蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第19番 自惚れと自虐

「・・・なっ!?」

 高校横綱、日景典馬のすぐ後に現れた面々を見て、栄大の、ダチ高の面々の表情がさらに固まる。

瀬良拓海、狭間勝、岸谷祐樹、坂田徹、いずれも3年、そして・・・

「おいおい、今年のインターハイ制覇メンバー全員かよ!」

 全日本選手権を控えた日景はまだしも、本来なら引退してしかるべき3年生が全員登場した!

 

「あー、折角のご招待なんで、全員連れて来たんすよ。」

典馬がけだるそうにそう説明する。

「ったく、受験勉強もあるってのに、しゃーねぇなぁ。」

「まぁまぁ、息抜き息抜き。」

「まぁ栄大に大太刀だろ、来る価値はあるってもんだ、なぁ典馬。」

 最後にそう言った瀬良は、ダチ高の方を見てすかさず寄ってくる。

 

桐仁も蛍も1年もスルーして。

 

「また会えたねー、マネージャーちゃん♪」

そう言って速攻で千鶴子にすり寄る瀬良。場の緊張が一気にダダ下がる。

「マスク無しの素顔もやっぱいいねー、そっちは妹さん?うん、姉妹揃って美人だねぇ。」

「え・・・お姉ちゃん、知り合い?」

ぶんぶんと首を振る千鶴子。そう、あの時に彼と合ったのは謎のマスクガールであり、決して私じゃ・・・

 

 ドゴッ!

 

 典馬の突きが瀬良の後頭部を直撃する。もんどりうって豪快に倒れ込む瀬良。

「痛ってーな!ツッコミはもーちょい優しくやれよ!」

「場の空気読めよ、何しに来たんだお前は。」

「ナンパ。」

 

 典馬の2発目の突きが今度こそ瀬良を黙らせた。

 

 

「きゅうじゅうきゅーう、ひゃあーくっ!」

アップ代わりの四股百回が振動と共に終了する。流石に栄大も金沢北もまだまだ余裕たっぷりそうだが

遠征疲れを考慮して少な目で四股は終わる。

「じゃあ、こっからは各自自由に練習してくれ。折角の合同稽古だし、どんどん他校の胸を借りる様に。」

栄大の三木監督がそう告げる。それなら、と各自相手を探し、ぶつかり稽古や申し合い稽古に移る。

 

 蛍、幸田、そして桐仁の3人は早速、狩谷との稽古を開始した。

胸を合わせて感じたのは、やはりその速さと潜りの技術。あまり上背の無い幸田のぶちかましの

さらに下に潜る技術には舌を巻くものがあった。

「速いですねー、それに下に入ったら辻先輩でも敵わないなんて・・・」

柚子香がその技術を見て感心する、狩谷は女子に褒められて、ふふん、と得意げだ。

 

 もっとも桐仁は全力で相手したわけではない。相手は世界大会を控えた身なれば、

どうしても目に映る、左ひざを覆う大き目のサポーター。

 そしてもうひとつ。桐仁は彼とは別に、もう一人腕を試したい相手がいたからだ。

一日に何番も真剣勝負のできない身としては、あの相手と戦う体力は取っておきたい、

鉄砲柱にいい音を響かせる日景の方をちら、と見やる。

 

「その左ヒザ、大丈夫ですか?」

 蛍の質問に、狩谷は上機嫌で大丈夫大丈夫、と答える。が、やはり多少引きずってる感じがある。

あまり無理をさせないほうがいいだろう、と判断した蛍は、『潜る相撲』のコツやトレーニング方法を

色々聞きだしてみた。

「正中線を意識して体を固めてみ、かなりの重さにも耐えられると思うぜ。

バーベル担いでスクワットとか意識してやってみな・・・って敵にナニ教えてんだよ俺!」

 我に返るタイミングを見計らって柚子香がまた狩谷を褒める。そしてまた上機嫌になり

事細かに解説を、実践を交えて指導する。うん、ちょろいな小龍景光。

 

「よーし、そろそろ仕上げに行くぞ。」

三木監督が全員にそう告げ、汗をかいた全員がその言葉に注目する。

「試合形式でひとり一番、相手は各々自由に選べ!」

 

