・・・ヒマだなぁ俺w
「先鋒大峰、2陣松本、中堅陽川、副将俺(桐仁)、大将三ツ橋で行く、出し惜しみはナシだ!」
桐仁のオーダーに全員が頷く。相手の騎皇国際は個人戦で戦った荒巻のデータしかない、
ならば相性とかは度外視で、今のベストメンバーで行くほかない。
また、今日の団体戦はどちらかが3勝した時点で残りの試合は行われない、もし3連敗したら
桐仁と蛍の出番は無いまま終わってしまう、そういう意味で2年生にハッパをかける
オーダーでもあるのだ。
-これより団体戦を開始します、第一試合、大太刀高校、対、騎皇国際高校-
土俵の淵に立って礼をする両陣営。中でもやはり荒巻の長身はインパクト抜群だ。
観客もライバル達も、2年前に全国制覇したダチ高よりも、この『物干竿』を有する
騎皇国際のほうに注目が集まっている。
先鋒戦、大峰は得意の攻めで相手を追い詰めるが、土俵際のいなしに落ちてしまい黒星、
国技館での全国デビューにやや勝ちを焦って攻め込んだところをうまく引かれてしまった。
2陣戦は逆に松本のどっしり構える相撲が功を奏した。土俵際に追い詰められながらも
得意の粘り腰からくる受けの相撲で耐えしのぎ、相手が力尽きると寄り切って勝つ。
中堅、陽川の相手は留学生の北欧人、エディ・オーベリソン。なんと立ち合いからいきなり
片足タックルを繰り出され、そのまま倒される。どうやら元レスリング選手らしい。
相手のデータが無い事が悪い方に出た一番だ。
副将の桐仁、国宝候補『鬼切安綱』その出番に会場が沸く、ライバル達の視線が刺さる中
持久戦に来た相手に対し、オンオフの相撲を使い分けることによって対抗し、相手が焦って
寄りに出た所を見事に巻き落としで仕留めてみせた。
「なるほど、カウンターの投げが得意か。」
「石神高校の荒木を思わせるな、あの力の抜き方は。」
そんな桐仁の戦い方を冷静に分析するライバル達。だがそれも大将戦のコールによって
かき消され、意識を持っていかれる。
-大将戦。東、三ツ橋。西、荒巻-
ざわ、ざわ、と個人戦の話題をさらった荒巻に注目が集まる、対するは40cm以上背の低い
小兵の三ツ橋。その光景に、会場にいる相撲ファン達がひとつの懸念を抱く。
この素晴らしい力士が、姑息な『変化』を使う三ツ橋にけつまづくような負けを喫し
その戦歴を汚しはしまいか、と。
「三ツ橋ーっ、お前が国宝だと、笑わせんなよーっ!」
どこかの酔っぱらいのその一言がきっかけだった。変化を使う蛍に対する嫌悪感と
その彼が国宝候補の名を与えられていることに対する不快感が会場に浸透し、蔓延する。
「全敗のくせに、よくものこのこ出てこれたなぁー!」
「姑息な手ェ使うんじゃねぇぞー」
「荒巻ーっ、かまわねぇから吹き飛ばせーっ!」
思えばこういうヤジも各校のデータが出回っていない弊害かもしれない。彼らの頭の中では
未だに蛍は変化しか能のない、非力な力士としての一面しか知らないのだ
2年前、もし首藤に勝っていればその評価も違っただろう。だが負けた以上、彼らの記憶には
小細工を弄して勝とうとする姑息な選手、というイメージしか残っていなかった。
「ちょ、ちょっと!何よコレ、高校生の試合中よ!」
記者席で名塚がその空気に声を上げる、まだ何もしていないのにこの言われように
さすがの彼女も嫌悪感をあらわにする。が、会場のブーイングや口笛は止まらない、
異常な空気に包まれる両国国技館。
「ハッ、まぁしゃあねぇわな。」
「さて、黙らせることが出来るかな、三ツ橋君は。」
荒木と沙田が観客席からそうこぼす。彼らは覚えている、2年前もこの罵声に耐え、
一度は奇跡を見せた蛍の胆力の強さを。だが相手は化け物級、さて、どうなるか・・・
「(ったく、何じゃあこの空気は・・・)」
荒巻が内心そうグチる。純粋に自分の応援なら力も入る、だが聞こえてくるのは
自分よりはるかに小さいこの相手への否定と非難、うるせぇ黙ってろと思わずにはいられない、
お前らに気を使われるために相撲取ってんじゃねぇ、と。
が、次の瞬間、荒巻は気付く。相手の三ツ橋のそのらんらんと光る眼が自分を射抜いている事、
観客のヤジなどまるで意識せず、自分との対戦その1点に集中している相手の存在を。
「(上等、いい芯してんでねぇか!)」
だがヤジやブーイングは止まることを知らなかった。礼をさせようとした主審(行司)を
土俵下の副審が止める、この雰囲気の中試合をさせるのは公平ではない、と。
役員を呼び、汚いヤジを止めるよう場内放送を指示しようとした、その時。
「 や か ま し い わ !!!」
広い国技館の隅々まで響き渡るその怒号に、会場が一転、水を打ったように静まり返る。
それは次戦の選手席にいた人物が放った一喝だった。周囲のチームメイトは予想していた
彼の行為に、耳を手で押さえてやれやれ、という顔をする。
声の主はふん!と鼻息をついて座り直す。海洋美波高校、菅 正一、国宝候補『蜂須賀正恒』。
そんな彼を見上げて『相変わらずだな』と言う顔をするのは、ダチ高の赤池だった。
-互いに、礼-
ようやく勝負が始まる。その間も蛍は目線を逸らさず、荒巻の目を睨み続ける。
荒巻もまた蛍を睨み返し仕切りに入る。見れば見るほど小さい相手、ならば観客の言う通り
変化もあるか?だが自分の長い腕ならどこに飛ぼうと捕まえる自信がある、さぁ来い!
