蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第55番 見ているか

「(なぁ小関さん、五條さん、國崎さん、レイナさん・・・それに、火ノ丸。見ているか?)」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ・・・なんだありゃ。

それが春の新人戦、初めて『彼』を見た時の正直な感想。

 -西、大太刀、三ツ橋君-

「お、火ノ丸のチームメイトか?どれ・・・」

 -ぐしゃ-

 赤子の手をひねる、という表現がこれほど似合う一番も無いだろう。

五條や國崎はまだしも、こんなのが火ノ丸のチームメイトなのか・・・?

 

「ひでぇなこりゃ・・・女子と変わんねぇじゃねぇか。」

苦労して手に入れた『彼』のスポーツテストの記録を見て思わず嘆く。

これでよく相撲をやろうと思ったもんだ・・・

 

「先生、俺の作戦は?」

その沼田の質問に、あー、という顔をする。

「お前は普通に取ればいい、それで勝てる。」

「ええ!相手は高校生でしょ?」

 そうだな、年齢だけなら高校生だよ。ド素人だし体も無い、な。小学生から相撲を続けてきた

沼田なら問題なく勝てるだろ、寿司っていうエサもあるからな。

 

「ま・・・そういう事だ。ダチ高の5人目はお前だぜ」

「ホッとしたかい?俺がこんなんでよ。」

「勝ち星は他の4人で何とかするさ、お前は出てさえくれればいい」

 煽るだけ煽ってみた。そいつにプライドっていうものがあるかどうかを試してみた。

・・・俺も人が悪いな、実力がないのにプライドだけあっても何にもならない、それすら無いなら

どのみち使い物になりはしない、つまりどっちにしても、コイツは・・・

 

 素人だと思ってた。火ノ丸に憧れるだけの甘ちゃんだと決めつけていた、人数合わせになればいいと。

 

 憧れる?

そうだ、だったらそれをエサにすれば1勝を挙げられるかもしれねぇな。というかそれしか無いか。

火の丸の様な真っ向勝負を印象付けておいて、肝心な一番で変化すれば・・・

 

「変化という作戦もある、でも・・・火ノ丸に、真っ向勝負に憧れてるお前に、俺はそんなことを

勧めたくないんだ。」

 思えばこの時が分岐点だったな、俺がアイツをただの捨て駒として見るか、それとも

本気で勝たせてやる!と思うかの・・・

 

-親方、この人にも稽古をつけてやって下さい、もちろん力士として-

 おいおい、何を言い出すんだよ!分かってるのか?俺が相撲を取るってことは、つまりお前が・・・

-ひとりで抱え込むなよ!-

 なんだよ、俺はお前を勝たすために色々やって来たのに、そのお前に背中を押されるのか、俺は。

 

 

 -同体、取り直し-

 -西、首藤君の勝ち-

 

 何度謝ったかも分からない。あらゆる作戦を考え、それを想定した稽古を積んで、

そして負け続けた。

すまん、俺の責任だ、お前はよくやった、そんな意味のない言葉を俺は試合のたびに重ねてきた。

 だがもう終わった、俺はついにお前を勝たせることが出来なかった、情けない監督だ。

俺は結局コイツを体よく利用しようとして、利用すら出来なかった。戦歴を黒星で塗りつぶし

挙句にケガまでさせてしまった。

 

 県予選でさっさと変化を使わせて、ひとつでもふたつでも勝ち星を上げさせるべきじゃなかったのか。

それとも会った時に「お前は相撲には向いていない」とはっきり言って、別の部員を探すべきじゃ

なかったのか。

 そうすれば『公式戦全敗』なんて汚点をコイツに押し付けることも無かっただろうに。

 

 

「松本康太ッス!」

「陽川満です。」

「大峰浩二です。」

「幸田純一です!」

 

 この時からだよな、お前が変わったのは。いや、そうじゃない、お前の周りが、だ。

鬼丸も、他の皆も、お前をどこか下に見てたよな、初心者だし、体も弱いし、無理もない。

 だがお前の新しい仲間たちは、お前を『挑むべき先輩』として見ていた。

身近に対等のライバルがいることがお前の自覚を変えたのか、それとも本来お前が持っていた

先輩肌な性格を引き出したのか・・・

 

