蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第40番 激突!名伯楽~王道と異能と

 -以上、4-1で石神高校の勝ち!-

 

 準々決勝の第一試合が終わった。予想通り石神が上がってきてはいたが、その強さについては

誰もが疑問符を付けていた。

「やっぱり、沙田と荒木以外はもうひとつ、かな・・・」

 桐仁が客席からそうこぼす。石高は初戦こそ5-0だったが、2回戦以降はもうずっと4-1で来ていた。

しかも特定の『負け確』の選手がいるわけではなく、試合ごとに主力2人以外の誰かが星を

落としていた。

 

 むろん相手あっての勝負である、対戦校のポイントゲッターに黒星を喫したケースもあれば

まさかの引き技に足を滑らせた負け方もあった。

 だが、それを差し引いても今の石高の沙田、荒木と他のメンバーの間には『安定感』という

面において明確な差の開きがあった。

 

「オーダーを結構変えてくるのもそのせいでしょうか。」

 千鶴子の問いに、だろうね、と頷く一同。試合ごとに順番を変え、沙田と荒木以外は補欠の二人と

出番を入れ替えながらの試合。それには相手にオーダー対策を絞らせたくないとの石高の意図が

見て取れる。

 昨年までの不動のオーダーと比べると、石高の台所事情の苦しさが感じられた。

 

 -第二試合。東、柏実業。西、西上高校!-

 場内アナウンスに会場が沸く。ここまでの試合を見てきた観客にとってはかなり楽しみな一戦。

大きな体で王道の相撲を取る柏実業と、小回りを利かせて機動力で戦う西上高校。

力対速さ、巨漢対小兵、その激突に観客も、既に敗れた選手たちも注目する。

 

 王道VS異能、『相撲』で勝つのはいずれか。

 

「ある意味、監督対決とも言えるわね。」

 名塚がそう呟く。柏実業の阿部監督はその指導力においては千葉県屈指の存在だった。

相撲取り然とした選手を育てる稽古から体調管理まで、またいかなるタイプの相手に対しても

対応した相撲が取れる指導、そしてその対戦相手の情報を集めるアンテナの広さまで。

 だが、さすがに昨年まで2回戦止まりだった西上の対策は阿部監督には無かった。

それがこの春での屈辱の1回戦負けという結果に繋がってしまったのだ。

「だからなのね、今の柏実業が慎重な相撲を取るのは・・・」

 春の動画をタブレットで見ながら名塚は納得する。2-1で西上に敗れた相撲はいずれも土俵際

ギリギリでも攻防を制された負け方だったから。

 

「さぁ、春の借りを返してこい!」

阿部監督が大きな声で柏実業の選手を鼓舞する。

 

「大太刀まであと二つだ、大丈夫だ、いつもの相撲を取れば必ず勝てる!」

飯田監督が揺らぎない自信の目をして生徒たちに伝える。

 

 -ハイっ!-

 両校の選手の、監督の激に対する返事が、同時に会場にこだまする。

 

 試合は一進一退の攻防を見せる。先鋒戦、西上の小牧は立ち合いから組まずにひたすら土俵を

回るように動き続け、それに追いつこうとして腰高になった相手の足にしがみ付き、押し倒す。

 2陣戦、柏の伊丹はひたすら粘った。相手の出し投げ、足技、叩きに耐え続けチャンスを待つと

一瞬のスキをついてがっぷり組み止め、一気に吊り出しでケリをつける。

 

 勝者によくやった、と称賛し、敗者に次は勝て、と激を飛ばす両監督。

それを頬杖をついて羨ましそうに見る桐仁。

「(分かるな、手塩にかけた選手たちが結果を出す、その嬉しさってのは・・・)」

そして横にいるチームメイト達を見る。確かに自分は監督として彼らに接してきたし、その指導が

彼らを強くしてきたことにも自信がある。

 

 力士と指導者、そのふたつの将来に思いを馳せる桐仁。

 

 中堅戦、柏の直沢はその長い腕で相手を捕まえると、ひたすら動かれても手を放さず、

力を込められる姿勢になった瞬間に相手を引きずり回す。姿勢が崩れ、動きが止まった瞬間に

体ごとぶち当たって自分ごと土俵外になだれ落とす。

 

