蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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総合評価100pt到達ありがとうございます!これからも頑張っていきます。


第25番 個性派集団

「さぁそこで!私をいじめっ子だと思ってぶん投げろーっ!」

土俵の上、小林と組み合った柚子香がそうハッパをかける。

「は、はい・・・んんーーーーっ!!」

 気合と共に時計回りに柚子香を振り回す小林。完全に足を浮かされ、メリーゴーランドのように

くるくる振り回される柚子香。

「ちょ、ちょっと、ひゃあぁぁぁぁぁーっ!」

 その悲鳴を聞いて、慌てて柚子香を下ろす小林。

「あ・・・すみません、手を放すタイミングが掴めなくて。」

 

「だはーっ!死ぬかと思った。っていうか小林さんめっちゃ力強いじゃん!」

「え、そう、なんですか?よく分からなくって・・・」

 試しに土俵の隅にあるダンベルを持たせてみると、何と20kgを軽々と持ち上げる小林。

何でも中学生の時には家計を助けるために引っ越しのアルバイトをやっていたらしい。

その怪力を体で経験し、柚子香は先日の彼女の言葉を思い出す。

(え、いや・・・『お前には相撲部とかお似合いだ』とか言われて・・・)

 アレ悪口じゃなくって、ただの好アドバイスだったんじゃ・・・

 

 

 そんな彼女とは対照的なのが、部室の隅で息も絶え絶えに座り込んでいる柳沢。

確かに初心者とは言っていたが、相撲に限らずスポーツそのものの経験が皆無らしく、

四股は10回でダウン、すり足は土俵半周でストップと、2年前の三ツ橋を上回る酷さだ。

 一見するとその小太りな体格は相撲に向いていそうだが、実際は食太りのようで

筋肉を伴っていない体重は、運動すれば必然的に負担となって彼の体に返ってくる。

 

「大丈夫?桐仁用の酸素スプレー使う?」

 そう声をかける蛍に、滝のような汗をかきながらなんとか首を振る柳沢。

「ホンマに、どんな人生送ってきたんやオノレは。」

 赤池が柳沢を見下ろしてそう言う。口の悪い彼が言っても悪口に聞こえない程、

柳沢の体力の無さは顕著だった。

 

 その質問に答えたのは意外にも、腕組みして見ていた諸岡顧問だ。

「あー、ちなみに彼は入試でぶっちぎりトップだったからね、こないだの全国模試でも

全国トップ10だったし。」

「ぶっ!」

「えええーっ!」

「マ、マジ・・・かよ。」

 驚く一同。特に模試で最低ラインだった赤池は柳沢を驚愕の視線で見る。

話を聞くに、彼は放課後や休日はポテチなど食べ、ジュース飲みながら参考書を解くのが

趣味かつ日常だったらしい。最後だけなんかおかしい、と全員が心の中でツッコむ。

 さすがに高校では何か運動しないとマズいと思った彼は、太ってる人がするイメージがあるのと

個人競技で自分が負けても他に迷惑が掛からない、という理由で相撲を選んだとのことだ。

 

 さすがに自分の認識の甘さを理解したらしく、皆の練習を隅で見ながら落ち込んでいる柳沢。

そんな彼の隣りにマネージャーの千鶴子が座り、柔らかい声で語る。

「ねぇ柳沢君、よかったらマネージャーやってみない?」

え?という表情の後に、顔を伏せて嘆く柳沢。

「やっぱ、選手は無理、ですよね、こんなんじゃ。」

そんな嘆きに、千鶴子は頭を振ってこう続ける。

「私もね、運動全然ダメだったの。でも相撲部のマネージャーになって、相撲の勉強を続けて、

相撲だけはけっこう出来るようになったの。柚子香にも勝った事あるんだよ。」

 顔を上げ、え?という顔をする柳沢。

「外から相撲を見てわかる事、多分いっぱいある。柳沢君は頭がいいから尚更だと思うの。

もちろん体も鍛えなきゃだけど、相撲そのものをよく知るのも大事よ、きっと。」

 

