-はっきよい!-
西東京帝天の池田と鳥取白楼のバトムンフ・バトバヤルが土俵上で激しく当たり合う
164kgの国宝候補『池田光忠』こと池田拓海に対し、バトは108kgの体重で真っ向から挑む。
「ナメるな!」
すかさずもろ手突きでバトを弾き飛ばす池田。自分より軽い相手に得意の押し相撲で
後れを取るわけにはいかない。まして相手はモンゴル出身、今の相撲界の事情からしても、
国宝候補の自分が遅れを取るわけにはいかないのだ。
準々決勝第二試合の先鋒戦、バトはその殺気を隠そうともせずに土俵に上がると、
国宝候補の池田を親の仇のような目で睨めつける、殺気と、焦燥を混ぜ込んだ眼光で。
そしてそれを白楼の面々も、加納監督も、咲はじめマネージャーたちも諫めない、ただ
不安と祈りの目で見上げていた、どうか彼が報われんことを、と。
バトは焦っていた。日本に来て3年、彼は未だに相撲部屋への入門が決まらないでいた。
鳥取白楼へ相撲留学してはや2年半が過ぎ、彼が奨学金制度で高校にいられる期限が
もう終わろうとしている。
この大会でどこかから声が掛からなければ彼の夢は潰え、後に残るのは奨学金の返済という
負債だけになってしまうのだ。
「(ボクを見ろ!ここに強者がイルんダ!)」
弾かれながらも、あくまで真っ向から池田に立ち向かうバト。ただ勝つだけではダメだ、
押しの強いこの相手に真っ向からの押し合いで勝ってこそボクの強さがアピールできる!
その悲壮な決意で身を焦がし、黒い炎を纏った狼のごとく闘志でぶちかましを仕掛ける。
2発、3発、4発。弾かれ、突き放されながらも、何度も突進を繰り返すバト。
相手の池田も細身のバトに対し、土俵際での変化を警戒してどうしても慎重になる。
が、バトは愚直に突進を繰り返し、ついには土俵中央まで池田を押し返す。
「(バトさん、頑張れ!)」
咲が土俵下で祈るように応援する。彼の実力ならとっくに相撲部屋から声がかかっても
おかしくないハズなのだ。しかし今現在、各相撲部屋は誰かしら外国人力士が所属している。
外国人力士は一部屋に一人、このルールこそが今バトを人生の土俵際に追い詰めているのだ。
白楼の選手たちが応援を送らず、静かに土俵を見上げているのもこの為だ。余計な雑音を排し
純粋に彼の強者たる相撲を角界関係者に見てもらいたい、その一心で口をつぐみ、そして願う。
どうか彼を大相撲に、と。
「(こいつ・・・バカかよ!)」
池田が心の中で毒づく。明らかに劣る体重で真正面から自分に向かって来るとは正気か?
現にこいつの額は割れて赤い血がにじみ出ているというのに、変化はおろか組みさえもせず
正面からぶちかましと突きで対抗してくる、自分の得意なはずの相撲スタイルで。
まるで飢えた狼が、自分の体を顧みずに獲物に食らいつくかのように。
「うおぉぉぉっ!」
ガチィ!という激突音と共に、ついに池田をのけ反らせるバト。勝ちたい執念、認めさせたい執念、
角界入りして横綱になるという執念が、54kg差の体重をついに凌駕する。
たまらず叩き込みに出る池田。だがバトは本来猪突猛進のぶちかまし力士ではない、たまたま
相手の池田がそうだったから、それを上回る強さを見せるためにそうしていただけなのだ。
当然、変化によって落ちるような男ではない。すかさず変わった方向に突進し、一気に土俵下に
池田を突き落とす。
「バトっ!!」
その瞬間、土俵下から白楼の加納監督から声が飛ぶ。勝利を決めたバトが一瞬固まり、そして
ふぅっ、と息を吐いて肩の力を抜くと、土俵下に落ちた池田に手を差し出す。
勝ち名乗りを受け、一礼をして土俵を降りた彼は、監督に「アリガトウ・・・ゴザイマシタ」と
感謝の意を示す。
常日頃から言われていた、相撲では礼節を重んじるという事。土俵上ではガッツポーズや雄叫び
などの行為はかえって角界関係者の心証を悪くすること、ここ数年の横綱刃皇の素行の悪さから
モンゴル人の印象が良くないことを踏まえて、土俵上での自制をしろと釘を刺され続けていた事。
それを忘れ、今も勝利の瞬間に吠える寸前だった。監督の声掛けが無ければ、自分はますます
角界への望みが薄くなっている所だった。
だが、だからと言って彼の道が明確に開けたわけではない。この2年半で打診を続けた相撲部屋は
ことごとく競合していた外国人選手にそのイスを取られていたのだ。
ドウシテ、僕はこんなに強いのに・・・何でダレも僕を入れてくれない、認めないんダ!
