蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

19 / 121
第18番 秋合宿開始!

 秋。大太刀高校の職員室にて、

 

「合同稽古?」

 呼び出しを受けた新部長の三ツ橋蛍と桐仁、マネージャーの堀千鶴子に告げる諸岡顧問。

「うむ。しばらく大会は無いからね、モチベーションの維持のために企画しておいたんだ、」

そう言って1枚のプリントを3人に渡す。

「コピーして部員全員に配ってくれたまえ、親御さんの許可とハンコがいるから忘れないように。

 

 そのプリントの頭にある文字を見て、思わず声を出す蛍。

「え、栄華大学付属高校・・・合同練習同意書!?」

「栄大かよオイ!」

 思いもかけずテンションが上がる。今年のインターハイ全国ベスト4のチームとの合同練習ともなれば

今の大太刀にとって、自分たちの力を計るのにこの上ない相手だ。

 

 と、プリントに目を走らせていた千鶴子が、その最下段の欄を見て硬直する。

 

{参加予定 大太刀高校(千葉):金沢北高校(石川)}

 

「金沢北も来る!?凄ぇ!」

 なんと今年のインターハイの団体、個人のダブル覇者である金沢北も参加するとは!

高校相撲の頂点と肌を合わせる機会とあっては、ダチ高にとってはこの上ないチャンスであろう。

 

「来週の連休を利用しての2泊3日の遠征になるから、是非参加しれくれたまえ。」

ぐっ、と親指を立てて得意げな諸岡。

 とは言うもののこの合同稽古、実は栄大の方から申し込みがあったのだ。

県予選敗退のダチ高にわざわざ声が掛かった理由は分からないが、まさに渡りに船と言うものだ。

来年春の大会まで部員のモチベーションを保たせるのに最適な遠征になるだろう。

 

 

 部員たちの意気は大いに上がり、その日の練習はいつも以上に熱が入ったものとなった。

高校横綱、国宝『大典太』日景典馬、『異国からの聖剣』と称されるダニエル・ステファノフ、

小兵の国宝『小龍景光』狩谷俊、他にも世良や澤井など、全国に名を馳せる強豪力士と

相まみえる機会に心が逸る。

 

 結局、堀姉妹を含めて部員全員が参加することになった。

 

 

 秋合宿、その舞台となる埼玉県、栄華大学付属高校にダチ高部員を乗せたバスが到着する。

と、数人のジャージを着た大男達が整列し、彼らを出迎える。

「ようこそ、栄大付属へ!」

「「チューッス!!」」

彼らは栄大付属の一年生部員のようだ。松本や大峰、陽川には見知った顔も混じっている。

「滝沢、久々だなぁ、全国でも活躍したそうじゃないか!」

「お前らも全国まで来てりゃ借りを返せたんだがなぁ・・・」

「それを言うなって。」

 昨年の全中横綱であり、春の新人戦で松本と決勝戦を戦った栄大のホープ滝沢。

彼はIH全国でも団体の選手として活躍していた。

 

 荷物を寝床でもある宿舎に搬入し、服を着替え、マワシを締めて部室に向かう。

「失礼します!」

部長の蛍を先頭に、敵地の中に歩みを進めるダチ高。と、その前にひときわ大きな体躯の男が

立ちはだかる。

 

「栄大相撲部主将の澤井だ、遠路はるばるようこそ。」

 団体全国4位の主将、そして個人戦ベスト8の貫録を感じさせながらも、決して好意的ではない、

どちらかと言うと見下したような目線と口調でそう告げる。

 

「大太刀高校相撲部の三ツ橋です、どうかよろしく。」

一礼する蛍を見て、ふん、と息をつく澤井。

「・・・なんだお前、まだ相撲やってたのか。」

 

 カチン!