 千鶴子は柳沢にある種のシンパシーを感じていた。入部してからこっち周りは皆

(当然ながら)体育会系の人間ばかりで、知識で相撲を理解しようとする自分は何か違うと

感じていた。

 彼がもし自分と同じように、相撲を外から見て理解し、それを自分に応用したら

強くなるかもしれないと思ったのだ。何よりこのまま選手としてのみ続けていたら

彼は持たない、相撲を嫌いになるか諦めるかのどっちかになるだろうと思ったから。

 

 結果、柳沢はこの提案を受け入れ、選手兼マネージャーとして再スタートを切る事になる。

 

 

 -ゴロンッ-

 陽川の投げに転がる沼田。しかし受け身だけは奇麗に取り、そのまま笑顔で立ち上がる。

「いやぁ、すごい投げッスね。」

「いや、もうちょっと粘れただろ、お前。」

 陽川がそう返すのも無理はない。沼田は上背も体力もあり、なにより相撲歴が長いはずなんだが

肝心の根性というか闘志と言うか、そういう物が全然感じられなかった。

 申し合い稽古でも少しでも危なくなると、あっさりと土俵を割る、または今みたいに転がって

それでいて少しも悔しそうな表情を見せず、笑顔でヘラヘラ笑っているのだ。 

 

「・・・昔っからああなんだよな、アイツは。」

 桐仁が土俵外で蛍に話す。なんでも体が小さかったせいで小学生の時から大会でも

勝つことがほとんどなかったらしい。

そんな相撲生活が続いたせいで、背が伸びた今でも相撲自体がライフワークみたいに

なってしまっているようだ。

「何かキッカケがあれば、化けるような気がするんだがな。」

蛍もこくりと頷く。自分が火ノ丸さんに憧れたように、彼も何かモチベーションを上げる

材料があれば変われるかもしれない。

 

 

 週末、今日は月二回のちゃんこの日。相撲部とレスリング部の面々が準備にかかっている。

が、そんな中一際注目を集めているのが、調理場で大きなハマチを捌いている赤池だ。

その解体ショーに、大勢がほぉ~と感心して見入る。

「ウチの親父漁師で板前やけん、魚捌くんは慣れとんや。」

 

 彼の父は四国で自分で漁をした魚を使って小料理屋を営んでいたが、経営不振で

店をたたんだ後に、千葉の料亭に料理人としてスカウトされて引っ越して来たらしい。

 なんでもこのハマチも親父さんからの差し入れとの事、豪快かつ繊細な包丁さばきで

刺身にして皿に盛り付けていく、ツマまで奇麗に仕上げて。

 

(なるほどなぁ・・・)

 板前と漁師、どっちも過酷でかつ厳格な気骨ある世界。そんな中で揉まれた赤池が

こういう性格や、口の悪さを備えるのも無理はあるまい。

単に関西弁が気に障るだけのイキり君でもなかったようだ。

 

 

「「頂きます」」

 全員の唱和と共に、いつもより少し豪華なちゃんこタイムの開始。

赤池は柳沢に刺身を寄せつつ(今度勉強教っせて)と囁いている。分かりやすい男だ。

沼田は遠慮も無しにその刺身を次々と平らげる、取られてなるかと各人も殺到し

あっという間に空になっていく刺身皿。

 が、小林さんは相変わらず遠慮してほぼハシをつけない、彼女に赤池や沼田の図々しさが

半分でもあれば、あの怪力を生かして女子相撲界の星になれる可能性もあるんだが・・・

 

 そんな新入生の様子を観察していた蛍と桐仁は、顧問の諸岡にちょいちょい、と手招きされる。

席を立って部室の隅で相談する3人。

「本当に、いいんだね。」

その諸岡の言葉にこくりと頷く蛍と桐仁、目には厳しそうな表情を、決意と共に浮かべて。

 

 そして3人はちゃんこ真っ最中の部員たちに向き直り、諸岡がこう切り出す。

 

「ちょっと相撲部の皆に話がある・・・」

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