蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第32番 がんばれ1年生

 春の団体戦に続き、今年もやってきた関東新人戦。

関東各県が持ち回りで開催しているこの大会、今年は地元千葉県が開催地という事もあり

ダチ高メンバー全員が一年生の活躍を見ようと応援に来ている。

さぁ、赤池、柳沢のデビュー戦、および沼田の奮闘はいかに?

 

「おい、見ろよ、大太刀だぜ。おととし全国制覇の。」

「昨年優勝の松本もいるぞ、隣りは大峰か、っていうかでけぇなー。」

 やはり強豪の一角と見られているのか、今年も注目度はかなり高い。

なんとなく誇らしげに思う2,3年生とは裏腹に、1年生の3人はそれが無言のプレッシャーとなって

肌を刺す。

 

 自陣のテントに荷物を置き、各土俵に移動しようかと思ったその時、蛍は背後から

声をかけられる。

「おー、来たなダチ高、久しぶり。」

「あ・・・狩谷君!」

 すでにマワシ姿の巨漢たちの先頭にいたのは、相撲の名門、埼玉県栄華大付属の3年生、狩谷俊。

昨年秋の合宿で胸を合わせた国宝『小龍景光』。

 

「お久しぶりです。そうそう、世界大会優勝おめでとうございます。」

「ああ、サンキュな、お前らとの稽古がいいリハーサルになったよ。」

 彼は昨年秋、ヨーロッパで開催された相撲の世界選手権に軽量級として出場し、見事表彰台の

中央に上がって見せた。

 だが、そんな彼も今は試合出場がめっきり減っている。その原因は彼の右手に握られている

杖と、それでもやや引きずっている足取りが全てを物語っていた。

 蛍も、桐仁も、他の合宿で顔を見知った面々も事情を察して何も言わない

が、気を使わせまいとしたのか、狩谷自身がその話題を振ってくる。

 

「ウチは春の全国なんだが、あいにく俺はこのザマでね、1年生の引率ってワケさ。」

杖を掲げてそう語る狩谷。その一言に驚くダチ高1年。

「え・・・うしろ全員1年、なんスか?」

 狩谷に続く5人の巨漢を見て沼田がそうこぼす。相撲の名門だけあって、毎年関東中から

プロ志望の生徒が集まってくる栄大付属。今年の1年もツブ揃いのようだ。

 

「ダチ高と栄大の組み合わせかよ。」

そう言って横から会話に加わるモヒカンヘアーの男。ジャージの胸には『常磐第三』の文字。

「あ、常磐第三の下山選手。君も一年生の引率?」

まぁな、と蛍を一瞥してから狩谷を見る下山。

「見た顔だな・・・」

「知らねぇよ。」

そっけなく返す狩谷。その反応に常磐の一年生が険しい顔をし、栄大の面々と睨み合う。

 

「まぁまぁ、2年前にこの大会で鬼丸に負けた者同士、仲良くすれば?」

桐仁の挑発に両校の視線が大太刀に刺さる。栄大と常磐の1年生が敵意剥き出しでダチ高を睨む。

蛍は沼田と柳沢の背中をぽん、と叩いて指示を出す。

「気持ちでで負けちゃダメだよ、睨み返して!」

 桐仁の意図を受け、蛍がふたりをけしかける。相撲は格闘技、相手に飲まれるようでは勝ちはない、

敵意を受け止め、ぶつけるのは勝負以前の問題だ。

 もちろん赤池にはそのアドバイスは無用で、既に両校の1年にガンを飛ばしまくっている。

 

「君達、今からそんなに入れ込んで大丈夫かい?」

事態をややこしくしに現れたのは川人の大河内だ。春の団体戦で敗れた陽川が厳しい顔つきになる。

「まぁウチの1年は間違いなくこの大会を獲るだろうね、君達には気の毒だけど。」

メガネをくいっ、と上げながら、相変わらずの自信家ぶりを披露する大河内。

「春の決勝戦、残念でしたねぇ。」

桐仁がメガネの繋ぎ部分を抑えてそう返す。春の大会県予選決勝、川人は石神に2-1で敗れ

惜しくも連覇はならなかった。

「なに、夏に借りは返すよ。」

「そいつは俺らのセリフだぜ。」

「こっちも負けませんよ!」

下山と蛍が会話に加わる、激しい眼光を散らす千葉県強豪3高の主将。

 

