蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第59番 国宝バーゲンセール

「さぁて、ダチ高の仕上がりはどんなもんかしらね!」

 意気揚々と相撲部のプレハブのドアに手をかける相撲記者、名塚。

全国大会の出場校も出揃い、いよいよ大会間近になったこの日、彼女はダチ校に

取材の予約を入れていた。例によってカメラマンの宮崎を従え、部室のドアをくぐる。

 

「こんちわー、月刊相撲道でー・・・って、えええっ!?」

 驚愕する名塚、宮崎も後ろから顔を出し、あらま、という表情をする。

「「チューーーッス!!」」

 室内の全員が一斉に声を出す。が・・・人数が多い。狭くはないダチ高の部室だが、それでも

大勢が密集して所狭しと稽古しているのだ。

 

「沙田君?荒木君に・・・川人の大河内君も、柏の神崎君まで・・・」

「ちわっす、記者のオネーさん、今日は合同練習ですよー。」

 沙田が軽薄にそう答える。そう、今日はダチ高主催の全国大会直前、千葉代表合同稽古の日。

雑誌の取材を予約された諸岡が急遽企画したこの集まりに、石高や川人、柏実業はもちろん

遠路はるばる九十九里や佐倉女子のメンツも駆け付け、共に汗を流していたのだ。

 

「参ったわね、とんだサプライズだわ・・・」

 もちろん嬉しい不意打ちではある。全国に出場する面々の調整具合やコメントが

まとめて取れるのは願ったり叶ったりだ。

それは集まった面々も同じ事。うまくすれば雑誌に載れるという下心から、全国のライバルの

情報を入手出来るかも知れないという期待も込めて彼女を歓迎する。

「でも・・・荒木君がいるのは意外ね。」

 彼は敵に塩を送るタイプでもないと思うし、何より彼は全国への出場権が無い。

相撲部を引退ともなれば、かつて語っていた総合格闘技の方に気持ちが向いているかと

思ったのだが。

 

「ま、俺らを倒して代表になったダチ高に、全国で無様さらしてほしくねぇからな!」

 営業スマイルでそう返す荒木。うん、良いこと言ったぜ俺、とほくそ笑む彼を

室内のほぼ全員がジト目で睨む。

「そういうワリには、三ツ橋部長にやったらつっかかってましたけどねぇ。」

「いきなり申し合いはするわ、勝ったら勝ったでガッツポーズするわ・・・どう見ても

大会のウサ晴らしに来たんでしょーが。」

ダチ高の面々の感想に続いて、沙田までもがジト目で突っ込みを入れる。

「で、もう一番やって負けたらさらに泣きの一回だからねぇ・・・」

 

「う、うるせーな!コイツはなんか頼りねーんだよ!」

集中砲火を受けた荒木が涙目で蛍を指差してそう反論する。

「国宝『蛍丸』?コイツ程度の実力で全国に国宝デビューしたら恥かくだけだっつーの、

だから俺が胸出してやってるんだよ!」

その言葉にさらに冷たい目線が集中する、あんだけ豪快に投げられといてどの口が言うんだか。

 

「いい話題が出た所で、今日はお土産持って来たわよ。」

名塚がそう言ってカバンから1冊の本を取り出す。真新しい表紙の『月刊相撲道』だ。

「おお!最新刊ッスか?来週発売の。」

「そうよ、今日は特別だから、内容をネットで拡散とかしないでね。」

 一応釘を刺しておいてから雑誌を皆に差し出す。表紙には草薙と童子切、その書き文字に

『高校相撲IH直前特集号』と書かれている。

 

 早速興味津々で雑誌に群がる一同。さすがに巻頭ページは大相撲の話題だが、センターカラーの

ページから高校相撲の特殊が組まれている。

その見開きには3人の選手が大写しになっていた、『現在の国宝達』という見出しと共に。

 

 千葉の月光”三日月宗近”こと沙田美月

 名門白楼の雄”備前長船”こと舟木長一郎

 九州の弾丸”圧切長谷部”こと黒田篤

 

