蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第34番 男子の悩み、女子の悩み

-1人負け確の奴がいるからなぁ-

 

   -数合わせにしたってもうすこしマシなのはいなかったのかね-

 

『ろくにスポーツ経験もないんだろ、おこがましいと思わねぇ?』

 

           -頼りねぇなぁ-

 

  「何だよ、変化なんて汚ねぇマネしたのに前も勝てなかったの?」

 

『気の毒にな、なまじ仲間が強いせいでこんな場違いなところに放り込まれてよ』

 

               -ダメだよ変化なんて汚い真似は-

 

    「勝てなきゃ結局、無意味」

 

『ハッハッハッ、結局最後まで勝てねぇんじゃねーか、ホタル』

 

              -いてもいなくても一緒、何もしてないのと一緒だ-

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 -がばぁっ!-

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・」

 

 動機が止まない。脂汗が頬を伝う・・・熱く、冷たい汗が。

「(また・・・あの夢)」

 

 宿舎代わりに使っているオープン前の海の家、その雑魚寝スペース。

仲間の寝息やイビキが響く中、蛍が悪夢に飛び起きたのは夜中の2:00。

 

 ふぅ、とため息をつく。そういや、今日はロクに稽古をしなかったもんな・・・

合宿初日、海の掃除と海水浴で久々に本格的な稽古から離れられた日。

そう、相撲をしなかった日に限って見る夢、後悔の記憶、消せない過去-

 

 熱帯夜の熱さと、夢で見た冷や汗が混じって気持ち悪い。うなされて皆を

起こさなかったことにほっとしつつ、布団から起き上がり、部屋の外へ。

 

「・・・三ツ橋部長、どこ行くんです?」

 そう声をかけてきたのは幸田だった。

「あ、起こしちゃった?ごめん。」

「いいッスよ、俺も大峰のイビキうるさくて眠れなくって・・・」

うん、ちょっと水分補給に、と言うと俺も行きます、と起き出してくる。

 

 -パシュッ-

 自販機でジュースを買い、その栓を抜いて喉を潤す。

部屋の中は蒸し熱いが、外は海風が心地よく吹いて、幾分気分が落ち着く。

 

「なんかうなされてたみたいですけど、何かあったんスか?」

「うん、ちょっと夢で嫌なことを思い出してね・・・」

そう返す蛍に、幸田は心配げに聞く。

「ひょっとして、春の部内戦のコトっすか?」

 昨日聞いた合宿スケジュール、明後日の、いやもう明日か。インターハイ出場選手を決める部内戦、

それを聞いたから、春に負けて大会に出られなかったことがプレッシャーになっているのでは、と

推察したらしい。

 

「ううん、そうじゃないよ。もっと昔の話。」

 幸田は知らない。元々ラグビー選手だった彼は、一年半前の入部当時、ダチ高が全国制覇した事すら

知らなかった。その中で蛍がどういうポジションだったのか、公式戦の成績も含めて。

「なんだ・・・ちょっとホッとしましたよ。俺たちが部内戦に勝ったのを気に病んでるかと思って。」

 

 春の部内戦、蛍と桐仁は下級生に負け、出場枠に入れなかった。それだけならまだしも

下級生たちが彼らに取った戦法は、徹底したふたりの『弱点狙い』だった。

桐仁には徹底した持久戦を、蛍には変化を封じる相撲を。それは下級生が2人の実力を

認めていればこそであったが、それでも3年生の出番を潰し、なおかつ目標であった

全国に行けなかったことを幸田は申し訳なく思っていた。

 

「それは無いよ、だって明日は僕も桐仁も勝つから。もちろん君にもね。」

「お、言いますねぇ。」

 変化の三ツ橋、突進の幸田。ここ2年ずっとペア特訓で胸を合わせ続けてきた2人、

だが2人は意外に、お互いの事を知らなかった。

 

「そう言えばラグビーやってたんだったね、どうして高校では相撲を?」

その蛍の質問に、あ、という顔をして、ため息をひとつ吐く幸田。

「個人競技やりたかったんスよ、しがらみの無い、自分だけの競技。」

そう言って、皆が雑魚寝する部屋を見る。

「なのに不思議なもんですね、やっぱり仲間がいて、一緒に全国を目指してる。部内戦なんて

しがらみも込みでね。」

 そう自重気味に語る幸田の顔を見て蛍は思う、何かあったのかな、と。

「中学の時の事、聞いていいかな?」

「・・・いいですよ。」

 

