕が、グローブのように大きな掌が、
大峰の顔面を張る!2発、3発、4発・・・
「ぐっ!」
よもやの展開に後れを取る大峰だが、荒っぽい展開なら望むところだ。返す刀で張り手を撃ち返す。
だが、それはいずれも美馬の体の芯を捕らえるには至らない。美馬は張り返されると見るや、
自らの長い腕を目いっぱい伸ばして大峰を突き放して距離を取る。そしてそこから再び張り手!
-ドッ、ビシィッ、パンッ、ビチィッ!-
打撃音が響き渡る土俵上。美馬はあくまで張り手一本で攻めまくる。その長いリーチを生かして
主導権を渡さない。
「金森の『大筒』か・・・いや、アレよりもっと強烈だ!」
桐仁が叫ぶ。昨年の石高主将の金森の突き、それを押しよりも打撃に特化したような突っ張りは
相撲というよりボクシングのそれに近い打撃戦を思わせた。
「アゴを引け、頭を下げて距離を潰せ!」
柴木山親方がお忍びであることも忘れて声を飛ばす。体格差から言っても組みさえすればこちらのものだ。
そしてまるでその声が聞こえたかのように、大峰は腰を落とし、前傾姿勢で突進し、頭を押し付ける。
が、次の瞬間、再び両者の距離が開く。美馬は諸手を相手の両肩に添え、突き出しながらその反動で
自ら後ずさりして再び自分の間合いに戻す。
「ぐっ!」
組みに行こうと思った途端に距離を開けられ、また強烈な張り手が大峰を襲う。
最初の方の張り手で既に鼻の中を切っており、したたる血が張り手で血しぶきとなって飛び散る。
それでも攻防が止まっていない以上、行司も『鼻血待った』をかけられない。
「徹底的に離れて張ってくる、それに特化した力士か!」
桐仁の叫びを聞いた石高の間宮が、心の中でそれを否定する。
「(違うな・・・特化したんじゃない、特化せざるをえなかったんだよ)」
美馬 武志
彼は石高の次期主力として大いに期待された選手だった。だが昨年秋、美馬は稽古中の事故で
首を痛めてしまったのだ。
力士にとって首は生命線と言っても良い。ダメージは頸椎にまで達しており、彼は医者から
相撲そのものにドクターストップをかけられていたのだ。
失意に沈む彼に、顧問の菅原は突き相撲への転向を進める。無論試合に出すつもりは無かったが
彼の相撲への情熱をこそ惜しんでのアドバイスだった。
だがそれは彼にハマった。元々気性の荒い美馬に、その長く太い腕は十二分に応えたのだ。
部内でも他を圧倒する威力を持ったその張り手に、菅原は1試合だけの出場を許可する。
首は完治してはいたが、精神的なトラウマが彼を襲わないか心配ではあった。
とはいえ3年生最後の大会、頑張ってきた彼にせめてもの晴れ舞台を与えたかったのだ。
「まずいですよ親方、このままじゃ・・・」
「美馬君の間合いの取り方が上手い、距離を潰せば自ら下がってでも間合いを戻す。まずいな・・・」
腕組みしながら唸る柴木山親方。大相撲でもかつてそういうタイプの力士が居た。そのスタイルで
横綱にまでなったほどの・・・
大峰は打たれながらも、間合いを詰める方法を必死で探る。既に顔面はおろか胸まで血しぶきに
染まっているが、それでも闘志は衰えない。
「大峰ファイットーォ!」
「スキも見て潜り込めーっ」
「手を休めるな、張れ、撃ちまくれ!」
「ぶちのめせーっ!!」
両高から応援が、激が飛ぶ。苛烈な打撃戦に場内が沸き、汗と血が土俵に舞う。
「根競べだな、美馬君が力尽きるのが先か、大峰ちゃんが突き倒されるのが先か・・・。」
柴木山親方が冷静に分析する。美馬は立ち合いからずっと張りっぱなしだ。
体力が無尽蔵ではありえない以上、撃ち疲れれば大峰にもチャンスは訪れる。
一方、防戦一方の大峰は、体力はまだ尽きないがダメージのほうが心配される、始まってからこっち
殴られっぱなしなのだから。
そして、勝負の天秤はここで一方に傾く。
-ズルッ!-
美馬の渾身の一撃は、大峰の頬を捕らえたかに見えたが、それが血で滑り、体が泳ぐ!
どんっ!という音と共に四つに組む両者。
「よっしゃ!捕まえた!!」
「逃がすな!決めろっ!」
意気上がるダチ高相撲部の気勢を削いだのは、なんと行司であった。
「待った!」
両者の肩を叩いて動きを止めるよう指示する。土俵の砂を二人の足元に集め、今の位置を記録する。
「なんてこった、ここで止血待ったかよ!!」
桐仁が吐き捨てる。ようやく大峰が相手を捕まえてこれからと言う時に・・・待ったで勝負が止まれば
美馬の体力が回復してしまうじゃないか!
「よし!美馬さん、呼吸を整えて!!」
沙田が声を出す。この待ったで勝負の天秤は石高の方に傾くと誰もが思った、その時!
-どさっ!-
重い音と共に、土俵にうつ伏せに倒れる大峰。呼吸を荒げながら手をついて起き上がるが
足元がどうもおぼつかない。
「いかん、脳震盪を起こしたか・・・?」
諸岡顧問が心配そうに見つめる。あれだけ張られ続けたなら、その可能性は十分にある。
「君、大丈夫か、やれるかね?」
「勿論ッス!」
ティッシュを鼻に詰めながら大峰が返す。
「やられた、最後は寄りかかっていただけだったのか・・・」
石高の市橋が嘆く。もし待ったがかかってなかったら、大峰は簡単に落ちていたのか。
待ったで石高側に傾いたと思った勝負の流れは、今またどちらにあるのか分からなくなった。
行司の指導で、待ったがかかる以前の体勢で組み合う両者。
美馬は迷っていた。何とかして離れて再び突きに出るか、このまま組んで勝負するか・・・
彼は後者を選ぶ。もう首は治っているはずだ!だったらこんなフラフラな1年坊主に負けられない!
-ぱんっ!-
行事が両者の肩を叩く、再開の合図。と同時に美馬は両マワシを強烈に引きつける。
が、次の瞬間に起こった事に、彼は目を丸くする、大峰は美馬を引きつけ返し、
そのまま一気に寄り立てる。
「な、なんだと・・・!?」
これが今しがた脳震盪を起こした選手の寄りだと言うのか?その力強さになすすべなく
電車道で押し出される美馬、勝負あった。
-東、大峰君の勝ち!-
土俵を降りる大峰を、ダチ高相撲部が心配そうに迎える。が、そんな心配は無用とばかりに
大峰は笑顔を見せ、ピースサインを決める。
「アレ・・・演技かよオイ!」
陽川のツッコミにへへ、と照れ笑いする大峰。彼は張り手を受けながらなんとか接近するために
故意によろめいて相手の油断を誘おうとしていたのだ。
そんな際にいきなり四ツ状態になったのだから、待ったで離された時にその流れで倒れただけだったのだ。
観客席、柴木山親方と寺原は顔を緩めながら、その結果に満足していた。
「あれだけウチの鬼丸のぶちかましを受けてたんだ、あんな張り手で落ちて貰っちゃ困るよ、なぁ。」
原作改変:コミックス19巻163番の結果と違っています。
理由はもちろん、燃えるからだ(CV:緑川光)