 見開きを3分割してその3人がデカデカと紙面を支配していた。それを覗き込んでいた沙田が

いやぁ参ったなぁ、と爽やかに笑う。

「えー、部長もカントクも無しですかー?」

という柚子香の抗議に、名塚は次のページ開いてみて、と催促する。

 言われるままにページをめくると、そこには日本地図が大きく描かれ、都道府県ごとの

団体、個人の出場メンバーが細かく明記されている。

 そしてその各所に、小さなワク取りで人物の写真が、短いコメントとともに張ってあった。

そのページの一番上にはこう書かれている。

”国宝候補!?全国で旋風を起こせるか!”

 

「あ、部長発見!カントクも。」

千葉のエリアに小さく蛍と桐仁の写真が載っている、『蛍丸』と『鬼切安綱』の文字と共に。

「けどなんか、すいぶん多いわね国宝候補・・・」

 池西レモンがそう続ける。その小さい写真は全国各地にちりばめられ、それぞれに名刀の名が

書き添えられている。

 全員で20名以上ピックアップされている様は、まさに国宝のバーゲンセールといえる。

「僕の名が無いのは心外だけど、大会が終わる頃には書き加えることになるだろうね、

国宝『國平製之』の名を。」

大河内が自信満々にそう吹く。それに続いて陽川が、大峰が、神崎が次々と「俺も俺も」と

名塚の方をちらちら見ながらアピールする。

 

「もちろん全国で活躍したら大いに取り上げさせてもらうわ、みんな頑張ってね。」

その声におっしゃあ!と高揚する一同。これでさらに気合が入るってもんよ!

 と、そんな空気を桐仁の一言が止める。

 

「愛商大豊田の名前が無い?おいおい大阪の八尾学修館もかよ!」

雑誌を掴んで驚く桐仁に、周囲もええっ!という顔で再び集結。

 なにしろその2高は有名な相撲名門校。毎年当たり前のように代表となり、本大会でも上位に

食い込む超強豪校の一角なのだ。それが・・・府県予選で敗退した?

 

「秋田の大成院、福井の衆翼第一、山梨の兜山、徳島の板野林業、沖縄の那覇付属あたりもね。」

名塚の指摘に全員がげっ!という顔をする。確かに今年のIH,団体も個人もその勢力図が

すっかり書き換わっていることに全員が驚く。

 

「これが本当の『国宝効果』よ。」

 

 名塚は語る。高校相撲で国宝世代、豊作の世代と言われた面々が死闘を演じた2年前。

あの童子切の、草薙の、大典太の、数珠丸の、そして鬼丸の戦いを見ていた当時の高校1年生。

今はその彼らが3年生の世代、相撲に夢を持ち、我こそはと稽古に励み、県内外のライバルに

勝ちたいと精進する、自分こそが『国宝』と呼ばれることを目標に。

 

 本来野球やサッカーと違い、相撲のようなマイナーなスポーツはどうしても強豪校に

強さが偏りがちになる。学校側が相撲の環境を整え、志あるものがその学校の門を叩き、

実力者をスカウトして引っ張ってくる。結果、他の学校は『所詮あそこには敵わない』と

モチベーションを上げられなくなる。

 だが2年前のあの熱い戦いを、そして無名の大太刀の躍進を目の当たりにした

全国の力士たちは、自らも主役になり得るんだ、という心を芽生えさせる。

強豪校なにするものぞ!の意思で各所で番狂わせを演じ、県代表として名乗りを上げて来たのである。

 

 そして、そんな学校にこそ多くの写真が『国宝候補』の銘と共に張られているのだ。

 

