ちょっとアダルトっぽいですが、さすがにR15するほどじゃないかと・・・
-ピコン!-
夜中の高級ホテルの一室、金髪の美女と一戦やらかした後のけだるい雰囲気の中、彼の枕元で
スマホの着信音が鳴り響く。
「ンだよ、誰だこんな時間に。」
筋骨隆々の肉体をむくりと起こし、スマホを見る男。と、その厳つい顔が少し穏やかになる。
「ナーニ、チヒロ!ホカノ女カラジャナイデショーネェ」
「恩師からだよ!え、えーと・・・マイグレートシショー?」
国崎 千比路
総合格闘技の世界王者を夢見て単身アメリカへ来て早二年。ずっとストリートの賭けファイトで
戦い続けてきた彼にようやく訪れた転機。サンフランシスコの本部を構える格闘団体
『M・L・F・C』からのオファーが舞い込んだのだ。
その仕掛人こそ、いま彼の傍らにいる女性、ジェニファー・K・ライス。彼女はこの団体の
社長の令嬢で、たまたまチヒロの戦いを街で見かけていたく気に入ったらしい。
今日のデビュー戦で見事KO勝ちを収めたチヒロに、彼女は早速デートを申し込んできた。
このホテルの高級和食店でディナーを頂いた後、そのまま二人でホテルにしけこんで
しっぽりと、というワケである。
最もチヒロにとっては女性の相手は別に慣れっこではある。日本と違いこちらでは
強い男がモテるのはいたって当然ことであり、今までにも試合後に何度か女性に声を掛けられ
安モーテルに一泊、なんてのは数えきれないほどあった。
まぁ今回はチヒロにとってもVIPといえる相手だ、ご機嫌を損ねないように、
前の女でないことは最初に明言しておく。
「諸岡先生か、なんだって今更?」
レスリング部でチヒロが指導を受け、自分を日本一に導いてくれた恩師。だがその後彼が
相撲に進んでからはあまり接点が無く、ましてやアメリカに来てからは初めての便りだ。
何の要件だとスマホを見ると、短いメッセージと共に動画が添付されている。
『近況報告、そしてエールだよ、Mr國崎。』
なんだそりゃ、と動画を開く。映ったのは土俵と共に書かれたテロップ『ダチ高相撲部奮闘す』
という書き文字だった。わざわざ行書体で書かれている所にこだわりを感じ。くっくっく、と笑う。
「オー、スモーレスリングネ、ムカシ、チヒロモヤッテタンデショ?」
ああ、まぁな、と相槌を打って動画に見入る。おっ!ホタルとハカセか、懐かしいなぁ。
そういやホタルの奴、1回くらいは勝てたのか?なんかチームメイトもデケェ奴が多いし
そもそも試合に出してもらえるのかよ、アイツ・・・
「OH!ファーンタスティック!コノ三ツ橋ッテコ、スゴイネ!」
嬉々とするジェニファーをよそに、中川高校の大将、江口の足を引っこ抜くような内掛けで
倒すホタルの姿を、堂々とダチ高の大将を務めるその雄姿を、チヒロは言葉も無く見つめる。
準決勝では巨漢の清水のノドをカチ上げ、派手に土俵に転がす。そこにいたのは彼の知る
ホタルではなく、ダチ高の大将として、また堂々たる力士として戦う三ツ橋蛍の姿だった。
蛍が源之助を円に投げ飛ばした時、彼の感情がついに爆発する。
「ハッハッハッ!どうだゲンゴロウ、強ぇだろうがホタルはよぉ!!」
言葉とは裏腹に、チヒロは熱いのかも冷たいのかも分からない汗をかく。もはや文句の
つけようもない、というか自分の想像する最善の手の、その斜め上を行くホタルの相撲に
思わず拳を握る。もし今、俺がホタルと相撲を取ったら・・・勝てるのか?俺は。
「とうとうハカセにも勝ちやがった・・・」
もう何も言うことは無い、今のホタルは強くなった、あの頃からは想像もつかない程に。
たった1勝を挙げるために恥も外聞も無く小細工を弄し、道化と化してきたあのホタルが
今や火ノ丸に成り代わるダチ高のエースとして奮闘している、そんな彼の姿にチヒロは
感動し、そして思い知らされていた。
人は『強さ』を求めて、ここまで変われるものだ、と。
「いよっしゃコシヒカリ!もう一戦すっか。」
いきり立つ感情と息子を隣の彼女に向ける。が、顔を真っ赤にして怒る彼女の表情が、
ついうっかり禁句を口走ったことを思い出させる。
「チ・ヒ・ロ~、ミドルネームデ呼ブナッテ・・・アレホドイッタデショ~~」
「い、いや・・・スマン!っていうかいい名前だと思うぜ、俺好きだし・・・だから灰皿降ろせって!」
「チヒロノ、バカァーーーッ!!!!」
豪快に灰皿を投げつけるジェニファー・コシヒカリ・ライス。
カリフォルニア米の事業で財を成し、格闘団体を始め様々な事業を展開するライスカンパニーの御令嬢。
後の『國崎お米』の生みの親である・・・たぶん。