 その一言で場が、ダチ高側が固まる。いくら格下とはいえ、自分たちの部長をこうも

見下した目で見られるいわれはない。が、構わず続ける澤井。

「相撲ってのはデカくてナンボなんだよ。お前みたいなチビが相撲取ってケガするのは勝手だが

デカい方にその責任を取る義務はねぇんだぜ!」

 ギリッ!と歯噛みして前に出ようとする陽川を、蛍は手を広げて制する。

「勿論ですよ、格闘技なんですから。やれるものならやって見せて下さいよ。」

一歩も引かずに蛍が返す。後輩の手前、ダチ高の部長としても引けない、引かない。

 

 本当に怖いのはケガでは無いのだから。

 

「フン、まぁいい、歓迎するぜ。」

 くるり、ときびすを返す澤井・・・が、そのまま固まる。

その先には、蛍に劣らぬ小兵の体躯の力士が、澤井をジト目で睨んでいた。

 少し硬直した後、すまなさそうに振り返り、ダチ高に再び向き直る。

「あー、そうだ、そっちの、その三ツ橋と、あと辻だったな、それとそっちの小さい奴・・・」

途端に腰が低くなる澤井。申し訳なさそうに頭をぼりぼり掻きながら、こう付け足す。

「すまねぇが、コイツに胸を貸してやってくれねぇか・・・」

後ろ指に小兵の選手を差しながらそう続ける。無論、蛍も桐仁もそして幸田も、その選手を知っていた。

 

 栄大の小さな国宝、狩谷俊。

2年生、そして僅か165cm77kgの体躯で栄大のレギュラーを勝ち取り、全国大会でも勝ち星を上げた

『小龍景光』。

「ま、そういうワケだ、よろしくな。」

手を上げてそう告げる狩谷。続いて澤井に毒を吐く。

「ったく、いちいち小兵に食ってかかるそのクセ直してくださいよ、機嫌損ねて帰られたら

どーするつもりだったんですか。」

 

 彼はこの秋の国際相撲、つまり相撲の世界選手権、その軽量級に日本代表として参戦が決まっていた。

体重別なだけに、栄大の巨漢といくら稽古しても充分とは言えない。

 そんな中、今年の各県予選を偵察に行っていたマネージャーから、似たような体躯を持つ選手のいる

チームの存在を知る、そう、大太刀高校である。

 技の辻、変化の三ツ橋、ぶちかましの幸田。似た体格でありながら相撲スタイルの全く違うこの3人と

稽古することは、彼にとって貴重な調整になるだろう。

 

「なるほど、この合同稽古、大太刀が招待されるわけだ。」

いつの間にか背後にいる諸岡。世界大会の調整相手を当て込まれたわけだが、当然それは彼らにとっても

日本代表の選手と肌を合わせるよい経験になる。

 

 と、桐仁がすっ、と遠慮がちに手を上げる。なんだ?と全員が彼に注目する。

「で、アンタ留年したのか?」

澤井に向かって一言。空気がぴしっ!と凍る音がした・・・気がした。

「するかよ!俺は大相撲に進むんだよ、だから入門まで部に残ってるんだ!」

 考えてみれば彼はもう3年、普通ならとっくに引退してしかるべきなのに部にいる彼に、

桐人が『お返し』を見舞う。

「ハッハッハッ、リオンチャンハ成績優秀ナンデスヨ~」

同じく3年の『居残り組』のダニエルが笑いながら続ける。

「え・・・マジで?」

「生徒会長モヤッテマシタシネ~コウミエテ『ジンカクシャ』ナンデスヨ」

 

 そのセリフに大太刀全員が引く。こんな生徒会長は嫌だ、ゼッタイ。

そんなリアクションに栄大の面々が笑う。狩谷も歯を見せ、きっしっし、と笑顔。

澤井だけが顔を真っ赤にしてダニエルを黙らせようとする。

 

 険悪な空気はどこへやら、なんとか両校は、しばし和やかな空気に落ち着く。

が、部室に飛び込んできた1年生部員が、その空気を再度張り詰めさせる。

 

「金沢北、到着しました!」

 びりっ!と張り詰める空気。ついに全国覇者の、そして高校横綱のお出ましである。

澤井も、ダニエルも、狩谷も、蛍も、ダチ高1年生たちも、そして桐仁も、

入り口のドアに注目する。

 

「お疲れさんでございます。」

 長身を曲げ、ドアをくぐって現れた彼は、その上背に負けない筋肉を纏った体躯を伴い

道場に歩を進める。

 

 国宝『大典太光世』日景典馬。

 

全国個人戦決勝で沙田を破った彼はダチ高にとって、まだ見ぬ最強の相手。

 




リオンちゃんが残っているのは、実は世界大会を控えた狩谷の付き添いの為、というのもあります。
ダニエルのほうは、大和国部屋の外国人枠が他の選手と競合していて、親方の判断待ち、という設定です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。