午前の部が終わり、ついにベスト4が出そろった、いよいよ準決勝!
第一試合 石神-常磐第三
第二試合 川人ー大太刀
ここからは土俵を1面に絞っての試合である。
西側のダチ高は西側、常磐第三の後ろに陣取り、試合を待つ。
-先鋒、東、石神高校、荒木。西、常磐第三、岩野-
東西から土俵に上がる両選手。常磐の岩野は2m近い体躯に150kgの重量を乗せた巨漢選手。
ただ、それでも荒木と相対すると、見る者にとって有利には移らない。
荒木の持つその肉体、鎧のような筋肉に加え、身にまとうその格闘技者のオーラが
対峙する相手を圧倒する未来を想像させる。
-はっきよい-
勝負は一方的だった。荒木はその懐に深々と潜り込むと、両下手を引いて一気の寄りで
ケリをつけた、寄り切られた体勢で呆然とする岩野。
ここまで相手を呼び込んでの投げに終始していた荒木、その情報をマネージャーから聞いていた
岩野にとってはまさかの負け方だった。
「あの荒木が電車道?ここまで見せなかったな。」
「むしろ、だからだよ。相手も一気に来るとは思わなかったんだろう。」
大峰の言葉に桐仁が答える。勝負が一瞬の相撲にとって、相手がこうしてくるだろうという
思い込みは禁物だ。昨年のIHの個人戦では蛍もそれを経験している、あの荒木にまさかの
変化負けを喫したことを鮮明に思い出す。
副将戦、今度は常磐第三の清水が石神の三宅を圧倒する。やはり今年の石神は今のところ
両エースに比して他が今一つなのかと思われたが、それでもまだ1年生の清水の強さは
会場を驚かせた。
「強敵出現だね。」
そう赤池と柳沢に語る蛍。これから3年間、彼らはライバルとして戦っていかなければ
ならない相手。
「おう、こいやこいや、望むところやで。」
強気の赤池と、緊張しながらもこくり頷く柳沢。選手スペースでいる沼田に至っては
今日いきなり清水と戦う可能性すらある。
ただ、それは限りなくゼロに近い可能性ではあるが。
-大将戦。東、沙田君。西、下山君-
決勝進出をかけて両選手が土俵に上がる、両校の応援団から檄が飛ぶ。
「「行け行け石高!おせおせ石高!」」
「「リンちゃーん、頑張れーっ!」」
男子校の石神と進学校の常磐第三、毛色の違う応援ではあるが、会場は否応なしに盛り上がる。
-手をついて-
睨み合う両者。沙田は無論の事だが、対する下山も負けるつもりはない、例え相手が『国宝』だろうと。
今年はいい1年が大勢入った、ならば主将の俺が一念発揮しないわけにはいかない、
大物を食って一気に全国へ行く!
-はっきよい!-
立ち合いと同時にかち上げを放つ下山。が、それを読んでいた沙田はヒジでガードすると
キレのある張り手で攻勢に出る。そして下山が張り返すタイミングで捌き、組み付きに行く。
下手を引こうとする下山の腕をおっつけて殺し前に出る、沙田の必勝パターン。
「(くそが!そうそう思い通りにさせっか!)」
下山はおっつけられてる右腕を上にあげて外し、そのまま背中越しにマワシを掴もうとする。
それを察した沙田は即座に体を回し、左下手投げに出る。得意の『下弦の月』!
「ぐっ!」
左足を前に出して踏ん張り残す下山。チームとしても成長を続ける常磐第三では、当然沙田の
相撲の研究と対策も行っている、出し投げも想定内だ、と体を返し再度腰を割る。
「(へぇ・・・いいね、いい殺気だ。)」
その粘りにほくそ笑む沙田。やはり相撲はこうでなくっちゃいけない、本気の殺気をぶつけ合う
場所でなければ・・・
-ゴツゥン-
沙田の思考を、下山の素首落としが中断させる。さきほど上から回していた右腕をここぞとばかり
相手の首根っこに叩きつけたのだ。
「(上等!)」
両下手を引いている沙田は素首落としなどお構いなしに両下手を引きつけ、寄る。
強烈な打撃なら喰らい慣れている、潮君、天王寺さん、そして日景、今さらこの程度で
僕がどうこうなるか!
