蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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下克上。それは主人公だけの特権ではない。


第28番 西上高校と大太刀高校

「横の動きスゴイな・・・」

 D土俵の勝者を決める、いわば準々決勝の前。ダチ高相撲部は対戦相手、西上高校の

ここまでの取組の動画を眺め、一様に同じ感想を持つ。

 彼らの相撲はとにかく回り込む。相手の側面、そして背後に向かってひたすら円を描き、

最終的には後ろを取って勝つ、そんなスタイルが徹底されていた。

 西上の選手は全員が170cm前後、体重も70kg程度。確かにそんな彼らが勝ち上がるには、

こんな亜流の相撲を取らざるを得ないだろう。

 

「レスリングの動きに似ている。が、ソレと違ってちゃんとすり足で動けている、

相当稽古してこの動きを身につけたのだろうね。」

 諸岡顧問が腕組みして感心する。レスリングでよくある『バックを取る動き』を

相撲のルール、相撲の足さばきで行えていることに感心する。

 

 普通に考えれば相手の周りをまわる選手より、それに対応して体の向きを変える相手のほうが

早いと思うだろう。だが相撲は基本押し合う競技、どうしても前に前にと出てしまう。

そのタイミングを見極めて躱し、時には出し投げや蹴返しなどを混ぜて意識をそっちに振り

それでも追いついてくる相手に対しては切り返して逆方向に回り込む、いわば『円』の相撲で

県内の重量級選手を次々と餌食にしてきた。

 もちろんドンピシャ胸を合わされた場合は成す術なく寄り切られていた。ここまでも

ほぼ全試合2-1の僅差で勝ち上がってきている、回り込めれば勝ち、捕まれば負けで徹底していた。

 

「速い動きに対応できるオーダーが理想だね。というわけで先鋒幸田君、副将沼田君、

大将は陽川君で行こう!」

 蛍の提案に全員が頷く。実はこの西上の戦法、蛍の相撲にかなり似たところがある。

巨漢の大峰や松本は稽古でもこの戦法の蛍に不覚を取る事があり、相性的に良くない傾向がある。

まして大峰・松本はここまで3試合連続で出場しており、疲労も結構溜まっていた。

 準決勝以降に戦力を温存しつつ相手に対応したオーダーは、現時点で正解の判断と言えるだろう。

 

 -東、西上高校、高橋君。西、大太刀高校、幸田君-

 呼び出しを受け、先鋒二人が土俵に上がる。ぶちかましを得意とする幸田は入学以来、

変化を得意とする蛍とずっとペア特訓を続けており、横の動きに対応する能力はピカ1だ。

捕まえてしまえば桐仁直伝の投げで仕留められるだろう、そんな楽観的な見方があった。

 

 -手をついて-

 助走距離を取る幸田に対し、体をやや起こした『狛犬型仕切り』で相対する高橋。

ここまでもずっと使ってきた、左右の動きに移行するには最適の仕切りの形。

 

 -はっきよい!-

 立ち合いと同時に、バチィン!と音を立てて激突する両者。

「何っ!?」

 意外にも高橋は真っ向からぶちかましを仕掛けてきた。それどころか当たり負け気味で

幸田に押されても横に動こうとはしない。

「(なら、このまま押し切る!)」

一気に土俵際まで押し込む幸田。と、高橋は押されながら右手で幸田のハズ(脇)を取り、

左手で幸田の下手を抱え込む。

 

 次の瞬間、高橋は上半身を捻り、突進する幸田の上半身を回転させる。そしてハズをさし上げて

体を抜くとそのまま幸田を空中で転がす、もんどりうって土俵下に転がり落ちる幸田。

 

 -東、高橋君の勝ち!-

 予想もしない結果にダチ高メンバーは固まっていた。1.2年生が『何だ今のは?』という顔をする中、

3年の蛍と桐仁、千鶴子は『知っている』技に驚愕する。

 

 -頭捻り『渦切』-

 2年前の全国大会、団体戦決勝で桐仁が澤井を破った技、柔道で言う空気投げ『隅返し』に近い

極めて難易度の高い、相手の突進力を利用した投げ技。

いかに幸田が突進力のある選手とはいえ、ぶっつけ本番で出来る技ではない。この状況も想定して

身につけていたと言うのか、いや、それにしても・・・

 

「まさか!」

桐仁が呟く。そうだ、なんで気付かなかったんだ。この頭捻り、狛犬型仕切り、そして横に動く

『レスリング』のような相撲、これは・・・

 

 