イスに座ったバトは土俵上のチームメイトの相撲を見ていない、大事なのは仲間じゃなく自分ダ!
1年2年の時なら仲間がどうのと言えただろう、しかし今はもうタイムリミットが目前、
最後の大きなこの大会で自分の実力をアピール出来なければ、僕の夢は終わるんダ、なのに・・・
-以上、5-0で鳥取白楼の勝ち-
涙にくれる西東京、帝天学園の選手たち。そんな彼らを向こうに見てバトは嘆く。
お前たちハいつでも相撲部屋ニ入門できるジャないか、泣きタイノは僕のほうダヨ!と。
「白楼が勝ったか・・・」
観客席で桐仁がそう呟く、大型選手を揃えた帝天学園の勝ちもあるいは、とも思ったが
フタを開けてみたらやはり王者、白楼の圧勝劇だった。
「先鋒のバトムンフが真っ向勝負で勝ったのが大きかったね、あれで流れが一気に白楼に
行っちゃったよ。」
蛍がそう続ける。この大会ずっと先鋒を務める彼の闘志あふれる相撲は、続く
チームメイトを奮起させ、対戦相手を威圧するに十分だった。
団体戦の先鋒は攻撃型の選手が向いている、そんなセオリーをまさに実践していた。
「(だが、ちょっと相撲が荒い、というか雑だな、余裕が無いというか・・・)」
桐仁は思う。俺ならそこを突いて攻略できるかもしれない、もしそれに成功すれば白楼の
必勝リレーを潰せるだろう。だとすればヤツを止めるのは俺の仕事か、と。
準々決勝第三試合、宮城青葉と山梨甲斐の試合はは接戦の末、3-2で宮城青葉が制す。
ベスト4の最後のイスを賭けた第四試合は、福岡立花寺が沖縄うるま国際との九州対決を
モノにした。やはり国宝『圧切長谷部』こと黒田の強さは際立っていた。
その試合を観客席で見ていた白楼のマネージャーリーダー、咲の携帯がヴーッ、と振動する。
なんやこんなとこで、とスマホを見て目を丸くする。もうかれこれ2年も音沙汰の無かった
その相手からの着信、一体何事やろ?席を立ち、会場の外に出て着信履歴から返信。
「あーもしもし、咲です、お久しぶりです・・・」
会場内では団体戦の後、個人戦が行われていた。こちらも強者と強者が鎬を削る熱戦続き、
沙田含む3国宝が順当に勝ち進む中、同じ千葉の神崎は決勝トーナメント初戦で福井の朝倉に敗れ
大河内は初戦を勝ってベスト16に進むも、愛知騎皇国際の211cm、荒巻に手も無く敗れる。
こうしてIH全国大会2日目は終了した、泣いても笑っても明日が最終日。
・団体戦準決勝
第一試合 大太刀(千葉)-白楼(鳥取)
第二試合 立花寺(福岡)-青葉(宮城)
・個人戦準々決勝
第一試合 荒巻(愛知)-沙田(千葉)
第二試合 黒田(福岡)-細川(熊本)
第三試合 朝倉(福井)-今井(静岡)
第四試合 菅(徳島) -舟木(鳥取)
その頂点に立つのは、果たして。