「まぁまぁ県予選落ちの皆さん、仲良くしろや。」

狩谷がにかっ、と歯を見せながら3人を、いや3高を挑発する。また一段と空気が固まり

十字に隊列を組んだ4高の1年が激しく視線を交錯させる。

 もっとも各高の3年がこうも対決を煽るのは、これから戦う1年の空気を暖気させる

狙いがあるようだが、効果はてきめんだった。

 

「んじゃな。」

「行くぞ!」

「では、また」

3人の引率に連れられて各校が解散し、自陣のテントに戻っていく。

 

「ふぅ・・・試合前から疲れるよ全く。」

 沼田がげんなりした表情でこぼす。柳沢に至ってはへなへなとその場にへたり込む、顔中脂汗だらけだ。

マネージャーの千鶴子がノートをぱらぱらめくってデータを調べる。

「常磐第三は昨年全中のベスト8が2人、栄大は3人います、要注意ですね。」

 有望な新人が集まる栄大は言わずもがな、常磐第三も近年相撲には力を入れている。

川人の新人の実力は未知数だが、ダチ高1年にとって楽な戦いにはならなさそうだ。

 

「まずは柳沢君ですね、A土俵の3試合目です。相手は・・・あらら、川人高の選手ですね。」

 

 -東、大太刀、柳沢。西、川人、喜多-

 呼び出しを受けて両者が土俵に上がる。相手の喜多は・・・小さい、細い、そして筋肉が目立たない。

どうみても相撲を取るタイプには見えない、太ってる分むしろ柳沢の方が強そうにすら見える。

 よし!と心の中でガッツポーズするダチ高の面々。この春の新人戦、中には柳沢同様明らかに

相撲初心者の選手も混じって存在している。同じく初心者の柳沢にとって『当たり』を引いたようだ。

 連日の稽古で、なんとかぶつかり稽古で3人までは押し出せるようになった柳沢。

引きに落ちないように体重を浴びせて寄り切るという唯一の勝ちパターンが通用するかどうか・・・

 

 -はっきよい-

 正面からぶつかる両者。柳沢は練習通りに慎重に両マワシを引くと、やや前のめりになって

ずるずると喜多を押し込んでいく。いいぞ、稽古の成果が出てる、行け!

 土俵際まで到着し、俵に足をかけて残す相手に体重を浴びせる。両者の上半身が浮き上がり、

腕が伸びきったことで柳沢の掴んでいたマワシがするっ、と切れる。

 

 ここから喜多の逆襲、マワシが切れたことで再び腰が据わり、逆に両マワシを引いた喜多が

逆に柳沢を土俵の反対側まで押し返す。

 

「アカン・・・力尽きとるわ真のヤツ。」

 赤池が嘆く。まだ決着はついてないのに、すでに精魂尽き果てた表情の柳沢。

視界から遠ざかっていく俵が、彼にはまるで運動会のゴールテープが遠ざかっていくように

見えていた。

 

 -寄り切って、西、喜多の勝ち-

 呼吸も絶え絶えに土俵を降りる柳沢。反対側ではやはりバテバテの喜多が、大河内はじめ

川人のチームメイトから手洗い祝福を受けている。

「勝ちやがったよコイツ!」

「俺らより先に1勝かよ!やったなオイ。」

 その激励から察するに、喜多もまた見た目通りの初心者だったのだろう。公式戦初勝利という

金星を見事挙げた喜多と、大魚を逃した柳沢の表情が対照的だった。

「すいま、せん・・・あと、少し、だったのに・・・」

息も絶え絶えに柳沢が謝罪する。大太刀の1年生として不甲斐ない相撲を取ってしまった。

 

「僕のデビュー戦は1秒で負けたよ。これからこれから。」

 蛍のフォローに柳沢は、え?という表情。桐仁がそうそう、そうだったなと肯定すると

本当に?という表情で蛍を見る。相撲部部長、並み居る巨漢に対して小兵ながら引けを

取ない戦いをする、この三ツ橋部長が・・・1秒で?

