蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第45番 変化のスペシャリスト、3年間の集大成

「まずは常磐が先制、と。」

 東の控え席で、椅子に腰かけて試合を眺めていた石高の沙田が呟く、

この1戦の勝者が決勝の相手、主将としてチェックは欠かせない所だ。

「2陣は三ツ橋か・・・アイツももう2年前の面影はねぇな。」

 隣に座る荒木がそう続ける。2年前のこの大会では、三ツ橋は単に小細工を弄するだけの

素人でしか無かった。相撲のみならず格闘技、いやスポーツすら、のレベルで。

 だが今は大太刀の部長として、この大事な場面で2陣を任されている。その表情に以前の様な

悲壮な影は微塵も感じられない、自信と、後輩が落とした星を取り返す気迫に満ちた顔。

 

「相手の清水君は春の新人戦準優勝だよ、まだ1年だけど体も大きいし・・・源ちゃんはどう思う?」

沙田のそのフリに荒木は、ああん?という表情を向ける。

「分かってんだろ、デカいだけで勝てりゃ苦労はねぇよ。」

一度そこで言葉を区切って、そのあと保険を掛ける荒木。

「ま、もしここで負けるようなら、三ツ橋もその程度だったってこった。」

 

 -互いに、礼-

 一礼して顔を上げたその瞬間から、蛍の視線が清水を射抜く。睨むでも凄むでもなく、

ただ相手の眼球をサーチするように、蛍火の様ならんらんと輝く目で。

 その眼光に、清水は先鋒戦で戦った主将、下山の勝利の勢いを削がれる。いや、正確には

初戦の勝利に浮かれることなく、自分が対戦するこの小兵力士への対応に思考が移る。

「(コイツは確か変化を使う相手。下手に張って出て躱されたら回り込まれる。

なら腕からいかずに胸で受けるべきか・・・いや、潜る相撲もあったハズ、胸で当たったら潜ってくれと

言ってるようなもんだ、なら・・・。

 

 -手をついて-

「(躱されても落ちない程度の勢いでぶちかます。それから相手の動きを見て、潜られないように

捕まえる!)」

 清水の腹は決まった。だがそれは蛍に対して『負けない為』の消極的な結論でしかなかった。

というより、そう意識させるために蛍は彼の目を静かに見据え、自分の存在と相撲を相手に

意識させたのだ。

 

 -はっきよい!-

 清水、三ツ橋、両者頭から激突する。

「何!?」

 次の瞬間、清水の視界から三ツ橋は消えていた。ぶちかましの軌道を横に逸らし、その流れで

真横に飛んで距離を開ける、得意の『蛍火の如く』横っ飛びバージョン。

 再度突進する三ツ橋、迎え撃つ清水。が、さすがに今度は清水も頭から行く体制は出来ていない。

胸で受け、案の定易々と潜り込まれてしまう。

 

「立ち合いのパターンが多すぎる、相手は的を絞れなくてたまったもんじゃねぇな。」

 荒木が感想を漏らす。相撲は刹那の勝負、よって立ち合いを制した方が俄然有利になる。

ぶちかましから方向をずらして変化に繋げるこの『蛍火の如し』、立ち合いから一気に潜る相撲、

さらに当たる前から八艘飛びや叩き込みのいわゆる『注文相撲』。

 変化のスペシャリストとしてあらゆるパターンを使いこなす彼の相撲は、ここにきて高い完成度を

示していた。

「潜る相撲が強いから変化が生きるね、変化と真逆の戦法なのにどっちも小兵向きだ、イヤラシイね。」

 沙田がほくそ笑みながらそう褒める。自分たちが相手をする時の心境を込めて。

 

 潜られた三ツ橋を抱えながら清水は思う。確かコイツは反り投げから妙な足技があったはずだ、

下手を取られると危険だ、と上から相手の手を払い、腰を引いてマワシを掴ませないように抵抗する。

 押すでもなく吊るでもなく、完全に消極策に出てしまう清水。だがそれも無理もない事、

大型力士が変化やすばしっこさを持つ小兵力士を相手にするなら誰だって受けに回ってしまう。

そんな相手を最後まで翻弄するのが今の三ツ橋の相撲なのだ。

 