「白楼、栄大、金沢北も立花寺も去年までよりずっと苦戦していたわ。3-2の辛勝も

何度もあったのよ、今まで歯牙にもかけなかった無名高にさえ、ね。」

 言われて蛍たちは自分達の県を思い出す。弱小だった西上や常磐第三の躍進、いや自分達だって

千葉での地位は石高に次ぐナンバー2以下だったハズだ。そんな下克上が全国レベルで

起きているというのか・・・

「参ったな・・・どこをチェックすりゃいいのか、皆目見当がつかないぜこりゃ。」

そう嘆く桐仁に、名塚は『まだ貴方達はマシよ』という目を向ける。

 

 ダチ高が全国を決めたあの日、彼女は会場の外で悲観に暮れる少年たちを目にした。

てっきり『ここで』負けたのかと思いきや、ジャージには『愛商大豊田』の文字。

他県の偵察に来ていた彼らが、なんと同日に行われていた愛知県大会で自分たちの高校の

敗北を知ったのだ。仲間の応援も出来ず、ここで得た情報は無駄になってしまった。

 彼らだけではない。衆翼第一や兜山のマネージャーの姿も見えていたが、翌週行われた

彼らの県大会でも母校は敗北し、偵察の情報は意味をなさなくなった。

唯一、女子マネが来ていた鳥取白楼は同じ日になんとか全国を決め、ダチ高の情報を

生かすことが出来るのだが。

 

「ま、情報の無い有象無象を気にしてもしょうがねぇだろ、注目すべきはやっぱコイツだ。」

荒木がページを戻し、3人の国宝のページにいる選手を差す。

”鳥取白楼、国宝『備前長船』”

「そういや荒木さん春に対戦したんですよね、どうでした?」

 千鶴子の問いに、荒木はシンプルにこう答える。

「強かったぜ。」

わかり切った答えに一同がずるっ、とずっこけそうになる。

 

「具体的に言えよ!」

「弱かったらここに載ってねぇ!」

「・・・ほんとバカですねこの人。」

 最後の蛍のしみじみとした感想に、また涙目でつっかかる荒木。

「う、うるせぇ!誰がバカだこのヤロウ、もう一番取りやがれ・・・」

 と、そこで言葉を切り、すっと真顔になった荒木はこう続ける。

「そうだ、お前だよ三ツ橋、お前の相撲にそっくりなんだよコイツは。」

「・・・え?」

 

 鳥取白楼高校2年、舟木長一郎、175cm123kg。

彼が『国宝』として全国デビューしたのは昨年の春、準決勝と決勝でその圧倒的な実力を

示してみせた時だ。ぶちかまし、突き、寄り、投げ等を間髪入れず繰り出す強さ。

蛍と荒木も現場で見ていたが、その時はとにかく攻撃的な選手というイメージが強かった。

 だが、彼の本性は攻撃性だけでは無かったのだ。彼は相撲の持つ自由度をひたすら追求し

あらゆる技、決まり手を習得しようと追い求めた。

出し投げ、引き投げ、変化から反り技や関節技に至るまで、あらゆる戦法を貪欲に取り入れる、

そんな彼の姿勢を支えていたのは、あの天王寺とはまた違った形での相撲愛だった。

 

「何でもやってくる、言い換えれば何をするか分からないんだよ、ヤツは。」

200kg超の相手をぶちかまして放り出すかと思えば、軽量級の選手を引いて仕留める、

自分こそが万能の相撲取りと言わんばかりのその戦法は、対戦相手の研究を

無効にする強みを持っていた。

 

「とにかく相撲が好きなのよ、彼は。」

 名塚がかつて白楼に取材に行った時の事を思い出して語る。とにかく天真爛漫な性格で

あらゆる技を楽しそうに繰り出すその様は、まるでゲームで色んな技を試す子供のようだった、と。

「誰かに似てますねぇ。」

柚子香がレモンを見てそう呟く。そう、そんなタイプの選手は本当に何をやって来るか分からない。

色々と技を試したいがゆえに、行動に対するためらいが無い、だからこそ矢継早に様々な技を

繰り出してこれるのだ。

 だからこそ彼には『備前長船』の名がしっくりと来る。その刀は長きにわたり

刀匠により作り続けられてきたが、その時代ごとの主流や傾向を取り入れ、世代ごとに様々な

進化や特徴を備えてきた。同じ銘にもかかわらず、一本一本が様々な個性を見せる名刀。

 

