第24番 新入生たち
「相撲部、相撲部に入りませんかー!」
「相撲部に入って、一緒に国技館を目指しましょう!」
「月二回、美味しいちゃんこも食べ放題!太る?むしろ痩せますよー」
4月10日、本日から新入生への部活の勧誘が解禁。大勢の部活に交じって相撲部の面々も
思い思いのセリフや看板、パフォーマンスを交えて声を上げる。
「貧弱だった彼がなんと、一年間でこんなムキムキに!人呼んでムキムキリヒト先輩です!」
ゴム製の肉じゅばんをまとってボディビルのポーズを取っている桐仁の横で、
幸田がちょい脚色した宣伝をする。ただ集まってるのは女子ばっかりではあるが。
「国宝『鬼丸』の出身校、ここ大太刀で、あなたも次代の国宝に!大相撲が君を待ってるぞ!」
どう考えても入部のハードルを上げている陽川の横で、苦笑いしながら千鶴子がパンフレットを
配っている。
レイナが無事進学し、生徒会へのコネが無くなった上に、昨年は全国にすら進めなかった
相撲部としては、部員の頭数を揃えて学内での地位向上を目指さないと昨年のような恵まれた
部活動はできないだろう。
諸岡顧問も昨年のように新人のスカウトは捗らなかった。というか昨年は千葉県内の
中学相撲自体が不作で、めぼしい選手を見つけづらかったのも原因ではあるが。
そんなこんなで相撲部は活動期間中、声を枯らして新入部員の勧誘にいそしんだ。
さて・・・その成果は?
「ようこそ相撲部へ。僕が部長の三ツ橋です。これから一年、一緒に頑張っていきましょう!」
今年の新入部員は4名。彼らを前にして三ツ橋がまず挨拶する。
桐仁、千鶴子、諸岡、そして2年生たちが一言挨拶した後、新入部員に自己紹介をさせる。
「柳沢 真(やなぎさわ まこと)です。初心者ですがよろしくお願いします。」
小太り、という表現がピッタリの、ちょっとボサついた頭の生徒がぺこりと頭を下げる。
「沼田 卓(ぬまた すぐる)です。三ツ橋部長、僕の事覚えてます?」
蛍より頭半分以上背の高い坊主頭が、自分を指差して蛍に問う。
「え、あれ?どこかで・・・?」
「一番取ったことあったぞ三ツ橋。ま、分からなくても無理ないけどな。」
疑問に思う蛍に桐仁がニヤリ笑ってそう返す。桐仁に言われたことが蛍の記憶を呼び覚ます。
「あ、あーーっ!桐仁があのとき連れて来た中学生!てかデカっ、めっちゃ背が伸びてるし!」
2年前、桐仁が大太刀相撲部に監督として参加する際、各人の欠点を指摘するため
連れて来た中学生4人、そのうち蛍と相撲を取って勝った少年。あの時は蛍よりも背が低かったが
今や見上げるまでに成長していた。
「あんときはありがとうございました。おかげで先生から寿司たらふく食えましたし。」
「・・・幸田、コイツ徹底的にシゴいていいからな。」
かつての先生と生徒が見えない火花を散らす。というか彼の入部は明らかに桐仁の手柄だろう、
相変わらず無口だが裏での行動力は大したものである。
「次はワシやな。」
そう言って沼田の肩をつかんで後ろに引っ込め一歩前に出る、赤く染めた髪が目立つ
新入部員一番の巨漢。
「赤池 哲夫(あかいけ てつお)や。四国からこっちに来たんやけど、なんやレベル低そうで
がっかりしたわ。」
瞬時にびりっ!とした空気が部室に走る。だが赤池は気にする様子も無く、蛍の前に歩み寄る。
「こんなちんちくりんが部長かいな、ほんまに相撲取れるんかい。」
傲然とした態度で蛍を見下ろす。そんな彼の態度にも蛍は平然と返す。
「自信満々なところを見るに経験者だね、歓迎するよ。」
笑顔で握手の手を差し出すが、それを一瞥する赤池。背中を向け、下がりながらこう返す。
「へーいへい。ま、せいぜいワシに壊されんようにな。」
そんな彼らを見て2年生達はやれやれ、という顔をする。そもそも人を見た目で判断してる時点で・・・
「あ、あの・・・いいですか?」
おっと忘れていた。最後に残った女子がおずおずと手を上げる。
「あ、うん、どうぞ。」
「小林 早苗(こばやし さなえ)です。あ、あの私、相撲は経験ないんですけど・・・その。」
自信なさそうにおずおず話す小林。いや、普通女子は経験ないでしょ、と全員が心でツッコむ。
「私、その、こんなだから・・・よくイジメられてしまって、だから・・・その・・・」
重っ!
