蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第75番 ナンバーシステム

 長門部屋、高校相撲インターハイTV鑑賞会中。

「おー、バトの奴絶好調やねんな、あの鬼切を一蹴しよったわ。」

 部屋頭の童子関がアゴをさすりながら、後輩の勝利に笑顔でそう語る。かつてのバトの

荒さや危なっかしさのない、充実した内容での完勝に思わずほくそ笑む。

 

「悪いな小関、2年前の借りは返させてもらうでぇ。」

 そうおどける童子切に対し、小関はう・・・とうめくだけ。元々番付が遥か上の相手に

こんな時でも強く出るような性格ではない上、あの辻が完敗する展開とあっては

反論の余地もない。

「なんやなんや、そこは『こっから逆転や』とでも返さんかい。」

 上機嫌でそう煽る童子切。小関もそうだが、どうも関東の連中はノリが悪くていかんなぁ、と

頭をひねって一考し、こう提案する。

「よっしゃ!もし白楼が全国制覇したら、今夜は俺のおごりで皆で焼き肉や!」

 その言葉におおおっ!と沸く長門部屋。特に小関含む下っ端のちゃんこ番連中にとっては

夕食の用意の手間が開く分、自分たちの時間が取れる事にもなる、ありがたい。

 

「で、もし大太刀が優勝したら、小関の要求をひとつ飲んだるわ、何がええ?」

 思わぬフリにえっ!と真顔になる小関。が、すぐ察する。さすがに2年も同じ部屋にいるし

これは降ってわいたチャンスではなく、自分に対する別のフリであると。

「じゃあ、その時は皆に焼き肉おごって下さい。」

「一緒やないかーいっ!」

小関の頭を軽くハタく童子切、部屋内に笑いが響く。

 

「っと、2陣戦始まりますよ、白楼は七瀬選手・・・ソップ(痩せ型)ですねぇ。」

「そういや白楼はチームカラーが『カラフル』って言ってましたね、彼もそんなタイプですか?」

 そんな力士たちに童子切は自慢げにこう返す。

 

「おう!七瀬はとびっきりのな。何せ元ボクシング選手やからなぁ。」

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

「さて、出番やなタケ兄ィ、勝って来ぃや!」

 鳥取白楼のマネージャー、七瀬 瞳が2陣選手の兄、武夫を激励する。彼はまかせんかい、と

腕をぐっ、と曲げて答える。中学までボクシングを習ってきた彼だったが、背が伸びすぎたため

ウェイトコントロールの難しさからプロの世界に進むことを断念する。

 地元の白楼高校に入学して、その経歴を知った加納監督に誘われるまま相撲部に入部する。

そして相撲は肌に合っていた。自分より大きい相手を思う存分殴れる世界、何より体重を

気にせずコンディションが作れる世界にごく自然に馴染んでいった。

 

 2年生時の先輩であり、当時の主将が榎木であったことも彼をより相撲に馴染ませた。

合気道と相撲の融合が可能であるように、己のボクシング技術を相撲に生かせる術が

あるということを率先して教えてくれたから。

そして3年の今、彼は強豪白楼のレギュラーとして2陣戦を担うまでになっていた。

 

 

「あ・・・親方!鬼丸関も。見に来ていたのか。」

 土俵の反対側で、ダチ高2陣の大峰が観客席にいる二人を見つける。

なんか白楼のバトが勝利の後で、観客席にペコペコしてるな?と思ってその視線の先を

追ってみたら、世話になった二人が目に入ったのだ。

 瞑目する大峰。自分はプロの世界に進みたい、ならばここでいい所を見せ、親方から

喜んでプロ入りを勧められるくらいにならないといけない、と気合を入れ直す。

 

 両者気合十分、2陣戦の開始である。

 

 -東、大峰。西、七瀬-

 大峰181cm135kg、七瀬185cm96kg。対峙すると体格の差は歴然だ。だが七瀬のその太い腕は

ここまでも大型選手を何人も土俵下の放り出してきた。その突き押しが今回も炸裂するか、

それとも・・・

 