「堀柚子香です!」

 彼女に教えるお前の姿を見て、お前に教えてた時の自分を重ねていたよ。

技術うんぬんはともかくだが、先輩としての自覚や自信は俺よりずっと上じゃねぇか、

ちょっと嫉妬したぜ。

 

「来年の部長に三ツ橋蛍を指名します。」

 異存はないさ。お前の方が部長に相応しい事はよく分かってるよ。

でもな、それをあのレイナさんに迷わず言わせるのか・・・スゲェなお前。

 

-桐仁、あとで残ろうか。-

「(・・・何だ?)」

-後輩にしてやられっぱなし、ってワケにもいかないよ、これから夏までは打倒下級生だろ?-

 はは・・・今しがた後輩に負けて、初めてレギュラーの座を奪われて、早速そう言うのかよ、

まったく、コイツと付き合っていると落ち込むヒマさえ無いぜ。

 

 

-見てろ、いつか僕の勝利に感謝する日が来るからな-

 

 お前が土俵に円を描いたあの瞬間、俺は、あの時のお前の言葉を思い出していたよ。

絶体絶命の窮地から、幸田が奇跡のような勝利でつないだ可能性を、お前は先輩として、

そして力士として-

 

 なぁみんな、見ているか・・・あの三ツ橋が、ここまで・・・強く-

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「三ツ橋が・・・寄り切ったーっ!」

おおおおっ!という歓声の中、二人は胸を合わせたまま大息をつく。その両者の足元を

土俵の俵が分断していた。

 

 -寄り切りで東、三ツ橋の勝ち!-

 

 拍手に沸く会場。両者の死力を尽くしたその一番は、迫力こそ無かったものの、

見ている多くの人の心に響いた。

 

「二人とも明らかに消耗していたわね。でも最後まで粘れたのは、やっぱり

チームメイトだからこそ、負けられない戦いだったからなんでしょう。」

 名塚が拍手しながらそう語る。最初の攻防こそキレがあったが、それ以降の組んでからの攻防は

明らかにここまでの両者の疲弊が見て取れた。

 それでも諦めない『心』の相撲。残った力を振り絞り、ただ懸命に愚直に押し合った。

そして突然桐仁が糸の切れた人形のように力尽き、ゆっくりとした電車道でついには寄り切られる。

 

 でも、その時の辻の顔が、どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

 

「ったく、満ち足りた顔しちゃって。」

 観客席、レイナがそうこぼす。マネージャーとして、部長として、ずっと見てきたこのコンビ。

満ち足りた顔をしているのは、彼女もまた同じだった。

 

 公式の場での初対決、そしておそらく最後の対戦になるであろう一番は、こうして幕を閉じた。

 

 

 個人戦は進む。やはり決勝まで多くの番数を取ったダチ高のメンバーは、その疲労の蓄積から

トーナメントを上り詰めることは叶わなかった。加えて団体で全国がある彼らは、

もう個人しか残されていない他校の強豪とは『心』の有り様が違ってしまっていたのだ。

 

 それがもっとも顕著だったのは石高の沙田だろう、全国への執念を見せた彼は、団体決勝の

疲れも見せず、執念の相撲で見事千葉県の頂点に立って見せた。

 

 -個人戦優勝、沙田君。準優勝、大河内君。3位、神崎君。以上3名には、全国大会の出場権が

  与えられます-

 

 石高の荒木は団体決勝での股関節負傷がたたって3回戦敗退、西上の葉山は準々決勝での

脳震盪でドクターストップ、常磐第三の下山は3位決定戦で柏実業の神崎に敗れ無念の4位。

 そして、個人戦では振るわなかったダチ高は-

 

 -団体優勝、大太刀高校-

 

 拍手と共に蛍が賞状を、桐仁がトロフィーを掲げる。そして部員全員の首に金色のメダルが

光り輝く。

 昨年は開かなかった『全国への扉』。それを押し広げ、彼らは向かう。

 

 

 聖地、国技館へ。

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