 副将戦、西上は主将の高橋。頭を付けた体勢で相手を捻り倒す『頭捻り』の使い手。

 -はっきよい-

 柏側も変化は意識していた。が、まさかその変化が『八艘飛び』だとは思わなかった。

ここまで一度も使わなかったその動きに、完全に後ろを取られると、押しからの引きに

背中から土俵に叩きつけられる。

 

「うわ、やるなぁ・・・」

 そう呟く蛍。飛ぶ技術や後ろを取ってからの攻めもそうだが、ここまで全く使わなかった技を

ここ一番で使うその胆力、見破られれば成す術なく負ける変化を、主将の彼が1-2と追い込まれた

状況で迷いなく使うその度胸に。

 

 -大将戦!東、神崎、西、葉山!-

 2勝2敗で迎えた大将決戦。柏実業主将の神崎はここまで負けなし、対する葉山は初戦であの

ヤンキー高、大羅の狭間を土俵下まで突き落とした小さな豪傑。

 -はっきよい!-

 葉山もここに至っては変化は無い。得意の突っ張りが神崎の顔面を捕らえ続ける。

が、神崎はアゴを引き、喉元にアゴを押し付けて耐え、額で張り手を受け止め、体重を利して

じりじりと打たれながらも逆に寄っていく。

 

「打て打て打て!葉山ーっ!」

「神崎さん、行け、押し切れーっ!」

 両校の選手が、そして監督が檄を飛ばす。

 

 ついに土俵際まで詰まる葉山。突きの手ごたえは十分だが、それ以上にこの神崎の力士としての

強さが、『このまま突いてもコイツは倒れない』と判断せざるを得ない。

「ならば!」

 横っ飛びで土俵際から脱出し、再度横から突っ張ろうとしたその瞬間だった。

神崎の全体重を乗せた強烈な突っ張りが、カウンター気味に葉山の顔面を捕らえ、頭ごと後方に

のけ反らす。

 神崎はここまでただ葉山の張り手を受けていたわけではない、阿部監督の指示に従い、

受けることで相手の張り手のリズムを掴み、ここぞの時にカウンターを狙っていたのだ。

その一撃で意識を飛ばす葉山。

 

 彼が意識を取り戻したのは、神崎に抱きかかえらて土俵の外まで寄り切られた、その瞬間だった。

 

「以上、3-2で柏実業の勝ち!」

 

 喜びに沸く柏実業。春の雪辱を晴らした、そして何より西上は強かった。それでも監督の指導を信じ、

取ってきた相撲が結果に結びついた、努力が実る瞬間、喜ぶなと言うのは無理な話だ。

 

 涙に暮れる西上高校の生徒を、よくやったな、と肩を抱いて慰める飯田監督。

この春以降、千葉の高校相撲界を大いに沸かせてきた生徒たちを誇りに思い、こう告げる。

「まだ個人戦もある、大学や社会人にも相撲はある、これからだ!なぁ。」

 

 そんな両校の姿に惜しみなく拍手を送る観客たち。そんな中、大羅の狭間が観客席の最上段の通路から

見下ろしながらこう呟いた。

「俺も・・・真剣に相撲やるか。」

 

 

 準々決勝の3つ目は、常磐第三が4-1で松戸学園を下し、準決勝に名乗りを上げた。

こちらはずっと先鋒に主将の下山を置き、その豪快な相撲で勢いをつけて勝ちを重ねるパターン。

西上と同じく2年前までは無名高だった新興勢力。彼らもまた全国へ手が届く存在となっていた、

 

 そして、最後の準々決勝が始まる。ダチ高全国への大きなヤマとなる一戦。

 

 

 -川人高校VS大太刀高校-




作者以外、誰も望んでいなかったかもしれないモブ高、西上と柏実業の活躍。こういう存在に
感情移入するのは私の悪い癖です。
だから人気が出ない?閲覧数が伸びない?知ったことか、私はやられ役が好きなんだー!

西上、お疲れ様。
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