 -はっきよい!-

 頭からぶちかます大峰に対し、なんと七瀬はいきなり変化する。踏みとどまった相手に

すかさず強烈な突っ張りを連打する。

「ぶっ!?」

 面食らう大峰。変化から突きがセットになっているばかりか、その突きの連打も実に様々な

パターンをはらんでいる、それが間髪入れずに飛んでくるのだからたまらない。

 

 今大会、ダチ高は突き押し相撲の選手を何人も見て来た。しかし七瀬の突きはその誰とも

似ていない、性格の違う突きを5~6発まとめて放つその攻撃は、相撲の突っ張りと言うより

打撃系格闘技のコンビネーションブロウを思わせるのもがある。

 

「ナンバーシステム、今日も調子良さそうやなぁ。」

 咲が瞳にそう話す。ボクシングでよく使われる連続攻撃、ナンバーシステム。

相手の体の急所に番号をふり、相手の姿勢やスタイルに応じて番号順に攻撃する戦法。

 七瀬はこれを相撲の突き押しに取り入れた、押し、張り、手を添えてのつっかい、

下から相手の上体を起こす突き上げやかち上げ、さらに踏む込まれた時の変化や回り込み。

それらに番号を付け、決め打ちで一気に5~6アクションを1セットで叩き込む。

 

 無論、最初から上手くいったわけではない。何しろ相手がどうあろうと次の手が出てしまうのだから。

折角相手がのけぞった時に引いてしまったり、牽制が空振ったのに追撃を放って組まれたりと

失敗を重ねる毎日が続く。

 しかし研鑽を重ねるうちに、そのコンビネーションは次第に的確さを増していき、やがては

相手がアクションを起こす前に次の突きを放てるという武器に進化していく。

 

 -パンパンッ、ドンッ、ぐいっ、ゴッ!-

 多彩な突きに、大峰も得意の回転の速い張りで対抗する、強烈な突き合いに会場のボルテージが

上がる。しかし単調な大峰の突きに対し、いなしや間合い取りを含んだ七瀬の突きはより効果的に

相手の体を捕らえ、押し込んでいく。かといって体重を利して突破しようとすれば、まるで

見越したように叩かれ、横に回られてまた張られる。

 

「何とかして捕まえないと・・・」

 千鶴子が思わず嘆く。彼女が調べた七瀬のデータでも、彼の敗戦はすべからく組まれてから

土俵を割らされるパターン、捕まえなければこのまま滅多打ちに合うだけだ。

 

「(組ませねぇよ!)」

 七瀬が心で吐く。こういうアンコ型の選手に組まれることの怖さを彼は良く知っている、

だからこそ常日頃から張り手のパターンを磨き、捕まらずに勝つ方法を模索してきたのだ。

ましてやチームメイトには投げのバト、巨漢の久留田、そして躍動感のある相撲を取る

舟木がいる。彼ら相手に磨いてきた捕まらない相撲で、俺は白楼のレギュラーになったんだ!

 

「大峰、苦戦じゃな・・・」

 観客席で鬼丸が嘆く。その隣では五條佑真が七瀬の張り手の見事さにに唸っている。

横のレイナだけは大峰に大声で檄を飛ばすが、旗色が悪いのは明らかだ。

彼らを横目に親方は厳しい目で土俵を見つめる。

「(ここが我慢のしどころだぞ、大峰ちゃん・・・)」

 

 ついに土俵際に詰まる大峰。懸命に張り返すが、それでも相手の体の芯を捕らえられない、

このままでは押し出される、かといって体ごと突っ込めば叩かれる、まして巨漢の自分には

桐仁の様な土俵際の切り返しも、蛍の様な回り込む『円の相撲』も無い・・・どうする?

「(組みさえできれば・・・)」

 相手はチームメイトの陽川に似た体格、組んでしまえば腹に乗せて土俵下まで運べるだろう

だがその唯一の条件が見つからない、陽川なら簡単に組めるのに・・・陽川?