 その言葉にざわつく道場。と、誰よりも早く、桐仁が手を上げる。

「日景さん、お相手願います。」

栄大とダチ高の強者が『出遅れた』という表情をする。高校横綱との真剣勝負、そのイス取りゲームに

先をこされてしまった、と。

 指名を受けた典馬は、桐仁を見た後、少し視線を逸らす。その先にいたのは意外にも、

マネージャーの堀千鶴子だった。それも一瞬で、すぐ視線を桐仁に戻し、返す。

「ああ、いいよ。ただし手加減は出来ないから覚悟しなよ。」

腕をみしり、と軋ませ凄む典馬を見て、桐仁はにやり、と笑う。

「(ありがてぇ、高校横綱の真剣(マジ)、俺が切って落とす!)」

 

「手をついて」

 行司を務める諸岡顧問の声の元、向かい合う二人。片手をつく典馬に対し、桐仁はぐぐっ、と

這いつくばるような仕切りを見せる。

「平蜘蛛!」

「やべぇ、辻先輩マジ入ってる・・・」

本日の練習締めの最初の大一番に室内の緊張が高まる。

 

 -はっきよい!-

 低い位置から当たる桐仁に対し、典馬はもろ手で相手を起こしにかかる。その剛腕は

軽量の桐仁の上体を一気に起こし、そのまま土俵際まで突き飛ばす。

だが、それも桐仁にとっては織り込み済みだ。

 一度距離が離れた両者。この間合いは突き押しの日景の間合いだ、と誰もが思うだろう。

現に間髪入れず、典馬の突きが次々と桐仁に襲い掛かる。

 

「閃光!」

 

 日景典馬の高速連打。昨年のよりも遥かに速く、重い。彼の、そして金沢北の躍進を支えた技。

 

 -パン!パンッ!パシィッ!-

 

「捌いてる・・・!?」

栄大と北高のメンツから驚愕の声が上がる。桐仁は典馬の突きをその両手で捌き、弾き、身をかわす。

さすがに全部はかわせないが、その場合も体の芯を外してこらえるダチ高のエース。

「信じられねぇ・・・アレを捌くか!」

「石神の沙田以外に捌けるヤツがいるってのか、ったく千葉の国宝は・・・」

 

 その強烈さに辟易しながらも、桐仁は予想通りの展開にほくそ笑む。

「(さぁ、じれて全力の一撃を打ってこい!それを捌いて一気に捕まえる!)」

典馬の左を捌いて、次の右の本気度を推し量る。来る、これは牽制の突きじゃない、ここだ!

そう思ったその瞬間、捌いたはずの典馬の左手が桐仁の右手を掴む。

「・・・な!?」

次の瞬間、典馬は掴んだ右手ごと桐仁を引き寄せる。それと交差するように典馬の右突っ張りが!

 

「(・・・マズ)」

 

 -ドゴォッ!!!-

 

 顔面に直撃したその一撃が、桐仁の脳と体の接続を分断する。するり、と崩れ落ち、ヒザを付く。

「しょ、勝負あり!」

 

 室内が凍り付く。なんだ今のは?

相手の腕を掴み、自分の方に連れ込みつつカウンターの突き。相手を押し出す為の突きではない、

ダメージを与え、ノックアウトするための大砲!

相撲部員であるここの全員が、あの技を自分が食らったら、と想像して冷や汗を流す。

 

「出たな、『雷神の槌』」

瀬良がしみじみ呟く。典馬はインターハイ個人戦決勝で、『三日月』こと沙田に、その突っ張りを

ことごとくいなされ、あわやの窮地まで陥った。

 その反省から生み出された技。昨年の団体全国覇者であるダチ高の五條佑真が使っていた

『掛け突き、破城掌』とほぼ同じ原理のカウンター攻撃。違うのは腕を引きつけられているので

食らう瞬間に体を逃がせない、つまりまともに食らうしかないのだ、『大典太』のパワーを。

 

「早く手当てしてやんな。」

 そう千鶴子に向かって言う典馬。この技を使うのは少々ためらわれたが、昨年苦汁をなめた

大太刀の選手であること、そして手当てができるマネージャーがいたことが、彼にこの技を解禁させた。

 