-はっきよい-
ガツゥン!と頭からぶつかる両者。と、三ツ橋の頭が下がり、荒巻の頭がハネ上がる。
「蛍火の如し、潜!」
だがハネ上げたのは荒巻の頭だけだった、その巨体は相変わらず低く構え、潜ろうとする
三ツ橋を捕らえるべく胸を合わせにかかる。
が、沈んだ状態から一歩下がった三ツ橋は、そこから何と腕を十字に組み合わせ、
全身のバネを使って荒巻を下からカチ上げる。
-ドゴォン!-
『十字かち上げ』が再び荒巻の頭を跳ね上げる、先ほどよりもさらに上体を浮かされた荒巻は
逆にこの小さな選手の胆力に感心する。このこんまい体で俺に対してこのケンカ腰な相撲とは!
だったら俺も!と下の三ツ橋を捕らえにかかろうとする・・・いない、だと?
会場があっ、と驚きの声を上げる。なんと三ツ橋が思い切り宙を舞い、巨体の荒巻を
飛び越して見せたのだ。
「八艘飛び!」
「うそ・・・だろ!?」
いかに荒巻が腰を割っているとはいえ、この長身選手に八艘飛びを仕掛けるとは誰も予想しない、
だからこそ蛍はこの戦法を選んだのだ、蛍火の如く、潜から十字かち上げで『潜るぞ、潜るぞ』と
意識させておいてからの飛び技。加えて強烈なかち上げが瞬間相手の目を閉じさせ、
飛ぶ蛍の姿を視覚と意識の両方から消し去って見せたのだ。これぞ蛍得意の心理戦、その真骨頂!
「うまいっ!」
そう吐いたのは白楼の舟木だった。少し離れたところでは立花寺の黒田もぐっ、と拳を握って
ほくそ笑む。先ほどのヤジ、そして2年前の三ツ橋に対して、彼もまた思う所があるのだ。
背後からマワシを掴む蛍、だが荒巻もすかさず体を起こし、直立に近い体制になると
右手を後ろに回して相手のマワシを掴もうとする。
「そうだ慌てるな荒巻、お前が立てば相手はマワシに力を込められん!」
騎皇国際の監督がそう叫ぶ。この体格差なら例え後ろを取られた状態でも挽回は可能だ、
相手を捕まえ、もう一度正面に引きずり出せば・・・
蛍はここで相手の左足に後ろから『内掛け』を仕掛ける。荒巻の足が長いため、
ヒザではなく向こうずねに足を掛ける形でロックする。そして掛けた自分の足首を
左手で掴み、手と足の両方で荒巻の左足を引き付ける。
「根太起(ねたおこし)!」
背後からな為、また身長差がありすぎる為、いつもの形とは違うが、それでも荒巻の
ヒザから先を自分の方に引っこ抜き、強引に片足立ちにさせる。
棒立ちだった荒巻、その巨木の様な体躯が、この『根太起』によってぐらぁっ、と傾く。
「(な、なんだ?左足が、浮かされて・・・言うことを聞かない、どうなっとんじゃ!)」
まるで巨木を切り倒したかのように、縦から横に傾き続ける荒巻の巨体。
それが完全に横倒しになった時、土俵に派手な衝撃音と、土煙が舞う。
-どどどぉーーーーん!-
会場の大勢が口をあんぐりと開けて固まっていた。ヤジを飛ばしていた酔っ払いも、
三ツ橋が国宝呼ばわりされる事に不満だったライバル達も、口を開けたままその光景に
黙らされる。
-東、三ツ橋の勝ち-
「「おぉぉぉぉ・・・」」
ため息とも歓声ともつかない声に会場が響く。あの三ツ橋がこの巨体を仕留めてみせた、
ぶちかましも、カチ上げも、そして彼らが嫌っていた変化である八艘飛びも使い
最後は力づくでこの荒巻を倒して見せた、これが今の三ツ橋、これが国宝『蛍丸』か!
「ほら黙らせた。」
沙田と荒木が笑いながらそう語る。伊達に俺達石高を破ったチームじゃねぇんだよ、と。
-以上、3-2で大太刀高校の勝ち-
勝ち名乗りを受けるダチ高に拍手が飛ぶ。会場の誰もがそのチームに畏怖と敬意の念を込めて。
参加選手たちの、もはや疑うべくもない『強敵』として。
大太刀高校、一回戦突破。