蛍火は円(まどか)に舞う   作:三流FLASH職人

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第77番 部長に繋げ!

「久留田主将、頼みますよ!」

 チームメイトの激励を受け、土俵に上がる久留田。184cm157kgの巨体を誇る白楼きっての

大型選手。

 大舞台に上がりながら、そして対にいる、やはり大型選手の松本を見ながら彼は感慨に浸る。

「(ここまで生き残ったのは俺だけ、か。)」

 

 2年前、鳥取白楼に入学した時から彼は大きな体と、中学時代の実績を誇る『期待の新人』

であった。だが無論それは彼だけではない、彼の他にも恵まれた体と実績を持つ新入生は

数名存在していた。

 だがこの3年間で、彼らは公式戦選手から次々に脱落していく。様々な選手のカラーを

大事にする白楼の指導方針は、体格や実績だけでは覆せない化け物を度々生み出してきたのだ。

 様々な突き押しを繰り出す七瀬、工夫と努力の積み重ねで成り上がった北谷、人生を賭けた

執念でねじ伏せるバト、そしてあらゆる戦法で土俵上を爆走する後輩、舟木。

 

 そんな彼らに抜かされた期待の選手達。ある者はケガに泣き、別の者は心を折り補欠に甘んじる。

退学して大相撲に進んだ者もいたが、結局は通用せずに廃業した。

 そんな中、久留田だけがチーム内で生き残り、その舞台に主将として立つ。かつて彼も

相撲は自分の様な巨体を持つ者の独壇場だと思っていた。が、今ここにいるのは俺一人だ。

 自分と同じ巨漢の松本を相手にして、彼はひとつの原点に返ったような感慨にとらわれる。

「(あの栄大付属の滝沢を破った選手、か。お前も『体』だけの選手じゃあるまい!)」

 

 

 松本はかつてないプレッシャーを抱えて土俵に上がる、だがそれすらも彼にとっては

漲る力に変えることが出来る。楽天家でかつ『熱い戦い』を常に望んでいる彼にとって

この土俵はまさに望んだ舞台、思わず笑みがこぼれる、心臓が早鐘を打つ。

「(やる事はひとつ、勝って部長に繋げる、そうすればきっと、あの部長が何とかしてくれる!)」

 確信があった、あの部長なら相手が国宝でもきっと何かやってくれる、と。

そのためにも勝たねば、ここで負けたらダチ高の敗北が決定する。自分の全てを使ってでも

大将戦に望みを繋ぐ、と。

 

 -はっきよい-

 激突する両者。と、松本はかち上げからもろ手突きで相手の上体を起こすと、そのまま

突っ張りを連打する。

「松本!?」

 受けの相撲が身上の彼の思わぬ攻めにダチ高の面々が驚きを見せる。何より意外に洗練された

その見事な押し相撲に。

「(僕の相撲は相手に知られてしまってる、だったら見せてない相撲を取るまでだ!)」

 

「まるで俺の突き押しじゃねぇか・・・」

 大峰が土俵下で嘆く。いつも彼が松本に散々食らわせていたその攻めを再現している。

小さく、回転力の有る突っ張りが久留田の体を押し進めていく。

 久留田はアゴを引き、体重を使って頭からこれを突破。最初こそデータにない攻めに

面食らったが、受けてみればこの突きは練度に欠ける、所詮は急造の技だ!

 

 その瞬間、久留田の体が泳ぐ。松本が突破した相手の体を瞬時に叩き込んだのだ。

「上手い!」

絶妙の『引き』に思わず桐仁が唸る、技もそうだがそれ以上にその一瞬の判断に。

 

「くっ!」

 何とかこらえた久留田をすかさず横から捕らえ、組み付く松本。だが久留田もさるもの

ヒジをたたんで相手との体の隙間にこじ入れ、半身の体勢でマワシを取らせない。

そのまま土俵中央で動きを止め、差し手争いに入る両者。巨漢同士の攻防は自分の得意の形を

作った方に流れが行く。

 

 小手に巻いた右手でおっつけに行く久留田、その瞬間松本は左手を引き、すくい投げを放つ。

崩したらすかさず巻き替え、左手で逆に相手の右手を抑える。

 久留田はならばとハズ(脇下)を捕らえ距離を開けようとするが、すかさず胸を合わせ

ハズを取らせない松本、相手の先手先手を取って封じるその相撲、これは・・・

 

「滝沢君の・・・勝負勘!?」

 記者席で名塚が思わず嘆く。ここまで後手後手で受けて来た彼の相撲とは違う、まるで

国宝候補『繁慶』滝沢の様な『後の先』を取る相撲、こんな相撲を彼が!?

 

「(いいぞ、次々と技が出る、いける!僕は勝てる!)」

 受けの相撲を取ってきた松本、それは逆に言えば今まで様々な相手の戦法を体で体験してきた

という事。ならば僕ならその技を逆に使えるはずだ!開幕で大峰の攻めを使ってみたことが

彼に今までの経験で得た引き出しを開いたかの如く、受けてきた様々な技が溢れ出てくる。

 

 相手の左手を捕まえ、右手を差し込んですくい投げを打つと同時に足を内股に跳ね上げる。

腕取り、掬い、掛け投げの同時発動。これは・・・

「俺の『天地返し』じゃねぇか!」

 観客席で荒木が思わず叫ぶ。巨漢の松本だけに荒木のようなダイナミックさは無いが

それでも同じ巨漢の久留田を崩すには十分だった。残す相手を一気にずいずいと土俵際まで

押し込んでいく松本。

 

 が、俵に足が掛かった状態で寄りは止まる。無理に押しに出ていたせいでマワシが

取れていない上、相手に右上手を許している。

「ここだ!」

 松本は決断する、寄りを止めて両手を外に出し、巻き替えに行く。相手の両手をお互いの

腹の中に押し込めて封じる『お腹極め出し』の体制を作るために。

 身を引き、マワシを探る、その行動を久留田は見逃さない。巻き替えに来た瞬間から

一気にがぶり寄りを仕掛け、電車道で土俵の反対側まで相手を押し返す。

 

 そして松本の足が俵にかかった時、久留田の両腕は二人の腹の中にサンドイッチされていた。

「入ったぞおぉぉおっ!」

「もらった!」

 松本の、対大型選手必殺の形が完成、あとは押し返すだけだ、いける!