土俵際まで下山を追い詰めた沙田は、そこから驚異の投げ技を披露する。両下手を捕らえたまま
右手で投げ、左手で捻り、そして足で躱し(出し)投げを打つ。
-3点式出し投げ『月輪(がちりん)』-
自らの出し投げと、あの鬼丸の『百鬼薙』を融合させたような技。それは下山の巨体を振り回し
半回転して土俵の外に問答無用で放り出す。
-東、沙田君の勝ち-
思っていたよりずっと激戦だったが、やはり決勝にコマを進めたのは石神だった。
土俵下に放り出され、文字通り土にまみれた下山であったが、潔く一礼して仲間の元へ。
主将として、3年生として、常磐第三の代表として、負けてもなお堂々とした態度で
夏に再起を誓う-
「先鋒大峰君、副将松本君、大将陽川君で行く、いいね!」
「ハイ!」
試合前、大太刀の準決勝の相手が川人に決まった時、蛍は選手にオーダーを伝える。
「このオーダー、意味は分かってるな。」
桐仁の言葉にうなずく選手たち。
川人はここまで先鋒と副将に大型選手を置き、大将は必ず大河内を配置してきた。
おそらく準決勝でもそれは変わらないだろう。
「真っ向勝負、ですね。」
松本の言葉に蛍と桐仁が揃って頷く。先鋒と副将の大型選手にはこちらも巨漢二人を当て
大将の大河内には体格や相撲の似た陽川をぶつける。
つまりダチ高と川人の小細工抜き、正面切っての力比べだ。
決勝の事など考えない、昨年の轍は踏まない、ここで全部出し切る、その意思を込めての
真っ向勝負!
-準決勝第二試合、東、川人高校。西、大太刀高校-
一昨年のIH(インターハイ)全国王者と、昨年春の千葉県覇者の一戦。両校の応援団はもちろん、
石神も、夏にリベンジを誓う各校の選手も、土俵に熱い視線を送る。
-東、佐々木君。西、大峰君-
大峰の相手は昨年のIH予選で松本と対戦して敗れた佐々木だ。借りを返すべく今度は
もう一人の巨漢、大峰と対峙する。
-はっきよい-
勝負は激しく、そして長引く。お互い得意の組み方が逆の『ケンカ四つ』、しかもどちらも
攻撃的な攻めの相撲。突っ張り合いから始まり、組んでからの巻き替え、そのスキに寄り、
投げで体を入れ替え、押し合い、吊り合う、重量級二人の激しい相撲に会場が沸く。
やがて土俵中央で両者が組み合ったまま動きを止める。二人とも呼吸は激しく乱れ、
それでも握るマワシには力がこもる。
「ぬぉらあーっ!」
有利な右四つで組んでいた大峰が意を決して寄る。一気に土俵際まで追い詰めるが、そこまでに
佐々木は巻き替えに成功し、自分の得意な左四つに体勢を変えていた。
俵に足をかけ、ふんばる佐々木。ここが勝負所と意を決し、寄り切ろうとする大峰。
「ぐおぉぉーーっ!」
佐々木が吼えた。と同時に大峰の巨体を完全に吊り上げる。そのまま体を半回転し、横から
大峰を吊り出そうとするが、疲労で腕の力が尽き、大峰を土俵に下ろす。
だが、大峰の右足は俵の外にあった。
-東、佐々木君の勝ち-
勝ち名乗りを受けても二人はすぐには立てない。疲労と過呼吸と大汗を体にまといながら
やっとのことでふらついて土俵を降りる、まさに大相撲だった。
「まずは川人が先制、か。」
客席で沙田がそう漏らす。それを聞いた荒木はこう付け足した。
「この長い勝負で競り勝ったら、流れはソッチに行く。熱戦っていうのはそういうモンだ。」
「す、スマン・・・松本、頼む・・・」
未だ息を切らしながら大峰が返ってくる。入れ替わりに行く松本は任せろ、と一言告げて
呼び出しを待つ。
-副将戦。東、湊(みなと)君、西、松本君-