「名塚さん、こっちの黒田選手の方は?」

 蛍がやや神妙な顔で問う、それを見た柚子香も少し暗い表情を見せる。

あるいはもしかすると、蛍と同じ『心の闇』を抱えているかもしれない国宝。

「彼は舟木君とは真逆ね、ひたすらぶちかまして押し切る、まさに『圧切(へしきり)』よ。」

「ただ左右に躱そうとしても読まれるか追いかけられるんだよね、相手の心理をよく読んでるよ。」

沙田がそう付け足す、彼も昨年のIH個人戦で彼との対戦経歴があった。

 その情報を聞いた蛍は確信を深める、彼も多分、未だに覚めない悪夢の中で戦っている、と。

 

「さて、情報も入ったことだし稽古を再開しよう、せっかく集まったんだからね。」

諸岡の声に全員がハイ、おおっ!と答える。そうだ、他校の情報が入らないのは他所も同じ

だったら自分たちが大会までに少しでもレベルアップするしかないんだ、と。

 

 熱の入った稽古の最中、カメラを構える千鶴子を見て、カメラマンの宮崎が声をかける。

「マネージャーさん、写真も撮るのかい?」

「あ、はい・・・みんなの姿を取り溜めてて、なにか記念にしたいと思ってて・・・」

本職さんに見せるほどのものでは無いですよ、と恐縮する千鶴子にぐいぐい押して、彼女の

取り溜めた写真を見た宮崎が、ほ~う、と感心する。絵心があるよねぇ、と。

 

 本職に褒められて上機嫌で再度カメラを向ける千鶴子。と、部室の隅で未だ『月刊相撲道』を

眺めている人物が目に留まる。

「・・・赤池君?」

 

 彼は先ほどの『国宝候補』のページを開いて凝視していた。

「徳島県代表、海洋美波高校3年、菅 正一(すが しょういち)、国宝候補『蜂須賀正恒』・・・」




おまけ、全国の国宝候補

南北海道、苫小牧西工業 一条 守『和泉守兼定』
青森、三ノ矢実業    柏木 恵『用恵国包』
            烏野 章『小烏丸』
秋田、男鹿学園     上月 卓也『月山』
福井、一乗谷大付属   朝倉 暁『吉光』
宮城、青葉       鳥羽 真一『鶯丸』
群馬、館林南      内山 貢 『村正』
山梨、甲斐       浦川 星二『星月夜』
埼玉、栄華大附属    滝沢 繁『繁慶』
千葉、大太刀      三ツ橋 蛍『蛍丸』
            辻 桐仁『鬼切安綱』
東東京、国銘館     京極 三太郎『正宗』
            後藤 一文字『菊一文字』
西東京 帝天      池田 拓海『池田光忠』
静岡、藤川商業     今井 左介『宗三左文字』
愛知、騎皇国際     荒巻 響『物干竿』
三重、鳥羽第一     三苫 久助『九鬼政宗』
京都 京都右京     大山 一二三『不動国行』
大阪、堺像仙台付属   新開 洋平『井上真改』
            桑原 隆司『桑山光包』
徳島 海洋美波     菅 正一『蜂須賀正恒』
広島 宮島海産業    古淵原 流星『三原正弘』
山口、徳山大付属    白石 隆清『清綱』
福岡 立花寺      伴 吾郎『五月雨江』
熊本 熊本法政     細川 三郎太『同田貫』
沖縄 うるま国際    玉城 洋二『千代金丸』

国宝と呼ばれない存在
埼玉、栄華大付属    ジョン・J・オーリス(アメリカ、ハワイ)
鳥取 鳥取白楼     バトムンフ・バトバヤル(モンゴル)


・・・活躍するのはほんの一部ですw
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