蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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響け!(謎)


第17番 柚子香の戦い

「うおーーっ、あの娘、めっちゃ美人だわ!」

「いやいやいや、あそこの3人組の真ん中見てみ、完璧なプロポーションだし。」

「僕はあっちの端にいる娘・・・可愛い。」

「みんなセンスないなぁ・・・あそこの娘見てみろよ。あの髪、あのうなじ、抜群だよ・・・」

 

 県立体育館の2階席、鼻の下を伸ばしまくって眼下の花々を物色中の大太刀高校相撲部1年。

しかしそれもやむなき事、1階のコートにはレオタード姿の女子高生たちが数十人、所狭しと

あふれているのだから。

 ・・・まぁ、腰の部分にマワシが巻かれているのが、若干色気を落としてはいるが。

 

「何しに来たのよアンタ達は!」

 レイナがとりあえず手近にいた幸田の頭をひっぱたく。

「・・・いやいや、もちろん応援はしますよ部長。」

折りたたんだ2mほどの手作りの横断幕を手にして陽川が反論する。他の4人もこくこく頷く。

相変わらず鼻の下の伸びた、ユルんだ顔で言っても説得力ゼロなんだが。

 

「(ったく、先週コイツらをちょっとでもカッコイイと思ったアタシがバカだった・・・)」

 

 あれから一週間、インターハイ女子相撲の会場である体育館。そう、大太刀相撲部女子選手である

堀柚子香デビュー戦がついにやって来たのだ。

 女子相撲は大会や会場によって室内、室外の両方のケースがある。本日の千葉県予選は室内で

マットで作られた土俵で行われる。

 また、試合用の女子のマワシはレオタードと一体化したものになっている。加えて男子と違い

女子相撲は体重別で行われるため、太るどころかむしろ減量されて引き締まった体を包むその姿は

かくの如し桃源郷のような空間を作り出していたのだ。

 

「ちょっと!カントクもなんか言ってやんな・・・さい、よ・・・」

レイナの振りに気も止めず、桐仁はずっとタブレットで相撲の試合を凝視している。

 こっちはこっちで相撲バカなんだから、と思いつつ覗き込むと、見ていた試合は

大相撲幕下で戦う鬼丸こと潮火ノ丸の1番だったりする。

 眼下の百花繚乱に目もくれず、かつての相棒の相撲を凝視するその姿に、思わずレイナもちょっと引く。

「(こ、こいつ、ホモッ気とかあるんじゃないでしょうね・・・)」

 

「しかしなぁ・・・三ツ橋先輩、本当スゲェな。」

「ああ、俺、あの空間に1分いる自身ないわ・・・」

「ちょっと女顔だから違和感ないけどな」

 件の三ツ橋はフロアの一角、大勢の女子の中に平然と混じって、弟子の柚子香にアドバイスなどしている。

横で救急箱を抱えてる千鶴子も、そんな三ツ橋を見て、はへー、という表情。

 何しろフロアにいる男性と言えば大会役員の偉いさんと各校の顧問や監督くらいで、同じ年頃の

男子生徒は彼以外皆無なのに、全然気にする様子もない。

 

「三ツ橋君は中学時代、吹奏楽部の部長だったらしいからね、女子に慣れてるんだろう。」

顧問の諸岡の言葉に、ほぉ~、と納得の声を上げる一年生。

逆にレイナはその話を聞いて顔をひきつらせる。

「すっ、吹奏楽部の・・・部長!?マジで?」

ドン引きするレイナのリアクションを見て、頭にハテナマークを浮かべる一年の面々。

 

 女3人寄ればかしましい、と言うが、30人も集まればもはやそんな和やかなレベルではない。

派閥が乱立し、羨望や嫉妬やコンプレックス、果ては恋愛沙汰やその部活におけるカーストまで

ありとあらゆるカオス渦巻く空間になる事が、同じ女子のレイナには容易に想像がつく。

その中で部長・・・つまり、まとめ役を?あの三ツ橋が?

 

 ふと桐仁をちらり、と見やるレイナ。彼は相変わらず一心不乱にタブレットを見つめている。

レイナの中で、あるひとつの懸案の答えが、そのとき出た気がした。

 

 

「いいかいゆず、君は試合に勝ちたいと思っているね。」

「はい!」

試合が近づき、蛍が柚子香に最後の激を飛ばし、柚子香もそれに答える。

「だけど、相手も同じことを思っている。じゃあ、どうすれば勝てる?」

「勝ちたい、じゃなくて『勝つ』と思う事です!」

「よし!じゃあ勝って来い!」

「はいっ!」

 すっかり体育会系のノリの二人、この4か月ずっとマンツーマンで稽古してきた師弟。

最初こそレイナや千鶴子と稽古してきた柚子香だが、2週間もしないうちにその二人では

歯が立たなくなってしまっていた。

 選手を目指す柚子香と、付き合いで稽古相手として相撲を取るレイナ&千鶴子とは

元々目的意識が違うのだから無理も無かったが。

 