 幸田 純一

彼には親友がいた。運動神経は彼よりはるかに劣っていたが、よく一緒に遊び、学んだ友人。

中学に入学した時、彼はラグビー部に入り、その友人も誘った。幸田は持ち前の足の速さで

2年生からレギュラーを務めたが、その友人は3年になっても補欠で、試合に出ることは無かった。

 

「努力はしてたんスよ、アイツも。」

 そんな彼にも晴れ舞台を、試合出場を経験させてやりたかった。そしてそれは普通に実現する

ハズだった。

 元々彼の中学のラグビー部は、さほど強豪というわけでもない、公式戦最後の試合には

3年生は思い出作りにと、入れ代わり立ち代わり全員出るのが毎年の恒例だった。

そして最後の大会の3回戦、相手は県下有数の強豪中学。ここが彼らの最後の試合になると思われていた。

 

「相手のエースが前の試合でケガしてて、思いがけず接戦になっちゃったんです。」

先制トライを挙げ、その直後返される。リードしては追いつかれるの展開で、チームは欲を出した。

これなら番狂わせで勝てるのでは、そんな状況がベストメンバーからの交代を許さなかったのだ。

これで勝てれば次の試合がある、いや、ひょっとしたら全国に・・・と。

 

「負けたんだ。」

蛍の言葉にこくり頷く幸田。

「ノーサイド(試合終了)の直前にトライ決められて、キックも入れられて。その試合で

そこまでずっと得点リードしてたんですけどね、初めて逆転されたんです、試合終了と同時に。」

 

 選手たちは泣かなかった。いや、泣けなかった。元々勝てるとは思っていなかった試合だ。

泣いていたのは彼の友人だった。3年間ひたすら努力を重ねてきた、ようやく晴れ舞台が

来るはずだった。だが非情にもその日、彼がフィールドを駆けることは無かった。

 

「すごく申し訳なかったって言うか、やり切れなかったですね。アイツの3年を無駄に

しちまったような気がして・・・」

 

「それは、違うと思うよ。」

「え?」

「その友達は、レギュラーより劣っていたんだよね。」

「ま、まぁ。」

「それでその友達が出場してて、勝てるかもしれない試合を壊していたら、きっと彼はもっと後悔する。」

「あ・・・」

 

その言葉に、幸田は反論することが出来なかった。

 

 蛍はその友人に自分を重ねる。分不相応の舞台に出て、ひたすら足を引っ張り続けた2年前の自分。

そのダチ高が全国制覇した事で、自分はなお傷付いた。皆が活躍する中、自分だけが全国の舞台で

負けという恥をさらし続けてきたから。

 でも、もしダチ高が負けていたら、それは取りも直さず自分の責任だ。5戦で3勝が勝ちの条件なら

自分の1敗でチームが負けたら当然己の責任になる。

もしそうなっていたら、多分今とは違う後悔を蛍は抱えていただろう。

 

「で、その友達は?」

「違う学校に進学しました、あれから会ってないッスよ。」

そう、と返して、蛍はこう続けた。

 

「ラグビー、続けているといいね。」

「はい!」

 

そう、続けていればいつかは試合に出られるだろう。そうすれば過去の悔しさは糧にできる。

 

・・・なら自分は?

 

 確かに2年の時、公式戦で初勝利は手にした。しかしそれで『全国優勝したチームで全敗した男』

の汚名が消えるわけではない。

 かつて鳥取白楼戦に勝った時も、栄大付属に勝って全国優勝した時も、嬉しさの中にも、

「せめて自分も1勝でもしていれば」と思わずにはいられなかった。

 

 優勝に全く貢献しなかった優勝チームの一員。それは蛍がずっと背負っていく十字架-

 

 

 

 

 わっしょい、わっしょい、わっしょい!

合宿二日目、柚子香と小林は九十九里高の女子相撲部に交じって、朝の砂浜をランニングする。

普段は二人だけの稽古だから、こうして大勢で練習するのは新鮮さがあり、朝の浜辺の爽快さもあって

苦しさの中にも笑みがこぼれる。

 海岸線を1往復し、学校の門をくぐって屋外にある土俵まで走り切る。

「ふへーっ、し、しんどいー。」

千鶴子にタオルを貰いながらそうこぼす、小林に至っては過呼吸にあえぎながらスポーツドリンクを

喉に流し込んでいる。普段の稽古じゃランニングってのは無いからなぁ・・・

 