 ふっ、と三ツ橋の体がわずかに沈む。次の瞬間彼は腕をクロスさせ、体を引いて上にかち上げを放つ。

まるで下からクロスチョップを放つように両手で清水の喉を捕らえ、顔をはね上げる。

「なんだありゃ!」

「三ツ橋が・・・カチ上げた!?」

「クロスチョップかよ!」

 またひとつ増えた三ツ橋の戦法、選択肢に頭を抱える会場のライバル達。

 

 意表を突かれた清水であったが、相手がほぼ真上にかち上げを放ったせいで、つっかい棒が

取れたように体が前に進む。相手が棒立ちになった今なら!と前に体重をかけ・・・

 

 そこに相手はいなかった。

かち上げで隙間の出来た清水の脇からすばやく脱出して上手を取り、そのまま出し投げに行く三ツ橋。

たった今跳ね上げた相手の頭を今度は抑え込むようにして投げる。前のめりで勢いのついた清水に

この投げを残す術は無かった。

 

 -どどぉっ!-

 清水の巨体が土俵に転ぶ、勝負あった。

 

「鬼車かよ、しかも出し投げ入ってるぜ沙田。」

荒木がヒジで沙田を小突きながらそうからかう。が、沙田は腕組みをした状態を崩さず、

少し口元を緩めながら土俵を睨め据え、一言こう呟いた。

 

「強い・・・。」

 

 歓声と拍手に包まれる会場。小兵の蛍が大きな力士を投げ転がすその姿は確かに胸のすくシーンだ。

決して真正面から切って落としたわけではないが、土俵上をダイナミックに動き回り、

相撲の常識の枠を超えた派手なその戦いは、今や『卑劣な変化に頼る男』のイメージを完全に払拭し

三ツ橋蛍という力士のその個性として会場全体に受け入れられていた。

 

 土俵を降り、皆に迎えられる蛍。

「うまくいったな、『十字かち上げ』。」

そう絶賛する桐仁に、蛍は「何とかね」と返す。この技ももちろん稽古の賜物で出来た技だ。

夏合宿の部内戦の後、潜った後にマワシを嫌う動きをされた時に対する作戦として、昨日今日まで

研鑽を続けてきたのだ。

 

 八艘飛び、蛍火の如し、円の相撲、潜る相撲~足技、反り投げ、根太起、十字かち上げ、

鬼車、そして夜叉落とし。

 変化の相撲を始めて3年、変化のスペシャリストを目指して続けてきた『3年先の稽古』は

今、勝てる力士としてひとつの形を成すに至った。

 

 この1番で流れは完全にダチ高に来た。中堅の大峰は得意の攻めの相撲で圧倒し、副将の松本も

どっしりとした堅実な一番で最後には相手を寄り切り、ダチ高の勝利を決める。

 ただ大将で出た陽川は、客席からの九十九里高女子の声援に舞い上がってカチコチになってしまい

ギクシャクした相撲で敗れてしまう。

「女に緊張するのは火ノ丸に似てるな。」

 すんませーん、と嘆く陽川にそう語る。そんなんだからモテないんだぞ、とチームメイトに

ツッコミを入れられながら。

 

 下山は天を仰ぎながら敗戦を実感する。が、肩を落とす下級生のチームメイト達を見て、

すぐ自分の役目を思い出す。

「だらしねぇなぁ、負けて下を向くのは負け犬のやる事だぜ、胸張んな。」

まるでかつての自分に言い聞かせるように話す下山。そう、全てはあの日、鬼丸に負けた日から

今日の彼が『始まった』のだ。そしてそれは後輩にリレーしていく大事な事だ、

お前ら、常磐第三を頼むぞ、と。

 

 

 こうして激戦のインターハイ千葉県予選、その決勝カードが決定する。

 

 -石神高校 対 大太刀高校-

 

 3年連続の決勝の組み合わせ。

沙田の、荒木の、桐仁の、そして蛍の最後の夏の大一番、始まる-




第2番の『蛍と桐仁と1年生』と対になってる話です。
石高の二人は、原作の白楼、首藤戦での石高の面々との対比になってます。
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