 それ以降は蛍がずっと柚子香の相手をしてきた。もちろん蛍は体操服の上にジャージを着込んで

女子の柚子香も遠慮なく取っ組み合えるようにしてはきたが。

 元々運動神経のいい柚子香だったが、体格の違う蛍と相撲を取る事で、彼女はめきめきと

腕を上げて行った。

ただ試合経験が無い不安はあった。体重別だけに同じ階級の選手との経験が無いのはハンデだ。

 だがそれも今日埋まる。そのためにも1試合でも多く勝ち、経験を積む。それが来年、再来年の

柚子香をさらに強くするだろう。

 

 -東、大太刀高校、堀!西、佐倉女子高、三木谷!-

 

 呼び出しを受け、柚子香が土俵に向かう。ぱんぱんと顔を張り、気合を入れる。

と、その時、2階席の一角から声援が飛ぶ。

「「堀さーん、ファイットーっ」」

 レイナと一年生の面々が、柚子香の名を書いた横断幕を広げて声を出す。

それを見た柚子香は薄い笑顔意を見せ、こくりと頷いて土俵に上がる。逆に姉の千鶴子は横断幕を見て

あわわ・・・と真っ赤になって恥ずかしそうにおろおろしている、対照的な姉妹だ。

 

 対戦相手は柚子香よりやや長身、体も少し大きい。このクラスでは体重制限ギリギリだろう。

彼女は柚子香に心の中で毒づく。

「(ふん、男はべらせて、そんな奴に負けるもんですか・・・)」

 

 -手をついて-

 

 向かい合う両者。女子と言えどこの瞬間の空気の緊張は変わらない、それが相撲。

 

 -はっきよい!-

 立つと同時に四つに組む両者。女子相撲はぶちかましが禁じ手なため、自然に組み合うことが多い。

相手はすかさず投げを打つ。が、柚子香は振り回されながらも体幹をブレさせず、腰を落として

体を残す。

 そして相手が一息ついた瞬間、腰を左右に振ってマワシを切る、と同時に一気の寄り!

そのまま寄り切って決着をつけた。

 

 -東、堀の勝ち!-

 勝ち名乗りを受け、客席からの喝采を受けながら土俵から降りる柚子香。

千鶴子が、蛍が拍手で迎える。

「師匠、勝ちました!」

「うん、いい相撲だったよ、その調子!」

褒められて、てへっ、と舌を出して喜ぶ柚子香。

 

 堀 柚子香

 

 相撲初心者だった彼女は、まず相撲に必要な基礎知識から学ばなければならなかった。

受け身、礼儀から基本的なルール、力の入れ方、抜き方、腰の割り方等。

 が、それらを習得した時、彼女はいともあっさり強くなっていた。運動が得意な上

小回りの利くすばしっこさ、反射神経を持つ彼女に、相撲という一瞬の競技はぴたりハマった。

 そんな彼女に師匠の蛍は、お手本として火ノ丸の相撲を学ばせた。立ち合いと同時に

組むことが多い女子相撲において、彼の前さばきの上手さは大いに参考になった。

マワシを取る技術、切る技術、投げとそれに対する姿勢の取り方、重心のかけ方、足さばき。

自分の形を作り、相手の形にさせない。そんな基本にして必勝法ともいえる要素を

男子相手の稽古で十分に培ってきたのだ。

 

 余談だが、それを教えた蛍もまた、その前さばきの上手さが自然に身についていた。

桐仁の目論んだ『教えることで身につく技術』の狙いはまさに的中していたのだ。

 

 彼女は勝ち進む。2回戦、3回戦、4回戦。

いずれも寄りや投げなど、奇をてらわない勝ち方ではあるが、それでもデビュー戦で早くも

4勝を挙げるに至ったのは大きな成果だ。

 

 そして準々決勝、相手は昨年の県大会2位、九十九里高の池西と対戦。

柔道からの転向組である池西の崩し、揺さぶりに加え、ここまでの試合の疲労が堪えたのもあり

粘った末についに投げられ、土俵に転がる事になる。

 

「お疲れ様。」

 涙ぐむ柚子香に、タオルを渡してそう労う蛍。そう、負けの味はいつも苦いもの。

蛍自身、それを嫌と言うほど味わってきたから、それ以上は何も言わない。

 着替えを終え、会場を出てきた応援組と合流する3人。

その頃には柚子香もすっかり笑顔で、今日の成果を報告する。

 

「さて、部長から少し話があるそうだ」

そう諸岡が前置きし、レイナが3人の前に出る。何事かなと顔を見合わせる3人。

 

「来年の部長に三ツ橋蛍を指名します、よろしく頼むわね!」

そう言って蛍の肩を叩くレイナ、3年生として部活動の活動期間を終え、彼女は今日引退する。

 そんな彼女と新部長の蛍に、周囲の部員たちが拍手する。

 

「えー!?一体いつの間にそういう話になったんですか?」

「今日決まったのよ。」

即答するレイナ。三ツ橋の物怖じしないあの態度は、きっとこれからの大太刀をさらに強くするだろう。

未だに固まる蛍の肩を、横から柚子香がぽんっ、と叩く。

 

 

「これからもご指導、ご教授お願いしますね、三ツ橋ぶ・ちょ・う。」




原作が漫画ですから、まぁ女子相撲にも夢を持ちましょう。
現実は・・・っと誰か来たようだ(死亡10秒前)
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