「悪いな、俺は大相撲の横綱になるんだよ、負けるわけにはいかないのさ。」

担ぎ出される桐仁にそう呟く典馬。その声を朧げに聞きながら、酸素スプレー吸入口の下で、嘆く。

「(思い上がって、いた。)」

 彼と典馬の差、それは何より目的意識の違い。自分は火ノ丸を追い続けて相撲を取っていた、

いつかアイツと大相撲の舞台で戦うために。

だが典馬は違ったのだ。より高みの、誰もが憧れ誰もが届かない、そんな領域に本気で達するために。

 高校横綱になったにもかかわらず、沙田に苦戦した自分を許さず、即その対策を身につける、

そんなストイックな面が自分には無かった。20秒だけなら誰にも負けない、そんな自惚れに溺れ

将来の横綱候補『国宝』の前に立った結果がコレだった。

 

「(こんな事ならあの時、火ノ丸と送別相撲取っときゃ・・・)」

 

 

 未だざわつく道場内、次の一番に名乗りを上げる者が出ない。と、その時。

「澤井さん、一番願います。」

 その蛍の言葉に全員がどよめく。たった今自分のチームメイトがKOされたというのに、

軽量の三ツ橋が、よりによって重量級の強豪である澤井との一番を望んだのだから。

澤井はふぅっ、と息をつき、体をゆすって三ツ橋の前に出る。

 

「いい度胸してるな、大ケガしても知らんぜ。」

ぱんぱんとマワシを叩く澤井に、蛍は正面から返す。

「そう言ったはずです、望むところですよ!」

 

 蛍が澤井を選んだ理由。それはもちろん無残に敗れた桐仁に代わって、ダチ高の意気を上げたい

という意図もあった。

 だが一番の理由はそこでは無い。彼が本当に恐れるのは、決してケガでは無いのだ。

それは未だ自分の心の芯に刺さった棘、相撲を続けても、止めてしまっても、

決して消せない『汚点』という黒いシミ。

 

「互いに礼」

 

 今後いつまで引きずるのだろう、後悔するのだろう、あの瞬間を。

 -同体、取り直し-

 -西、首藤君の勝ち-

 ついにチームの為に、たったの1勝も挙げられなかった自分。

何一つ役に立たなかった、ひたすら足を引っ張り続けた。負傷した自分に変わって決勝に出た桐仁は

きっちり勝利してチームに貢献した、それがなおさら心をえぐる。

 

 かつて桐仁が倒した相手であり、首藤に負けない体躯の持ち主、澤井。だが彼に勝ってもこの棘は

抜けることは無いだろう。

 それでも蛍は挑む。弱かった自分が積み重ね続けた『恥』という、何よりも怖い、辛い相手に。

 

「手をついて」

 

「(コイツ・・・)」

 澤井は正面から自分を見据える三ツ橋の目を見て、既視感を感じていた。

らんらんと光るその目の奥に浮かぶ暗い負の感情。かつて自分が敗北を喫した、あの選手と同じ目。

あの時を思い出し、心にあるスイッチが入る。変化は・・・無い!

 

 -はっきよい-

 

 澤井が立つ、蛍が突っ込む。バチィッ!激突音が道場に響く。

次の瞬間、蛍は澤井の正面から消え、横っ飛びに円を描く。思わず叫ぶ柚子香。

「蛍火の如く!」

 

 かつて市橋と対戦した時、この技で後ろに回り込もうとした際、体に触れる感触でその動きを悟られた。

その反省から、この技の一つのバリエーションとして、当たった直後に横っ飛びで一度距離を開ける

という選択肢を増やす。立ち合いの緊張を一度いなし、リスタートから上に下にと選択肢を増やすために。

 

 が、そこで勝負は終わる。

目標を見失った澤井は、そのままばったりと両手を地面についていた。呆気ない幕切れに道場からため息。

蛍も消化不良を感じ、澤井に声をかける。

「取り直します?」

「いや・・・いい。負けは負けだ。」

 

 そう言って引き上げる澤井。蛍はその表情に、態度に、違和感を感じられずにはいられなかった。




瀬良「なぁ典馬、お前の技、英語読みにしようぜ!万雷(マ〇ラガン)とか雷神の槌(トールハ〇マー)とか
典馬「漫画っぽくなるから嫌だ」
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