蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第3番 ちゃんこDAY

「堀ちゃん、野菜切れたー?」

「あ、はい。今持っていきますねー。」

「先生ー、ガスコンロここでいいですか?」

「イス持ってきましたー。」

「よしよし、コンロの周りに並べてくれ。」

 

 いつも以上に賑やかな大太刀相撲部室。本日は月に2回の「ちゃんこデー」。

以前から時々やっていた練習後のちゃんこ、今年度からは顧問の勧めもあり、レスリング部との

共同開催になっている。必要経費を折半できると共に、お互い格闘技の部活同士、

交流を深めることでお互いの向上にもなれば、という意図もある。

 最もそのおかげで縛りもある。レスリングは体重別の競技、減量が必要な選手もいることから

大会が近い時は日程をズラすことになっている。

 逆に相撲部にとっては単なるイベントではなく、いわゆる「食いトレ」の場でもある。

デカくて重い、が無差別級の相撲にとっては重要な強みだ。

胃袋を広げ、沢山カロリーを詰め込める体を作るための稽古でもある。

 

 とはいえ、皆で集まって鍋を囲むのはやはり楽しいものだ。皆もう服を着替え終わって

なごやかな雰囲気で準備は進む。

 

「肉、準備できましたー!」

 陽川満が両手に皿を持って調理場から出てくる。彼は新一年生の中でも特に張り切っている、

プロ志望である彼は、今からちゃんこ番のトレーニングをしておくのも大事な経験だからだろう。

 

 

「「いっただきまーすっ!」」

皆で鍋を囲み、どんぶり飯を片手に話が弾む。一年は相撲部・レスリング部の同中出身者が

近況報告に花を咲かせ、また女子マネのいないレスリング部は冗談で千鶴子にウチに来てと泣きつく。

桐仁はこんな時にも弟子の純一に身振り手振りでアドバイスし、蛍は逆に柚子香に質問攻めにあっている。

 

 和やかな雰囲気で続く食事の時間。と、部室のドアが開き、長身の男が一人顔を出す。

「いい匂いがすると思ったら、今日はちゃんこの日か!」

 

「五條さん!」

「佑真!?」

 驚く2年生に続いて、相撲部1年から驚嘆の声が上がる。

「突き押しの五條さんだ!」

「ち、ちわぁーーーッス!」

 

 五條佑真、レイナの兄で、昨年のインターハイ全国制覇メンバーのひとり。

空手をベースにした突き押し相撲で優勝に大きく貢献した選手だ。

卒業後は相撲の強豪、栄華大学の医学部に進み相撲を続けてつつ、目標の医者になるべく励んでいる。

「佑真、大学は?」

「ああ、今週末は練習休みでな。ヒマだから顔出したんだが、いい日に来たもんだ。」

そう言うと空いてる椅子に座り、千鶴子が差し出した椀と箸を受け取る。

が、この後は後輩の質問攻めにあい、おちおち食うこともままならないのだが。

 

「一年前じゃ考えられねぇなぁ、この光景。」

しみじみと呟く佑真。一年前はこの部室を『ダチ高最強』のユーマが占拠し、不良のたまり場になっていた。

 火ノ丸が来て、部室が相撲部に戻ってもこの時点では部員はわずか3人、広すぎる部室を

持て余していたものだが。

 今や大勢の部員が日々切磋琢磨する場になっている。そして他の部も招待し、活気ある

食事タイムで懇談に花を咲かせるまでに。

 

 少しは相撲に恩返しできたかな、と頬を緩ませる佑真。

 

 

「さーてさて、相撲部のみんな、食べながらでいいから聞いてくれ。」

顧問の諸岡が大きな声で相撲部に声をかける、何事かと注目する部員。

「1か月後に迫った春の団体戦、メンバーは選手3人に補欠2人の構成だ。よってウチからは

一人だけメンバーから外れることになるのだが・・・」

現在、男子部員は6名。つまり一人はこの大会に出場できなくなるという事だ。

 

「で、選抜の方法だが、一週間後の土曜日、部員で総当たりの部内戦を行って、最下位の者は

今回メンバーから外れて貰う事にする。」

 一瞬の沈黙の後、相撲部全員がハイ、ウッス、と頷く。今年に入って初の『本番』は

対外試合ではなく、普段切磋琢磨している『仲間』が最初のライバルとなる。

 

 それを聞いた佑真は一時「ガチだなー」と呑気なことを思うが、少し置いてその提案の非情さに気付く。

「お、おい監督・・・いや辻!いいのか?総当たり戦って。」

心配そうな佑真に向かって桐仁は、箸を置いて佑真に向き直る。

「いいも何も、俺と三ツ橋の提案ですよ、この選抜方法は。」

隣りにいる蛍も佑真に向かって親指を立て、笑顔を見せる。佑真は自分が思ってる以上に

今の大太刀がガチモード全開であることを思い知らされた。

 

 桐仁は肺に疾患があり、20秒以上の運動が出来ない体だ。部内総当たりともなると

一日に5番も相撲を取る事になる。最初の1番こそ無類の強さを誇る桐仁だが

2番目以降極端に弱くなる彼にとって、この総当たり戦は最悪1勝4敗で最下位になる危険すらある。

 三ツ橋は去年、公式戦でただの1勝も挙げられなかった。それでも徐々に力をつけ、今年こそは

悲願の初勝利を挙げるチャンスだったはずだ。だが今のダチ高相撲部は巨漢ぞろいな上に

部内なら三ツ橋の得意な『変化』もよく知っているだろう。こちらもまた最下位になり

メンバーを外れる可能性すらある。それを承知でのこの選抜方法を選んだと言うのか・・・

 

 食事が終わり、皆が片付けをしている中、レイナは佑真が来てるという事もあり

ふたりで部室の外で話してきなさい、と気を使われる。

「しかしスゲェな、今の大太刀って。」

「そりゃまぁ、私が部長ですもの。中途半端な部にはならないわよ!」

いやまぁ、そこは特にすごいとは思わないが。

「あのな、玲奈。実は今日はひとつ、有益な情報を持ってきたんだが・・・」

今の大太刀の雰囲気に当てられ、『そういう情報』を話す気にはなれなかった。

「え、何?」

それでも興味津々なレイナを見て、続ける佑真。

「去年石高にいた金森、今は栄大のチームメイトなの知ってるだろ。あいつからの情報なんだがな・・・」

一呼吸おいて続ける佑真。

 

「荒木っていたろ、去年国崎とやった奴・・・あいつ今、絶不調らしいぜ。

春の団体のメンバーからも漏れたらしい。」




大包平「俺に唐揚げを作らせろおぉぉっ!」

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