蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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明けましておめでとうございます。

今年も熱い戦いを書ければと思いますのでよろしくお願いします。


第64番 振るいにかける

 花道から通路に移り、割り当てられた観客席に戻るダチ高の一同を、同じスペースにいる

千葉県勢の個人戦出場者たちが出迎える。

「やったな、お互い明日まで生き残ったなぁ。」

 神崎と、大河内と、そして沙田とハイタッチしつつ席に着く一同。そう、団体のダチ高も

個人戦代表の3人も明日以降に生き残ることが出来たのだ。

 

「さて、感慨に浸る暇は無いぜ。」

桐仁の言う通り、眼前では早速明日のダチ高の相手を決める一戦が行われようとしている。

 -東、広島 宮島海産業。西、群馬、館林南-

 共に全国初出場、そして国宝候補を擁している。いずれが勝つにしてもダチ高にとって

情報収集が非常に重要になる一戦だ。

 

 試合は一進一退の攻防を見せ、2-2で大将戦にもつれ込む、奇しくも国宝候補同士の対決。

 -大将戦。東、古淵原。西、内山-

「『三原正弘』と 『村正』か、どっちも個人戦は1勝2敗で敗退してるんだよなぁ。」

 国宝候補とはいえ、激戦区の個人戦を誰もが勝ち上がれるわけではない。

国宝に敗れた者もいれば、無名の選手に不覚を取った者もいる、相撲で勝ち上がるというのは

ある意味綱渡りであるとも言えるのだ。

 

「古淵原選手は沙田選手と福井の朝倉選手に負けてますね、いずれも出し投げ系の技で。」

千鶴子がメモを見ながらそう語る、184cm156kgのその巨体は今日残念ながら、出し投げを

得意とする二人の絶妙のタイミングの投げに屈していた。初舞台の全国で緊張もあったのだろう。

 

「内山選手は福岡の黒田選手と沖縄の玉城選手のぶちかまし一撃で土俵を割っています。」

確かに、内山は182cm89kgの、相撲取りとしては細身なタイプ、重量級の選手に体ごと

ぶち当たられると相性的に良くないだろう。

「ただ、残りのひと試合、そして団体一回戦で・・・相手を『壊して』います。」

 千鶴子の一言がダチ高のメンバーに冷たいものを走らせる、それに続いたのは柏実業の神崎だ。

「もろ手突きやかち上げからの突っ張り連打で相手をKOする、西上の葉山に似たタイプだ、

気を付けな。」

 

 -はっきよい-

 立ち合い、両者は意外にも頭からぶつかる。古淵原にとって怖いのは頭を起こされてからの

顔面急所への張り手だ。アゴをしっかり引きつつ、細身の相手を捕まえにかかる。

対する内山は相手の右下手を左手で抱え、出し投げ気味の小手投げに行く。

「(同じ技で一日3回も負けるか、ナメるな!)」

 古淵原は素早く体を回し小手投げについて行く。変わった相手の方向に目をやり、その姿を捕らえる。

その瞬間!

 

 -ビン!バチィ!ベチィッ!ゴンッ!-

 内山が至近距離から、空いた右手で古淵原の顔面を4連打する。出し投げで変わった相手を

顔が追いかけたその一瞬を狙って、アゴ、人中、左眼球、そしてまたアゴに小さく、かつ体重を乗せて。

 

 どどぉっ、とその場に崩れ落ちる古淵原。行司の勝負ありの声と同時に、宮島海産業の面々が

心配そうに古淵原に声をかける。古淵原は手をかざして『大丈夫だ』のジェスチャーを見せるが

もう片手で顔面を抑え、立ち上がることが出来ない。

 車椅子が呼ばれ、仲間に抱えられて退場する古淵原、その後でようやく勝ち名乗りが上げられる。

 -西、内山の勝ち-

 

「日本拳法か!」

 ダチ高顧問の諸岡が思わず叫ぶ。内山のあの距離の短い、体の中心から突き出すような掌打は、

日本拳法の『直突き』に酷似していた。

「日拳かよ・・・」

 そう嘆いたのは沙田の横にいた荒木だ。総合格闘技目指す彼にとってはお馴染みの格闘技、

昔から総合格闘術を磨いてきた、相手を壊すことに特化した恐るべき格闘技。

 

「持ち主にすら不幸を呼ぶ『妖刀』とまで言われる刀、『村正』とはよく言ったものです。」

歴史に詳しい千鶴子がそう解説を入れる、単に強いだけではない、危険な相手だ、アレが

次戦の相手か・・・

「(三ツ橋や陽川、松本のような間合いを取る相撲では危険だな、当てるのは大峰か赤池あたりが

理想か。)」

 桐仁がそう分析する。勝つ事も大事だが、ケガをしない事、壊されないことも考えなければ。

 

 勝者と敗者をふるいにかけるべく団体戦は進む。強豪校が、無名高が、かたや3回戦に

名乗りを上げ、こなた国技館から去っていく。

 

 -東、埼玉代表、栄大付属。西、大阪代表、堺像仙台付属-

 全国有数の強豪校と、全国常連を破って出て来た新鋭高の対戦、堺像仙台付属は先鋒の

国宝候補、新開が白星を挙げ、2陣の真島もそれに続く。いきなり追い詰められる栄大。

 だがここから栄大の反撃が始まる。アメリカ・ハワイからの留学生、ジョン・J・オーリス

(195cm125kg)がその体躯を生かした当たりからのもろ手突きで相手にマワシを触らせずに

土俵から押し出すと、春の新人戦でダチ高の沼田を一蹴した1年生、久我が電車道で相手を下す。

 

