蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第66番 国宝候補『陽鉈(ひなた)』?

 -先鋒戦。東、陽川。西、内山-

 大会二日目のオープニングカード、大太刀vs館林南。土俵に上がる二人を見つつ、桐仁は

頭を抱えていた。

「(何でだよ、内山は県予選からここまでずっと中堅以降だったのに、なぜよりによって

先鋒で出てくるんだよ、今日に限って!)」

 

 国宝候補『村正』こと内山。日本拳法をベースとした打撃系の技で相手をKOする

相撲を取る彼に、桐仁は一気の相撲を得意とする大峰や、密着して打撃技を出させない

相撲を取る赤池を想定して中堅、大将に配置して臨んだ。

 

 だが先鋒で出て来た彼に対するダチ高は、中間距離での腕力相撲を得意とする陽川。

単に相手との取り口が悪いと言うだけではない、気の強い彼は多分相手の打撃にも

真っ向勝負を挑むだろう。勝敗ももちろんだが大怪我をされたらコトだ。

 なんとか無難に、という桐仁の願いは、土俵上の陽川のそれはもう闘志にあふれた笑顔に

消し去られる。

 

「(願ってもないぜ、国宝候補『村正』を喰って、俺が国宝に名乗りを上げる!)」

 大相撲に進む目標を持つ彼にとって、強敵との対戦とその勝利は何より価値がある、まして

昨日は全国初勝利を逃した彼にとって、ここは是が非でも負けられない一番。

 

「内山ー!ジャンケンに勝って先鋒で出てるんだから負けんじゃねぇぞーっ!」

土俵の反対側から聞こえた声援に桐仁ががくっ、と体を傾ける、ジャンケンかよ!

 それに答えて『俺が負けるかよ』という不敵な顔を対戦相手、陽川に向ける。

土俵の東西で睨み合う両者。

 

 -手をついて-

 陽川189cm100kg、内山182cm89kg。似た体躯ながらわずかに陽川の方が大きい。特に

腕の長さで勝る陽川に対し、内山はその立ち合いを想定する。

「(俺の相撲は知られてるはずだ、ならばこいつはリーチを生かして張って出るか、もろ手突きで

突き放してくるか・・・)」

 

 -はっきよい-

 立ち合いと同時に、両者肩と肩でぶつかる。お互いが突きを警戒していただけに予想外の開幕だ。

「いい度胸じゃねぇか!」

内山は半歩後退し、陽川の顔面を視認できる距離を取ると、胸の前に構えた両手から張り手を

繰り出す。日本拳法で言う『直突き』の掌底バージョン!

 だが陽川は自分の顔の前に左手を構え、内山の右手突きを捕まえると、そのまま片手四つに

持っていく。ぐぐっ、とお互いの手に力が籠る。

「くおぉぉぉっ!」

「すあぁぁぁぁっ!」

腕を、指をぎりぎりと軋ませながらの力比べ、お互い引かない、互角だ。

 

「おいおい、陽川と互角の腕力かよ!」

ダチ高の面々がマジかよ、という顔で驚く。

「うっそだろー、内山の握力に対抗するとか、化け物かよ!」

館林南の選手たちも、今まで見なかった互角の手四つに思わず立ち上がる。

 

 10秒ほど膠着状態が続いた時、内山は残った左手で陽川の肩を掴む。そして伏せていた上半身を

起こすと、そのまま額を相手の顔面に叩きつけた。

 -ガッツゥンー

 もろに頭突き、というかヘッドバットが炸裂し、陽川の顔がハネ上がる。日拳使いならではの

えげつない攻撃は、実はそれが初動でしか無かった。次の瞬間、身をひるがえした内山は、

手四つに組んでいた陽川の左手を巻き込み、一本背負いに持っていく、乱暴ながら合理的な連携!

 

「行くかあぁぁぁっ!!」

 陽川は瞬時に腰を割り背負いを止めると、そのまま後ろマワシをわし掴みに取り、片手吊りに

持っていこうとする。

「くっ!」

 内山は背負いを諦め、手を離して向き直る。スキのある動きにもかかわらず追撃が来なかったのは

先ほどの頭突きのダメージが残っていたからなのだろう、現に陽川の鼻からは血が垂れている。

 追撃の張り手を繰り出す内山に対し、陽川はアゴを引いて額で受け止め、再度体ごと突進する。

肩で押し合う体制になった所で、行司が『待った』をかける。陽川の鼻血を止める為だ。

 

 足の位置を確認し、両者を分ける行司。陽川は貰ったティッシュを鼻に詰めながら相手を睨む。

「(凶悪なだけじゃねぇな、連携や技がいちいち理にかなってやがる。)」

内山もまた、相手のその闘志と反応速度に感心する。

「(あの背負いを止めるか、腕力も負けん気も強いが、反射神経も相当だな・・・)」

 

 再度肩で押し合った状態に戻される両者、行司が両者の背中をぱんっ!と叩く。試合再開だ。

同時に陽川は左を差し下手を取る。その動きを見て取った内山は、その手を巻き込んで

投げに行く、想いきり体を開く出し投げ気味の小手投げ!