「はいはーい、一息ついたらすぐ柔軟よ、準備して!」

池西レモン部長のハッパに、はぁーい、と応えて輪になる一同。念入りな柔軟運動の後、

すり足、受け身、ハーフスクワットなどをこなしていく。どうやらここではスクワットが

四股の代わりらしい。

「貴方たちがいるせいでちょっと飛ばし気味だったけど、さすがに付いてくるわね。」

レモンが上機嫌で柚子香たちに言う。ゆず達にしてもダチ高のメンツとして、そう簡単に

音を上げるわけにはいかない、やはり自分たちの学校が低くみられるのは嫌だから。

 

 ぶつかり稽古を経て、申し合いに移る。柚子香も小林も、それぞれ個性的な相撲を取る

九十九里高の選手たちと胸を合わせる。

「堀さん前さばき上手いねぇ、ちっとも自分の形に出来ないし。」

そう褒めてくれる副部長の和田に頭を掻いて返すゆず。

「あー、いつもの稽古相手に差し手争いに負けると終わりますからねー、ああいう風に。」

そう言って土俵を見る。なんと部長のレモンが小林に高々と吊り上げられている。

 

「すごっ!レモン部長を軽々と!?」

「両マワシ引くと男子でも持ち上げるんですよ、あの娘。」

 驚く女子部員にゆずが解説を入れる。流石に松本や大峰は無理だが、陽川以下の体重の相手なら

両マワシを引けばそのまま吊り上げる程の腕力と腰の使い方の上手さがあった。

無論柚子香なら軽々運ばれる、彼女と相撲を取る時はとにかく両マワシを持たれないことが

前提条件になっていて、それがさらに柚子香の前さばきを鍛えていたのだ。

 

 

 昼食時、食べ終わったゆずは砂浜に男子の様子を見に行ってみる、邪魔にならないように影から

こっそりと。

皆、各々稽古をしてるようだが、やはり表情は硬い。無理もない、明日はインターハイの

出場選手を決める部内戦、目の前の仲間が明日にはライバルとなるのだから。

 

 と、そんなゆずの背後にレモンがぴったりと取り付き、声をかける。

「で、本命は誰かな~?」

「ひゃっ!?」

いきなり背後に取り付かれ、思わず悲鳴を上げる、慌てて木の影に引っ込む2人。

幸い海風のおかげで男子には気付かれなかったようだ。

というかレモンだけじゃなく、女子全員がしっかり集合している。

 

「本命ですか~、やっぱり大峰かなぁ。」

「えっ!ゆずちゃん・・・強面フェチ?」

は?と目を丸くして固まること数秒、意味を理解したゆずが慌てて否定する。

「そっちですか!違います違います大峰じゃありません!」

「ってコトは、他に本命がいるのね~」

 休憩中はすっかり女子モードのようだ。目ざとく言葉の裏を突き、ゆずに詰め寄る面々、

女子しかいない彼女たちにすれば、大勢の男子に囲まれて部活をするゆず達は少し羨ましい存在である。

せめて雰囲気だけでもおすそ分けを、と言うのが彼女たちの本音だろう。

 

「まぁ、いることはいますけどね・・・」

おおっ!と色めき立つ女子達。千鶴子はえっ!いるの?という顔をして驚く。

視線を躱すように顔を逸らし、ふっ、と息をついて続ける。

「でもあの人、女子慣れしてますからねー、モーションかけても効いてるんだかいないんだか。」

 

 多くの女子がへぇ~、と言う中、千鶴子と小林は誰かを特定し、レモンはなんとなく予想がついた。

「(ああ、昨年の大会で堀さんの隣で平然と激励してた人いたなぁ・・・ふぅーん、彼か。)」

 

 顔を赤くしておろおろする千鶴子の横で、今度は小林が同じ質問にあっている。

数分の尋問の結果の自白によると、どうやら赤池が気になっているらしい。当たりの強い性格の彼が

自分の容姿に差別なく、女子として接してくれているのが一因とか。

 思わぬ後輩たちの異性意識にあうあうしている千鶴子は、次は自分の番だという自覚がない。

集中審議から逃げ出すことも叶わぬままに、鬼丸への想いを知られてしまうのであった。

 

 海岸から学校へ引き上げる最中、レモンがゆずにある提案をする

「ね、ゆずちゃん。さっきのモーションの話、ちょっと考えたんだけど。」

「はい?」

「こういうのはどうかな、ホラ、明日男子は試合でしょ、そこで・・・」

 

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