蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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ラブコメ編、開幕(本家帯より)


第23番 ふたりの正月

 1月3日、蛍は地元の神社に来ていた。

信心深い方では無かったし、神頼みをするタイプでもなかったが、今年は大太刀相撲部の部長として

必勝祈願くらいしておこう、と足を向けたのだが・・・

 まぁ人、人、人。当然ながら初詣真っ盛りなこの状況。参道には屋台が並び、晴れ着姿の女性が

人の群れに花を添える。

 

「(もっと小さい所に行くべきだったかなぁ・・・)」

 本堂への参拝の列に並びつつ、そう心の中でごちる。皮肉にも家から一番近い神社が、千葉県内でも

有数の大社であることを内心うとましく思う。自分の後ろにも次々と人が並んで行く・・・

 

「あれ?部長じゃないですか。」

真後ろから声をかけられる。ん?と見ると、白地に赤い花柄の晴れ着に身を包んだ少女が

蛍をじっと見ていた。

「・・・どちらさま?」

目を細めて顔を見る蛍。いや、知った顔ではあるけど、どーしても顔と服装が一致しない。

見慣れたボブカットに刺された鮮やかなカンザシも含め『彼女』であることを脳が否定する。

 

 高校相撲正月場所 堀 柚子香〇-●三ツ橋 蛍(ど突き倒し)

 

 参拝後、ぷんすか怒る柚子香に綿あめを奢りつつ、『晴れ着が似合ってたんで気付かなかった』と

釈明してご機嫌を直してもらう。このへんはさすが元吹奏楽部、女子の扱いに慣れている。

「今日はひとり?」

「うん、お姉ちゃん人混みが苦手で。」

 いかにも納得な理由だ。ましてやお転婆な柚子香でさえこの変わりよう、もし千鶴子が晴れ着で

参拝でもしようものなら、さぞナンパや撮影申請が殺到するだろう。

 

「にしても気合入ってるね。」

「うん、お母さん美容師だから。私も窮屈なのは苦手なんだけどねー。」

 彼女が言うには、年頃の娘がよりによって相撲部に入部し、毎日マワシ姿でいることを

母がたいそう嘆き、正月くらいはしっかりおめかししなさい、とがっつりコーデされたらしい。

なるほど、おかっぱ頭の彼女が和服を纏うと日本人形さながらに似合っている。

 

「部長は何をお祈りしました?」

そう聞いてくる柚子香に、間を置かず答える蛍。

「そりゃもちろん、大太刀相撲部の躍進をね。」

 本当は全国大会団体優勝を祈願したんだが、それだと柚子香の女子相撲が含まれなくなってしまうので

さらっと内容を変えて伝える蛍。

 

「へー、私は『怪我の無い様に』だけど。私とみんなも。」

「あ、それいいね。」

 蛍は感心する。格闘技である以上、怪我はどうしてもつきものだ。そして今のダチ高相撲部を考える。

桐仁、松本、大峰、陽川、幸田、そして自分。もし誰か一人でも怪我をして戦線離脱すれば、

大きな戦力ダウンになるだろう。選手層としても、そして精神的にも。

 

 2年前の全国優勝の後、その主力はごっそり抜け落ち、見る影もない程に弱体化すると思っていた。

しかし、新顧問の諸岡が引っ張ってきた1年生3人、そして幸田。彼らが入部してくれたことで

ダチ高相撲部は再び強豪校として息を吹き返すことが出来た。

彼らと稽古する日々が、自分にとってもどれほど恵まれた環境であったことか。

 そう、柚子香もだ。誰かに教えることで自分の身にもなる、教えた弟子が活躍する事の喜びも

また教えてくれた、そんな充実した1年間は、部員の大ケガが無く来れたことが大きかったのだ。

 

「僕ももっかい、それ祈願しようかな。」

「って、またアレに並ぶんですか?」

柚子香が指さす先、行列はさっきの倍以上の長さになっている。アレに並んだら参拝まで

小一時間はかかるだろう。

「・・・先におみくじ引きません?」

「そうしよっか。」

 

 今年最初の運試し。巫女さんに頂いたおみくじを開き・・・固まる。

『凶』

 

「うっわー、あるんですねぇ凶って、初めて見ましたよ。」

感心しつつスマホで写真を撮る柚子香。

「・・・そういうゆずは?」

「あ、えっとですね・・・うげ!」

『凶』

 

「どんだけですか、この神社はぁーっ!」

正月早々先行き真っ暗である。宝くじなら配当いくらになる確率やら。

「でもそんなに悪い事は書いてないよ、内容は。」

 蛍がおみくじの内容に目を走らせる。健康:良。勝負事:後に良。方位:西。縁談:進展在り、など。

特に『方位:西』という事は、千葉の西、東京の国技館を示しているのかも知れない。

 

「これを守って凶事を避けろってコトですかね?」

そう言って自分のおみくじを開く柚子香。

健康:良。勝負事:躍進有り。方位:光。縁談:言霊が良。

「・・・勝負事いいです、躍進有りですって。」

「へぇ、やったじゃん。他は?」

 そう聞かれて、すっ、と背中を向ける柚子香。おみくじを折り曲げ、隠す。

「内緒、です。」

少し照れながら、おみくじを近くの木に結ぶ。蛍もそれに続く。

 そんな蛍の姿を横目で見ながら、柚子香はおみくじの内容を心の中で復唱する。

「(方位:光、縁談:言霊が良、か。)」

 

 その後二人で屋台を見て回る。端から見たらどうみてもデートなのだが、

なまじ蛍が女子の扱いに慣れているだけに、二人の間に緊張やラブ臭は一切なかった。

「(・・・なんとかしなきゃねぇ)」

 

 ベンチに座って、たこ焼きなどつついている時、ふと柚子香が切り出す。

「ねぇ部長、せっかく正月に会ったんだし、ひとつお願いいいですか?」

ん?という顔で柚子香を見る蛍。

「私の事『ゆず』って呼んでるじゃないですか。だったら私も『蛍』って呼んでもいいですか?」

「ん-・・・別にいいけど、でも部活中は『部長』で頼むよ。」

「オッケーです、蛍センパイ。」

 笑顔で親指を立てる柚子香。そこから別れるまで、彼女は終始上機嫌だった。

今日ばかりは気合の入った母のコーディネイトに感謝する。

 

 -方位:(蛍の)光。縁談:言霊(呼び方)が良-

 

 

 柚子香と別れたすぐ後に、蛍は4名の暴漢に囲まれていた。黒いオーラを発し、

目から血涙を流す大男達に。

「ぶちょう~、今のかわい子ちゃん、一体だ・れ・で・す・か~~~」

「正月早々デートっすか、いいですねぇモテる男は・・・」

「あんだけ相撲漬けの生活しといて、やることしっかりやってますねぇケッ」

 

 

 正月練習開始後、三ツ橋部長はしばらく1年の男子部員に何故か口を聞いてもらえなかった。

「何があったの?」

「さぁ~?」

姉、千鶴子の質問に柚子香はころころ笑いながら答える。さて、こっからどう進展しようか、

などと考えながら。

 

 そして彼らは進級し、新たな部員を迎えることになる-




作者は人生で2回『凶』を引いてます。
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