「あったあった、あそこだよ、会場!」
「本当にもう!バス逆方向に乗ってどうすんのよ!」
「ソレ言うんだったら、部長もでしょ!」
会場に向かって駆ける女子高生の一団。真夏の炎天下に大汗をかきながら全力疾走。
「ダチ高、まだ、残ってる、かなぁ・・・」
「大丈夫でしょ、あの人達なら!」
「だと、いーけど、コレで負けてたら、何しに、来たん、だか・・・」
息を切らせながら会場入りする、といっても前の方の席は埋まっており、やむなく最上段の
立ち見通路に向かう。
-準決勝第二試合。東、常磐第三。西、大太刀高校-
「残ってた・・・よかったぁー。」
「これから準決勝か、流石ねー。」
ばたばたと通路に集合する面々。と、そのすぐ下の観客席にいた記者の名塚が彼女らを見上げる。
「(あら、この娘たち、確か・・・)」
そんな彼女の思考を、逆方向からの声援がストップさせる。
――――――――――――――――――――――――――
「「フレーッ。フレーッ、常・磐っ!」」
「「頑張れ、頑張れ、だ・い・さんっ!!」」
会場内に響く常磐第三の応援団の声。共学でやや女子が多い学校だけに、応援の声も
やや黄色い声が多い。
「くっそー・・・ダチ高、構わねぇから叩きのめせ。」
憮然とした表情で石高の荒木が毒づく。男子校の自分たちには野太い声援しか無いってのに、
なんで相撲部で女子に応援されるんだ!羨ましい。
「「大太刀ーっ!ファイットーっ!おーーーっ!」」
え”という表情で荒木が声の方に振り向く。共学どころか混じりっけなしの女子達の声援。
見上げた先には女子高生の集団が常磐第三に負けじと一斉に声をあげている。
荒木が頭を抱えて嘆いたのは言うまでもない。
「がああっ、もうどいつもこいつも!」
その声援にダチ高相撲部も思わず反応する。
「あーっ!九十九里高のみんな!」
「応援に来てくれたんだ。」
「黄色い声援・・・いい!」
思わぬサプライズに感動する一同。陽川に至っては感涙に顔を歪めている。
そんな一同に部長の蛍は、ぱん!と手を打って皆に檄を飛ばす。
「さぁ、遠いところから応援に来てくれたんだ、いい相撲を見せよう!」
-東、下山。西、赤池-
応援合戦も終わり、両校の先鋒が土俵に上がる。と同時に濃密な殺気が会場を支配する。
共に荒っぽい相撲が身上の両者。準決勝の幕開けとしてガチンコの展開は確実だ。
「(この1年坊、確か新人戦でウチの清水を吊り上げたヤツだな・・)」
下山が相手を見ながら分析する。確か吊った時には吠えていた、相当負けん気の強いヤツだ、と。
以前の彼なら、こういう相手には『じらし』や変化を使って気合を空回りさせる戦法を使っただろう。
だが今は違う、常磐第三の主将として、また先鋒として、真っ向からねじ伏せてチームに勢いを
つけねばならない。
「(ワイと同類、か。望むとこや!)」
赤池は試合前に蛍や桐仁に言われたことを思い出していた。いい意味で荒っぽい相撲を取る相手、
そんな相手に真っ向からぶつかって勝てば勢いを得られる、その為にお前を先鋒で出すのだ、と。
ばんばんと顔を叩いて気合を入れる。
「勝てると思うか?」
そう問う桐仁に、下山との試合経験を持つ蛍はこう返す。
「簡単にはいかないよ。でも赤池君なら間違いなく、この1番でチームに力をくれると思う。」
蛍は昨年春の下山との一番、その後のチームメイトの試合を思い出していた。
下山は敗れはしたが、その懸命な一番はチームにも勢いを与え、戦力的に上回るダチ高に
善戦してみせた。勝つのももちろんだが、負け方によってもチームに力を与える一番というのは
確かにあるものだ。
-はっきよい!-
ドゴォッ!
