蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第57番 ある少女の成長

 -東、銚子女子、天音。西、大太刀、小林-

 

 会場のアナウンスに反応して、赤池が周囲にいる面々に『来たで』とアイコンタクトする。

特に隣の席に座る男子、瀬部野には頭をわしづかみにして笑顔のまま凄む。

「いだだだだっ!分かってますってテツオ君、頭割れる割れる~」

 

 インターハイ女子相撲、千葉県予選会場、赤池の周りにいるのは彼や小林と同じ

1年3組のクラスメイト。

 一週間前、全国出場を決めた翌日、ホームルームで先生にその報告とお褒めの言葉を貰った赤池は

それに応えてこう返していた。

「来週は女子の試合あるけん、みんな応援に来たってや。小林さんも出るけんな!」

 赤池はクラス内でもワリと人気のあるキャラである。成績こそ悪いが、イケイケの関西弁と

外見の割に周囲に対して壁を作らないその性格で、特に男子受けは良い方だった。

 加えて陰湿なイジメやシカトが大っ嫌いな性格で、新学期早々小林に『そういう行為』に出ていた

瀬部野にたっぷりと教育的指導を施していたりする。

 

「それはいいですね、先生も行きますから、是非皆さんも!」

 そんな先生の声を反映してか 当日は意外に多くのクラスメイトが集まった。

さすがに他のクラブ活動がある生徒は無理だったが、先生も来るということで内申を気にする者、

猛暑の中、家にいても親がウザイし、会場に涼みに来るのもいいかな、という者、

 また、普段から内気な小林にいい印象を持ってない女子達が、彼女が派手に負けるところでも

見物に行こうなどと考えて。

 

「相手の人ゴツい体してんな、身長差ヤベェ・・・」

「顔もスゲェよ、アマゾネスって感じだな。」

 小林の階級は中量級、女子の中ではちょうど真ん中の階級なのだが、小太りな小林に対し

相手の天音は細身ではあるが頭一つは背が高い、男子と比べても遜色のない体格で小林を見下ろす。

 先述の通り、クラスメイトの中には小林にあまり良い印象を持っていない生徒もいる。

そんな彼女らは小林が無様に負けるシーンを少しばかり期待していたのだ、が。

 

 -はっきよい-

 組み合う両者。背の低い小林が両下手を、長身の天音は両上手をかぶせるように取る。

「ふんぬ-っ!!」

天音が吼え、小林を吊り上げようと力を込める。

「んっ、しょ!」

 その天音の体が、まるで荷物のように抱え上げられる。相手を吊り上げた小林はそのまま

とことこ歩いて天音を土俵の外に降ろす、勝負あり。

 

「ええーーーっ!」

 驚愕するクラスメイト達。あの内気で引っ込み思案な小林が、あのゴツい女子をまるで

問題にせずに倒す様に驚きを隠せない。

「相撲は腰で吊るんや、腰の低い小林が、あんだけ腰高な相手に吊り負けるわけかるかい。」

 赤池が上機嫌で解説する。確かに腕力頼みだった天音に対し、小林はしっかり腰を割って

自分の腹の上に相手を乗せていた。原理を考えればこれで小林が吊り負ける同理が無い。

 

 2回戦、3回戦、準々決勝と小林は勝ち進む。その低い腰に加えて引っ越しのバイトで培った剛腕、

さらに千葉県を制したダチ高相撲部で学んだ相撲勘や技術は、そこいらの女子部員を圧倒する

力量を身につけていたのだ。

 彼女のクラスメイトもまた、試合ごとに小林に対する期待感と、勝利の喜びを共有していく。

自分の見知った人間が、どこの誰かも知らぬ強者を次々と破っていく、その痛快さに

普段小林に抱いている負の感情などきれいさっぱり消え去っていた

 

「さぁ、いよいよ準決勝、これに勝てば全国だよ!」

「やるねー小林さん、これは私も負けてられないわ。」

 蛍と柚子香の激励を受ける小林。女子相撲は階級別に各県2選手ずつが全国大会に進める。

あとひとつ勝てば彼女も全国大会へ出場が決まるのだ。

 

