蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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ここからは1試合1話かそれ以上使います
展開遅いけど勘弁。


第47番 弟子の声

 -手をついて-

 

 三宅と桐仁が対峙する。いよいよ決勝の幕開けの先鋒戦。

しかも今後の組み合わせを考えれば、この1戦を取ったほうが優勝に大きく近づくことは明白だ。

 辻、大峰、陽川と先行逃げ切りの布陣のダチ高と、沙田、荒木を後半に配置して追い切る

算段の石高。

お互いに落とせない一番、その二人が行司の合図とともに、立つ。

 

 -はっきよい-

 

 胸があった瞬間、桐仁は相手の上半身を捻りながら『いなし』に出る。三宅は足を出して

それに耐えるが、桐仁は攻撃の手を緩めずすかさず蹴手繰りに行く。

 その足を躱した三宅は、肩で桐仁のアゴをかち上げ、抱え込むように桐仁を組み止める。

 

「ゼェッ、ゼェッ、(く、くそっ!)」

 呼吸を荒げながら桐仁が毒づく。立ち合いの瞬間に決めるつもりだったが、やはり相手は

持久戦に来ている、攻撃より防御に重点を置いた相撲。

 自分のスタミナの無さが情けなくなる、たったこれだけの攻防でもう体は鉛のように重く、

呼吸は溺れているがごとくに荒くなる、こんな程度なのか、俺は・・・

 

 そんな感慨に浸る間を三宅は与えなかった。とはいえ寄るのでも投げるのでもない、

彼は掴んだ下手と、桐仁の背中に回した右手を、ぐいっ!と真下に押し下げる。

 腕力を体に浴びせられ、桐仁の下半身が悲鳴を上げる。呼吸困難で溺れつつある彼を

まるで水中に沈めるように土俵に押し付けようとする。

 

「ぐっ!・・・」

 何だこの攻めは、まるで体力の切れた俺に対する嫌がらせのような攻め。寄りや投げなら

カウンターの投げを打つ余地もある。しかし体ごと下に押し付けるこの攻めにはカウンターで

反撃する術も無い。かといって力を抜けばそのままヒザをつかされるだろう。

脱力の状態にすら出来ず、ヒザを小刻みに震わせながら懸命に力を振り絞って耐える。

 

 石高の選手たちは、この攻めをチームメイト、荒木の対策として身につけていた。

脱力と爆発力、オンオフを使い分ける荒木に対し、常に力を込めるこの攻めで力のオフを封じ

常に力をの入った相撲を強要させて対抗していたのだ。

 そんな彼らは、桐仁の相撲が荒木と同じ『脱力』を使う相撲であることを見抜いていた。

そしてこの1戦、彼らのそんな戦法は桐仁にぴたりハマった。先の川人戦、大河内との1戦で

体力が限界に近いことを見抜いた三宅は、確実に白星をもぎ取るために容赦なくこの戦法を使ってきた。

 

 桐仁の上半身が少しづつ沈んでいく。反撃の術がないまま地面が迫ってくる。

両下手を取ってはいるが、それに捕まっても腕に力が入らない。顔が相手の肩を過ぎ、下半身が

目に写る。ダメだ・・・ここまでか。

 

「桐仁!」

 自分の名を誰かが呼んでいる。あれ?知った声だ。この声は・・・火ノ丸か?

なんだよ、アイツ来てんのか。ああ、アイツの前でみっともねぇ相撲取ってんなぁ、俺。

 せっかくだけどな、俺はもう限界だよ・・・お前を追うのは、やっぱり無理だったかもな。

去年の合宿で大典太に負けた時から、なんとなくそう思ってた・・・

 

「辻先輩ーっ!ファイットぉーっ!」

 至近距離から声。今度ははっきりとその声の主が分かる。去年の春から自分が目をかけてきた

後輩、ラグビー経験を生かした突進力で未経験者ながらレギュラーにまでなった弟子、幸田!

 そうだ、俺のオーダーミスのせいでお前に沙田を当てちまった、そんなお前の分も俺は

勝ちを拾わなきゃならないんだ、折れてる場合じゃねぇ!