 

 だが両手を腹に挟まれながらもしっかり下手を引いた久留田は、腰を割り先に動く。

「(対大型選手の戦法を持ってるのは、お前だけじゃ無い!)」

 白楼期待の巨漢新人たちの中、生き残ったのは自分だけ。言い換えれば彼もまた、

自分と似た大型選手たちを蹴落としてレギュラーの座を勝ち取ってきたのだ。

 

「ふんっ!」

 右手を引き上げ、押す。と同時に左手を下げ、引っ張り込む。加えて久留田は左半身を

大きく引いて半歩後退する。そんな大きなアクションの『捻り』に思わず松本の巨体が揺らぐ。

「なにっ!?」

 桐仁が驚愕の声を上げる。『捻り』は本来崩し主体に使う技だ。だがこのひと捻りは

相手のヒザを一気に土俵に押し付けんばかりの勢いがある。

 しまった、と思わず心で嘆く。大相撲でもまれに見る、巨漢力士を捻りでヒザを地面に落とす

その光景。そう、巨漢でアンコ型、足の短いタイプの力士がこの捻り一撃で土を付けられる

のはよくある決まり手じゃないか!

 

「ふがっ!」

 辛うじて反応し、右足を出してこらえる松本。その反応もまた滝沢戦で身をもって会得した

対応の速さ。だが久留田は間髪入れず、なんと逆方向に捻りを入れる。右から左に

大きく揺さぶられる松本。

「右に左に・・・まるで潮君の崩しだわ!」

 千鶴子が思わずそう呟く。かつて鬼丸が両下手を引いた時から、その回転力を利用して

右に左に相手を振り回した光景を思わせる。違う所と言えば相手は真後ろに下がり、相手を

引っ張り込みながら捻り倒そうとしている。一度土俵際まで押し込んでいるからこそ

成立するその連続の捻り技!

 

 3度目の捻りで土俵中央を通り過ぎる、久留田の残された距離が狭まって行き、

松本の体の揺れが大きくなっていく、どちらが堪え切る、どちらが決める!?

4度目の捻り、その瞬間に松本の体が浮く、すでに久留田の足は俵にかかっており、

これに堪えれば松本の勝ちが決定するというその瞬間だった。

 

 久留田は肩を入れ、体を回して豪快な投げを打つ。捻りに投げを加えた2点組み合わせの

巻き込み投げに、松本の体が飛び、そして・・・空中で半回転する。

 

 -捻り落とし『釣り鐘揺らし!』-

 

 その名の如く、右に左に揺さぶられた松本がついに土俵に落ちる。どっしゃあぁ、と

土俵外に転落する松本。

 

 この瞬間、大太刀高校のインターハイ制覇は夢と消えた。

 

 天を仰ぎ、目を伏せるダチ高のメンバーの向こう側で、白楼の選手たちは歓喜を爆発させる。

そんな中、諸岡顧問と加納監督だけは両選手の健闘をたたえ、拍手を送る。

お互いの成長と技量、その恵まれた体の生み出した心技体の名勝負に。

 

 -西、久留田の勝ち-

 礼をする頃には、二人は会場中の拍手に包まれていた。ダチ高の面々も顔を上げ、

死力を尽くして戦ってくれた二人に心からの拍手を送る。

 

 土俵を降り涙にくれる松本。自分得意の形ができあがったその一瞬のスキを突かれた、

相手もまた自分の様な巨漢力士を倒す術を持っていた、自分の実力が及ばなかったことを

痛感して涙を流す、部長につなげなかったその弱さに。

 

 -びりっ!-

 歓喜と落胆に包まれていたはずのその空間を、一気に緊張が支配する。

土俵の向こうで四股を踏んだ大将、国宝『備前長船』舟木が発した強烈な殺気、

それがダチ高を射抜く。

 その視線の先にあるのは、対戦者である大太刀の大将、三ツ橋蛍!

 

「勝ち確だからって、手を抜く気はさらさら無いみたいだな。」

 殺気に当てられた陽川が冷や汗を流してそう呟き、相手の蛍を見る。

だが我らが部長は憶する様子も無く、そのらんらんとした目線を舟木に返す。

相変わらず図太いというか、このヒトは・・・

 

「アイツに勝てば、2勝分の価値がありますよ、蛍部長!」

 柚子香の埒も無い、それでいて的を得た言葉に蛍は頷き、皆に向けて拳を突き出す。

それに応えて柚子香が、千鶴子が、小林が、柳沢、沼田、赤池、大峰、幸田、陽川、松本が

拳を合わせていく。

 最後に残った桐仁が蛍の正面に立って拳を見せる、合わせる前に一言放つ。

 

「見せてみろ、お前の集大成を!」

 

 -ゴッ!-

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