赤池爆弾に続いてまたとんでもないのが来たものだ。確かに彼女はお世辞にも美人とはいえず
失礼ながら女子にしてはふとましい体格に自信の無さそうな目、いかにもイジメに会いそうなタイプだ。
が、その空気を払拭すべく彼女の前に飛んでいく人物ひとり。
「女子選手新入部員!ようこそいらっしゃいませーっ!」
柚子香が嬉々として小林の手を取り、ぶんぶん上下させる。初の同志を得た感激にはしゃいで続ける。
「うんうん、この部で強くなってそんな奴らぶん投げちゃえ!私が許す。」
いやそれはまずいだろう、と言いかけた皆の機先を制し、小林は続ける。
「え、いや・・・『お前には相撲部とかお似合いだ』とか言われて・・・それでその、やってみようかと。」
全員が真っ白に固まる。いやそれ絶対悪口だし、というかどこまでも重いよこの娘・・・
稽古初日。今日くらいはとりあえす軽く流す予定だったのだが・・・
「部長さんよ、一番胸貸しな。」
ぶつかり稽古の後、早速蛍に突っかかる赤池。どうも小さい上に女顔の蛍が部長であることが
気に入らないらしい。
「うん、いいよ、やろう。」
そのセリフにえっ?という顔をする柳沢と沼田。小林に至っては早くも顔を伏せ、泣きそうな顔をする。
どう見ても平和的な展開にはならなさそうな空気、初日から嫌な物を見る羽目に・・・
と、そんな3人の横にマネージャーの千鶴子が付き、語る。
「よく見ておきなさい、相撲っていうものがどういうものか解るわ、きっと。」
「手をついて!」
幸田の仕切りの元、向かい合って構える蛍と赤池。
「(ぶっ飛ばしたるよ)」
そう思い蛍を睨む。人相の悪さも相まって威圧感抜群だ。そんな彼にも蛍は憶する様子も無く
らんらんと光る眼光を返す。
「はっきよい!」
立ち合いと同時にかち上げを放つ赤池。ゴッ!という手ごたえはあったが、
蛍は跳ね上げられるどころか、逆に赤池の腕を頭で跳ね上げ、彼の下に潜りこむ。
-蛍火の如し・潜-
ぶちかましの軌道を下にずらし、相手の下に潜る蛍の新しい型。そのまま両下手を引きつけ
正中線を軸に体幹を固める。ぐぐっ、と力がこもる両者。
「ちっ!」
赤池は蛍の両手を抱えながら、体重を生かして寄りに出る。が、蛍の足が俵にかかった時から
蛍の抵抗が増し、それ以上押せない。
ならばと抱えていた右手を離し、そのまま右上手を引くと、強引な投げに出る・・・が!
「(う、動かん!)」
腕力には自信があった、だがこの小さな相手はまるで地面に根が生えたかの如くビクともしない。
「くそだらぁっ!」
片手では駄目だ、左手も放して両上手を取る。このまま吊り上げてやらぁっ!と体を反らす。
-ガチン-
「ぐっ!」
重い。吊れない、なんだコイツ!まるでアンカーで固定されているような蛍の重さに焦る。
その理由が左足から伝わってくる。蛍は赤池に『内掛け』、つまり右足を赤池の左足に絡めさせ
吊られるのを防いでいたのだ。
なんとか引っこ抜こうと力を込め続ける赤池だが、蛍の両下手の引きつけと足のロックで
微動だにさせない。
「だはっ!」
息を吐き出し、吊りを諦め蛍を下ろす赤池。くそっ、ここは一息ついて・・・
そう思った瞬間、自分の体は泳いでいた。組んでいた蛍の感触が消え、横から前方に引っ張られる。
-下手投げ『鬼車』-
出し投げ気味に下から横に脱出しながら放った投げは、そのまま赤池を一回転させる。
まさかの結果に固まる一年生とは対照的に、ニヤついた表情で結果に満足する2年生。
転がった赤池はしばし座ったまま呆然としていた。俺が負けた?こんなチビに?
「赤池君、手の内バレバレだったよ。」
「・・・はぁ?」
蛍が赤池の前にしゃがみ、今の一番を振り返る。
「ぶっ飛ばしてやろうと思ってかち上げ、体重軽いだろうと無理な寄り、
利き腕の上手を引いたから投げ、両マワシを引いたから吊り。あれじゃ全部正直すぎて、技の前に
何をするか告白してるようなもんだよ。」
「・・・」
呆然とする赤池。今のほんの20秒ほどのやり取りでどれだけ考え、深い読みを持って相撲してんだ、
やべぇ、この部めっちゃレベル高ぇ・・・
「性格が素直なのはいいけど、過ぎるとそれが欠点にもなるから覚えておくといいよ。」
そう言って礼をし、土俵を降りる蛍。
「三ツ橋部長、心読むのがマジ上手いもんな。」
「ピタリはまるとマジでエスパーかニュータイプかって思うもん。」
「諸岡先生もえらい仕込みしてくれたよなぁ・・・」
2年生達がそんな話をしている。そう、昨年秋の合宿以来、諸岡が蛍に仕込んだ
『心理戦』を応用した相撲、それは蛍に更なる強さをもたらしていた。
特に感情が表に出やすい相手、例えばこの赤池あたりにはこの戦法は面白い様にハマっていく。
「どう?」
千鶴子が一年にそう話す。当の3人はキラキラした目で自分たちの部長の強さに感動している。
戻ってきた赤池は、悔しそうな表情を見せながらも、強がる。
「くそ!次こそは勝つ・・・見とれよ!」
引き上げてくる蛍の正面に桐仁が立ち、真剣な表情で問う。
「どうだ、赤池は?」
タオルで汗を拭きながら、真剣な、そして複雑な表情で蛍が返す。
「強いよ、ヤバい位にね・・・」
恒例のイメージ絵ー。
コミックス19巻、163番「桐仁の3年」で「翌年のダチ高は~IHで結構いいところまで」のコマで
桐仁の右にいるのが赤池君、蛍の左で腕組みしてるのが沼田君、その左が柳沢君、
さらに左が小林さんです。
コミックス5巻35番で蛍に勝ってるのも沼田君です、どんだけ成長してんだよw