 

 大峰は思い出す。つい昨日陽川が、国宝候補を喰った時の相撲、そのシーンを!

 

 七瀬は左手を相手の肩に添え、右手でストロークの長い突きを放つ、これで1セット終わり。

土俵際でのけ反った相手を見て、トドメのコンビネーションを素早く選択し、撃とうとするが・・・

「何!?」

引いたはずの左手が戻らない、なんと大峰に『手四つ』で捕まえられている。その一瞬の

心の隙に、突き出した右手も同じく指を絡められ、組み合わされていた、両手の手四つ!

ここで両者、力比べに突入する。

 

「っしゃあ、捕まえた!」

「行け、押し返せーーっ!」

 意気上がるダチ高勢、だが白楼側はその光景を余裕の目で見つめる。

「七瀬に手四つ?そりゃ愚策だろ。」

「お生憎様、ボクサーの握力舐めないでね。」

 

 七瀬妹の言葉通り、七瀬が手四つで大峰の腕を押し込んでいく、大峰はたまらず

両手を下に向け、腰を割ってこらえるが、そのまま押し進められめ、ついには両手を

体の後ろまで持っていかれる。これは勝負あった・・・か?

 

「・・・捕まえた。」

 大峰が低い姿勢から、相手を見上げてそう呟く。顔を張られて腫れあがった大峰の強面が

ニヤリと笑って睨み上げるその顔は迫力満点だ。

 

 -ずっ、ずずっ-

「・・・は?」

 七瀬の妹、瞳がすっとんきょうな声を出す。大峰が手を後ろに回されたまま、それでも

七瀬を押し返して少しずつ前進している・・・アホな、なんで?

 二人は胸から腹までぴったり密着した状態で、しかも大峰の大きな腹に七瀬の腰が

乗っかってしまっている、今まで手四つの体制だったのに・・・あ!

 

「あの野郎!考えやがった。」

 桐仁が拳を握って歯を見せる。手四つで押し負けたのではなく、相手の腕を自分に

引きつけることで、体と体を密着させたのだ。あの後ろ手は押し負けたんじゃなくって

自分で引いて、引きつけているんだ、相手の体ごと!

 

「ぐっ!!」

 七瀬は押されながら臍を噛む。手を握られて体をぴったりくっつけられている以上、

左右に身をかわすことが出来ないし、腕を外すことも出来ない。腕を抜くには後ろ方向に

力を入れねばならず、そうなれば一気に寄り切られるだけだ、腕を抜けなきゃ突きも出せない。

前に寄ろうにも相手の腹に腰を乗せられては寄れるはずもない、手四つになってすぐ相手が

腰を割ったのはこのためだったのか・・・俺を引きつけ、腹に乗せるために!

 

 -ずずっ、ずっ、ずずっ-

 一歩、また一歩、七瀬の空間が無くなっていく、ついには土俵際まで追い詰められる。

そこで大峰は顔を真っ赤にして力を入れ、再び手四つを押し返す。

「ふんぬーっ!!」

 気合一閃、両手が再び二人の中央まで戻される、渾身の力を込め合う両者。

だが、体勢互角ならともかく腰の浮いている七瀬が、腰を割っている大峰との力比べに

勝つ術は無い。腰を割り直そうにも、足を後ろに出すスペースが無い、そこは土俵の外だから。

 

 -寄り切って東、大峰の勝ち!-

 

 両者大汗をかきながらの力相撲はこうして決着した。五分に戻し歓喜に沸くダチ高に対し

白楼サイドは皆一様に『その手があったか!』とうんうんと納得し、七瀬に少しは残念がれ!と

ツッコまれている。

 

 観客席の柴木山親方もうんうんと拍手を送る、本当に彼は自分の現役の相撲によく似ている。

バト君も獲得できた事だし、このさい来年は彼も誘ってみるか、と心に決める。

 

 

 1-1のイーブン、勝敗のカギを握る次の中堅戦。天王寺獅童の後継者とまで言われる

データ相撲の鬼、白楼の北谷に対するはダチ高の燃える闘魂、赤池!

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