初戦に勝利したダチ高の面々が通路に引き上げる際、次戦の待機スペースにいる
他校の選手とすれ違う時、彼らに声をかけられる。
「よっ、テツ!」
「お前も全国来てたんやなぁ。」
声をかけられているのは赤池だ、どうも顔馴染みらしい。
「えっとぶりですわ、次はウチらやから勝ちぃや!」
そう返す赤池の頭をわしっ、と掴む長身の男。日焼けした顔でにかっ、と笑う。
「言うようになったやんか、こらウチらも石にかじりついてでも勝たんとなぁ。」
試合場に向かう徳島県代表、海洋美波高校相撲部。そしてその主将、菅正一。
そんな彼らと対峙するのは、全国でも屈指の相撲名門校、青森県代表、三ノ矢実業高校。
共に国宝候補『蜂須賀正恒』菅と『用恵国包』柏木 恵、『小烏丸』烏野 章を擁する注目高だ。
「知り合いなのは分かるけど、どういう関係?」
「田舎の昔のツレですわ、漁師町でよう相撲取っとったんです。」
ダチ高指定の観客席で蛍の質問に赤池が答える。彼らはいずれも海沿いの街の腕白仲間、
ほぼ全員が漁師の息子で気が強くて喧嘩っ早かった、そんな中でガキ大将格だった菅は
よくこう言っていた。ケンカするなら相撲でやれ、と。
「赤池の人格構成が透けて見える話だ・・・」
思わずこぼす沼田に、周囲もうんうんと頷く。それを聞いただけで彼らに交じる赤池の姿が
ありありと目に浮かぶ。
海洋美波高校には元々相撲部が無かった。菅たち数人が入学した時、彼らで相撲部を
立ち上げたのだ。腕っぷしには自信のあった彼らだが、それだけで勝てるほど甘くは無かった、
一年たって後輩が入学し、さらなる強さをつけた彼ら、それでも徳島の名門、板野林業の
牙城を崩す事は叶わなかった。
『お前が来てくれたら全国も見えるんやけどなぁ・・・』
赤池が千葉に引っ越すことが決まった時、そう言ってくれた菅の言葉を思い出す。
だが、彼らは赤池抜きでもその偉業を達成してみせた。県大会決勝、2-2の大将戦で
菅は板野のエース小塚を気合一閃で吊り落として、全国を決めてみせたのだ。
その強さ、そして吊りを決めた時の雄叫びを聞いた『月刊相撲道』の取材記者は
小塚に付ける予定だった国宝銘『蜂須賀正恒』を菅の方に与えたのだ。
-東、海洋美波高校。西、三ノ矢実業高校-
腕白坊主軍団VS相撲エリート、そんな戦いは予想以上の激戦となった。
先鋒で出た三ノ矢の『小烏丸』烏野は、押されながらも土俵を丸く使い円を描きながら
相手を流れるような投げで仕留める。2陣戦では海洋美波の田宮が怒涛の突き押しで
相手をあと一歩まで押し込む。が、相手の土板に脇に手を差し込まれ抱き抱えられると、
そこから驚異のうっちゃりで逆転負けを喫す。善戦してはいたが白星に繋がらない海洋美波。
-中堅戦、東、菅。西、柏木!-
中堅戦は国宝候補同士の激突、190cm110kgの菅と182cm138kgの柏木。共に個人戦予選リーグを
突破しており、今日ここまでで3番を消化している。が、その疲れも見せず睨み合う両者。
会場も主戦力同士の激突に、固唾をのんで見守る。
-はっきよい!-
立ち合いと同時に菅はもろ手突きで相手を起こしにかかる。柏木も受けて立つと言わんばかりに
突き合いになる、手数と威力では菅の方が上だったが、体重で勝る柏木は体ごとそれを突破し
得意の左四つに組み止める。
電車道で寄りに出る柏木、菅は寄られながらも長い腕を巻き替え、両上手を深く取る。
俵に足を掛け、寄りを止めた彼はそのまま吊りに出る、柏木も応えて両者吊り合う。
「出るで!」
そう赤池が言ったその時だった。吊り合っていた菅が吠える、会場全体に響き渡るほどの声で!
「けえぇらああぁあぁぁぁぁぁぁ!!!」
その声と同時に柏木の体が土俵から引き抜かれる、なんという膂力!
そのまま体を半回転させ、相手を土俵外に放り出す菅、勝負あった。
「・・・あの人、吠えたら信じられん力出すんや、相変わらずやでホンマ。」
波音が響く漁師町の育ちだけに、彼らは皆一様に声が大きい。だが、その中でも
菅の大声は別格だった、そしてその雄叫びを上げたその瞬間、彼はとんでもない力を
絞り出すことが出来た。
「武道でも格闘技でもあるからな、技を出す際に声を上げて力を増す、という概念は。」
桐仁がそう分析する。息を吐くと同時に『気を吐く』、つまり乾坤一擲の力を出す者は
確かに存在する、菅はまさにそういう存在なのだろう。
「あ、あの声。さっき部長の時に怒鳴ってヤジを止めた人だ・・・」
柚子香が気付く、蛍は後でお礼言わなきゃ、と拍手しながらそう返す。
菅の余勢をかってか、副将戦も海洋美波が取る。ぶちかましから胸を合わせた福島が
そのまま一気に土俵際まで詰めてからの見事な出し投げを決め、2対2のイーブンにしてみせた。
だが、彼らの健闘もここまでだった。大将戦、一進一退の攻防の末に土俵を割ったのは、
海洋美波の大将、花田のほうだった。
菅が選手席で、赤池が観客席で、無念の思いにに天を仰ぐ。
「カタキとらなきゃ、ね。」
蛍が赤池にそうハッパをかける、次の試合は彼も出場予定、実力伯仲のダチ高に明確な
控え選手はいない、桐仁の肺の疾患もあり、全員が出番をローテするのは県大会からすっとだ。
ウス、と頷いて拳を合わせる赤池。
「さて、練習場に行くぞ、急いで三ノ矢対策を練らなきゃいけないからな!」
桐仁の指示で選手全員が席を立つ、マネージャーの千鶴子と柳沢は居残り、
他校の情報収集に当たる、勝つために各々がすべきことはいくらでもあるのだ。
練習場について体を動かし始めた時、なんと海洋美波の面々がやってくる。
「よう大太刀さん、すまんけど赤池と一番取ってもいいか?」
菅がそう言ってくる、いや赤池は次の試合に出るしそれは・・・と渋りかけた桐仁を
蛍が制してこう返す。
「いいですよ、気合い入れてやって下さい。」
今回はどっちを勝たすかギリギリまで迷いました。