蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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春の団体戦って「高等学校相撲金沢大会」ですよねー・・・
補欠一人だわorz
まぁフィクションということで勘弁。


第5番 男子三日会わざれば-

「組み合わせ貰ってきましたー。」

千鶴子がトーナメント表を持って皆の所に駆けてくる。

 

 いよいよ春の団体戦、会場にはマワシ姿の選手たちがごった返す。

その一角に大太刀相撲部も陣取っている。

千鶴子から紙を受け取った満が呟く。

「今年からリーグ戦じゃなくて、いきなりトーナメントなんですね。」

「国宝効果で相撲熱が盛り上がって、参加チーム増えたからな。

リーグ戦じゃ消化しきれないんだろ。」

桐仁の解説に続き、浩二が強豪校を目で追う。

「石神や川人は別ブロックか、ラッキーっちゃラッキーですか。」

「そこまでは辿り着かないとね、昨年のインターハイ全国王者なんだし。」

 

「で、1回戦の相手は?」

「初戦はシードですね、常磐第三と佐倉二高の勝者が相手です。

どちらも強豪とは言えませんが・・・」

 常磐大学付属第三高校と公立佐倉第二高校、いずれも進学校としての側面が強く、相撲に限らず

スポーツで名前を聞く機会はあまりない高校だ。油断は禁物だが、それでも新生大太刀としては

良いスタートが切れそうな相手ではある。

 

「ただ、常磐第三には、昨年インターハイ県予選、個人戦ベスト8の下山選手がいます。」

その名を聞いて、桐仁と蛍がぴくっ、と反応する。

「鬼丸殺し、か。」

「去年の新人戦で火ノ丸さんと戦った人ですよね。」

 

 下山倫平。かつて小学生横綱だった潮火ノ丸に、中学相撲で立て続けに土を付けた男。

昨年の新人戦で火ノ丸に敗れるも、インターハイ個人戦では8強に名を連ねる。

こちらが勝ち上がって来るなら、大太刀にとって楽な相手にはならないだろう。

 

 その1回戦、予想通り常磐第三が佐倉二高を2-1で下す。やはり大将の倫平の強さは際立っていた。

体格では五分の佐倉の大将をかち上げからの突き放しで一気に押し出す、荒々しく豪快な相撲。

それを見ていた桐仁が諸岡に進言する。

「アイツとは、俺にやらせてもらえませんか、お願いします。」

「もちろんOKさ、部長もいいね。」

こくりと頷くレイナ。先鋒と中堅で決められなければ、大将戦には主力を置いておきたい、

この判断は妥当だろう。

 もっとも桐仁には、かつて『鬼丸殺し』の異名を取った下山に対する敵愾心が強かった。

国宝『鬼切』と呼ばれる身としては、格の違いを見せつけて勝ちたいという欲もあった。

 

「ではオーダーを発表します。先鋒三ツ橋、中堅松本、大将辻で行きます!」

「「はい!」」

このオーダーの狙いは明らかだ。昨年公式戦で勝ち星のなかった三ツ橋を先鋒に出し

初勝利を挙げることで勢いに乗ろうという算段だ。

幸い、常磐第三の残りの二人はそれほどのレベルではない、三ツ橋の今の実力なら

勝ちの目は十分にあった。

 

「それでは2回戦、大太刀と常磐第三の試合を行います。」

 主力が抜けたとはいえ、昨年インターハイ全国王者の大太刀の登場に会場がざわめく。

他の土俵に比べて観客の密度もはるかに高い。

トーナメントは初戦の入り方が重要だ。そういう意味では良い緊張感がある、これで波に乗れれば

新生大太刀の快進撃が期待できる。レイナも桐仁も諸岡もそんな展開に期待を寄せる。

 

 が、行司の呼び出しを聞いた途端、そんな青写真は粉々に砕け散る。

「先鋒戦!東、大太刀、三ツ橋!西、常磐第三、下山!」

 

「なっ!」

桐仁が驚愕の声を上げる。まさかついさっき大将で戦った下山が先鋒で出てくるなんて・・・

そしてさらなる悪い想像を掻き立ててしまう。三ツ橋にとって下山の相撲は相性最悪と言ってよかった。

下山は一言でいうなら乱暴な相撲を取る力士だ。かち上げ、素首落とし、張り手等

暴力的な相撲で勝ちを取る。しかもそれだけでは無く、自分より小さな相手に変化するなど

狡猾な側面も持ち合わせる選手。

 三ツ橋の変化相撲はどちらかと言うと、真っ当な力士にこそ効果が高い。逆に下山のような

何をしてくるかわからない選手には通用しない可能性が高くなる。

 

 だがもう二人とも土俵に上がってしまった、今更どうなるものでもない。三ツ橋を信じるしかなかった。

と、会場の一角から黄色い声援が飛ぶ。

「「リンちゃーん、頑張ってーー!」」

 

 は?という空気に包まれる大太刀相撲部。っていうかリンちゃん?あのモヒカンで乱暴な

下山が実は学校じゃ人気者だって言うのか?違和感アリアリだ。

 

 

 下山倫平。

 彼は声援に軽く答えながら、相手の蛍を見据える。そして思い出す、一年前の自分を。

鬼丸に敗れ、「今はお前よりワシのほうが強い、それだけじゃ」と言われた屈辱。

その敗戦は彼の相撲に対する姿勢を変える。今まではそれほどの熱を持って相撲を取っていなかったが

鬼丸への敗戦を機に『俺は強い』というプライドを取り戻すための相撲へと変わる。

それがインターハイ県予選ベスト8にまで彼を押し上げたのだ。

 そんな彼にさらなる転機が訪れる。インターハイ後の2学期の始業式、彼は壇上に招かれ

大会ベスト8の健闘を全校生徒に報告される。なにせ常磐第三はかなりのレベルの進学校、

その代わりに運動部の成績はまぁ散々で、大会1回戦を突破する部活など皆無だったのだ。

彼はこの日以来、学校で一躍有名人になった。大会はおろか練習試合でも倫平の相撲を

見ようと生徒たちが押しかけ、声援を送られる日々。

 

 環境は人を変える。彼はこの一年足らずの間に敗北の屈辱と、応援され慕われる立場を得て

昨年とは比較にならない程の「力士」として成長していたのだ。

 

 腰を下ろす。目の前には昨年の鬼丸を思わせる体格の選手、マワシには因縁の『大太刀』の文字。

倫平の体に力が漲る、しかし頭は冷静に戦法を模索する。こいつは鬼丸とは違い、

変化を得意とする選手。それに対する戦いのイメージを構築する。

 

「手をついて!」

倫平が両手を、蛍が片手を付き、タイミングを見計らってもう一つの手をたんっ!と地面に打ち付ける。

 

 

「はっきよい!」

 

倫平が立つ。

蛍が立つ。

 

この一年足らず、より刮目すべき成長を遂げたのは、果たしてどちらか―




みんな大好きポッキー君登場。
千葉には「常磐」って地名がないので無理矢理「常磐大学付属第三高校」にして
千葉県内の高校にしましたw

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