 大将戦は共に国宝候補、滝沢 繁『繁慶』と桑原 隆司『桑山光包』の対戦。

「お!滝沢の出番か、あいつも今や国宝候補だもんなぁ・・・」

 1年前、春の新人戦で陽川、大峰、そして松本と熱戦を演じたライバル滝沢。今や彼も

全国の舞台を幾度も経験し、国宝候補に挙げられるまでの強さを身につけていた。

 両者がぶつかり、差し手争いに入る。ここで場数の違いを見せた滝沢は右四つ十分の体制を

先に作ると、そのまま一気の電車道で勝負を決めてみせた。正統派の強さに思わずため息が出る会場。

 

 ただ、蛍はそんな栄大のコーチ席に座っている『彼』、栄大付属の現主将を残念そうな顔で見る。

「(狩谷君、相当悪いんだろうな、もう選手としてはダメなのかな・・・)」

 かつて蛍が模範とした『潜る相撲』の使い手、体重別の世界選手権を制した彼の姿は

あれ以来、今日まで土俵の上で見る事は叶わなかった。

 

 盤石だったのは、かつて『絶対王者』と呼ばれた鳥取白楼だ。秋田の男鹿学園を相手に

先鋒で出たモンゴル人、バトムンフ・バトバヤルが組み際に投げで崩してからの2枚蹴りで

相手を横倒しにする。国宝級のその実力に会場も思わずため息。

 

 2陣に座る国宝『備前長船』舟木はなんと立ち合い、腕をクロスさせてのかち上げを放つ。

「じゅっ、十字かち上げ!?」

 ダチ高の面々が驚く。蛍が使うその技は、パワー不足な彼がそれを補うために両手で

カチ上げるべく編み出した技なのだ。両手の分威力こそ上がるが、腕をクロスさせているため、

その後のマワシを取りに行く動作が遅れるデメリットが・・・

 次の瞬間、舟木は左手で相手の左手首をつかみ、右手で相手の首根っこを押さえる。

そしてそのまま体を躱し、左手で相手を巻き込みながら右手で抑えた相手の頭を押さえつけて

土俵に薙ぎ倒す。クロスさせた腕からごくスムーズに繋いでいく変形の巻き落とし。

「・・・凄い。」

 思わずうなる蛍。自分が見せた変形のかち上げからの繋ぎ技を、その日のうちに考えて

形にしたと言うのか・・・。

 

 -中堅戦。東、上月君。西、北谷君-

 ここで男鹿の国宝候補、上月 卓也『月山』の登場。185cm125kgのその体躯に対し、

対する北谷も遜色ない体つきだ、さてどうなるか。

 -はっきよい-

 当たった直後の上月の右かち上げはするりと躱される、続いて取ろうとした下手は手首を

掴まれて止められ、背中越しに取りに行った右上手は腕を返されて浮かされる。

「(読まれてる・・・全部、コイツ!)」

 そのまま寄りに出る北谷に対し、せめてもの抵抗で浮かされた腕で首投げを放つ上月。

だがやはりそれを読んでいたかのように首を引っ込め、相手の技をすっぽ抜けさせた北谷は

そのまま相手の背後に付いて寄り切る。

 

「(さすが、兄貴の後継者って呼ばれるだけのことはあるなぁ・・・)」

 白楼のマネージャーリーダー、天王寺 咲がそう心で呟く。自分たちが収集してきた各校の

データを、誰よりもよく研究し対策を施すデータの鬼、北谷。

 元々彼は白楼内では弱かった。強くなるために選んだのは、入学当時の主将である

天王寺獅童のデータ相撲を身につける事だった。

 様々な選手のクセ、攻め手から成長まで全てを理解し、研究し、各選手ごとに対策を考える。

そのために2年生の時期をマネージャーとして費やし、相撲を外から見ることで相手を知り、

選手に返り咲いた3年生で見事白楼のレギュラーの座を勝ち取って見せたのだ。

 

「どう思う?」

 観客席で千鶴子が柳沢に問う。見ればわかる、彼もまた相撲を『外から』見る感覚の持ち主。

柳沢は初めて彼女が言う『相撲を外から見て強くなる』ということを理解できた気がした。

あれが、自分の目指す姿だと。

 

 本日の最終戦、福岡の立花寺と京都の京都右京の試合。

副将戦までもつれ込んだその試合は、国宝『圧切長谷部』こと黒田が、国宝候補『不動国行』

大山 一二三と対戦。

 黒田のぶちかましを245kgの体重で受け止める大山だが、それでも『圧切』は止まらない。

体重差も何のその、相手の胸に頭を付けた黒田はそのままじりじりと相手を押し込む。

思わずもろ手突きで距離を取ろうとした大山に再度突進、上半身ごとのけ反らせると

そのまま四つに組んで土俵を割らせる、刀銘の通り、不動の相手を見事圧切ってみせた。

 

 勝利を決めた黒田、土俵上でも、土俵を降りてからも、そこに笑顔は無かった。

 

 

 インターハイ初日はこうして終了した。明日以降のさらなる激戦に備えて選手たちは

各々の宿で一時の休息に入る。明日勝つため、頂点を目指すために-

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