「ふんふん、ふふ~ん♪」
ご機嫌で渡り廊下を歩く五條礼奈。本日12月24日、彼女は相撲部内のクリスマスパーティに
招待されていた。
受験勉強漬けの毎日のつかの間の癒しに、と三ツ橋や桐仁に誘われ、これを承諾。
もともと学年トップクラスの成績であるレイナは、既に第一志望である栄華大学も
模試において合格判定Aを叩き出しており、余裕もあった。
「にしても、しょうがない連中よね~、クリスマスイブくらい彼女とデートでもしろっての。」
ふふん、と笑い、改めて相撲部の面々を思う。
「(ま、相撲部じゃモテないのもしょうがないか、ここはひとつ元部長の私が、パーティに
花を添えてあげるとしましょう、感謝なさい。)」
そう思って部室の前に立ち、ドアを開ける。
・・・笑顔のまま顔が引きつり、硬直するレイナ。
部室内はまるで葬式の陣幕のように、白と黒の色に2分されていた、ように見えた。
部屋の半分を占拠しているのは、美味しそうに煮えた鍋やチキン、ケーキが満載されたテーブルに
天井から下がるモールや紙テープの飾りつけ、隅にはしっかりツリーもある。
が、そんな華やかな机に座っているのは大半がレスリング部の連中で、相撲部でそこに居るのは大峰と
堀ちゃんの二人だけ。
部室の反対側にレイナがぎぎぃっ、と首を向けると、何故か2列に並べられた長机の周りに
ドス黒い怨念のような気が満ちている。
机の上には乱雑に広げられた教科書や参考書、周りに座っているのは、もちろん相撲部の面々。
皆真っ黒な表情で俯き、ノートに無言で鉛筆を走らせる音だけが響く。
あ、あと空気がず~ん、という音を立てている気がする・・・
「おお五條君、来てくれたか、助かるよ。」
竹刀を肩に担いだ諸岡が、援軍が来た!という顔をしてそう話す。
呆れと残念さと怒りをこねまわした顔をして状況を察するレイナ。それに念を押すように
机の端には赤い立て札で『赤点組』と明記されている。
「ねぇ三ツ橋、カントク。念のために聞くけど、これは一体どういう状況か・し・ら?」
笑顔で、しかし全く笑っていない目で蛍と桐人の背後から問うレイナ。二人はびくっ!と
反応した後、背中に冷や汗をかきながら、すすす、と小さくなる。
「まぁ見ての通りだよ五條君。追試で合格ラインを越えられなかったら、3学期の中間テストまで
部活禁止だからね、ここは心を鬼にして、というわけさ。」
「い、いやぁ~つい稽古中心の生活になっちゃいまして・・・」
「あの解答欄、あの解答欄さえズレていなければ、俺は回避できてた、できてたハズなんだ・・・ッ!」
言い訳にもなってない言い訳をする蛍と桐仁。なまじ秋の合宿でいい手ごたえを掴んで、
来年こそは全国に!という意気込みが学業の方をだいぶおろそかにしてしまったようである。
はぁ~、と嘆いてパイプ椅子を取り、どっかりと座るレイナ。
どうやらこの状況、赤点組に対する罰ゲームも兼ねてるようである。わざわざ勉強してる横で
パーティをして、赤点組に『コッチ来たけりゃ勉強しろ』と煽っているのが見え見えだ。
で、成績優秀な元部長のレイナは、先生としてここに呼ばれたというワケだろう。
「あの~、私も、教えましょうか?」
申し訳なさそうにそう提案する千鶴子を諸岡が手で制する。
「いや、マネージャーはちゃんと結果を出したからね、そっちで楽しみたまえ。けじめは大切だよ。」
は、はぁ、と居心地悪そうに座り直し、それでも美味しそうにケーキを食べにかかる。
「お姉ちゃーん、私の分残しとい・・・」
-パシィン!!-
諸岡の竹刀が、言いかけた柚子香をかすめ、際の机を叩く。びくっ、と硬直して、無言で
しぶしぶ問題集に戻るゆず。
「う~ん、うまい。今夜のちゃんこは最高だなぁ。」
大峰が聞こえよがしにチキンを片手にそううそぶく。さすがに彼の周囲の料理は減るのが早い、
早いとこノルマを片付けてあっちに混ざらないと・・・
「俺は大相撲に進むんだから、何も勉強できなくても・・・」
そんなことをこぼす陽川。と、諸岡は彼の首をぐいっ!とヘッドロックし、鬼の表情でこう返す。
「どこかの偉い先生はおっしゃった。人生に第二の刃を持てヌルフフフフフ、と。」
怖さと不気味さに顔を青くする陽川に、さらにこう続ける。
「大相撲は潰しが効かない職業だ。幕内まで行けば別だが、幕下以下でケガで引退するケースも多い、
将来の為に高校くらいは卒業しておかないと、ねぇ。」
「は、はいぃっ!」
観念して参考書に取り組む陽川。ああそうさ大相撲に入ったら最初はちゃんこを
自分が食うのは一番最後、野菜クズしか残ってないちゃんこで強くなるしかないんだ!などと
ブツブツ言いながら空腹と戦いつつ問題を解いていく。
「しっかし、堀ちゃんはともかく、大峰って頭良かったのねぇ。」
レイナが腕組みしつつそう述べる。一年の中でも一番の強面の彼が一番成績優秀とは。
こう思っちゃなんだが、とーしてもインテリヤ〇ザそのまんまに見えてしまう。
「伊達にメガネはしてないってコトですよ、レイナさん。」
メガネをくいっ、と上げて自慢する大峰。いやメガネ関係ないと思うんだけど。
「さぁさぁ集中集中、早く終わらせないと食べ物無くなるよ!」
ぱしぱしと竹刀を手に打ち付けながら諸岡が檄を飛ばす。来年の相撲部の活躍の為には、
こんなコトで一人でも脱落してもらっては困るのだ。
問題集にラクガキをしていた柚子香がレイナにハタかれたり、松本が大きな体を妙に縮めて
勉強してるなと思ったらこっそり隣から拝借してたチキンをかじってるのがバレて
竹刀でしばき回されたり、桐仁が最終テストでまた解答欄を間違えてたり、
比較的早くイチ抜けした幸田が食事を始め、残りの皆に『裏切り者ー』と罵られたり・・・
そんなこんなで、残り全員がほぼ同時にクリアした時には、料理はすっかり
片付けられていましたとさ。
後日、全員追試をパスした面々が、ヤケ食いで実費でスタミナ次郎に突撃した事、
次郎の店長の悲鳴が店内に響いたことを付け加えておこう。
お後がよろしいようで。
地元のすたみな太郎が閉店した・・・辛い orz オノレコロナ