上背のある下山がまずはかち上げを放つ。体重の割に背の低い赤池に潜られまいと、
その顔面を跳ね上げる。
お返しとばかりに赤池は突っ張りを放つ。2発、3発、下山の顔面を捕らえる。が、次の1発を
手で払いのけた下山はそのまま額から赤池に突っ込む。
-ガッツゥゥン!-
頭と頭、ほぼヘッドバッドなノリで額を打ち付け、そのまま両者が額をくっつけたまま
押し合い睨み合う。下山の額からつーっ、と赤い線が流れるが、そんなことはお構いなしに
アゴを引き、そのままマワシを探る。
そのスキをついて赤池が下に潜り、両前みつに手を伸ばす。が、それも下山の想定内だ。
バチィン!と素首落としを赤池の首筋に叩きつけ、引き落とそうとする。赤池は足運びで耐えるが
そこに待っていたのは下山の突き上げるような突っ張りだった。
-バゴン!-
アッパーカットのような張り手が赤池のあごを跳ね上げる。上体をまるごと浮かされた赤池は
それでも張り手を返す。下山も張り返し、まるで殴り合うような突きの応酬になる。
その迫力の展開に、思わず会場からは、おおおぉーっ!という声が漏れる。
「すっげぇ!めっちゃガチじゃん。」
「もうほとんどケンカだよ!」
「これ本当に相撲かよ、面白れー、」
そんな観客の反応を聞いて、名塚は心の中で返す。これ『も』相撲なのよ、と。
下山が張り手を右手で捌き、そのまま小手に抱え込む。間髪入れず強引に小手投げを打つ!
赤池の左ヒジが、めりっ!という音を立てる。が、赤池も足を運んで回り込み、
さらに投げようとする下山の周りをぐるぐる回って凌ぐ。
が、投げを止めた下山は、すかさず赤池の右手をも小手に巻き、両閂を決めて極め出そうとする。
赤池の痛めた左腕がみきみきと嫌な音を立てる、痛みに負けて引いたら一気に土俵を割らされるだろう。
-ゴツゥン!-
両手を極められた赤池が負けん気を発揮、なんと下山の頭に自分の頭をぶつける。
極め出しでずりずりと押されながらも2発、3発、4発と頭突きをかます。
割れていた下山の額から血が飛び散り、両者の胸を染める。それでも引かずに押す下山と
頭を叩きつける赤池。
「行けー、主将っ!」
「押せ押せ押せ押せーーー!」
「諦めるな、粘れ粘れっ!」
「腕を抜け、折られるぞ!」
両校の、そして観客の声が響く。
赤池が7発目の頭突きを決めた時、審判の「勝負あり」の声が響く。
-極め出しで東、下山の勝ち-
さすがに痛めた腕を極められて寄られれば、赤池の負けん気でも成す術は無かった。
顔面血まみれの下山と、左手を抑えて顔を歪める赤池だが、それでも両者正対に構え、
礼をして土俵を降りる。
そんな彼らに拍手の渦。ある意味相撲の原点の様な一番に大いに満足する観客たち。
「ナイスファイト、主将!」
「おう、後は任せたぞ。」
タオルで顔面を拭き、割れた額に絆創膏を張りながら下山が答える。さぁ頼むぞ、
俺より強い後輩共!
「くっそ、がぁっ・・・」
赤池は千鶴子に左手を観てもらいながら悔しさをこぼす。準決勝で相手の主将を倒す
チャンスを逸した事は、彼にとってケガよりも痛みを感じる。
「大丈夫です、折れても外れてもいません。」
「そっか、良かった。」
「・・・良ぉねぇわ!」
蛍の言葉に赤池が吼える。確かに勝ちの可能性はあった。だが白星は彼の手をこぼれ、
団体戦で先行を許した、それが無念だった。
そんな赤池の肩にぽん、と手を置き、蛍は真摯な目でこう返した。
「取られたら取り返すよ、必ずね。それが団体戦だ!」
「赤池ちゃん負けちゃったかぁー」
「あーあ、小林さん泣いてんじゃん、気付きなさいよ鈍感男。」
観客席の一番上で、九十九里高の女子相撲部が感想を漏らす。彼女らも相撲を取る身なれば
今の激しい一番を見ても気後れは無い。
「でも先制されちゃったわよ、ダチ高大丈夫かなぁ・・・」
「勢いは常磐に行っちゃったわね、こっから引き戻すのは正直ツライかも・・・」
主将の池西レモンがそうこぼす。彼女も団体戦の勢いや流れの重要性はよく知っている。
と、すぐ下にいる名塚が彼女らを見上げ、こう返す。
「大丈夫じゃない?2陣は『彼』だから、流れを引き寄せるにはうってつけよ。」
いきなり声を掛けられてしばし固まる女子部員。それが見知った顔であることを認識し、返す。
「あ、『月刊相撲道』の名塚さん!それにカメラマンの宮崎さん、お久しぶりです。」
一斉に会釈する女子達。名塚はお久しぶり、と手をひらひらさせて微笑む。
「まぁ見てなさい、彼は何度も相手に入った流れを自分の方に引き寄せてきた男よ。」
そう、2年前の鳥取白楼戦、そして昨年の県大会決勝の石高戦、彼はその小さな体で
常にチームメイトの『心』を牽引してきた存在なのだ。
-2陣戦。東、清水。西、三ツ橋-
さぁ、ある意味この作品の立役者ともいえる九十九里女子、ここから彼女たちの意外な活躍に
期待してください。