 勝った高橋は仲間に拍手で迎えられる。その中央で西上の監督、飯田が満足そうに笑顔を見せ

そして邂逅する。2年前、自分が西上の相撲部顧問に就任した時の事を。

 

 

『大太刀に続け!』

 部室に入った途端、目につくようにでかでかと張られた紙に書いた文字。

大太刀高校と言えば、昨年日本一に輝いた学校である。西上を弱小校と聞いていた飯田には

そのピンポイントな、そしてどこか的外れなスローガンの意味が分からなかった。

 話を聞くに、ダチ高は以前からウチとよく合同稽古をしていた仲である事、一昨年までは

西上と変わらないレベルで、しかも部員が一人だけという有様だったという事実。

その大太刀があそこまで強くなったのだから自分たちも、との意思を込めての張り紙らしい。

 

 そんな部員に対し、飯田は頭を振って呆れてみせた。

「同じ千葉県内の学校だろう、彼らは敵であり、先人ではないぞ。」

強くなる、とはそういう事ではない。彼らに憧れるだけでは決して彼らには勝てない、

勝ちたいなら彼らの上をいかなければならない、と。

 

 とはいえ気持ちは分からなくもない。弱小校だった大太刀のサクセスストーリーは

彼らの心に大きく響いただろう。だが西上は大太刀ではない、レスリング王者もいなければ

国宝が入学するような学校でもない、強くなるのはあくまでも自分たちでなくてはならないのだ。

 

 だがそのためには、彼らの『体』は貧弱すぎた。3年も1.2年も皆、相撲に向いた体格ではなく

進学校である西上において『技』を鍛える土壌も無い。小学生の稽古相手に指名され、それを

実力相応と仕方なく受け入れる彼らは格闘技者としての『心』すら備わっていなかった。

 

 飯田は一念発揮する。かつて大学相撲で鳴らした自分なら『技』は教えることが出来る、

『体』を鍛える為、実費でトレーニング機器も購入した。だが肝心の『心』だけは

生徒たちが自分から燃やさない限りどうにもならなかった。

 そこで彼は2年越しの計画を立てる、1年目は奇をてらわずに正攻法の相撲を仕込んだ。

厳しい練習に耐え昨年よりは強くなった。が、所詮は急造、2回戦を突破することは

叶わなかった。しかも彼らを負かしたのは、かつて憧れていた大太刀高校。

 

 夏が終わり、代替わりした西上高校。その部室には『大太刀を倒せ!』の張り紙が

デカデカと張られていたのだ。敗北の悔しさが育てた彼らの『心』に飯田監督はほくそ笑んだ。

 

 そして彼は小兵の生徒たちにかつて憧れていたダチ高の相撲を教える。全国を取った時の

ダチ高は決して大きくなく、そんな彼らの相撲は今の西上を強くするための格好の教科書だった。

国崎のレスリングの動きを相撲にアレンジし、全員の基本スタイルに取り入れる。

 辻選手の切れ味鋭い投げ、五條選手の強烈な突き押し、小関選手の粘り腰、いずれも今の

生徒達には習得は難しいだろう。だが不可能ではない、彼らを上回りたいという『心』があれば

『技』はそれに引っ張られて身につくものだ。十全ではなくてもいい、それが武器になり、

そして勝利を呼ぶものであれば!

 

 

「ついに大太刀に一矢報いたな!」

 その飯田監督の声に威勢よく返す高橋。

「一矢じゃたりません、俺たちが勝ちます!!」

全員が大きく頷く。その態度に笑みをたたえた顔で副将、葉山に檄を飛ばす飯田。

 

「よし、葉山、決めてこい!!」

「ハイ!」

 

 

「頼むぞ沼田、俺まで回してくれよ!」

陽川が沼田の背中を両手で叩きながらそう激励する。が、肝心の沼田は自分が負ければ

ダチ高の敗退が決まる、そんな責任のかかる勝負に重圧を感じてるのがはた目にも分かる。

「まずいな・・・変えるか?」

桐仁が蛍に提案する。今の沼田では勝ち目は薄い、松本か大峰を出したほうがまだ

マシかも知れない。が、蛍はそれを否定する。

「それをやったら沼田君が育たないよ、ここはバタバタせずに信じて行こう!」

 そんな会話をするふたりに、背中から声をかけてきたのは柳沢だった。

 

「あの・・・西上の戦法に対処する方法があるんですが・・・」

 




1話で納めるはずが長くなってしまった・・・書いてると西上に感情移入してしまうんだよなぁ
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