 

「さぁ、見るのも稽古だよ。自分が相撲を取っているつもりで、他の試合をよく見よう。」

そう柳沢を励ます蛍。ふと、それが誰かの受け売りだった事を思い出す。

「(ああ、僕の時も小関部長に同じようなこと言われたっけ・・・強くなるといいな、柳沢君。)」

 

 -東、栄大付属、久我。西、大太刀、沼田-

 皮肉にも大太刀の3人は全員がA土俵での1回戦。移動しなくていいのは幸いだが、どうも

このブロックは強豪選手がひしめいている気がしてならない。

相手の久我はダチ高の松本に匹敵する大型選手、こちらのアドバンテージといえば、沼田はすでに

公式戦を経験しているという事。さてどうなる?

 

 -はっきよい-

 久我は強かった。当たった瞬間に沼田の勝つ気をぽっきりと折るほどに。

電車道で一気に寄ると、そのまま沼田を腹に乗せて吊り上げ、あっけなく土俵を割らせる。

 

 栄大のレギュラーは今、春の全国に行ってるハズなんだが・・・戦力外でこの強さとは。

土俵を降りる久我を迎える狩谷はじめ栄大の選手も、拍手はするものの『当然だ』という表情。

どうやら部内でも強さは折り紙付きのようだ。

 一方で沼田は「いやぁ、めっちゃ強いッスねぇ、あいつ。」と笑って頭を掻く。

そんな彼に、もっと悔しがれよと説教する2年生の面々。

 

「次はワイやな!」

 そう言って顔と言わず体と言わず叩きまくって気合を入れる赤池。

高校で、そして関東での公式戦初勝利に向かって意気上がる、叩いた自分の体があちこち

赤く火照るほどに。

「赤池と沼田の性格を足して二等分できないものかなぁ・・・」

桐仁が嘆く。実力伯仲の二人だが、性格があまりにも対照的で困る。さてさて・・・」

 

 -東、常磐第三、清水。西、大太刀、赤池-

 クジ運が悪いのはダチ高の伝統なのか、赤池の相手は春の団体でレギュラーとして活躍し

準決勝で石神の三宅をも圧倒してみせた清水。

 それでも臆することなく対峙する赤池のその勝ち気な性格は、確かに沼田に見習わせたいものだ。

 

 -はっきよい-

 両者がぶつかる。激しい差し手争いの末、先に両マワシを引いたのは赤池の方だ。

得意の形が出来た彼は一気に寄る、土俵際まで来たら今度は吊り合いだ。お互いがっぷり四つのまま

歯を食いしばり、真っ赤になって相手を持ち上げようとする。

「ふごおぉぉぉっ!」

「ん~~~があぁぁぁ!」

重量級同士の力の入った吊り合い、その勝敗を左右したのは両者の身長差だった。

赤池は太ってはいるが身長は175cm、相手より低い分重心も下にある、吊り合いでは彼に分があった。

「ぬごおぉぉっ!!」

 気合一閃、清水を高々と持ち上げ、土俵外に運び、降ろす。決着だ!

 

 -東、清水君の勝ち-

「ぬあ?」

 その声に行司を睨む赤池。と、行司は赤池の足元を指差す。

「・・・あ、しもた。」

 赤池の左足が俵の外に出ている、なんとなんと決まり手『勇み足』。

 

 

 頭を抱えるダチ高の面々。確かに彼に沼田の冷静さがあれば土俵の境も見えていただろうに・・・

 

 

 こうして今年のダチ高1年生の新人戦は、全員1回戦敗退という屈辱の結果で終わった。

 

 

 清水を迎える下山が、観客席で見ていた狩谷が、大河内が、同じ感想を漏らす。

『今年のダチ高1年はハズレ年だな・・・2年後はウチの天下が来るぜ!』と。

 

 

 彼らは知らない。2年後のダチ高が高校相撲に大いなる旋風を巻き起こすことを。




次回、まさかまさかの展開に!
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