 

 力士として、目指すライバルの声に応えられなかった桐仁が、

先輩として、面倒を見てきた弟子の応援で自分にムチを入れる!

 

 目の前にあるのは三宅の右足、桐仁は1も2もなくそれに飛びついた。いや、しがみ付くと

言ったほうが正確かもしれない。残りの体力を総動員して『足取り』に行く。

 業師桐仁にしてはあまりにカッコ悪い、見栄も外聞もかなぐり捨てた片足タックル。

それだけに三宅の意表は付けた、取られた足を引いて躱そうとするが、桐仁は引きずられながらも

低い体制のまま足を離さない。

 

 -バッチィン!-

 そこに襲いかかる三宅の『素首落とし』!

 

 首筋を打ち据えられた桐仁が感じたのは、苦痛でも焦燥でも無かった、歓喜だ!

「(攻撃来たぁーっ!)」

 足を離した彼は、反射と言っていい速さで打ち下ろされた三宅の左腕を掴む。

バランスを崩したまま後方に倒れつつ、三宅の体を手から自分の方向に引っ張り込む。

まるでダンスで手を繋いだ相手を引き寄せるように!

 

「な!?」

 バランスを崩した桐仁が三宅の手に捕まって体勢を『残し』、三宅は桐仁に引っ張られたことにより

バランスを『崩す』。

 一瞬で両者の立場は入れ替わった。これこそ業師の真骨頂!

そのまま体を回し、土俵際を伝って、いや俵の上すら滑るように移動し、取った手を引き

右手で相手の左肩を極め、逆間接投げに持っていく。

 

 -網打ち、『波切』-

 

「行っけーーーっ!」

「決まれえぇぇぇぇぇぇ!」

「落ちろー!!」

 ダチ高の面々が叫ぶ。まさに乾坤一擲、ここで決めない限り桐仁の勝利は無い。

 

 三宅は懸命に足を運んで耐える、耐える、耐える。これさえ残せば先鋒戦は取れる。

つまりは俺たちが全国に行けるんだ!その一念で網打ちに耐える。

「凌げ、三宅ーーーっ!」

「こらえろーっ!」

「残せ残せ残せ残せーーーっ!」

 

 三宅の右足が俵に掛かる。すでに体は斜めに傾いており、左足はすでに宙に浮いて

辛うじてバランスを保っている状態で両者が静止する。

 

 そして、がくっ、とヒザを付く。

三宅が。

 

 

 -西、辻の勝ち-

 

「うおっしゃあぁぁぁぁっ!」

「いやったぁぁぁっ!」

「辻君かっこいーーーっ!!」

 ダチ高メンバーが、応援に来ているレスリング部員が、九十九里高の女子達が歓喜を

爆発させる。そんな中鬼丸はぐっ、と拳を固め、その勝利に笑顔を見せる。

 

 だが、その歓声もすぐに静まり、代わりにどよめきが会場を支配する。

土俵下から見ていた副審が手を上げ、土俵に上がって協議を始めたからだ。

 

「え・・・何だよ?」

「審議するようなことあったか・・・?」

 副審が指さしているのは俵の外すぐ際、その部分に足で擦ったようなラインが入っている。

そこは桐仁が『網打ち』に入る時に伝った俵の際。まさか、あの時に桐仁の踵が土俵外の土に

触れていた・・・?

 

 息も絶え絶えで審議を待つ桐仁。頼むぜ、俺はもう指一つ動かせない・・・

三宅はぎりっ、と歯を食いしばり、桐仁を睨みつける。行司差し違えなんて贅沢は言わない、

せめて取り直しさせてくれ・・・

 

 -行司差し違えで東、三宅の勝ち!-

 

 石高には歓喜の、ダチ高には絶望の裁定が響き渡る。歓声と悲鳴がこだまする会場。

 

 

桐仁にはその声は聞こえなかった。彼の世界の静寂の中、ひとり天を仰いで嘆く。

 

「(・・・なんで、だよ)」




いきなり絶体絶命。
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