 そこに立ちはだかるのは、共に夏合宿を過ごした相手、九十九里高の遠藤。

すでにもうひとつの準決勝も同高の副部長、和田が勝って全国と決勝進出を決めている、

彼女たちにダチ高が食い込めるかの正念場の一番。

 

 -準決勝、東、大太刀高校、小林。西、九十九里高校、遠藤!-

 

「「フレーッ、フレーッ、こ・ば・や・し!頑張れ頑張れ、さ・な・えっ!」」

 会場の一角から飛ぶ声援に、小林が思わず反応する。見上げた先の観客席には、

普段彼女と共に学ぶクラスのみんな。

そしてそこに混ざる男子、無粋だが真っすぐな相撲部のチームメイト。

彼女はすぐ顔を伏せ、照れ臭そうに少し微笑む。

 

「おお、赤池の連れて来た応援団、いい仕事するなー。」

「あれでアイツ、クラスじゃ人気者らしいからな、正直理解できん。」

 赤池以外の相撲部男子は、別スペースで固まって試合を見ていた。

「火ノ丸の奴もクラスじゃ人気あったからな、熱血バカは人を惹きつけるんだろう。」

桐仁がそう語る。かつてダレ気味だった体育祭を熱血に盛り上げた誰かさんを思い出して。

 

 -はっきよい!-

 組み合う両者。さすがに小林の剛腕をよく知る遠藤は、うかつにマワシは取らせない。

小林の腕を自分の腕で巻き込み、閂に近い形で引っ張り上げる。自分の腋に相手の腕を

ロックして封じにかかる。

 こうなるとさすがにその女子離れした腕力も生かせない、だが腕を抜こうにも遠藤の

絞り込みに抜くに抜けず、そのまま押し込まれていく。

 

「マワシにこだわるな!振り回せ!!」

 赤池が立ち上がって声を上げる。その声が届いたのか、小林は両腕を抱えられたまま

相手の背中をぎゅっ、と抱きかかえると、そのまま遠藤を持ち上げて振り回す。

「出た!小林メリーゴーランド!」

 柚子香が叫ぶ。相手を抱え上げたままぐるぐる回るその様は、まさに回転木馬を連想させる。

が、遠藤も執念と言うべき足さばきで土俵に足を残す。

 

 1回転、2回転、そして3回転した時、ついにバランスを崩し、もつれるように倒れる両者、

その時上になっていたのは、多くのクラスメイトとチームメイトに見守られる小林だった。

 

 -東、小林の勝ち!-

 拍手喝采を送るクラスメイト達、あの内気な小林が全国大会出場?その快挙に沸く。

が、赤池だけは、くっ、という表情のまま土俵を見つめる。

審判たちが土俵に集結し、今の一番を審議していたから。

 

「え・・・アレって何を審議して・・・どういう状況なんですか?」

 不思議がる幸田の質問に、桐仁が深刻な表情で答える。

「マズいな、あの抱え込み、アマチュア相撲で禁じ手の『鯖折り』に取られるかもしれない・・・」

 相手を抱きかかえ、そのまま絞り込んで背骨を締めあげる技。もしそれと取られたなら

反則負けの判定が下るかもしれない。

 

 審判団は遠藤に問いただす。その質問に対して彼女は毅然として首を横に振る。

審判団が分かれ、あらためて主審の行司が勝者の名を呼ぶ。

 

 -行司通り、東、小林の勝ち!-

 

 会場が改めて拍手に沸く。勝った小林と、相手の反則を公然と否定し、敗北を認めた遠藤に。

 

 小林はここで初めて2階席の応援団に顔を向け、手を振る。たったそれだけの行為なのだが

彼女を知る者にとってそれは大いなる進歩だった。あの内気な少女が舞台で堂々たる試合をし、

応援してくれる仲間に応える、仲間と共に鍛え上げたその力と技、そして『心』で。

 

「さってと、負けてられないわね。今度は私の番よ!」

 柚子香が屈伸をして相手を見据える。土俵の対にいるのは、やはり共に鍛えた同志であり

昨年苦汁をなめたライバルでもある選手。

 

 -中軽量級決勝!東、大太刀、堀。西、九十九里、池西!-




キレイなジャイアン赤池君w
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