 

「あれは!」

 蛍が叫ぶ、昨日の試合でも見せたその小手投げは投げ切るためのものではない。

相手との距離を開け、その隙間から直突きを顔面に放つための前動作。小手を巻かれている以上

下がる事もかわす事も出来ない。

「もらった!」

 内山が至近距離から顔面目掛けて突きを出す。顔面を景気よく張ったその掌打がバチィン、と

痛々しい音を響かせる。

 

 だが2発目は無かった、陽川は突きを避けもせず、逆に右手で相手のアゴに強烈なかち上げを

放っていたのだ。顔面をハネ上げられた内山はバランスを崩し、追撃の体制を失う。

 彼が再度腰を割るスキがあったのは、今度はダメージのせいではない。陽川は小手に巻かれた

左腕を巻き替え、逆に相手の右手を小手にかかえ込む。

 

 その手の平が、相手のアゴを打ち付けた右手の二の腕をしっかりと掴んだ。

陽川必殺の型の完成に、ダチ高全員がぐっ、と拳を握る。

 

「鉈っ!決まった!!」

 相手の右肘を極めながら、右手を強烈にノドに押し付けて相手を一気に押し込む。

土俵の端から端へ、2本のレールが伸びていく、電車道!

 

 押されながら内山は感じ入っていた。おう、見事な攻めじゃねぇか、ノドとヒジ関節の2点を

攻めながら押してくるとは、相撲侮れじ!

 ならばと残った左手を振り上げ、相手のこめかみに打撃を放って-

 

「勝負あり!」

 内山の足が土俵を割った時、彼の左手は陽川の側頭部で止まっていた、いや、正確には

止めていたのだ。

「学生相撲じゃ、横から、張るのは、反則だった、よな・・・」

 ノドに手を当て、しんどそうにそう言う内山に、陽川はへっ、と笑って背を向け、仕切り線に歩く。

 

 -寄り切って東、陽川の勝ち-

 

 拍手で迎えられる陽川を記者席で見ながら、相撲記者の名塚は唸っていた。

「陽川君・・・国宝認定しようにも『鉈』のイメージが強すぎて刀剣銘が思い浮かばないじゃない!」

横でそれを聞いた宮崎がぷっ、と吹き出す、別にマスコミが好き勝手に付けてるんだし、鉈でも

いいじゃないか、と。

 

 2陣戦で出たのは蛍、相手は135kgの体重を誇る二ノ宮。立ち合いから張って出る蛍に対し

二ノ宮はアゴを引き、張られながらも一気に蛍を土俵際に追い詰める。

「(なんだその優しい張り手は、内山に比べりゃナデられてるようなもんだ!)」

 

と、蛍は相手の両肩に手を添え、上半身をぐっ、と弓のように反らせる。

「(頭突き!?これも内山のマネかよ、ナメてんのか!)」

吹き飛ばすつもりで額に力を込めた二ノ宮の前で炸裂したのは、頭突きでは無く猫だましだった。

瞬間するりと懐に潜った蛍は、そのまま両前ミツを引くと、全身の力で反り返る。

 

「居反り!」

 そのままフロントスープレックスよろしく反り技を放つ蛍。

アゴを引いて相手に突進し、頭突きに備えて前傾姿勢が増していた二ノ宮に、この反り技を

残す術は無かった。

 

 鳥取白楼の選手席で、舟木がこの取り組みに嬉々として拍手している。

「すっげぇなアイツ、『手玉に取る』って表現がピッタリだぜ!」

 確かにあの張り手も、頭突きのモーションも、明らかに相手にそれと意識を向けさせるための

前動作だった。意識をそっちに振り、完全に逆を取る。『変化』という名の蛍丸スペシャル。

 

 これで2-0、大太刀の3回戦突破にリーチがかかる。だが中堅の赤池は戦いを優位に進めながらも

土俵際での切り返しに敗れる。続く松本は立ち合いからの、相手の大型選手のまさかの引きに

ばったりと落ちてしまう。

 これで2-2、大将戦にもつれ込んだ試合は大峰が怒涛の攻めと、土俵際の油断のないツメで

無事勝利を納め、準々決勝に進出を決めた。

 

 -3-2で東、大太刀の勝ち-

 

 辛勝を収めたダチ高、割り当てられた席に戻り次の試合に注目する。準々決勝の相手は

果たしてどちらか。

 

 -第二試合。東、埼玉代表、栄華大付属。西、石川代表、金沢北-

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